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物は試し

 「どうしてこうなってるんでしょうか?」

 

 ルークの呟きが訓練場に空しく漏れる。そう、ここは王都タルパの軍の訓練場だ。なぜここにいるのかと言うと、シムさんがまずは戦える事を証明させると言ったからだ。別にシムさんが仲間になる訳じゃないんだけどね。でも、当のデルさんは何故かやる気に満ちてルークの前に立っている。

 

 「さあ、思う存分に戦うが良い!」

 

 訓練場を見下ろせる場所にバフさんを除いた人達がいる。その中で一番偉いシムさんが声を張り上げる。あの場にはいなかった人達までいる。シムさんもそうだけど、仕事は放って良いのだろうか。でも遠慮してくれたのか、訓練場には兵士はいない。いるのは、俺達三人とデルさんとバフさんの五人だ。

 

 「審判は我が務める。ここは軍の訓練場だ。この場には王族だろうが冒険者だろうが身分はない。必要なのは戦えるかどうかだ。さあ、準備はいか?」

 

 「はい! 私はいつでも!」

 

 「あの、お、私は準備なんて出来てません!」

 

 「諦めろ。いつでも戦える様にするのが戦士というものだ」

 

 「そんなあ。俺は戦士じゃなくて冒険者なのに」

 

 「どっちにしても変わらん。相手は待ってはくれんぞ」

 

 「そうだぞルーク! 何を言った所で戦わないって事は無理なんだ! だったら、相手が王族だろうと全力でやれ!」

 

 訓練場は千人が同時に訓練してもまだ余裕がある程広く、四角い訓練場の中央には一段高く四角い石造りの舞台がある。そこにはデルさんとルークが立っている。そこにいるのに戦わないって事は無理な話だ。まあ、危なくなったらバフさんが止めるだろう。

 

 「だって、相手は王族ですよ!? そんな人に向かって攻撃なんて出来ませんよ!」

 

 「そんな遠慮は無用だ。もし手加減でもしたら……」

 

 「したら、何ですか?」

 

 「それは知る必要のない事だ。もしかして手加減をして負けるつもりなのか? もし私がそう感じたら、それこそ王族に対する非礼と取らせてもらうぞ」

 

 「ッ!!」

 

 「分かったらならさっさと構えろ」

 

 それで決心した様で、ルークは遂に槍を構えた。対するデルさんは片手斧と盾だ。これは決闘じゃないから、もちろん危険がない様に訓練用の物を使っている。バフさんは二人から少し離れている。こうして見ると、三人の大きさの違いが良く判る。

 背の順でいったら、デルさん、ルークにバフさんだ。バフさんはデルさんの倍くらいだろう。でも、横も含めると倍以上に見える。今回はバフさんが相手じゃないから、体格の違いは考えなくて良いか。

 

 体格も武器もルークが有利だ。デルさんの片手斧は近付かないと意味がないし、対して槍はその長さで近づけさせない様にも出来る。この状況をどう覆すのか、それともルークが圧倒するのか見物みものだな。

 

 

 「いきます!」

 

 構えてから互いの間合いをはかる様に、ゆっくりと円を描いてのが掛け声と共にルークが先に仕掛けた。

 

 

 「勝負あり!」

 

 勝負は一瞬で決まった。ルークが勝ったと言いたいけど、逆だ。ルークは勢い良く踏み込み鋭い突きを放ったけど、デルさんは読んでいたのか、盾で受け流しながらルークの懐に潜り込み、斧で片足を引っ掛けて後ろに倒した。受身が取れなくて無防備な首に斧が添えられた。

 言葉にすると長い気もするけど、実際は一瞬だ。まさか、デルさんが勝つとは思わなかった。ルークは位階こそⅡだけど、決して弱くない。それなのに勝つなんて……。余程鍛えられたのか槍の対処の方法を熟知していたか。まあどちらにしても、勝ったのはデルさんだ。

 

 「参りました」

 

 倒れてるルークを小柄なデルさんが手を貸して起こす。何とも変な感じだが、デルさんは体格に似合わず力はある様だ。

 

 「なに、バフに鍛えられているからな。それに、大きい相手と戦うのは初めてじゃない。もちろん、槍もな」

 

 「そうだったんですか。お、私もまだまだって事ですね。あんな一瞬で倒されてしまうとは」

 

 「いやいや、バフに鍛えられてなかったら、今頃倒されているのは私の方だ」

 

 「いえいえ。あっという間に倒されて、気付けば空を見ていましたからね。あれは少し鍛えた程度ではないですね。まあ、私が未熟だったってのもありますけど」

 

 「そうですぞ、王子。まだまだ踏み込みに鋭さがありません。勝ったからと言って、油断なきよう」

 

 「これだよ。今回は勝ったんだから、少しは褒めろよな。……まあ、お前から褒められたら気持ち悪いがな」

 

 「そうでしょうな」

 

 

 「ほお、デルが勝ったか。あやつもやるもんだの」

 

 「勝てて当然ですわよ。脅しまでしたんですからね」

 

 「まあ、言うてやるなよ。デルだってそれ位分かってるさ。それに、冒険者なら相手が王族だろうが迷っちゃいかん。王族だと通じるのはこの国だけだろうからな」

 

 「それで陛下、この後はどうなさるおつもりで?」

 

 「父としては勝ったところを見れて嬉しい。が、世界はそんな甘いもんじゃないって事を教えなければな」

 

 「では、まだ戦わせるので?」

 

 「そうだ。まあ、あっちがどうするかは分からんがな」

 

 「じゃが、シムよ。良いのか? 次も同じ様に怪我をしないって保障はないんじゃぞ」

 

 「構わんよ。ここは訓練場だ、怪我の一つや二つできたところで問題があるはずもない。それに、スーマは見てみたいと思わないか?」

 

 「そりゃ久しぶりの森人族じゃからな。見てみたいとは思う。思うが、何も特別な武器や攻撃方法がある訳じゃないからな。絶対に見たいとは思わんわい」

 

 ふむ。まあ、普通はそう思うよな。私だって、絶対に見たいかと言われればどっちでも、だ。だが、これは何かの兆し何だと思う。何かとは説明出来ないが。

 

 「私は大いに興味があります」

 

 「マフ、か。どんなところに興味があるんだ?」

 

 「私は彼らの内、どちらかだと思っています」

 

 「どちらって何がだ?」

 

 「精霊殿に神が降臨なされた時の事を覚えていますか?」

 

 「そりゃもちろんじゃ」

 

 「それです」

 

 「それです、じゃあないわい。何がそれなのか詳しく話してくれ」

 

 スーマ、焦るなよ。私でも気付いたくらいなんだぞ? マフが気付かない訳ないだろ。と言うか、お前達は気付かないのか? そんな事はないよな? あれだけの大事なんだぞ。忘れるなんてないよな?

 

 「降臨なされた時にこう仰ったと記憶しています。『世界に変革を齎す』と『森人族』です」

 

 「じゃ、じゃが、あの時お前さんは、森人族ならば十五年から二十年は森から出ないじゃろうと言わなかったか? それに『誕生』と言ったのじゃぞ? それだと、あの者達だと合わないと思うぞ」

 

 「はい、確かに私はそう言いました。言いましたが、都合が良すぎると思います。余り森を出ない森人族が出て来た、それも二人です。しかも一人は陛下の昔の仲間の子です。これは何もないと考える方が変かなと。ただ、私も上手く説明出来ないので、単なる勘ですが」

 

 「ううむ。いや、でも、そう……なのか? いやいや、まだ決まってない。でもな」

 

 マフに言われてスーマは頭を上下にしながら唸っている。しかし、言われてみれば都合が良すぎるな。神が降臨なされてから、昔の仲間の子がやって来る。これで疑わない方が可笑しい。でも、誕生と言われたのだ。じゃあ、あの者達以外の森人族か? いや、ここはあの者達だと考えた方が良いか。

 

 「そう言えば、レトリーはこの事について調べてたんじゃよな? 何か分かった事はあるかの?」

 

 「いえ、殆ど出てこないですね。探りは入れてはいるんですが、何しろ神が降臨なされたと言う重大事ですからね。どこも知らぬ存ぜぬですよ。こうなってしまうと、降臨なれたのが我が国だけかと思ってしまいますよ」

 

 「それでも、何か掴んだんじゃろ?」

 

 「本当に少しですよ。確実ではないので、その点はご理解して下さい」

 

 「分かった分かった。焦らさんで早く言わんか」

 

 「折角調べたんですから、こんな立ち話ではなく座って落ち着いて報告したかった。と言うのは贅沢なんでしょうか」

 

 「後でバフを交えて会議をするから、その時にでも詳しく報告を頼む。今は簡単な事で良い」

 

 「陛下がそう仰るなら……。私が掴んだのは『武器は弓』と『男』です」

 

 「ますます分からん様になったもんじゃ。大体、森人族ならば武器は弓じゃろう。それに男って言うのもな。大雑把に言うと半分は男だから、あの者達だとは言えないよな」

 

 「そう言われましても、私は調べただけですから。もしかしたら、偽の情報を掴まされた可能性もありますけど」

 

 「ううむ。いや、お前さんが調べたんじゃから信用はしてるさ。してるが、余計に分からんくなった」

 

 弓に男か。これは確かに新しい情報だが、森人族の中に含まれるからな。判断が難しいところだ。だが、マフの勘と同じ様にあの者達だと私の勘がそう言っている。しかも、恐らくはプーマの子の方だろう。プーマの子だから同じく旅に出るとは限らないが、何かがそうだと告げている。

 

 「私の勘もあの者だと告げている。だから、デルを何としても仲間に入れておきたいんだ。何かが起ころうとしても、近くにいれば対処もしやすかろう」

 

 「じゃがシムよ。あの者達と決まった訳でもないのに、王族であるデルを一緒にするのか? こりゃ賭けにもならんぞ?」

 

 「いいさ。勘とは言ったが、あの者だと確証があるんだよ。上手く説明出来ないがな。それに、デルは口には出さないが冒険者になりたかったんだ。一人で冒険者になるのは迷うが、仲間の子がいれば信用も出来るってもんよ」

 

 「……そうか。でも、あの者達が仲間にするとが限らんぞ?」

 

 「それは仕方ないさ。だが、まずはただの王族じゃなく、戦えるって事を示さないとな」

 

 

 「デル! まだやれるか?」

 

 「はい!」

 

 「そういう事だ、付き合ってくれ!」

 

 これで戦わないって事は出来ないはずだ。二人で何やら話し合っている様だが、どっちが戦うにしろ、戦える事を示さないとな。それに、あの者達がデルを預けるに足るかどうかも見ないとな。父として。


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