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炊き出し 当日

 指定された昼少し前に中央広場に行くと、調理の準備をしている集団が目に入った。だけど、声を掛けづらい。皆忙しそうに動いているし、何より気軽に声を掛けられる雰囲気じゃない。怖いとさえ思えてしまう。

 

 「どうする?」

 

 「どうするも何も。手伝わなきゃ依頼成功にならないから、やるしかないだろ」

 

 「そうだけど、誰に声掛ける?」

 

 「う、うーん。受付なんかがありゃ良いんだがな」

 

 「だよなあ。気軽に声掛けられないぞ。それに、俺達もあの中に入るんだろ? 手伝えるのか?」

 

 「俺等が手伝える事なんてあるのか? 寧ろ邪魔になる気がするんだが」

 

 「まあ、ここで言ってても仕方ないな。声掛けるか」

 

 忙しく動いてる人に声を掛けて、動きを止めたくないんだよなあ。何より怖いし。一応怖そうに見えない、肉付きの良いおばさんにしよう。

 

 「あの、依頼で来ました冒険者です」

 

 「え? あら、随分と若いのが来たわね。今は忙しいから有り難いわ。とりあえず、あそこに代官様の代理の方がいるから、その人に聞いておくれ」

 

 おばさんに指差された場所に行くと、身なりの良さそうな女があちらこちらへ指示をしていた。年は分からないけど、細身で髪が白く長く、そして背に羽が生えている。羽が生えてるなんて初めて見たな。羽があるって事はもしかして飛べるのかな? 良いな、俺も飛びたいな。っと、そうじゃないな。

 

 「依頼で来ました冒険者です。何をすれば良いですか?」

 

 「ああ、やっと来ましたか。まずはそこで野菜を切るのをやって下さい」

 

 「どれ位ですか?」

 

 「そこにあるもの全部です」

 

 「ぜ、全部ですか!?」

 

 「ええ。全部一口で食べられる大きさにして下さい」

 

 「は、はい」

 

 全部って……。どれだけあるんだよ。種類は見たところ二、三だけど、量が凄いぞ。小山だよ、本当に。俺よりも高く積まれてるし、それが横にも奥にも広がってる。いつもこんなに多いのか?

 

 「何をしてるんですか? 早くしないと昼時には間に合いませんよ」

 

 「はい!」

 

 これから切る野菜の量に驚いて動かなかったら、注意されてしまった。そうだ、今は何も考えないで切る事だけに集中しよう。

 

 

 

 それからは周りを見る余裕なんかなく、切る事だけに集中した。俺達の他にも冒険者は数人いたけど、どんな人なのかとかは分からない。それ程に、集中していた。それに、隣でおばさん達が凄い速さで切っていくのを見ていると、負けたくないとか余計な事をしてる暇なんかないって思わされる。それに、

 

 「まだまだ野菜も肉も魚もあるのですよ。そんなんじゃあ間に合いませんよ」

 

 こうやって時々、急かす様に言ってくるのだ。俺達はただ切るだけだけど、おばさん達は調理を始めている。俺達が早く切らないと、おばさん達の調理も遅くなるって訳だ。だんだんと良い匂いがしてくるけど、手を止める訳にはいかない。例え、腹が鳴ったとしてもだ。

 

 「終わったあ」

 

 俺が切り終わった事に安心して、上を向いてふーっと息を吐いていたらまたもや、

 

 「あ、終わりましたか。それでは肉と魚に取り掛かってください」

 

 「え? 終わりじゃあ……」

 

 「何を言ってるんですか? まだ野菜を切り終えただけじゃないですか。そこにまだあるでしょ」

 

 野菜だけかと思った小山に、何時の間にか肉と魚の山が出来ていた。この山を今から? 昼時には間に合わないでしょ。

 

 「あの、肉は組合が解体してあるから切る事は出来ます。でも、魚は切った事がないです」

 

 「ふむ、そうですか。では、何人か呼びますから、肉を切り始めて下さい」

 

 それだけを言い残して、助っ人を呼びに行ってしまった。こうなると、やるしかないんだろうな。仕方ない、やらないって事は無理なんだ。早く終わる様に切る事だけを考えるか!

 

 

 

 「これから配りますので、列に並んでください!」

 

 昼時には何とか間に合った。間に合ったけど、俺達が頑張ったからじゃない。助っ人で来たおばさん達や料理人が凄かっただけだ。俺達が一つ切り終わる頃には二つ三つ終わっていたのだから。速いなんてもんじゃなかった。良くもあれだけの速さで指を切らない物だと感心してしまった。笑いながら慣れだよと言ってたけど、慣れだけであそこまで出来る物なのだろうか。

 

 まあ、今はそんな事はどうでも良いだろう。切る仕事は終わったけど、まだ依頼を達成した訳じゃない。そう、この炊き出しが終わらないと駄目なんだ。だから、列を整理させたり用意した飯を配ったりをしている。

 

 「そこ! 飯はまだあるから、きちんと列に並んで下さい」

 

 「はい、熱いから気を付けて下さいね」

 

 と、こんな風に列に並ばない人を注意したり、急いで食べようとしてる人に熱いよって注意したりと。切る作業もそうだけど、配り始めてからの方が疲れる。そりゃそうだ、ここに来てる人の数が想像以上だった。準備してる人達だけでも多いと思ったのに、中央広場が人で埋め尽くされてる。隙間を探す方が難しいって感じだ。それで用意したのは、肉や魚を焼いただけの物と野菜と一緒に焼いた物とそれをスープにした物だ。流石に全種類を全員に配ると足らなくなるので、一人焼き物とスープの二つだ。

 

 

 

 「ふう、やっと終わった~」

 

 どれだけ掛かるのかと思ってたけど、配る方も配られる方も慣れてるってのもあってか思ったよりは早く終わった。配る場所は一箇所じゃないから、テトラちゃんには会えなかった。

 

 「皆さん、お疲れ様です。これで今回の炊き出しは終わりです。冒険者の皆さんは片づけが終わったら組合に行きましょうか」

 

 「は、はい」

 

 終わってなかった。そりゃそうか、これで終わりって方が変か。始めの準備はしてあったから、終わり位はしないとな。

 

 「あ、少し疑問があるのですが良いですか?」

 

 「何ですか?」

 

 「この炊き出しって何故やってるんですか?」

 

 「今は来る者皆に配ってはいますが、本来は親をなくした子や、働けなくなった人向けに始めたものです」

 

 「なるほど。最初はそうだったけど、段々と全員に勝手になってしまった、と」

 

 「そういう訳です」

 

 なるほどね。まあ、親がいない子とか働けない人をどうやって判断するんだって事だよな。最初はそうでも、金がいらないって事が分かると皆食べに来るよな。それが分かってても、配らないのは難しい。そうなると、量を増やす事になる、と。だって、本来の人達に行き渡らないと意味ない訳だしな。なんだか、悪い事の連続だな。

 

 

 

 「昨日と今日は炊き出しの依頼をやってたんですよ」

 

 「それは大変だったね」

 

 あの後、片付けをやって組合で報酬を貰ってリアンさんの食堂で飯を喰ってるって訳だ。片付けが終わると昼飯時を少し過ぎた頃になってしまって、昼飯を配っていたのに昼飯を喰えなかったからリアンさんの所で肉を喰いに来たんだ。

 

 だから、今は肉を喰い終わって一息ついていたところにリアンさんが来て話し込んでるんだ。昼時を少し過ぎたから、余り忙しくない様で話し込んでも問題ないらしい。それで、昼にやった炊き出しの話をしたって訳。

 

 「まあ、一度やった事のある冒険者は何度も参加しようとは思わないだろうね。でも、私達、料理人はそうもいかないんだけどね」

 

 「どういう事です?」

 

 「えっとね、代官様が雇ってる人は大勢いるんだ。だけど、全員が料理が出来るって訳じゃないんだよ。だから、料理人は当番で何人か雇われるんだよ」

 

 「へー、そうなんですか。大変なんですね」

 

 「まあね。でも、断れるものでもないしね。でもね、その間はここを開けられないから大変なんだけどね」

 

 「ふーん」

 

 そっか、冒険者なら一度参加すればどんな依頼かを知る事が出来る。それで、続けるか肉だけの依頼にするかを選べると。でも、ここに住んでる人、特に料理人は断れないのか。いや、断っても良いんだろうけど、そうすると何か困った事があるんだろうな。

 

 「(ねえねえ、あれを提案してみたら?)」

 

 「(あれ?)」

 

 「(調味料とか料理方法じゃないけど、B級グルメ大会とかどう?)」

 

 「(び、びー級ぐ、ぐるめ大会? それってどんなの?」

 

 「(今から見せるわね)」

 

 

 

 「(ふむふむ、なるほど。これは面白そうだな)」

 

 「リアンさん、調味料とか料理方法じゃないですけど、思い付いた事があるんです。どうします?」

 

 「おお、もう思い付いたんですね! もちろん聞かせてもらいますとも!」

 

 リアンさんがまたもや鼻息荒く顔を近付けて来た。そんなに期待されてもなあ。成功するとは限らないんだし。まあ、やるだけやっても良いかもな。失敗してもそれを活かせれば良い訳だし。


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