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王宮 弐

 「それでどこまで話したかな?」

 

 「ええっと、ヴァーテルで精霊の試練が大変だったと言う事までです」

 

 「そうそう、あれは大変だった。うちと違い、あの国は武に重きを置いているからな」

 

 「それで具体的にどう大変だったんですか?」

 

 「ああ、それはな……」

 

 案内された部屋で待っていると、何人か入ってきて紹介された。されたけど、全員の名は覚えていない。だって、会いたいって言ったのは王だけだから一人かと思ってたら、何人もいるんだもん。家族だけなのかと思ったら、そうじゃない。今までに見た事もない種族もいたんだ。岩巨人族って言ってたけど、見た目は本当に岩そのものだった。それに、大きい。背は俺やナックを軽く超えていて、アッチャ族の倍はあるんじゃないだろうか。

 

 この人は種族が違うから、名は覚えている。バフさんと言って、この国の軍の長らしい。それを聞いて納得してしまった。だって、見た目で強そうだってのが判る。他の人は……覚えきれないな。良く見れば違いはあるんだけど、一度に紹介されたから頭が追いついてこない。

 

 あの部屋で話し込んでいたら、昼になったから一緒に食事でもと言う事で食堂に行ったら、又違う人達が加わった。そこでも紹介があったから覚え切れない。ルークなんて、王が部屋に入った瞬間からガチガチに固まって、俯いてばかりだ。しかも、紹介されたら頭が床に付くんじゃないかって位に下げてた。それに話し掛けられたら、ビクッとして慌てて顔を上げて口が固まったんじゃないかって位に動かないし声が出てこなかった。それに怒るでもなく、緊張しているのが伝わっているからかルークが話し出すのを待っていた。俺はそれを見て、好感を持った。会って話がしたいという断れない命令だから、どんな凄い人が出てくるのかと思ったら何の事はない、グリさんみたいだった。だから、安心もした。これで、『王が話し掛けてるのに黙るとは何事だ!』って怒り出したら直ぐに出て行く事も考えてたけど、そんな事もなかった。

 

 それで今は、食事を済ませて元の部屋に戻って又話し込んでいるって訳だ。食事の時に紹介された人達は仕事があるからって、この部屋には来ていない。だけど、ここにいる人達は仕事ないの? 王っていう位だから仕事はたくさんあると思うんだよ。それに、今は在位五十年だから余計に忙しいと思う訳ですよ。なのに、俺達と話し込んでいる。俺は父さんの冒険者時代の事を聞けて良いんだけど、この国は大丈夫なのか? 少し心配してしまう程だ。

 

 「なるほど。そんな事があるんですね。勉強になります。それで、どうして旅を辞められたのですか? まだ行ってない国とかあると思いますけど」

 

 「ああ、それはな。プーマがスイと結婚すると決心したから、それに合わせて私も戻る事にしたんだ」

 

 「まったく。もし、そのまま旅を続けられていたら、私は貴方と結婚をしませんでしたよ」

 

 「ま、まあ、戻ってきたから良いじゃないか」

 

 「良くありませんわ。何年待たせたと思ってるんです? 十五年ですよ? 幾ら寿命が長いとはいえ、待たせすぎですよ」

 

 「すまんすまん。それに、随分と昔の事じゃないか」

 

 「まあ!? 昔の事ですって? 私にはつい最近の事の様に思い出せますわ」

 

 「母上、その辺で許しなよ。今はそんな事よりも、折角お客が来てるんだから」

 

 「そんな事って……。まあ、そうね。今は貴方の仲間の子が来てるんですものね」

 

 「そうですよ。それに、母上は待たされた事に怒ってる訳じゃなく、どうして一緒に連れて行かなかったのかで怒ってるんですよね?」

 

 「……そうですわね」

 

 「だ、そうですよ父上」

 

 「そうは言ってもなあ」

 

 ボリボリと頭を掻くシムさん。あ、シムさんってのは目の前に座ってる王の事ね。小さい身体を更に縮こめて小さくなってる。俺からしても最近の事じゃなくって、昔って感じなんだけど当事者には違うのかな。

 それにしても驚いたあ。どうして旅を辞めたのかから、軽い口喧嘩になるんだよ。まあ、喧嘩と言ってもシムさんが一方的にやられてるんだけどね。

 

 「また旅に出たいと思いますか?」

 

 「そりゃ思うさ。王としてではなく、一人の冒険者として世界を回ってみたいさ」

 

 「その時は私も連れて行って下さいね」

 

 「良いけど、お気楽な旅じゃないんだぞ。それは分かってるのか?」

 

 「もちろんですわ。それに、私が足手まといになるとでも?」

 

 「いや、そうは思わんさ。でも、冒険者としては初めてになるだろ?」

 

 「あら、誰にでも初めてはありますわよ。そこは冒険者の先達として頼みますわ」

 

 「分かった分かった。だが、冒険者として世界を回るのはまだまだ先だぞ」

 

 「分かってますって。それよりも今は在位五十年の方が重要ですわよ」

 

 「分かってるって。それでお前さん達はどうするんだ?」

 

 「どうすると言われても、なあ」

 

 「うん。在位五十年と言われても、何をするのか分からないので何とも言えないですね」

 

 「いやなに、特別な事をする訳じゃない。国民に祝い酒や飯を振舞うつもりだ。他には他国から使者が来るから王宮で宴をする予定もあるがな」

 

 「なるほど。俺達は最近着いたばかりなので、その辺の事は良く知らないんです。それでいつあるんですか?」

 

 「いつの予定だったかな?」

 

 「陛下、ご自分の事なのですから忘れないで下さい。当日の予定は四十三日後です。各国にもそう伝えてあります」

 

 今まで黙って話を聞いていた犬人族が少し慌てて話しに割り込んできた。名は確か……レトリーさんで他国との交渉事を任されてるとか言ったかな。他国との調整もあるから、日程は決定みたいだな。在位五十年の記念なのに、王本人が忘れて周りが覚えているってどうなんだ?

 

 「そういう事らしいんだが、どうする?」

 

 「らしいって陛下……」

 

 表情もそうだけど、声で呆れているのが丸分かりだ。まあ、俺も呆れちゃうかな。自分の事なのに、忘れるって……。

 

 「仕方がないだろ。幾ら在位五十年の記念と言っても、自分で全部決める訳じゃなくって周りが次々に決めていくんだぞ。これじゃあ誰の在位五十年か分からないじゃないか」

 

 「陛下……」

 

 「すまんな、こんな弱音をお前さん達にも聞かせてしまって。それでどうする?」

 

 「どうすると言われても……。その時までここにいればお祝いすると思いますけど」

 

 「王宮には来てくれんのか?」

 

 「王宮には他国の人を招待して宴があるんですよね? そこに俺達がいても意味がないと思いますよ」

 

 「意味がない訳ないだろ。仲間の子なんだから、いても変ではないだろ?」

 

 「そう言われても、なあ」

 

 「うん。在位五十年もここに着いて知ったくらいだし。幾ら仲間の子だからと言ってもこの国の民ではないし」

 

 「だよな。父さんと母さんは仲間だったのでしょうけど、俺は今日初めて会っただけですからね。ここに招待されるのは変だと思いますけど」

 

 「そうですよ陛下。王宮には他国から様々な階級の使者が訪れます。その中にお仲間の子とは言え、冒険者を入れるのは不安があります」

 

 「それは、冒険者だから不安だと言うのか?」

 

 「それも理由ではあります。ですが、彼らの事も考えて下さい。使者の中には貴族もいますし、国内の有力な者も集まります。その中に放り込まれて、緊張しないはずがないでしょう」

 

 「む。そ、そうか。だが……」

 

 「まだあります。他国の使者や国内の有力な者が彼らを見てどう思うでしょうか。ただの冒険者と一緒にいる事を」

 

 「いても別に何も思わんが」

 

 「それは陛下が冒険者だった事があるからです。中には冒険者を野蛮な荒くれ者と見下している者もおります。そういった者は陛下のお知り合いでも、冒険者がいる事に嫌悪感を示すでしょう」

 

 「確かに冒険者は野蛮で荒くれ者だ。それは認める。だが、仮にも王である私が招待するんだぞ?」

 

 「それでも、です。彼らは目立つ様に表立って攻撃したりしません。目立たぬ様に裏で隠れてやるのです。これは冒険者である彼らの今後の事も考えての事なのです」

 

 「ううむ。そう言われれば、冒険者の頃に貴族に嫌な事を言われた事はあったな。でもなあ、折角仲間の子がいるんだから何かしたいよなあ」

 

 在位五十年の王宮で開かれる宴に俺達を参加させようとする王と、それを止めようとするレトリーさん。これはレトリーさんの言い分が正しいんじゃないだろうか。俺たちはまだ嫌な貴族に会った事はないけど、あるかもしれないと分かってて参加はしたくない。それに、それまでここにいるとも限らないし。

 

 「お、お、恐れながら、は、は、発言をお、お、お許し、下さい」

 

 と、それまで下ばかり見ていたルークが突然話し出した。と言っても、『話しても良いでしょうか?』って確認だ。話すのに一々確認するって変じゃないか? もう話してるんだから、そのまま話しちゃえば良いのに。

 

 「(普通に暮らしてる民からしてみたら、ルークが普通だと思うわよ。アロ達みたいに遠慮なく緊張もしないで話してる方が変よ)」

 

 「(そういうもん?)」

 

 「(そうよ。ダイスケだって王と話した事はないし、会った事も直接見た事すらないのよ。それを考えると、普通に暮らしてる民が王と会って話すなんて想像も出来ない事じゃないかしら)」

 

 「(ふーん。じゃあ何で俺とナックは平然としてるんだ?)」

 

 「(それはあれでしょ。この国の民じゃないからじゃないの? 王とは言ってもこの国の王であって、アロ達の王じゃないんだからね)」

 

 「(ふーん、そんなもんか)」

 

 「(でも気を付けなさいよ。幾らアロ達の王じゃなくても、王には変わりはないんだからね。今の態度が他の王にも通用するとは考えない事ね)」

 

 「(だってなあ。父さんの仲間だって紹介されたから、いっきに親しみが湧いてきちゃって)」

 

 「(まあ、ね。でも、これからは気を付けなさいよ)」

 

 「(分かった分かった)」

 

 何だか面倒だな。そういえば、ラウンさんのところでも同じ態度だったな。ベンダーさんが怒ったのはそういう事か。

 

 「何だ? 何でも言って良いぞ」

 

 「はっ! で、では。ごくっ。お、俺じゃない、私の様な民がその様な宴に招待されるのは場違いだと思います。その場にいると、緊張して何か問題を起こしそうで怖いです。ですから、私は一国民としてお祝いをさせて頂ければと思いまして……」

 

 「ううむ」

 

 「ほら、陛下。この者が言っている通り、どちらにも良い事はないですよ」

 

 「そ、そうか。……分かった。宴への招待はやめよう」

 

 「ご理解頂けて何よりです」

 

 「だが、当日までは少しは王宮に顔を出せよ? まだ話したい事があるんだからな」

 

 「分かりました。そのくらいなら」

 

 はあ、ルークの後押し? もあって宴への招待はなしになった。でも、その代わりに王宮に顔を出せと。まあ、冒険者だった父さん達の事を聞くのは楽しいから、その位は良いけどね。寧ろ、お願いしてもっと話をしたいくらいだったしね。

 

 「それとは別に、お前さん達に聞いてもらいたい願いがあるんだが」

 

 「願い、ですか?」

 

 「うむ。私の息子を仲間に加えてくれんか?」

 

 「父上、突然何を言ってるんですか!?」

 

 「断ります」

 

 うわ、これ今までの面倒事と同じじゃないぞ。幾ら父さん達の仲間の子でも、仲間には出来ないよ。ここにいるルークだって、一度は断ったんだから。でも、即答したのは駄目だったみたいだ。だって、それまで目を閉じて黙っていたバフさんが、ゆっくり目を開けて俺を睨んでるんだから。ついでにレトリーさんも。犬人族だから怖くはないから良いけど。でも、バフさんは別だ。はあ、どうしよ。もう言っちゃったから後戻りは出来ないしなあ。でも、こればっかりは簡単に頷く事は出来ないな。


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