いつも通り
あの後、リアンさんにも食べてもらって、美味いって言ってもらえた。もちろん、作り方は教えた。教えたと言っても、俺が教えられるのは基本だけだし、後はリアンさんが改良してくれるだろう。勘の良いリアンさんは、これを料理大会に使えないか考えるそうだ。
因みに、呼び名はコライステーキにした。ステーキって名もないんだけど、新しい物だしコライの名物にしようって事で思い切って使ってみた。これからは、ただ焼いた物にもステーキって呼ぶ事にするそうだ。その区別で、コライってのを付けた。細切れにして焼いた物をコライステーキ、ただ焼いた物をステーキってな具合に。
「今日は休まないよな?」
「当たり前だろ? 俺だって休みたくて休んでたんじゃないんだぞ。俺よりもナックはどうなんだよ。休みの間は何してたんだ?」
「俺だってただ休んでた訳じゃないぞ」
「じゃあ何してたんだよ、言ってみろよ」
「そりゃ……装備品を見て回ったり、食べ歩きしたりとか」
「おい、装備品は良いけど、食べ歩きってお前」
「仕方ないだろ。それしかやる事がないんだから」
「まあ、それもそうか。でも一人で依頼でもしてるのかと思ったよ」
「いや、それも考えたけどさ、一人でやるのもなあ。まあ、偶には依頼をしない日ってのもあっても良いかなって」
「ふーん、そっか。じゃあ組合に行くか」
逆の立場でもナックと同じ事をしただろうな。まあ、でも一日二日だったからそうなのかも。もう少し長いと身体を動かしたくなって、依頼を請けるかもな。そう考えると、俺は料理人じゃなくって冒険者なんだな。
「それじゃあ、どの依頼にしようか」
「うーん、海か森かで依頼は違うけど。海はな、請けたら二、三日は帰れないからな。それに、狩ってるって感じじゃないんだよなあ」
「じゃあ、森関連にするか。久しぶりに薬草とかの依頼も請けるか」
「そうだな。薬草とかの採取って随分とやってなかったから良いかもな。それに、狩ったついでに出来るしな」
「だな。じゃあ、久しぶりにフアでも狩るか」
「この二つを請けます」
「はいはい、じゃあカードを出して下さい」
そう言われて、いつも通りにカードを渡すと受付の顔が変わった。この人の名は知らないけど、多分人族だと思う。髪は黒で耳辺りで揃えられていて、瞳は青で肌は良く日焼けした麦色だ。
「お二人ともこの依頼を成功しますと、Ⅳに上がる資格を得られますね」
「へー、もうそんなに依頼を請けたんだ。でも、ここでⅣの依頼ってありましたっけ?」
「ある事はありますよ。ただ、依頼内容が凄く変わるって事はないんですよ」
「そうなんですか。例えば?」
「例えば今から請けるこの依頼ですが、一日に複数狩る事が求められます」
「それだけですか?」
「それだけと言えばそれだけですが、一日に複数狩ると言う事は見付ける事と狩る事、そして町まで運べると言う事なんです」
「もっと大掛かりな事を求められるかと思いましたよ」
「これでも結構大変なんですよ。見付けられないと、そもそも駄目ですし。それに、Ⅳにそれ程大きな依頼はないですよ」
ふむ。一日に複数狩る、か。それなら今までもやってきた事だから、難しい事はないかな。もっと、こう、ペルルとかでやった様な群れの狩りが条件かと思った。
「群れとかを狩るってのはないんですか?」
「群れですか? 群れなんて滅多に発生しませんし、群れが発生しない様に冒険者が狩ってるってのもあります。それに、群れが発生した場合は、軍ともっと位階の高い冒険者が担当しますからⅣでは無茶ですね」
「「……」」
無茶、か。ここに来るまでに群れとは二回戦ったけど、あの程度は群れとは言わないのか? だから、ペルルでは俺達も参加出来たとか? いや、ペルルの時は少なく見ても百や二百は超えていたぞ。あれは確かに群れだよな。それに、軍からも要請があった訳だし。
「ちなみに、群れってどの位の数ですか?」
「そうねえ……群れと言っても数は決まってないのよ。正確に数える訳でもないし。でもそうね、大体百を超えると群れと呼んでも良いかもね」
「百、ですか」
「どうかしましたか?」
「いえ、ペルルであった群れはどうなのかと思いまして」
「あの群れの時にいたんですか!?」
「ええ、まあ」
大きな声を出して、少し立ち上がったぞ。それも、前のめりになって。目はこれでもかって位に開いて、口は半開きだし。そんな興奮する事なのか?
「ああ、取り乱してすいません。あなた達があの場にいたとは思ってなかったので。それで、あれは群れと呼んで良い規模です。ですけど、あれは事前に察知出来てない突然の群れでしたので、当然依頼も出ていません。そして、あの様な場合では位階には影響しません。誰が何を何体狩ったのか判りませんからね」
「なるほど。だから、報酬だけなんですね」
「ええ、そう言う事です。その報酬も位階に応じてですね。組合の者が確認出来れば良いんですけど、ペルルの時の様な戦いでは確認出来ないですからね。でも、その分何時もよりは多めになっているはずです」
「なるほど、ありがとうございます。では、そろそろ出掛けますね」
「はい、いってらっしゃい」
いってらっしゃい、か。そう言えば、こうやって送り出された事ってなかったな。何だか良いもんだな。こうやって送り出されるってのも。
「なあ、ペルルの時の群れってさ、本当は俺等が加わって良かったのか?」
「ああ、それは俺も思ってた。だけどさ、軍からの要請だぞ。位階なんて一々調べてる暇なんてなかっただろ。それに、突然だったみたいだし多ければ良かったんじゃないか?」
「ああ、それもそうか。逆に位階が低いからって参加出来なかったら、嫌だったな」
「何だよ、そんなに戦いたいのか?」
「そうじゃないけどさ。戦えるなら戦いたいなと。もちろん、死ぬつもりはないぞ」
「だな。生き残ってこそだからな。じゃあ狩りに行くか」
狩りの様子は、まあ何時も通りだ。特に危ない場面もなかった。群れに出くわしたってのもないし、魔物が出たってのもない。至って、普通の狩りだった。ただ、前に一角鮪を狩った時にもらった角を鏃とした使った位だ。前に使ってたのは石を尖らせただけの物で、貫通力は断然上がった。どれ位かと言うと、フアの首を貫通してた。しかも、欠ける事もないので使い勝手が良さそうだ。
「あれ、テトラちゃん。まだ手伝い?」
「はい」
「残ってるならバナナ買おうかな」
「ありがとうございます」
旅に出て感じた事だけど、甘い物ってのが案外少ない。砂糖を使った物なんて、食べた事がない。ただ、そういうのがあるって知ってるだけだ。だから、バナナみたいな甘い物は結構人気だったりする。
「じゃあ、またね」
笑顔で手を振ってくれるテトラちゃんと別れて、門を潜る。炊き出し用の獲物を獲って来た時は、テトラちゃん驚いてたのに慣れたのかな?
「なあ、そんなに買って喰えるのか?」
「え? 喰えるだろ。これ位。じゃあ、ナックは喰わないって事で」
「おいー、そりゃないだろ。俺にも喰わせろよ」
「分かった分かった。夕飯の時にでも喰おうぜ」
「はい、これが依頼の報酬引き換え券です」
「あら、随分と早いわね。じゃあカードを出してね」
「はい」
「はい、依頼完了っと。どうしますか? Ⅳに上がる依頼を請けますか?」
「うーん、ちょっと考えさせて下さい。明日にまでどうするか決めますので」
「はい、分かりました」
「なあ、どうして依頼を請けなかったんだ?」
「ああ、それな。飯を喰いながら話すわ。今日は魚なんてどうだ?」
「おう、いいぞ」
それから今までに入った事のない、魚を出す食堂に入った。今回は匂いに釣られてとかはなく、適当に入った。だから、何が出されるとか名は知らない。
「焼き魚とトルを。種類は任せます」
「じゃあ、俺も同じものを」
「はーい、ちょっと待って下さいねー」
「さっきの話に戻るけど、どうして請けないんだ?」
「今すぐに請けても良いんだけど……」
「だけど?」
「いや、これからの事を考えるとさ、もしかしたら代官から指名依頼がくるかもしれないだろ?」
「ああ、それもあったか。でもさ、直ぐに指名がくるとは限らないだろ?」
「まあ、そうなんだけどさ」
「だったら、請けても良かったんじゃないか?」
「まあ、念の為ってやつだよ」
「うーん、もし指名と昇格依頼が同時でも良いんじゃないか? 後、今更だけどさ、昇格の依頼っていつまでにって期限はあるのかな?」
「……あったっけ?」
確かクリスタでそんな事言われてなかった様な気がする。あれ、してたっけ? うーん、期限までは気にしてなかったからなあ。あっても、大丈夫だろって変な自信があったし。
「俺は覚えてないけど、ナックは?」
「覚えてる訳ないだろ? だから聞いたんだろうが」
「「……」」
そりゃそうか。知ってたら聞かないよな。
「んんっ。じゃあ、明日聞けば良いさ。話はそれからだ」
指名依頼がくるのは、まだ先だろうし。昇格の依頼を先に請けるのも良いかもな。




