呼び出し
受け → 請け (2017/11/1)
「それにしても、良くもあんな事が思い付くよな」
「そんな事言われても、なあ。別にずっと考えてた訳じゃなくって、あの炊き出しをやったから思い付いたんだよ」
俺達は炊き出しの依頼をした後に、気分転換も兼ねてスポルさんの依頼を請けて海の上にいる。まあ、また漁をする為に何もする事がないまま進んでるんだけどね。海が荒れてないだけが救いかな。冒険者の俺達が何かを出来る筈もないから、甲板でこうして暇潰しに話でもしてるって訳だ。
「なるほどな。まあ、面白そうではあるけどな」
「だろ? リアンさんだって面白そうだって言ってたじゃないか」
「それはな。でも、やるとなると他の料理人にも声を掛けないと駄目だから、準備が大変そうだよな」
「準備は……そうだな。でも、一回やってみれば良い事も悪い事も分かるだろうから、次に活かせるだろ。それに、俺がやる訳じゃないしな」
「ったく、リアンさんも大変だな」
「そんな事言ったって、俺は思い付いた事を言っただけだぞ? 何もそれを絶対にやらないと駄目なんて事はないんだし」
でもなあ、記憶の通りだと成功すると思うんだよね。まあ、記憶の通りだったらの話だけどな。記憶にあったのは、成功した場合が多かったし、何より考え付いたのはダイスケじゃない。てことは、実行する苦労とか失敗等は知らないって事。それに、この町の人達に受け入れられるかどうかも問題だな。
まあ、俺が難しく考えても仕方ないな。俺が中心になってやる訳でもないしな。
「(そんな事言ってると、関わる事になると思うわよ)」
「(そりゃないでしょ。俺はただの冒険者だぞ? そんなただの冒険者にやれなんてないだろ。俺はずっとこの町にいる訳じゃないんだし。やるんなら、この町の人達が中心になってやらないと意味ないだろ)」
「(まあ、言ってる事は正しいんだけどね)」
「(だろ? 俺は思い付きを言っただけだよ。それをやるやらないの判断は町の人達でやるべきだよ。悩みながらやらないと、失敗した時に次に活きないでしょ)」
「(まあ、そうなんだけどね。でも……)」
ふふん、多分俺が巻き込まれる事を心配してるんだろうけど。それはないだろう。巻き込まれない為に詳しく話したんだからな。あれ以上の事は俺からは出てこないぞ。もっと詳しくって言われても、何も出ないんだ。そんな俺に頼るなんて事はしないだろう。
「坊主達、暇そうだな。何の話してんだ?」
「あ、スポルさん。アロが面白そうな事を思い付いたんで、それを話してたんですよ」
「何だ、面白れえ話って」
「それはですね……」
俺の事を放っておいて、スポルさんに熱く語ってる。何でお前がそこまで熱くなるんだよ。やるとしても、俺達はこの町を離れてるだろ。それを見る事は出来ないと思うぞ。
「ほお、そら面白れえな」
「でしょ?」
「ああ。どこが一番かなんて面白れえじゃねえか。俺が知りてえ位だ。それに、一度に色んな物を喰えるってのも良いな」
「ふふん。でしょでしょ」
「何でお前が偉そうにしてるんだよ」
俺を放って話し込んでたけど、流石に割り込んだ。だって、まるでナックが思い付いた様に熱く言うんだからな。……まあ、俺だって自分で考えついた訳じゃないんだけどな。でも、それでもだ。何と言うか、俺が言った事だけど俺が思い付いた訳じゃないから、恥ずかしいと言うか。どう言えば良いのか分からないけど、気持ち悪い感じがする。
「まあ、それも帰ったらだな。もうそろそろ漁場に着くぞ。気を引き締めろよ」
今まで笑って話していたのに、漁場が近付くと顔つきが変わっていった。この人は面白そうな事は好きだが、漁はもっと好きなんだな。それも、怖さも合わせて好きなんだな。
「おい、余り大きく話をするなよ」
「どうしてだ? 面白そうだから良いじゃないか」
「面白そうなのは良いけどさ、話だけで実際にやらないと意味ないだろ。もしやらなかった場合、俺が恥をかくだろ? もしかしたら、俺を責めるかも」
「それはないだろ。それより、色んな人に話した方がやるかもしれないだろ?」
「ああ。……なるほど、そういう考えもあるのか」
「だろ? 失敗する事を考えるよりも、成功するように考えてた方が良いだろ」
「そりゃ、そうだけどさ」
「それに、やるやらないに限らず俺等はこの町を離れてるだろ。気にしすぎなんだよ」
「そうか。そう、そうだよな」
「リアンさんに話したのは最近の事だぞ。アロの言ってた様な事をするとしたら、準備が大変だぞ。面白そうだ、じゃあやってみようか、なんて幾らなんでもないだろ」
「そう言われれば確かにそうだな」
「だから、後はリアンさん達に任せれば良いんだよ。俺等は冒険者なんだぞ。獲物を狩ってこそなんだ。そんな事心配するよりは、獲物をどうやって狩るかを考えてた方が良いぞ」
「うん、そりゃそうだ」
そうだよな。俺達は冒険者なんだよ。獲物を狩る事だけを考えてれば良いんだよ。そうだよな。何だかナックに丸め込まれた感じがするけど気のせいだな。うん、気のせいだ。
今回の漁は前回みたいな一角鮪の群れに遭遇する事なく、無事に終わった。だからなのか、物足りなさがどこかある。でも、無事に陸を踏み締められる安心もある。
「おい、兄ちゃん達を連れてったのに随分と少ないな」
「うるせぇ。そう何度もあんな量を仕留めてたら、海から獲物がいなくなっちまうだろうが。お前さんの分を残してやったんだよ」
「ったく、今に見てろよ」
「精々頑張りな! じゃ、組合に行くか」
「今回も助かったぜ。また頼むわ」
「今回は前みたいな群れに遭遇してないから、依頼通りですけどね」
「バカ野郎。あんなのが毎回あったら、こっちが困るぜ」
「そうですね。で、は……」
報酬を貰って組合を出て別れを言おうとしたら、馬車が急に目の前で止まった。そんな急いで組合に依頼しないといけない事があるのかな?
「貴方達がアローニさん達ですね?」
急に止まったかと思えば、扉が開くなりこう言って来た。
「は、はい」
思わず勢いに押されて頷いてしまった。
「代官様がお話がありますので、馬車に乗って下さい」
出てきた人とは違う、どこから現れたのか分からない筋肉の塊りの人達が俺達を無理矢理に馬車に乗せる。抵抗とか考える暇もなく押し込まれてしまう。何で? 俺達何かしたか?
「あの~、俺達何かしたんですか?」
「いえ、何も。代官様がお話をしたいとの事です」
「指名の依頼だったら組合を通して下さい」
「いえ、依頼ではありません」
「では、何の話ですか?」
「それは、代官様より説明があります」
それっきり、話は終わりとばかりに代官より説明があるって事を繰り返された。隣のナックも何だか戸惑ってる様だ。こんな急な事をされる覚えはないんだけどな。依頼じゃないって言ったけど、もし依頼にしても俺達を指名する意味がないよな。それじゃあ何だ? 俺達じゃないと駄目な理由でもあるのか? 分かんないな。考えても仕方ないか。
あ、この人どこかで見たと思ったら、炊き出しの時にいた人だ。確か代官の代理って言ってた様な。て事は、本当に代官が呼んでるって事か。それにしても、羽が生えてるのに良く座れるよな。いや、座ってるんだけど。後ろに寄りかかって羽が痛くないのかな。それに、服からはどうやって羽を出してるんだ?
俺がじっと見てたから、不思議に思ったんだろう。
「何か?」
「そのぉ、羽を生やした種族を見たのは初めてなもんで。その、種族名は何と言うのかなと。後、名前は何と」
「私は鳥人族の中のラノス族です。この国、都市に限らず数は少ないですね。私みたいに一つの所に留まってるのは珍しいですね。後、私はこの都市の代官様の側仕えをしているベンダーです」
「ラノス族ですか。やはり聞いた事がないですね。すいません」
「いえ、良いのです。鳥人族の事は知っていても、その中のラノス族の事を知ってる人は少ないですからね。それに、森人族ならば尚更知らないでしょうしね」
「ラノス族の事もそうなんですが、鳥人族を見るも初めてなんで。後、良く俺達が森人族って分かりましたね。特徴はない筈なんですけど」
「その位は知っています。前の炊き出しの時の冒険者って事で、組合にも聞きましたから」
「ああ、なるほど。そうでしたか。ところで、羽があるって事は飛べるんですよね? 空を飛ぶってどんな気持ちですか?」
「そうですねえ。歩く事や走る事を違い、空を飛んでいると安心しますね。飛んでる時が一番楽しいですね。空には馬車や人がいないですから、自由に飛べるんです。それに、飛んでると鳥達が寄ってきますから。でも、そんなに高くも遠くへも飛べないんですよ。ここから王都までは届くか届かないかギリギリですね」
「へー、何だか楽しそうですね。俺も飛べる様になりますかね?」
「森人族の貴方が?」
「はい。いつかは飛びたいと思ってるんですけど、無理ですかね?」
「問題は羽がないのに、どうやって飛ぶのかって事ですね。まさか、大きな紙で扇いで飛ぶなんて出来る筈もないですからね」
「やっぱり無理ですか。じゃあ、誰かの背に乗るってのはどうですか?」
「それも難しいですね。私達ラノス族もそうですけど、鳥人族ってのは細身の者が多いんです。それは、飛ぶ為には軽くなくてはいけないって事なんです。ですから、他の人を乗せる事は出来ませんね」
「……そうですか」
「でも、何人かが籠で運ぶってのは出来そうですけどね」
「おお、なるほど。その手があったか」
自分では飛べないけど、助けを借りれば飛ぶ事も出来るかもしれない。これは、鳥人族の知り合いを増やすしかないな。うん。
「見えてきましたね。あそこが代官様がいますお城です」
話し込んでいたら、何時の間にか目的地に近付いていた様だ。窓から外を見ると、大きな白い建物が見える。丸い塔やら尖ってる塔やらあって、ごちゃごちゃしてる感じだ。さあ、何が待ってるやら。




