今度こそ本当に
今回は会話分だらけです。すいません。
受け → 請け (2017/11/1)
「それで料理大会とはどう言う感じでやるんだ?」
「リアンさんから説明をされてると思いますけど、もう一度しますね」
飯を喰い終わってから、最初の部屋に戻ってきている。集まってるのは同じ人達だ。ベンダーさんは最初ラウンさんの後ろで立っていたけど、俺が話しづらいから座ってもらった。
「中央広場から大通りが四本あるじゃないですか。まずはそれを大きく四つに分けます。その中の食堂で競います」
「四つに分ける、か。食堂の数ってどの位あった?」
「はい。小さい物から大きな物、食堂から酒場まで全てを含みますと約一千です」
「約一千か。料理大会って事だから酒場は辞退するだろう。そうなると、残りはどれ位だ?」
「それは……分からないですね。料理大会を開くと関係者に知らせないと」
ラウンさんとベンダーさんが料理大会を開く際に食堂の数で悩んでいる。けど、料理では競えないかも知れないけど……。
「あの、酒場が辞退するとは限らないんじゃないですか?」
「どういう事だ?」
「酒場をやっていても、料理に自信があるところもあるんじゃないかと」
「なるほど、な。酒場だから、酒に力を入れてると限らないか」
「それに……」
「それに?」
「料理大会に参加しなくても、飲み物を出すってのも良いんじゃないですか? 食べ物だけじゃなきゃ駄目って訳でもないですし」
「なるほど、な。確かに飯を喰う時に飲み物があった方が良いか。特に酒が」
「ええ、それで良いと思います。それで料理大会なんで、順位を決めなければ駄目です」
「ただ、料理大会をするだけじゃ駄目か?」
「駄目って事はないです。ですけど、決めた方が盛り上がると思いますよ」
「確かに、そうじゃな。じゃが、どうやって決める?」
「それはもちろん食べた人にですよ」
「食べた者だけ、か。そうなると、どうやって食べた者食べてない者を区別する? あそこは誰でも行けるんじゃぞ?」
「そこで代官の出番です」
「ワシの?」
「はい。これはあくまでも例えですけど、食べ物飲み物を銅貨三枚で統一するんです。そこで、各食堂で金のやり取りをするのではなく、代官がまとめて金のやり取りをするんです」
「ワシがやると区別出来るのか? 幾ら何でもこの都市の民の顔を全て覚えてないぞ」
「いえいえ、そうじゃありません。金と引き換えに紙を渡すんです。それを持って行くと料理と飲み物と交換出来る様にするんです」
「紙、か。どうだ、準備出来るか?」
「そうですね、出来ると思います。ですが、どれだけ準備するかによって時が掛かります。それは紙でないと駄目ですか? 例えば木で丸い玉を作るとか」
確かに用意する数は想像も出来ない程、多いだろう。紙より木の方が良いと思うんだ。だけど……。
「それは考えました。何回も開催するなら使い回しが出来る木の方が良いとは思います」
「なら」
「ですけど、次の点から紙の方が良いと思います。まずリアンさん、銅貨三枚で満足に飲み食い出来ますか?」
「そりゃ無理だ。銅貨三枚だったら、うちだと野菜か飲み物一杯だ」
「リアンさんのところは上等だから、その位でしょ。では他のところはどうでしょう。もう少し量はあると思います。でも、満足出来るでしょうか。多分、何度も或いは一度に買う事になるでしょう。その時に、玉だと持ち運びが困難です」
「では、小さい玉でしたら?」
「それでもです。順位を食べた人に決めさせるって言いましたよね? 金と引き換える紙は簡単に半分に切れる様にします。紙を食堂の人に渡して、半分に切った紙と食べ物を受け取ります。その後に、美味しかったら残りの紙を指定する箱に入れます」
「なるほ、ど。色んな店の物を喰って、一番美味かった店にその紙を入れる。……それだと、一番を獲りたい店は悪さをしないか?」
「そこで、また代官の出番ですよ」
「またワシか?」
「さっきのもそうですけど、代官が直接はやらなくて良いです。と言うよりも、やらないで下さい。紙と金の交換と紙の集計は代官が雇って下さい」
「雇うのか? 都市で働いてる者だけじゃ駄目か?」
「親を亡くした子や働けなくなった人達を簡単な仕事を割り振るんですよ。そうすると、稼ぎが出たら炊き出しの回数と量を減らせるかもしれませんよ。町で働いてる人は、悪さをしない様に見張るだけで良いんですよ」
「なるほど。簡単な仕事は雇った者達で、不正をしない様に見張るのが都市で働く者って事か」
記憶ではそんな事やってなかったと思う。だけど、その方が良いと思うんだ。別に炊き出しの事を俺が言う事じゃないと思うんだ。でも、この料理大会をやるなら出来るだけ多くの人が幸せになる方が良いと思う。
「今、言った様な事は出来ると思うか?」
「そうですね。雇う者達にどこまで任せられるか。いえ、違いますね。何を任せるかはこちらで判断すれば良い事ですね。ですが、雇う者にも給金を支払う必要があります。後は金と交換する紙を用意する必要もありますね」
「ああ、それもあったか。こりゃ大変な事になりそうだな」
やる事が多いから悩むんだろうなあ。まあ、俺は言うだけだから気にしないけどね。でも、炊き出しをやる時も同じ位悩んだんじゃないかな? 知らないけど。
「悩むのは良いんですけど、問題はそこだけじゃないです」
「これだけでも大変だと思うが」
「いえいえ、これをどの程度の規模でやるのかって事ですよ」
「どの程度、か。うーん、四つに分けたとしても約二百五十か。多いな、多すぎるな。中央広場には全部呼べないぞ」
「そうですね。あの広さですと、精精が五十ですね。これは説明のし方にもよると思いますけど、まず店選びで揉めそうですね」
「まあ、全部の食堂主を集めての説明は難しいでしょうね」
俺が言っておいて何だけど、大変な事になりそうだなあ。料理大会は面白そうだけど、そこに関わるのは嫌だな。これだけにして欲しいな。そうなると、出し惜しみしないで全部言っちゃうか。
「まあ、本当にやるなら色んな人の意見を聞いた方が良いですよ。後、俺から言えるのは……」
「と、こんなところですね」
「うーむ。こりゃ本気で考えた方が良さそうだな」
「そうですね。準備も大変ですけど、その分見返りも大きいですね」
「うむ。今、動かせる役人はどれ位いる?」
「各部から十人位なら大丈夫かと」
「まあ、その位だな」
どうやら本気で考える様だ。まあ、ここまで話したし、後は役人に任せるのが良いだろう。計画してから皆に説明して、実行するまでに色々と苦労するんだろうなあ。そして、実行してからも苦労するだろう。
「じゃあ、全部話し終わったんで俺達は帰りますね」
「何を言っておるんじゃ。お前さんにも関わってもらうに決まってるだろうが」
「……は!?」
俺達が帰ろうと席を立った時に、突然言われて思わず固まってしまった。今、何て言った? 決まってる? 何が? 何ってそりゃ料理大会の事だろ。いやいや、可笑しいだろ。全部話した俺にこれ以上何の用があるってんだ。
「もちろん、関わってくれるよな?」
すっげえ睨んでる。下から見上げられてるけど、普通は上からの俺の方が威圧出来るんだけどな。可笑しいな、思わず頷いちゃいそうだ。
「いえ、俺達は冒険者なので」
「冒険者でも良いじゃろうが」
「依頼で魔物でも狩ってた方が良いです」
「どうしても?」
「どうしてもです」
「……なら仕方ないな。面白い話が聞けて良かったよ。また会える事が出来たら良いな」
立ち上がりながら、手を伸ばしてきた。俺はそれを強く握る。あ、偉い人だから柔らかいかと思ったけど、ゴツゴツと硬い手だ。剣でも振ってるのかな。
「ええ、では」
帰りはベンダーさんはいない。これからの事が忙しくなりそうだから、門までの見送りは断った。それに、リアンさんがいるから迷わずに出れるだろうってのもある。
「本当に良かったのかい? 断っちゃって」
「良いんです。冒険者なんですから、魔物を狩ってこそですよ」
「冒険者が代官様と関われるってのも少ないんだけどね」
「だとしてもですよ。もし関わったら、その間は冒険者として魔物を狩れないと思いますからね」
「それもそうか」
リアンさんのお陰で迷わずに出れた。出れたのは良いんだけど、空が暗いよ。昼頃に連れて来られたから、随分と経ったんだな。あ、腹減ったなあ。
「このままリアンさんの食堂に行っても良いですか?」
「ああ、もちろんだよ。それに、相談したい事も出来たしね」
「相談、ですか?」
「ああ。それは食べてからで良いよ」
「そうですか」
「あの坊主を何とか関われる様に出来ないか?」
「全部話したと言ってましたが、これ以上何かあると?」
「それは分からん。分からんが、まだ何かありそうだ」
「それでしたら、指名依頼を出しては?」
「んー、それだと断る可能性もあるじゃろ」
「そう、ですね。ここに連れてくるだけでも、強引にしましたから」
「うむ。それもあって、最初の態度になったんだと思う」
「そうなりますと、強引な手段は使えませんね。もしやると、この都市を出て行く事になるでしょうし」
「そうなんだよ。相手は冒険者だ。冒険者がこの都市に留まる必要はないんだ。だが、坊主達にも何か得する事があれば……」
「得、ですか」
何やらアロ達を巻き込もうとしている様だけど、何も良い案が浮かんでこないみたいだ。冒険者が魔物を狩る以上の報酬を用意しないと、請ける事なんてしないだろう。それに、アロ達は幾ら報酬が良くても魔物を狩る方を取るだろう。




