王族って
脱字修正 (2018/1/30)
「それにしても、驚いてな」
「そりゃそうですよ。この国の王子様ですよ? 驚かない方がどうかしてますよ」
「まあ、私も驚かれるとは思ったが、まさかあんなに取り乱すとはな」
「あれは面白かったよな。あの受付の人っていつもは表情も余り変わらないのに、オロオロしちゃって」
「だから、そうなりますって。その証拠に組合の一番偉い人が出て来たじゃないですか」
「あれには俺も驚いたよ。登録するだけなのにな。それに、俺達のグループに試しで入るって言ったら『え? こいつ等?』って顔したよな」
「ああ、したした。それで、俺等の位階を調べて、何とか止めさせようとしてたな」
「そうそう。仲間にするなら、組合から信用出来るグループを紹介しますって言ったよな」
「ああ、あれな。少し、いや結構傷ついたぞ。俺等は信用出来ないのかってな。……まあ、位階がⅢだからそれも仕方ないんだろうけどな」
「そうですよ。何せ王子様ですよ? 組合としては、信頼出来る位階の高いグループを紹介したいはずですよ。王子様に何かあったら責任問題どころじゃ済みませんからね」
「ほほう、ルーク。お前は俺達が信頼出来ないって言いたいんだな?」
「いやいや! そうじゃないですって! ただ、組合側からしてみると、そう考えたくもなるかなって……」
「なるほど、な。だそうだぞ、ナック。どうする?」
「まあ、ルークが俺等の事をそう見てるって事は分かった。仲間にするのは止めるか。どこかに『信頼出来る』グループがあるだろうからな」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!? そうは言ってないですって」
「二人とも、ルークをいじめてやるなよ」
「いじめてはないよな? ただ、からかっただけだよ」
「ああ、そうだ。俺等が信用出来ないって言われて、傷ついたりなんか少しもないんだからな」
「ほら、二人とも」
「分かってるって。ただの遊びだよ。仲間にしないってのも」
「ああ、良かった。ありがとうございます、デル様」
「……それと、その呼び方はどうにかならんか?」
「と、言いますと?」
「どうして、私だけ『様』を付けるんだ? 二人と同じ様に呼び捨てにしてくれないか?」
「いやいやいやいや! そんな恐れ多い事出来ないですって! ただでさえ緊張してるのに、これ以上となると」
「でもな、私は組合に登録したての依頼をまだ一つも達成していない新人も新人だぞ。そんな者に向かって位階の上のルークが『様』を付けるのは変だろ?」
「いやいや、それでもですよ。あの場にいた人達はデル様と俺達の事を知っています。それなのに、俺がデル様の事を『様』で呼ばないって事が伝わったら、何があるか分かりませんよ。絶対に嫌がらせとかありますって」
「しかしだな……」
「そうだぞ、ルーク。冒険者としてはお前の方が先輩で位階も上だ。仲間に王族がいるからと言って、言葉遣いは気にするな。相手は王族がいるからと言って、いや王族がいても手加減なんかしてくれないんだからな。特に動物や魔物はな」
「でも……」
「それにな。デルが冒険者になるのは自由だ。だが、俺達の仲間になりたいなら、王族の身分関係なく行動する事って条件を付けたんだぞ。だから、ここにいるのは王族じゃなく、ただの冒険者デルだ」
「そうは言いましても……」
まあ、分からないでもない、かな? 俺達はこの国の民じゃないから、ルークみたいなのが普通なんだろうな。組合でもそうだったから、ルークだけが特別変って訳でもないみたいだし。でも、これからの事を考えるならば、仲間に変な気遣いは無用だ。俺が言うのも変だけど、それで危険になるんだったら、どちらかを外すしかないだろうな。
「ルーク、今すぐに出来ろとは言わない。だが仲間になると決まってもそれだと、どちらかを外す事になるぞ。まあ、両方ってのもあるかもな」
「ナックの言う通りだ。冒険者に身分を持ち込むなら仲間にしない。それはどちらにも言える事だ。仲間になるって事は命を預けあうんだ。遠慮して危険になるのは避けたい。それに、仲間になるんだったら気を遣うのは可笑しいだろ?」
「そ、そう……ですかね?」
「うむ、そうしてくれ。じゃないと、私まで仲間になれなくなってしまう」
「……は、はい。分かりました。直ぐには無理ですけど、段々と慣れる様に努力はします」
「そうしてくれると有難い」
「まあ、慣れても仲間にしない可能性もまだあるけどな」
「おい、それは困るぞ」
「困ると言われても、なあ。俺達も遊びで冒険者をしてる訳じゃないし、俺達と上手く連携出来ないと意味ないし。それに、絶対に仲間にするとは言ってないぞ。この試しの期間で決めるって約束だったはずだが?」
「う、うむ。そうだったな、分かった。私が戦力になる事を証明しようじゃないか」
まあ、こんな感じでデルも一緒に活動する事になった。ルークと戦った後に俺達も一応戦った。俺達は戦わなくても良かったんだけど、デルとシムさんが何故かやる気だったから、やったってだけだ。勝負は言わなくても分かると思うけど、俺達が勝った。ルークの後だから対策とか疲れ……はないか。まあ、一番の勝因は精霊と契約してるかどうかだろうね。
その後に、もう一度シムさんから仲間にしてやってくれってお願いをされた。どうしようか悩んでると、今度はデルさんからもお願いされた。さっきまで悩んでたのに、どうしてだろう。何が変わったんだろうか。どうしてもって言うから、俺達は条件を出した。
それがさっきも言った『王族として扱わないし、王族として振舞う事も駄目』って事。もしそれが出来ないなら、一人で冒険者になって下さいって言ったんだ。それで怒るかなって思ったら、すんなりと受け入れちゃったんだよ、これが。
だから、今は組合に登録して仲間にする予定ですって手続きをして依頼の場所に向かっている最中って訳だ。デルの事があるから、ルークの仲間入りは中断している。もし、デルとの相性が良くなかったら、仲間入りを考えなきゃいけないからだ。
「依頼を請けて来ました、ヴェールです」
「はーい、待って……ま……した……よ」
今日の依頼先の農家に着いて、いつも通りに声を掛けて出て来たのは恰幅の良い女性。出て来て俺達全員を見渡して、ある一人を見て固まった。まあ、言うまでもなくデルなんだけど。
「あの~」
「あ、あんた~! ちょ、ちょっと!!」
出て来たと思ったら、体格に似合わない凄い速さで大声を上げながら戻って行ってしまった。
「今まで、こんな事あったか?」
「ないな。考えられるのはデルだな」
「だな。この依頼だけだと良いけど、全部こうだと仲間はとてもじゃないけど出来ないな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! これは私のせいじゃないぞ! 私が何をやったって言うんだ!?」
「いや、何もやってないのにこれだからな。これじゃあ依頼を出来ないじゃないか」
「いやいや、これはこの国だからだ! 他の国へ行けば、私の事なんて知ってる者は少ないはずだ」
「うーん、そうなのかな?」
「そうですって。デル様はこの国の王子なんですよ? しかも王都だと知らない人はいないですって」
「そっかあ。じゃあ暫くは様子を見るか」
「うむ、そうしてくれ。ところでルークよ、また私の事を『様』を付けて呼んだな」
「ああ、いや、つい、その。咄嗟でしたし」
「ふむ、咄嗟だったからと言う訳か。今後は咄嗟の時でも『様』を付けない様にしてくれると有難いな」
「ど、努力します」
「おいおい、何勝手に決めてるんだ? 今後って。今後も仲間かどうかはまだ決めてないんだからな」
「ちっ。そこは流してくれると嬉しかったんだけどな」
「そうはいくかよ」
「あんた! 早く来ておくれよ!」
「ったく、何なんだよ! 冒険者が来たくらいで俺を呼ぶなよな!」
「良いから、早く!」
「はいはい、依頼主のゲンで……す」
出て来たのは、同じく恰幅の良い男性だ。どちらもデルと同じくらいの背だから、アッチャ族だろう。その二人が見事に固まっている。先に出て来た女性もまた固まっている。さっき見て固まったんだから、同じ事しなくても良いのに。
「あの~」
「「……」」
声を掛けると口をパクパクさせて、デルの事を指差そうとして止めて二人で顔を見合わせて戸惑っている。もしかして、俺が考えてたよりもデルって凄いのか? いや、凄いって言うよりも厄介か?
「あの!」
「へ、へい! あっし等は何も悪い事はしておりませんです!」
そう言うなり、二人して突然膝を付いて頭が地面に付きそうな程下げてきた。ちょっと待ってくれよ。デルを見たらそういう反応なのか? もしかして、悪い事をしてるとか? それに、さっき聞こえてた口調は強く怒鳴り声に近かったんだけど……。今じゃあ、さっきまでの口調はどこへやら。『あっし』って。一体、どこの言葉遣いだよ。
ほら、デルも戸惑っているじゃないか。良く見ると、顔が引き攣ってるし。はあ、これじゃあ仕事にならないな。ここは俺が何とかしないと。
「父さん達! 何してんの? 冒険者が来たんでしょ? だったら、早く来てもらってよ!」
「父さん達? 一体何してんのさ? そんなところで座っちゃって」
「ああ、良かった。依頼を請けて来ましたヴェールです」
「ああ、はいはい。どうぞこちら……え? ははーっ!」
またか。三人揃って同じ格好って何だよ。示し合わせたかの様な見事に揃ってる。これって、デルを連れてこの国にいると必ずこうなるのか? 勘弁してくれよ。
「デルゥ」
「その、何と言うか、すまん」
ナックの恨めしい声に流石のデルも何故か謝っている。はあ、まだ依頼をしてもないのにこれかよ。この先の事を考えると、さっさと次の国に行った方が良いかもな。それか、仲間にしないか。
「はあ」
早いとこ依頼を終わらせたいよ、全く。




