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死への旅立ち  作者: 緋鏡
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「こんにちは?始めまして?それともお久しぶりが良いかな?」

 急に話しかけられ僕は辺りを見渡し、座っていたベンチの後ろに立っていた白い入院着姿の女の人を見る。

「え…いや、あの…始めてですよね?」

 じゃ、始めましてと言って僕が何かを言う前に隣に座る。

「にしても少年は暗いねぇ…何かあったの?」

 今思えばその頃の僕は生きるのに疲れていたのかもしれない。

「辛いのかもしれません」

「辛い?何が?」

「…生きているのが」

 そっか、辛いか…そう言ってこの人は僕と話しをした。

 彼女の名前は星崎 唯さん年を聞いたら失礼だと言われ聞けなかったがおよそ僕より五つ上位だろう。

 猫のように大きな瞳。雪がそのまま張り付いたような白い肌。そして、腰近くまである長く一つに纏まった髪が彼女を病院患者と言っている。

 対する僕は背は高いがいつも猫背で丸まった背中。おどおどと動く目。友人曰わく知らない人が見たら脱走した人。だそうだ見たことは無いらしいが。

「それで?コウ君は何で今日此処にいるの?」

 コウとは僕の名前でフルネームは尾崎 晃と言い、年は17歳である。

「友人が足を折って入院しているのでその見舞いに…」

「ふーん。優しいんだ?」

 その質問には首を横に振るだけで答える。

「する事が無いから寄っただけです」

 そっか…そう言って二人の会話は無くなった。

「君は死ぬ事をどう思う?」

 突然の事を聞かれ答えもせずに空を見る。自分にとっての『死』とは何かを考えながら。

「変なこと聞いてゴメンね?忘れて良いから」

 立ち上がり此方に背を向け歩き出す。その後ろ姿がやけに楽しそうで何故か、そう本当に何故なのか僕は目が熱くなるのを感じた。


 翌日学校に行った帰りふと病院に寄ろうと思いたった。

 友人の病室に立ち寄り声を掛ける。

「お前また来たの?」

「うん…ごめん。ヨウヘイの事だしに使わせてもらうは」

 ハッ?と訳が分からないと言った顔で此方を見るが僕は答えない。

 そのまま病室を出ようとしたときヨウヘイに止められる。

「なぁ…何かあった?」

「何で?」

 病室の前で話す僕たちは周りから見たら何なのだろう?

「何か雰囲気が違うから…」

「――分からないけどつまらなくはない」

 それだけ言って病室を出て昨日のベンチに座って待つ。

 待ちながら昨日の『死』について考えてみる。


「君は優しいのか一途なのか把握しがたいな…」

 散歩コースなのか昨日と同じ姿で僕の所に立ち寄る。

「ただの友人の見舞いですよ」

 アナタに会うためでもありますが。そう付け加えたあとアナタは一言言って僕の隣に座る。

「じゃあストーカーだね?」

 眩しい位の笑顔で言われたら何も言い返せない。


「アナタが昨日言っていた『死』についてですが…」

「うん…」

「憧れなのかもしれません」

「……憧れ…贅沢な話しだね」

 ポツリともらしたその言葉に僕は頷いた。

「そうでしょうね。でも僕は17年生きてきて未だに生きる意味が分からないんです」

 膝の上に手を組んで、それを見つめる。

「なのに、今を生きる理由なんて必要なんですかね?」

 何も答えが出ないまま時は過ぎる。

「意味はあるよ。意味のない人なんて居ないんだもん」

「もっと明確な意味を欲したら?只生きるだけの存在に意味はあるんですか?」

 知らない内に手をほどき、唯さんを見ていた。

「それは…」

 居づらそうに、それでいて申し訳なさそうに声を紡ぐ。

「すみません。言い過ぎました」

「…ううん」

 今度は気まづい空気が流れる。

「じゃあ俺行きます」

「うんバイバイ」

 唯さんに顔を会わすことが出来ずに立ち去る


 それから数日間僕は病院に行かなかった。

 唯さんに会って今まで溜め込んでいたモノが、はじけ飛んでいってしまいそうで怖かった。

 そうして何日かするとヨウヘイから電話が在った。

 内容は只の愚痴で、ぐだぐだとしたものだった。しかし、切り際の一言が僕を動かした。

「何かあった?前の時より死にそうな声してるぞ?」

 何でも無いとだけ言っておいたが、正直驚いた自分と納得している自分が居た。

 自分にとって彼女がそんなに大事なところに居たのかという驚愕。それを心のどこかで認めている本心。

 その二つが入り混じって翌日唯さんに会いに行こうと決意した。


 病院のいつもの時間いつものベンチ。いつまで経っても彼女は来なかった。

 数日経っても来なかった。


 そんなある日、彼女は現れた。

 病院服とは違い、藍色のジーンズに黄色のキャミソールという出で立ちで居た。

「今から空いてる?」

 開口一番がこれである。だがいつものようにからかう様子はなく。むしろ急いでるかのようだった。

「空いてますけど?」

「じゃあ一緒に来る?」

 何処に?とは聞かずに手を取って歩き出した。


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