王宮 参
誤字修正 (201/2/2)
「ちょ、ちょっと! アローニさん! 何言ってるんですか!?」
おお。それまで下ばかり見てたルークが、突然俺に向かって大声を発してきた。声だけじゃなくって顔も少しだけ怖くなってるな。いや怖いというよりも、青ざめて顔色が悪いな。
「何って、断るって言っただけだけど?」
「何でそんな事言ったんですか!? 今すぐに謝って下さい!」
「どうして?」
「どうしてって、王様からお願いをされたんですよ!? それを断るってどういう事ですか!」
「どういう事って言われてもなあ。ナックはどう思う?」
「俺も断るのは賛成だ」
「そんな!? ナックさんまで!?」
ふむ。ナックも理由は分からないけど、断るのには賛成か。まあ、ルークはこの国の民だから、王からの願いはある種の命令と捉えているのかもな。だけど、それは俺達には関係ない。この国では王でも俺達の中では違うからな。そこの意識の違いかな。
「断るのは分かった。理由を聞かせてもらえるか?」
「それは私も聞きたい」
「私も聞きたいですわ」
王とその家族が一斉に理由を聞いてきた。まあ、考えるまでもなく断ったから理由は聞きたいよな。俺も深く考えて断った訳じゃなくって、反射みたいなもんだからな。
「我も聞きたいな」
うわ、初めて喋ったと思ったら、親しみのある声じゃなくて威圧を含んだ低い声だ。何だろ、岩だからなのか少し掠れていて聞き取りづらい。でも、しっかりと威圧してるってのは感じ取れる。声だけじゃなくって、身体全体からも怒ってますって出てる。いや、出てないんだけど何かが出てる。
「じゃあ、説明しますね。まず、今日初めて会ったのに、仲間にすると決める冒険者はいないと思います」
「それはどうしてだ?」
「俺達の仲間になるという事は、冒険者になって旅をするという事です。それはお気楽な旅ではなく、戦力になるかどうかです。足手まといを連れて行く程、俺達は優しくありません。それに、ここにいるルークも一度は断ってますから」
「ふむ。じゃが、デルは王族だから戦う術は、ここにいるバフから鍛えられているぞ」
「だとしてもです。それは本当なのでしょうけど、見てもいないのに戦えると判断するのは早いと思います」
「ふむ。では戦えると分かったら仲間に加えてくれるのか?」
「いや、戦えると分かっても仲間にはしないでしょうね」
「戦えるのに仲間にしない?」
「はい。幾ら戦えても信頼出来なければ意味はないです。いや、意味がないどころか裏切られる危険もあります」
「ううむ、なるほどな。では戦えて信頼に足ると判断したら仲間にするのか?」
「いえ、まだですね」
「これ以上何があるんだ?」
「これは一番と言って良いと思います。それは、本人が言わなかった事です。幾らシムさんが薦めても本人にその気がなかったら、この話はそもそもないですから」
「むっ……」
「ちょっと待ってくれ。それに関しては、父上が私に相談も何もしないで突然言ったからで」
「では、冒険者になって旅をしたいと?」
「そりゃあ、旅をする事に憧れはある。これでも父上から旅の話を聞くのは好きだからな」
「憧れだけですか?」
「……」
ふむ、仲間にしてくれってのはシムさんの独断か。でも、本人に言わないで突然言うってのは何でだ? 普段から旅をしたいって聞いていて、昔の仲間の子が来たからこれ幸いとばかりにお願いしたのか? いや、それでも本人に相談くらい出来るだろ。それをしない理由って何だ?
うーん、分からん。分からないけど、デルさんは悩んでる? 憧れはあるけど、旅に出るとは想像してなかった? 突然言われて戸惑ってる? バフさんは……また目を閉じて何やら考え込んでいる。隣のルークは落ち着かない様子で膝を強く握っている。ナックは……落ち着いてるな。
「ナックはどう思う? これ以上何か言う事はあるか?」
「うーん。大体はアロが言ったからなあ。あ、俺等は仲間を急いで探している訳じゃない。今まで危ないって思った事はないからな。まあ、これからもそうとは限らないけど。それに、ルークだって一度は断られて、諦められなくて王都で俺等の事を待ってたんだ。でも、それだけじゃあ仲間にする訳にはいかないから、何度か依頼を請けて戦力になって信頼出来ると判断したから、今日仲間に加えようと、組合に手続きをしに行ったんだ。そこで手紙を受け取ってここに来たって訳だ」
「だな。だけど、ナックも言うなあ。こういうのって俺が強く言うもんだと思ってたよ」
「いや、普段の事にはアロに任せるよ。だけど、仲間にするかどうかは俺にも考えはある。仲間にするんだったら、妥協は出来ない。命は一つしかないんだから、やり直しなんて出来ないんだ」
「お、おう」
ナックがここまで言うとはな。それにしても、『命が一つしかない。やり直しは出来ない』って何か気付いてる? いや、気付かれる事はして……ないよな。それに、どうやってそこにたどり着くのか。うん、気のせいだな。そんな事あるわけない。
俺達が話し終わると全員黙ってしまった。突然言われたデルさんは、顎に手をやって『いや』とか『でも』とか小声で何やら唸っている。王妃さんのユニさんとバフさん、レトリーさんは黙って目を閉じている。何か思い当たる事か考え事があるのかな。
それで、突然言い出したシムさんは何やら俯いて小刻みに震えている。もしかして、怒った? ここまで遠慮なく言ったのは不味かったか? でも、もう言っちゃったし。
「あーっはははっははははははは!!」
突然、顔を上げたかと思ったら腹を抱えて大声で笑い出した。その事に俺達ばかりか、王妃さん達まで驚いてシムさんの事を凝視している。そりゃ驚くでしょ、何か笑わせる事でも言ったか?
「いーひっひっひ! あーっはっははは!」
「貴方、いつまで笑ってるのかしら?」
「ごほごほっ! すまんすまん。可笑しくてついな」
「だから何がそんなに可笑しいんですの?」
余りにも大笑いするから、ユニさんが戸惑いと非難の声でシムさんに向き直る。何で笑ってるのかは分からないけど、止めるのはユニさんの役目だろう。他はまだどうして良いのか分からないで、戸惑っているだけなんだから。
「ああ、すまんな。アイツの子なんだと思ったら、可笑しくてな」
「それでは答えになっていませんわよ。つまり、どういう事ですの?」
「私も同じ理由でプーマに断られてるんだよ」
「「えっ!」」
「だから、私も仲間になりたいって言ったら、同じ理由で断られたんだよ」
「それは……」
「これでも私は旅人になって世界を回る事に憧れていたし、戦う術だって鍛えていた。そして、父上達には内緒で何でも屋に登録したんだよ。今では冒険者組合って言うけど、昔は何でも屋と言ってね。依頼を一人でやっていた頃にプーマと出会ったんだ。アイツも一人でね、お互いに一人って事もあって気があったんだ。それで何度か依頼を一緒にやって、コイツとなら依頼毎の仲じゃなくて、一緒に旅を出来ないかなってね」
「そんな事、父さんにも聞いた事がなかったですよ」
「まあ、アイツらしいと言うか。手紙を持たせたって事は、私が会う事も予想してたんだろ。それでこの事を話すか話さないかは私に任せると。まあ、聞かれても問題ないから隠す事もないんだがね」
「そうだったんですか」
「アイツは驚かせるのが好きなんでな」
何だ、そういう事だったのか。手紙を渡された時は何も言わなかったからな。手紙を王都に入る前に兵士に渡せとしか言わなかったから。俺も誰にどんな内容なのかは聞けなかったし。渡せば分かるとしか言われなかったし。まさか、王族とはな。それも、昔の仲間だなんて想像出来ないよ。
「でも、何度か依頼を一緒にやったんですよね?」
「ああ、やったとも。だけどな、今みたいに明確な位階があった訳じゃないけど、簡単な採集からが普通だったんだ。だから、何かと戦う事はなかったんだよ」
「なるほど。それで、仲間になりたいと言ったら断られたと」
「ああ。これまでにない位に強い口調で言われたよ。一緒に依頼をやってたから、まさか断られるとは少しも思ってなかったから驚いたよ」
「でも、結局仲間にはなったんですよね? どうしてですか?」
「ん? 考えてもみてくれ、私はこれでも王族の一人だ。この国では私の事は知られすぎていたんだ。何でも屋に登録する時だって、凄い驚かれたんだぞ。『本当に登録するんですか?』って何度も聞かれたよ。多分、父上にも伝わったと思うね。それでも依頼を請けるのは楽しくてね。でも、その内に一人じゃつまらない、誰が良いかなって考えてる時にプーマと会ったんだよ。アイツは私の事を王族だとは知らなかったみたいで、私に対しての態度が軽かったんだ。だからかな。私の事をただの旅人として扱ってくれたから、仲間になりたいって思ったんだと思うよ」
「なるほど、そうだったんですか」
「それでしたら、私を誘えば良かったではないですか?」
「そんな事考えもしなかったよ。誰にも相談しないで登録したんだし。何より、ユニは王族じゃないか。危ないかもしれない旅に連れて行ける訳ないだろ」
「そ、それはそうかもしれませんけど……。それを言うなら貴方だって王族なんですよ? それも次の国王になると決まってる」
「こう言っては何だが、私がいなくなっても弟達がいるから大丈夫かなと」
「そんな訳あるはずないでしょう!? もっと考えて下さいよ」
「そう言うなよ、昔の事だし私も若かったんだよ」
「父上にもそんな事があったんですね」
「それで、どうやって仲間になれたんですか?」
「ん? そりゃ決まってるじゃないか」
一瞬呆けた様な顔になったかと思いきや、口角を片側上げてニヤッと笑う。何だか悪い事を考えてそうだなあ。この流れだと仲間にしないって選択肢はなさそうだな。はあ、どうしよ。




