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成長 弐

 「アロ、ちょっと待てよ。速いよ」

 

 「速く行かないと、罠から獲物が逃げちゃうかもしれないだろ」

 

 僕たちは今、昨日仕掛けた罠を確かめる為に走っている。話しかけたヤツはナックと言って幼馴染だ。僕と一緒で性格はやんちゃで、元気が有り余ってる感じだ。今の会話で分かると思うけども、僕の方が速く走れるんだ。まあ、こいつだけじゃなくて、周りの同じ年位の子の中では一番なんだけどね。

 

 

 「はぁはぁ、二人とも、速いよ。あたしは二人みたいに速くないんだから、少しは遅くしてもいいんじゃない?」

 

 「キュー、ちょっとココに立ってみて」

 

 「え? やだよ。そこって落とし穴じゃなかった?」

 

 「ちぇ、忘れてるかと思ったのによ。アロ、ここの落とし穴が駄目だと、他のも期待できないよな?」

 

 「うーん、そうだな。落とし穴は全部同じだからなあ。一応全部確認してみるか」

 

 そう言って、獲物たちの水飲み場である池周囲に張った落とし穴10個ほどを確認した。結果から言うと、獲物はいなかった。

 

 「何が駄目だったんだろう。二人とも分かるか?」

 

 「そうだなぁ、3個は引っかかったみたいだから。罠としては良いと思うんだ。だけど、深さが問題じゃないのかな?」

 

 「うーん、でも深さって言っても僕たち位なら余裕で埋まるんだぞ?」

 

 「そ、そう言われればそうか。じゃあ、何が駄目なんだ?」

 

 二人して悩んでるとおずおずと、キューが手を挙げた。

 

 「あの、思ったんだけど。落とし穴だけじゃなくて、中に獲物の好物を入れたらどうかな?」

 

 「好物? 確か入れてたはずだけど」

 

 そう言って、落とし穴の底を確認したけど、果物はあった。食い荒らされてはいない様だ。

 

 「そうじゃなくて、果物とか木の実なら落とし穴に行かなくても、周りに一杯あるじゃない? だから、もっと工夫するべきだと思うの」

 

 確かに、言われてみれば食べ物なんて周りに幾らでもある。何も穴に落ちてまで食べようとは思わないだろう。だったら、どうしたら良いんだ?

 

 「工夫って、何すれば良いと思うんだよ」

 

 「え? いや、工夫って言っただけで何か考えがあったわけじゃないんだけど……」

 

 そう言うと、俯いてしまった。そりゃそうか、気付いたけど解決策は思いつかないか。じゃあどうすれば良いんだ? 周りの食べ物を全部集めて落とし穴に入れる? いや、この森どんだけ広いと思ってるんだ、無理だな。

 

 「なあ、落とし穴に食べ物を入れるのが駄目なんじゃないか?」

 

 それまで黙って考えてたナックが意味不明の事を言った。

 

 「落とし穴の底に食べ物があるから、食べようとして落ちるんだろ? 食べ物がないんじゃあ、落ちてくれないだろ?」

 

 「いや、そうじゃなくて。食べ物は底じゃなくて、落とし穴の上に置いておくんだよ。そうすると、地面に落ちてる食べ物を食べようとして、食べ物と一緒に落ちると」

 

 なるほど、土の下じゃなくて上に置くのか。埋まってるよりは上にあったほうが、自然か。試してみるか。

 

 「なるほどね、良く思いついたなナック。上にあった方が不自然じゃないな。じゃあ、全部それにするか? キューはどう思う?」

 

 「うん、それ良いかも。あと思いついたんだけど、今は無理なんだけどね。底に食べ物を入れる時は、獲物の血とか臓物を一緒にした方がいいんじゃないかな?」

 

 「おお、なるほどな。肉食のやつらだったら、血の臭いに釣られるかもな。じゃあ、獲物捕まえたらそれも試してみようか。なんだよ、二人とも良く考え付くよな」

 

 「いや、僕も獲物が落ちてると思ってたんだよ。でも実際は一つもいなかった。キューが工夫て言ったから、獲物はどんな風に食べ物を探してるのかなって考えたんだよ。それに、まだ成功したわけじゃないからな」

 

 「そうだよ、あたしだって工夫って言ったけど直ぐには思いつかなかったもの」

 

 「それでもだよ、僕なんて何も思いつかなかったんだぞ」

 

 三人の中では一番だと思ってたけど、違ったか。これじゃあ、何も駄目じゃないか。ん? でも3個は引っかかったんだよな。でも、落ちてないと。

 

 「なあ、今思ったんだけどさ。3個は引っかかってたみたいだよな。でも、落ちてないと。だとすると、落ちる前に移動できたってことじゃないかな? つまり、穴を塞ぐ木が丈夫過ぎたんじゃないか」

 

 「「あ」」

 

 二人して、間抜けな顔して固まってしまった。

 

 「そうだよな。だって、フアやグリエなら落ちるかも知れないけど、ランだったら落ちないぞ?」

 

 と、僕が追加で説明すると、

 

 「そ、そうだね。落とし穴の事ばかり考えてたけど、そもそも落ちないと意味ないもんね。ランって小さいもんね。落ちるわけないか」

 

 と、キューも同意してくれた。もちろん、ナックも頷いている。ふう、何とか役立たずじゃないかな? まあ、獲物がかかるまでは安心できないな。

 

 その後は腐った木を探してきて、穴に蓋をして気付かれない様に木の上には葉っぱ等を乗せた。これで、多分大丈夫だ。今日は野草でも摘んで帰ろうってなった。明日は今日と同じで、朝早くに確認の為に出かける約束をした。

 

 

 

 「二人とも早く行こうぜ。きっと獲物がかかってるからさ!」

 

 二人が来たら直ぐに罠に向かって走り出した。罠に僕たちなりに工夫をしたんだ、期待してしまうのは仕方ないじゃないか。それに、昨日の夜に罠の事を話したら、父さんも子供の頃に同じ事をやってたって言ったし。狩りが上手な父さんが言うんだから、かかってるはずだ。二人は待って、と言ってはいるけど、後ろを振り向いたらいつもよりも張り切ってる顔してた。なんだ、同じじゃないか。

 

 

 「おお! 早く来いよ。凄い物が見れるぞ」

 

 一つの落とし穴の縁に立って、下にいる獲物を見る。果物が好物のグリエがいた。こいつは大きいけど、気性は穏やかだから僕たち子供にも狙いやすい。何より、美味しいんだ。グリエ一頭も捕れたら今晩だけでは食べきれないだろうな。

 

 「おお、本当に落ちてる!」

 

 「本当だぁ、グリエなんて大物だね!」

 

 そこへ遅れて来た二人が穴の底にいるグリエを見て興奮している。10歳でグリエを捕れたんだから興奮して当たり前か。

 

 「それよりも、他のも見てみようぜ。一つ目でこれだから、期待できるって」

 

 そう言って、他の9個の落とし穴を確認しに行く。自分の中では成功している事しか頭になかった。

 

 結果から言うと、10個の内、獲物がいたのは5個だ。グリエが3頭に雌のフアが一頭に子供のルスが一頭だった。他は一応落ちたみたいだけど、逃げられた様だ。様だってのは底にある果物がなくなっていたのだ。多分、ランが落ちたんだけど壁を蹴って逃げたんだと思う。あいつらは小さいし跳ぶ力が凄いから出来たんだと思う。それは良いのだが、一つ問題が発生した。それは、

 

 「なあ、獲物がかかったのは良いとして。どうやって持って帰る?」

 

 そう、獲物がいたのは素直に嬉しい。僕たちの力だけで達成できたんだから、最後までやりたいと思ってるのは共通なんだ。止めを刺すのは出来るんだけど、穴から持ち上げるのは出来ない。何しろ、僕たちは子供で力がないし、精霊術も使えない。ルスなんて子供とは言っても、恐らくは僕たちと変わらない重さに違いない。だから、何とかして持ち帰れるように考えているんだけど、答えは決まっている。

 

 「大人たちを呼ぼうか」

 

 僕がそう言うと、二人ともそれしかないと頷いてくれた。何とも格好がつかない結果になったな。でも、獲物を捕れた事は褒めてもらえたし、肉は当然美味しかった。ああ、早く大きくなって精霊術も使える様になって一人前になりたいな。


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