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王都タルパ

 「長かったなあ」

 

 「本当にな。俺達の他に一緒に出てないのが良く分かったよ。こんなに並ぶのが分かってたから早めに出たんだろうな」

 

 「ああ、だろうな。王都に入るだけで夜だもんな。一体どれだけ並んでたんだろうな」

 

 「本当だよ。でもさ、あれだけ並んでたのに夜には入れるんだから良かったんじゃないか? 最初はそこらで寝る覚悟してたんだから」

 

 「まあ、な。でもさ、どうしてこんなに多いんだ?」

 

 「さあ。それは聞いてないからな。王都だからじゃないのか?」

 

 「ふーん。まあ、多くたって俺等には関係ないからな」

 

 あれだけの人数なのに、夜には入れた。門を守る兵士達が慣れてるのか、手際が良かった。身分を確認する人、荷物を確認する人、目的を確認する人と一人で全部やらないで、分担してたから早かったんだと思う。それも、それが何組もあった。ただ、問題はある。

 

 「まあ、入るのが遅かったから泊まる宿が高いとこしかないんだけどな」

 

 「それは仕方ないんじゃないか? ここにどれだけの宿があるのか分からないけど、あれだけの人がいたんだぞ。宿があるだけ良いじゃないか」

 

 「そりゃそうか」

 

 「それよりも腹減ったぞ」

 

 列に並んでいる間に、コライの様にテトラちゃんみたいな物売りは現れなかった。現れなかったけど、周りの商人が待ってる間が暇なのか商売を始めてた。と言ってもその場に広げてって訳じゃなくて、商品を歩き回って売っていた。そこで、手軽な物を買って食べてはいた。食べてはいたけど、軽い物だったから動いていないのに夜になると自然と腹が減る。

 

 「と言っても、初めてだからどこが美味い食堂かなんて知らないぞ」

 

 「んー、喰うなら美味いところが良いよな」

 

 「泊まる宿で済ませるか、歩き回るか」

 

 「今日は宿で済まそう。こらから歩き回って探すのは流石に辛いよ。それに、宿が良い所なんだから喰ってみよう」

 

 「そうだな。俺も言ってて今から歩き回るのは流石に辛いわ。それに、美味くなかったら更に辛いわ」

 

 「じゃあ宿に行くか」

 

 町並みは……どう表現したら良いんだろうか。山の中にあるから、他と比較出来ないけど凄いの一言だよ。ただ、夜だから隅々まで見れないけど。だけど流石王都って感じで、明かりは至る所にあって夜なのに明るい。まあ、陽が出てる程じゃないけどね。

 

 

 

 「本来は新人の冒険者をお泊めする事はしないのですが、宿が足りないとの事ですので特別にお泊り下さい」

 

 受付でこんな嫌味を言われたけど、無事? 宿には泊まる事が許された。許されたって変な事を言ってる様だけど、宿の人からはそんな印象を受けた。丁寧な口調だったけど、本当は「お前達みたいな新人冒険者、いや冒険者自体を泊めるのは宿の格を考えると断るんだがな」こんな風に言いたかったんだと思う。

 

 因みに、いつもはこんなにも大勢来る事はないんだとか。今の王が在位五十年だとかで、人が集まって来ているらしい。だから、安宿から人が泊まっていくから、比較的高い所は紹介が後になるらしい。それでも、人が泊まるから問題ないらしい。まあ、いつもより割高になっているから今回は二人で一部屋を借りた。とは言っても、二部屋って言ったら露骨に嫌な顔されたけどね。

 

 

 「何になさいますか?」

 

 「肉を」

 

 「肉料理と言われましても、種類がございます。どれになさいますか?」

 

 「何があるんですか?」

 

 「ヴァン、豚、ヴァン豚、グリエ、ラン、フア、ルス、プレ、アリエ何でも揃えています。もちろん、部位もです。ですが、ここは内陸ですので魚は品薄でして」

 

 「アリエ? 聞いた事がない種類だな。じゃあそのアリエで」

 

 「焼き方やソース等はどうしますか?」

 

 「んー、何が良いのか分からないのでお任せで」

 

 「かしこまりました。他はいかがいたしますか?」

 

 「んー、野菜とスープとトルを。これもお任せで」

 

 「かしこまりました」

 

 宿の食堂に行くと、建物は赤茶色だったのに中は白で統一されていた。まあ、これは食堂だけに限らないんだけどね。部屋は四角で四隅には緑の植物があって、中々に良い感じだ。窓は大きく、しかも宿の食堂にしては初めての最上階にある。だけど、窓側じゃないから外の景色は良く見えない。見えないけど、遠くの山の中に町があるのは何となく見える。

 

 「適当に頼んじゃったけど、良いのか?」

 

 「ん? 別に良いさ。それに、アリエなんて喰った事ないしな」

 

 「それな。これまで幾つも町に入ったけど、こんなのは聞いた事がなかったよな。もしかして、ここだけの名物とかか?」

 

 「うーん、その可能性はあるかもな。でもさ、ラウンさんに初めて会った時に喰ったヴァンは王族にも献上されてる肉だって言ってたよな?」

 

 「ああ、確かにそんな事言ってたな。じゃあ、ここでしか聞かない名だけど、特別美味いって訳じゃないのか?」

 

 「いや、それはどうだろ。ここは高い宿だぞ。そんな所が美味くない肉を出すと思うか?」

 

 「そりゃそうか。不味い物を喜んで出すなんて、そうそうないよな」

 

 「で、この後どうする?」

 

 「この後?」

 

 「ああ。在位五十年で集まってるんだろ? だったら組合で依頼を請けるより、先に王都を見て回らないか?」

 

 「……そうだな。偶にはそれも良いか。それにしてもナックからそんな事が聞けるとはな」

 

 「まあ、な。それに、依頼はいつでもあるけど、在位五十年って今だけだろ。だったら楽しむのも良いんじゃないかってな」

 

 ふむ、そうか。冒険者なんだから、どこ行っても依頼を請けなきゃいけないって、どこかで考えてたな。そうだよ、今までだって、依頼がないなんて事はなかったんだ。依頼は逃げやしない、焦って依頼を請ける事もないか。それに、こう人が集まってると面白そうな物とか売ってそうだしな。

 

 

 「お待たせしました。ご注文の品です」

 

 「ほお」

 

 骨付き肉で、上下は焼き色がついていて左右は生の様に赤い。その上に黒っぽいソースがかかっていて、少し甘い匂いがする。大きさは三口で食べられる程で、それが六つある。野菜とトルは変わったところは見られない。ソースは白っぽくて、酸っぱい匂いがしている。スープは何を使ってるのか分からないけど、形がなくなるまで煮込んだ様だ。

 

 「アリエの骨付き肉、葡萄ソースがけ。季節の野菜、タルパソースがけ。スープはラマットを煮込んだ物に香辛料を効かせています。後はトルです。それでは」

 

 料理を運んできて、どんな物なのかを説明したら礼をして音もなく去っていった。多分人族だと思う。白髪が少し混じっている黒髪だ。服装が全体的に黒で、中に白色の服を着込んでいる。部屋が白で服が黒、統一されている様でされていない。しかし、自然と嫌な感じはしない。

 

 「さあ、喰うか」

 

 手をすり合わせて、早速肉にかぶり付く。ドロっとした甘いソースに肉は合わないかと思ったけど、これは考えを改めるしかないだろう。甘いソースの中にもしっかりと肉の旨みがあり、一噛み毎に肉汁が溢れてくる。臭みもなく、程よい噛み応えがある。骨を持ってかぶり付くと、肉を喰ってるって感じる事が出来る。うん、これは美味い。手が止まらないな。ナックも同じなのか、話もしないで黙々と肉に喰らい付いている。

 

 ただ、不満があるとすればもう少し肉を喰いたかったって事かな。美味かった、確かに美味かった。だけど、腹一杯になる程じゃなかった。同じ物を頼もうと思ったけど、周りを見ると、ガツガツ喰ってるのは俺達だけだったので遠慮しといた。他の野菜もスープもトルも美味かった。何がどう違うのか分からないけど、他の町とは違う美味さがあった。

 

 

 「ふう、喰った喰った」

 

 「美味かったな」

 

 「ああ、流石に高い宿だけはあるよな」

 

 「まあな。その代わりに金は結構するけどな」

 

 そう高い宿だって分かってたけど、料理も高かった。今までは銀貨一枚あれば食事も部屋も十分だった。だけど、ここは銀貨五枚もする。まあ、部屋の内装や寝台の柔らかさ、料理の美味さを考えると安くはないけど、丁度いいのかなって思える。

 それに、今まで使わないで貯めこんでた金を使う良い機会だったんじゃないかと思う。このままだと、金ばかりが増えて旅に邪魔になりそうだったから。足りないのは嫌だけど、使う時には盛大に使った方が良いんじゃないかって思えてきた。

 

 「それで明日は町の中を見て回るで良いんだな?」

 

 「ああ。珍しい物とか面白い物が見られるかもしれないしな。それに、装備品もここの方が強化出来そうだしな」

 

 「ああ、そうだな。盾は買ったけど、それ以外は変わってないからな。良い物があったら買っておきたいな。別に今の装備が気に入らないって訳じゃないんだけどな」

 

 「まあな。それに良い装備がなくても、手入れだけは頼みたいな。俺達でもやってはいるけど、どうしても職人には敵わないからな」

 

 「ああ、それも探せたら良いな。金は今まで稼いだ分があるんだ。足りないって事はないだろ」

 

 「だろうな。まあ、足りなければ、依頼を請ければ何とかなるだろ」

 

 「そうだな」

 

 話はそれで終わりにして、二人で寝台に横になった。横になると、身体が沈み込むんじゃないかって位に柔らかい。これは良く眠れそうだ。


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