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旧交

受け → 請け (2017/11/1)

 「なあ、今日はさ一日休みにしないか?」

 

 「良いけど、どうしたんだ? 急に」

 

 「いやさ、急に新しい料理を思い付いてな。それを試そうと思ってさ」

 

 「それって前のブランソースみたいな味を変えるやつか?」

 

 「いや、今度は肉料理を作る予定だ」

 

 「肉料理!? それって美味いのか?」

 

 「分からねえよ、これから作るんだし。それに、思い付いたはさっきだぞ」

 

 「そりゃそうか。俺に何か出来るか?」

 

 「んー、何もないと思うぞ。俺だって思い付いただけで、どうやって作るとか材料とか試しながら作るんだからな。一緒にいても暇だと思うぞ」

 

 「そ、そうか。じゃあ、美味かったら俺にも喰わしてくれよな」

 

 「ああ、分かったよ。美味かったらリアンさんに食べてもらう予定だからさ。あ、これからグリさんの商会に行くけど、一緒に行くか?」

 

 「ああ、そうだな。いるか分からないけど、挨拶くらいしとくか」

 

 

 

 それから俺達は、リアンさんの食堂と同じブル通りを歩いている。前に聞いた時に、同じ通りにあると言っていたからだ。そう言えば、こうやって依頼を請けないでコライの町を歩くのって初めてだな。この通りは赤や黄や緑など、色彩が豊かだな。

 

 「それにしても、グリさんは何でロッチなんて小さな町にいたんだ?」

 

 「さあ? リアンさんも聞いてみればって言ってたからな。会ったら聞いてみれば良いんじゃないか?」

 

 「グリさんの商会ってこの国で一番か二番なんだろ? ますます分からねえよな。代表だったら、他の人に任せちゃえば良いと思うのは俺が変なのかな?」

 

 「いや、そうじゃないだろ。確か、グリさんは自分の事を変わり者って言ってたぞ。だから変じゃない、はずだ。それよりも、狩りだけじゃなくって、この国の事とかも知っておいた方が良いかもな」

 

 「ああ、それな。俺も思ってた。代官と話しててさ、分からない事だらけだったからな。まあ、名前は覚えきれないと思うけど少しずつで良いんじゃないか?」

 

 「だよな。俺達は冒険者なんだ。獲物を狩ってこそだけど、少しは国や町の事も知らないとな。何かあった時に困るかもしれないしな」

 

 

 ナックも同じ事を考えてたか。確かに狩りだけしてれば良いかもしれないけど、今回みたいに代官に呼ばれるかもしれないんだ。知っておいて何か対処出来るとは思えないけど、知らないよりは良いだろう。まあ、ないとは思うけど王族と会う事もあるかもしれないしな。

 

 「お、話してたら着いたみたいだ」

 

 「お、おお!?」

 

 「何変な声出してんだよ」

 

 「だってよ。ロッチでも驚いたけど、ここはあれ以上の驚きだぞ」

 

 「まあ、な」

 

 ナックの言いたい事は分かる。俺だって同じ気持ちだ。確かロッチでは平屋で正面と奥行きは隣り合う商会の倍位だった。ここにあるのは、正面と奥行きは同じ位だと思う。だけど、高さが違いすぎる。ロッチの平屋を五つ重ねた位だと思う。それに、窓にガラスを填めてるんだけど、ガラスの方が多くて中が丸見えだ。ガラスは高価だって聞いてたけど、ここまで使われてると間違いなんじゃないかって思えてくる。

 

 「と、とりあえず入ってみよう」

 

 「あ、ああ」

 

 カラン

 

 扉を開けると、ここでもリアンさんのところと同じ音がする。鳴った瞬間に働いている人達が、一斉に振り向くのは何だか凄い経験だ。まあ、余り良い経験じゃないけどね。どっちかって言うと、見られてる感じがするから嫌なんだけどね。

 

 「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 

 「探している物もあるんですけど、近くまで来ましたから商会主のグリさんに挨拶でもしようと思いまして」

 

 「代表のグリ、ですか。すいません、ここへは初めてですよね? お客様のお名前を確認させて下さい」

 

 「あ、はい。アローニとナックです」

 

 「もしかして、ブランソースのアローニさんですか?」

 

 「ま、まあそんな感じです」

 

 「ちょっとお待ち下さいね。ちょうど代表がこちらにいますので、確認して来ますね」

 

 笑顔のまま奥に消えていった。最初は笑顔で迎えてくれたと思ったら、直ぐに怪しい物でも見る様な感じになって、最後は笑顔に戻った。あの人も初めて見た種族だな。肌は赤みがかってて、手と言うよりも指が長くて鋏みたいになっている。この形は蟹、かな?

 

 

 俺がそんな事を考えてると、奥から聞いた事のある声がしてきた。段々と近づいてきて、扉から現れたのはグリさんだった。ま、当たり前か。そんなグリさんが俺達を見ると、勢いよく突進してきて二人纏めて抱きつかれてしまった。これには俺もナックも驚いて、何も出来ないでいた。

 

 「代表、お二人が困ってますよ」

 

 と、ここで先ほどの人が止めに入ってくれた。それで、気が付いたのかグリさんがようやく離してくれた。

 

 「いやー、すまんすまん。冒険者とこうして会えるってのは、それだけで嬉しいものなんじゃよ。何しろ二人はまだ冒険者として若いからな。死んでても不思議じゃないんじゃよ。それに、面白い調味料を作ったってのもあるがな」

 

 久しぶりに会うグリさんは、変わる事なく笑っていた。ピークさんもそうだったけど、グリさんも無事でいる事を喜んでくれる。それだけなんだけど、何か嬉しい。

 

 「で、それでどうしたんじゃ? ワシに会いに来てくれたのか?」

 

 「この町にもグリさんの商会があるって聞いたんで、寄ってみようかと思いまして」

 

 「ほほ、そうかそうか。そりゃ嬉しいな。まあ、ウチもお前さんのお陰で儲けさせて貰ってるがな」

 

 「俺達、ですか?」

 

 「ん? 何じゃ知らんのか? お前さんが考えたブランソースを売ってるんじゃよ」

 

 「へー、売ってるんですか。あれって儲かってるんですか?」

 

 「何を言ってるんじゃ!? 儲かってるわい。あれを作るのに新しい工場と人を雇おうかって話にもなっとる」

 

 「「ええ!?」」

 

 そんなに!? だって、ブランソースを見たのってリアンさんのところだけだぞ。まあ、全ての商会とか食堂を調べたわけじゃないから何とも言えないけどさ。

 

 「(ほら、言ったでしょ? あれだけで儲けられるって)」

 

 「(いや、言ったかもしれないけどさ。こんな事予想出来るか? それに、あの時は金がなかったから自分で商会を作るとか出来なかっただろうし。それに、出来たとしても商売なんてやった事ないんだから失敗するに決まってるよ)」

 

 「(まあ……そうかもしれないけどさ)」

 

 「(じゃあ、これから作るはんばーぐは黙っていた方が良いのかな?)」

 

 「(それは……別に良いんじゃない? 今から作ろうとしてるのは大量に作って売れるものじゃないしね。作ったその場で食べて貰うものだから)」

 

 「(ああ、そう言う事ね。分かったよ)」

 

 「だから、お前さん達には感謝しとるんじゃよ」

 

 「それは良かったです。あれが売れてるのはグリさんの商会があっての事だと思いますよ」

 

 「がははは、嬉しい事を言ってくれるのお」

 

 「それで、お願いがあるんですけど……」

 

 「何じゃ? 大抵の事なら叶えてやれるぞ」

 

 「じゃあ、厨房があったら貸してもらえませんか?」

 

 「厨房じゃと? ま、まさか……」

 

 「ええ。ちょっと思い付いたものがあるので、作ってみたくて。それでどうしようかと思ってたら、グリさんの事を思い出して。それで……」

 

 「分かった。キャース、厨房担当に話をつけに行ってくれ。それと、シャーにも伝えておいてくれ。あ、いやシャーにはワシから言うか」

 

 「はい、分かりました。直ぐに行ってきます」

 

 何だか分からないけど、大丈夫みたいだ。あの人キャースって言うのか。また奥に消えていった。走ってはないけど、早歩きだった。そんなに急ぐ事か?

 

 「随分と早いですね。こう言っちゃ何ですけど、借りても良いんですか?」

 

 「んあ? 良いに決まってるだろ! あのブランソースで儲けさせてもらってるんだ。これ位は返さないとな」

 

 「ははは、そうですか。まあ、俺としてもありがたいですけどね」

 

 「それで、どんなものを作るつもりなんだ? もちろん、うちで売っても良いよな?」

 

 ガシっと手を掴まれたと思ったら、両手で包み込む様に握られ、笑顔で迫ってくる。笑ってるんだけど怖いよ。

 

 「えっと、一応肉料理を作ろうかなと。それと、それに合うようにソースも作ろうかなと」

 

 「おお! それは何とも嬉しいな。作り終わったらワシにも喰わしてくれんか?」

 

 「ええ、良いですけど。でも、思い付いただけで、どうやって作るのか材料とかを試しながらするので、今日出来るとは限りませんよ?」

 

 「そんな事か。構わんよ。お前さんが作る物に興味があるからな、暫くはここにいる事にするわい。厨房はもちろん、材料だってワシがやるわい」

 

 「いえいえ、そこまでは良いですよ」

 

 「何言っとるんじゃ。材料と厨房位、儲けに比べれば微々たるもんじゃよ」

 

 「どんだけ儲けてるんですか!?」

 

 「まあ、厳密に言えば、まだ儲けは出てないがな。しかし、あれは儲けられる物じゃ。だから、新しく工場を作るんじゃ。もう少しすれば国中で売られる様になるぞ。何しろ、ワシの商会は国中にあるからな!」

 

 「は、はあ」

 

 うわ、凄い入れ込みようだ。あそこまでする価値があるって事か。て事は、これが成功しちゃったら、また……。いやいや、流石にそれはないだろう。いや、でも……。まあ、その後の事はグリさんがやるだろうから口出しはしないで、と。でも、凄い期待されてるんだろうなあ。

 

 「あ、じゃあ俺はグリさんに会えたんでこれで」

 

 えええ!? てっきり話の流れから一緒にいるもんだと思ってたよ。じゃあ、って手を上げて出て行ってしまった。まあ、作るのは俺だからナックがいてもとは思うけどさ。あっさりしすぎじゃないか? ほら、グリさんも俺の手を握ったまま固まってるじゃないか。

 ま、完成したら喰いたいって言ってたから、興味はあるんだろうな。喰う事には。

 

 じゃあ、作るとしますか!


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