再会 弐
知りたいの軍人 → 知り合いの軍人 (2018/7/7)
「お二人とも、遅いっすよ!!」
組合に入って依頼が張られている壁に向かっていたら、突然大声が横から上がった。俺達に向けてではない様なので、無視して依頼を探す。ナックも同じ様なので係わらない方が良いだろう。
「ちょっと、忘れたんですか!? 僕ですよ僕!」
「「??」」
そこで初めて声のした方を見る。髪は短髪の茶色で瞳も茶色。背は俺よりも少し低い位で、何かの皮鎧を着けて手には槍を持っている。多分人族だろう。だろうけど……。
「誰?」
「忘れちゃったんですか? ルークですよ、ルーク! ロッチのルークですよ!」
「ルーク? ……おお、ルークか久しぶりだな。元気だったか?」
「はい、元気ですよ」
「おお、そうかそうか。変わってたから分からなかったぞ」
「そうですか?」
「……いやあ、正直違いは分からん。何となく」
「そうですか? 結構鍛えたんで違うと思うんですけどねえ」
ルークはそう言って自分の身体をあちこち見ている。うん、良く分からん。と言うか、前がどうだったのか思い出せないし。だって、一緒にいたのってどれ位だ? そりゃ、一時期は鍛えてたけどさ。覚えてないよ。もっとはっきり言うと、名と顔しか覚えてない。
「って! そんな事はどうでも良いんだよ! どうしてここにいるんだ?」
「おお、そうだよ。確かロッチで別れたはずだぞ。何でだよ」
ナックも同じ事を思い出したか。そう、ルークとはロッチで別れたはず。確か、農家を継ぐんじゃなかったかな。それがどうしてここに? それも鎧を着て槍を持って。どう見たって農家の格好じゃないだろ。それに、王都に来る必要はないだろ。
「もちろん、お二人を追ってですよ」
「追ってですよってお前……。追うのは良くないけど今は良いとして、その格好は何だよ。農家を継ぐんじゃなかったのか?」
「だから、お二人を追ってここまで来たんですよ。もちろん冒険者になってですよ」
「冒険者ってお前、農家はどうしたんだ?」
「父さんがやりたい事があるなら、やれって言ってくれたんです。その代わり、やるからには後悔するなって」
「へー、そうなんだ。で、追ってきたってどういう意味だ?」
「それはもちろん、仲間になりにですよ!」
「もちろんってお前……」
「もしかして仲間にはなれませんか?」
「なれませんかって、どうして仲間にしなかったのか忘れたのか?」
「いえ、忘れるはずありません。それでも仲間になりたくて、こうやって冒険者になったんです」
「うーん、お前は冒険者になりたかったんだろ? だったら、今のままで良いじゃないか」
「駄目ですか?」
「さっきも言ったけど、お前は信用をなくしたんだよ。それも、話す機会は幾らでもあったのにだ。そんなヤツを仲間に出来ると思うか?」
「そうだ、アロの言う通りだ。お前は一度信用をなくした。そんなヤツを仲間にする意味がない。第一、俺等は仲間を必要としてないしな」
「……どうしてもですか?」
そんな何度も食い下がっても、無理な物は無理だ。信用は得るのは長く難しいけど、失うのは簡単だ。それこそ、一瞬だ。それを回復するのは、無理なんじゃないかな。どうやったら回復出来るんだろう。
「(どうやったらって、それはアロ達にしか分からないんじゃないの?)」
「(まあ、そうなんだけどさ)」
「(それよりも、どうするの? 仲間にするの?)」
「(しないよ。さっきも言ったけど、アイツは冒険者になりたかったんだ。仲間にもなりたいんだろうけど、それはついでだよ。それに、仲間になりにきました。おうそうか、じゃあ仲間になるかってなるか?)」
「(それは……難しいわね。でも、知らない仲じゃないんだし、今回は良いんじゃないの?)」
「(知らない仲って言うけどさ、それもさっき言った通りだよ。俺達を騙した訳じゃないけど、アイツは信用をなくした。それを前以上に信用を得るには並大抵じゃ済まないだろ。それだったら、他の冒険者の仲間になった方が良い。俺達である必要がない)」
「(まあ、それはそうかもしれないけどさ。何とかならない?)」
「(何とかって仲間にしたいのか?)」
「(仲間に出来たらなあって思うのよ。だって、短い間だけだったけど折角鍛えたじゃない? だから、もったいないかなって思ってね)」
もったいない、か。うーん、鍛えたとは言っても、短い間で基本の基本しか教えてないからな。
「(じゃあさ、前の事もあるから仲間にするかどうかは直ぐには決めないで。一緒に依頼を請けながら、仲間にするかどうか決めれば良いんじゃないの?)」
「(前みたいにお試し期間って事?)」
「(そうそう。何も今ここで判断しなくても、一緒に依頼をすれば良いと思うの。あの時とは違って冒険者になっているんだし、足手まといにはならないと思うわよ。それに前も言ったけど、教えるのはアロ達にも良い影響があると思うの。あの時とは違う見方が発見出来るかもよ)」
「(お試し、かあ)」
お試しねえ。まあ、ナックが言った通りで、仲間を増やす意味はないんだよなあ。これからもそうだとは限らないけど。あー、でもいずれ増やす事を考えているなら、早めに仲間にして連携とかを確認した方が良いか。
「お前もしつこいな。駄目なもんは駄目だぞ。幾らお前が仲間になりたいと言っても、決めるのは俺等だ」
「そんなあ。折角王都まで来て待ってたのに」
キューカと話している間もナックとルークは、仲間にするかどうかを続けていたみたいだ。ナックが一歩も譲らない態度で断っていると、ルークは項垂れて膝から崩れ落ちた。
「アロも何か言ってやれよ」
「そうだな。ルーク、改めて聞くが、本当に仲間になりたいのか?」
「はい! もちろん」
項垂れていたのに、ガバっと音がしそうな程勢い良く顔が俺に向く。少し怖い位だ。でも、それだけ期待してるって事だろうか。
「前の事もあるから、直ぐに仲間にするとは言わない。だけど、信用を取り戻す為に一緒に依頼を請ける。それで、俺達が仲間にするかどうかを判断する。その判断で仲間にしないと決まっても文句は言うな。これでどうだ?」
「それって……」
「ああ、お試し期間だ」
「アロ?」
「前の事もあるから仲間にはしたくないだろ。だけど、俺達を騙してた訳じゃないから、もう一度機会を与えても良いんじゃないかってな。それに、冒険者になっている事だから足手まといにはならないだろ。一緒に行動してからでも判断は遅くないかなってな。まあ、精霊に言われたんだけどな」
「……うーん。まあ、俺等にとって悪い事をした訳じゃない、か。それに、俺等もこの先秘密がないとは限らないか。一度くらいは機会を与えても良いのかもな。まあ、俺も精霊に言われたんだけどな」
「そういう事だ。それでも良いか?」
「はい! もちろんです。僕も冒険者になったので、役に立つ事を見せますよ!」
さっきまで項垂れて絶望の顔をしていたのに、今は嬉しいのか笑顔になっている。仲間になりにここまで来たんだ、そりゃ嬉しいか。でも、あのルークがねえ。ロッチからここまで何箇所か町を通るけど、今まで見た事もそれらしい名を聞いた事もなかったぞ。
「なあ、ちょっと疑問があるんだが。ルークってどうやってここまで来たんだ? 俺達は直接ここに来た訳じゃないから、色んな町で冒険者として活動してたんだが、お前の事を見なかったぞ」
「ああ、それですか。ロッチで鍛えれるところまで鍛えて、直接ここに来ました。だから、会わなかったのは当然ですね」
「直接、か。冒険者にはなったんだよな? 依頼はどうしてたんだ?」
「それはもちろんロッチでですよ。父さんに基礎を鍛えてもらったり、知り合いの軍人に鍛えてもらったりしてました。それで、冒険者に登録できる歳になったので、幾つか依頼を請けて成功させて、一人で旅が出来ると判断されたので来ました」
「どうして直接来たんだ? 依頼を請けながらの方が冒険者としては位階も上がるし、稼げると思うんだけど?」
「お二人は必ず王都に行くと思っていたので、途中の町に寄ると会えないかなって。追うよりは待つ方が会える可能性が高いかなと、父さんと相談して決めました。仲間になる事しか考えてなかったので、位階や稼ぎは王都に着いてからって思ってました」
「なるほど、ね。それで、武器は槍で位階は?」
「最初は剣だったんですけど、教えてくれた人が槍の使い手だったんです。それと、お二人とは違う武器の方が良いかなと。後、位階はⅡまで上げました」
「Ⅱ、か。Ⅱって動物や魔物って狩れるんだっけ?」
「さあ、覚えてないな。狩ってた様な、そうでもない様な」
「Ⅱでも動物の狩猟依頼はありますよ。ロッチでも狩ってましたから」
「ほほう。じゃあ、安心だな。これで狩った事がないって言われたらどうしようか悩んだとこだよ」
「あ、でも。魔物はまだ狩った事ないですよ。それに、動物もせいぜいがラン位で……」
「それってどうなんんだ? 普通なのか?」
「さあ?」
「お二人みたいに、魔物を平気な顔で狩るって言うのは普通じゃないです」
「言うじゃないか。っと、それよりもルークをお試しで仲間にするのって出来るのか?」
「さあ?」
「「「……」」」
沈黙。見詰め合う三人。そりゃ知るわけないよな。誰か知らないのかよ!? 俺にも言える事だけどさ。
「なあ、ここで悩んでても仕方ないだろ。そこに受付があるんだから聞けば早いじゃないか」
「「おお、確かに」」
流石ナックだ。受付に聞けば良いだけの事じゃないか。
「それで、仮で仲間を入れる事って出来るんですか?」
「もちろん出来ます。いきなり仲間にするのは流石にどの冒険者もしませんね。だから、試しで仲間にするっていうのが普通ですね。その場合は人数に係わらず、元になるグループの位階までの依頼を請ける事が出来ます。そして、試しの期間は特に定められてはいませんが、大体依頼数で三十が目安ですね」
なるほど。そんな仕組みがあったのか。そうだよな、仲間って命を預ける事になるんだから、慎重になるよな。良かったあ、こんな仕組みがあって。試しの期間は無理です。仲間にするかしないかの二択ですって言われたら困ってたな。
「それで、どうしますか? 試しでお仲間に加えますか?」
「はい、お願いします」
こうしてルークは試しで俺達の仲間に加わった。ルークも加わる事だし連携を強化しないとな。弓と剣はまだ新調出来てないけど、連携は問題ないだろ。これからも忙しくなりそうだ。




