料理大会の懸念について
受け → 請け (2017/11/1)
我々だけだか → 我々だけか (2017/11/11)
「結局、受けるんだろ?」
「まあ、受けると思う」
「じゃあ、どうして直ぐに返事をしなかったんだ?」
「受けるけど、今じゃない。今受けるとさ、大会に参加する人に協力出来なくなるだろ?」
「別に良いんじゃないか? と言うか、協力しないと駄目だろ」
「いや、協力するさ。でもさ、代官に雇われるって事は全体を見るって事だろ? 一人や一つの食堂だけに協力するのは流石に駄目だろ」
「ああ、そう言う事か。不正をさせない様に代官が見張るのに、その代官に雇われる俺等が不正みたいな事をするのは確かに駄目だな。まあ、俺等が協力したところで一番になれるとは限らないけどな」
「そう言う事だ。一応、念の為ってだけだから。でも、今の俺達はまだ雇われてない。と言う事は、どこかの食堂に協力しても問題はないって事だ」
「……何だか凄い不正の匂いがするな」
「え? だって、まだ雇われてないんだぞ? だったら、その間に何をしても良いんじゃないか?」
「いや、雇われるって決めてるのに、どこかに協力するってのは、どうなんだ?」
「「……」」
……確かに、そうだな。不正は駄目だって言っておきながら、協力をする。それも、雇われる気でいるのに、だ。これってどうなんだ? 不正の様な不正じゃない様な。うーん、一度代官に確認した方が良いか? いや、俺達を雇うって事は、リアンさんに協力している可能性も考えてるよな? だったら、確認なんてしないで、協力しても良いかな? でもな、最初から不正みたいな事をして良いのか?
「……代官に確認するか?」
「そうだな。俺達だけで勝手に不正じゃないって判断して、リアンさんが一番になった時に疑われるのはリアンさんだもんな。俺達は冒険者だから、何かあってもこの町を離れれば良い訳だしな」
「だな。確認しに行くか」
俺達は出てきた白い建物を直ぐに引き返した。俺達は町を出れば問題ない。でも、リアンさんはここを離れる事はしないだろう。その事を考えると、不安はなくした方が良いだろ。何かリアンさんに協力する気でいるけど、これ以上、何かあるかな?
「……と言う訳なんですけど、どうですかね?」
建物を出て直ぐだったからなのか、代官は直ぐに会ってくれた。それで、俺達が感じた事をそのまま話した。話し終わったら、返事は直ぐにはない。代官もベンダーさんも困った顔で固まっている。本当にどうしよ。リアンさんにこれからも協力するなら、この話は受けない。受けるなら、リアンさんにはこれ以上の協力をしない。怪しまれるから、会うのは避けた方が良いかな。いや、そこまでする必要があるのか? うーん。
「つまり、料理大会に協力してくれるんじゃな? でも、リアンに協力するかもって事か」
「はい」
「どうするか。お前さん達が協力したって一番になるとは思えんが。でも、ないとは言い切れないしな。どうするか」
悩ましいよな。俺達が協力したって一番になれないかもしれない。それに、俺達が協力しなくてもリアンさんなら勝てそうな気もする。だけど、もし勝った場合に不正を疑われたらリアンさんだけじゃなくって、料理大会にも不満が残る。
「リアンさんへの協力ってどれ位掛かりますか?」
「んー、そうですね。今は協力してないんですけど、これから協力したとしても一年は掛からないと思います。まあ、一年もここにいるつもりはないですけどね」
「でしたら、こちらも準備に時が掛かります。準備が整う間にリアンさんに協力して頂いて、頃合いを見て指名依頼するというのはどうでしょうか?」
「ふむ、そうか。今日呼んだのも料理大会の事って知ってるのは我々だけか。じゃあ、それでいくか。それで良いか?」
「その準備と大会ってどれ位掛かりますか?」
「んー、そうだな。まだ役人にこういった物をやろうって提案しただけだからな。最低でも二月は掛かるだろう。食堂や商会、鍛冶屋にも声をかけないと駄目だからな」
「二月ってどれ位ですか? 狩りばかりしてたので、この国の事分からないんです」
「ん? 四十日だな。どうだ?」
四十日か、どうしようか。やる事になったみたいだから、見届けたいってのはある。でも、旅を急いでいないとは言え四十日か。
「ナックどうする?」
「四十日か。しかも、それは最低だろ? んー、待っても良い気がするけど。別に急いで王都に行かないと駄目なんてない訳だしな。でも、その間は依頼を請けても位階は上がれないぞ。それでも良いのか?」
「ナックが良いなら俺は待っても良いぞ。王都へ行きたい訳でも位階を上げたい訳でもないしな」
「じゃあ、待ちますよ」
「おお、そうか。良かった。じゃあ、指名依頼するまでは自由にしててくれや」
「分かりました。でも、準備が整ってから俺達が呼ばれても、何もする事がないんじゃないですか?」
「……う、うむ。じゃあ、指名依頼をするまでは、ちょくちょくここに来て欲しいんじゃ。その時は我々だけが会う様にするから」
「……なるほど。そうなると、ここに来る時の報酬ってどうなるんですか? 依頼じゃない訳ですし」
「そう……じゃな。来る日は指名依頼と同じでどうじゃ?」
「それで良いです。それで、ちょくちょくってどれ位来れば良いですか?」
「そうじゃな。そっちの冒険者としての依頼をもちろん優先してくれ。五日に一日来てくれれば良いかな。昼過ぎだったらいつでも会える様にしておく」
「分かりました。では今日はこの辺で」
「おう、今後とも宜しくな」
ラウンさんと固く握手をして、今度こそ建物を出た。これで心置きなくリアンさんに協力出来るぞ。……でも、これ以上何をどう協力するんだ? 匂いについてはもう協力は出来ないし。料理の事何て協力出来ないしな。ああ言ったけど、出来る事なんて何もないじゃないか。
「なあ、リアンさんに協力って言ったけどさ、一番になりやすい方法でもあるのか?」
「そんなのないだろ。そんなの俺が知りたい位だよ。それに、もしあったとしても不正の可能性があるだろ。食べた人全員に、リアンさんをお願いしますって言う訳にもいかないだろ」
「それもそうか。じゃあ、これから何を協力するんだ?」
「それなんだよ。ああは言ったけどさ、他に何を協力すれば良いんだ?」
「さあ、そんなの俺が知りたい位だよ」
「「……」」
沈黙。ああ、陽が傾いてもう直ぐ夜か。そんなにいた覚えはないんだけどなあ。それよりも何を喰うかな。昼はリアンさんのとこで肉を喰ったからなあ。久しぶりに魚が良いかな。うん、そうしよう。
「おい、何とか言えよ」
「何とかって言われても、なあ。実際、これ以上何をすれば良いのか分かんないし。リアンさんにこれ以上の協力が必要とも思えないし」
「ああ、そっか、そうだよな。協力する事を前提に話してたけど、協力しなくても言い訳だしな」
「だろ? 寧ろ、俺達が協力したせいで負ける事だってあるかもしれないぞ」
「協力するからって良い方向にいくとは限らない、か」
「そうだよ。俺達は何か気付いた事があったら伝える位で良いんだよ。無理に協力しようとすれば、リアンさんも困るだろうしな」
「だな。じゃあ何か思い付いたらって事で。飯何喰う?」
「昼はリアンさんのところで肉喰ったから魚にするか」
「そうだな。幾ら肉が好きでも、夜も肉ってのはなあ」
「良し、そうと決まれば前にスポルさんが勧めてくれた食堂に行くか!」
その日は何も起こる事なく過ぎた。依頼で船には乗っていたけど、ここで魚を喰うのは初めてだ。クリスタと同じで生魚が出てきた。生は一角鮪で焼きはサルモだった。どちらも味付けは塩のみだったけど、前に食べたサルモとは違って真っ赤に近く、脂は少なめで後味はしつこくなかった。逆に焼きのサルモの方が脂が多くて口の周りが脂塗れになった程だ。でも、しつこくならない様にリモーネが添えてあった。うん、偶には肉だけじゃなくって魚も良いかもな。
「(あ、そうそう。協力するならハンバーグってのも作れそうよ)」
「(あ、はんばーぐ? それってどんな料理なの?)」
「(うーん、一応は肉料理なんだけどね。肉の塊をただ焼くだけじゃない料理よ)」
「(肉料理なのに、ただ焼くだけじゃない? それって作るのが面倒なんじゃない?)」
「(いや、そうでもないわよ。ダイスケだって作った事あるし、材料もまああるわよ)」
「(ふーん、そうなんだ。美味しそうなの?)」
「(まあ、美味しいみたいよ。それに、塊の肉と違って噛む必要がない位に柔らかく出来るみたいよ)」
「(噛む必要がない位? それって料理大会には良いって事?)」
「(そうね。来る人は年も種族も性もバラバラだから、丁度良いんじゃない?)」
「(ふむ。じゃあ明日にでも試してみるかな)」
どこで試すかな。リアンさんのところでやっても良いけど、料理大会の事で忙しいだろうから避けた方が良いだろうな。だったら、グリさんの厨房を貸してもらおうかな。うん、そうだな。もし成功したらグリさんにもリアンさんにも教えるって条件で良いかな。




