炊き出し 準備
持って行きいます→持って行きます (2017/10/31)
受け → 請け (2017/11/1)
「今日の依頼はこれにしないか?」
「何でも良いぞ」
「何でもって。一応どんな依頼か位知っておけよ。これは獲物を狩って終わりじゃないんだぞ」
「え? そうなのか?」
「ああ。これは代官からの依頼で、狩った後にそれを調理する迄が依頼だ」
「調理もするのか?」
「解体は組合がやるけど、その後の調理は俺達だ。と言っても、俺達だけでやる訳じゃない。代官が調理だけをする人を雇うから、俺達は手伝いだけだな」
「何だか今までとは違った依頼だな」
「偶には良いんじゃないか?」
「そうだな。それで何を狩るんだ?」
「ランとグリエだな」
「何だ、いつもと変わらないじゃないか」
「まあ、そうだな。だから、調理の事だけが違うんだよ」
「調理かあ。俺に出来るか?」
「出来るだろ、多分。調理する人は別に雇ってるんだから。冒険者に調理なんて期待してないと思うぞ」
「それもそうか。じゃあ、狩りに行くか」
「そう言えば、コライに来てから初めての森での狩りだな」
「そりゃあ、いきなり船に連れて行かれたからな」
「まあ、な」
幾ら湾岸都市だからと言っても、森がない訳じゃない。草原だってあるから、冒険者への依頼は海だけじゃない。まあ、海に面してるからそっちの依頼の方が多いんだけどね。そんな少ない依頼の中で選んだのが、これって訳。調理込みの依頼以外にもあったんだけど、珍しいからこれにしたんだ。別に調理がしたいとかじゃない。
「依頼を見たけどさ、ここも余り変わらないな」
「そうだな。ペルルの廃鉱山は変わった獲物がいたけど、そこだけだな。後は森にいた頃と変わらないな」
「どうする? 移動するか?」
「んー、どうするか。ここに来てまだ数日だぞ?」
「そうだよな。じゃあ残るか」
「だな。海の方がまだ良いな」
「まあ、余りと言うか弓と剣は使えないけどな」
「それは、なあ」
「まあ、それも考え方を変えて、弓と剣以外で戦える方法を探すって事で良いんじゃないか?」
「そうだな。それよりも、海の依頼を請けても良いのか?」
「え?」
「え? って。海の依頼は嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないよ。ただ、依頼を請ける前にどんな依頼かを相談してくれってだけだ」
海は嫌じゃない。と言うよりは、船に乗れる様になってからは気にならなくなった。まあ、慣れてからは荒れた海に出てないから平気ってだけかもしれないけどね。
「分かった。今度はそうする」
「そうしてくれ。っと、獲物が見付かったぞ」
目新しい獲物でもないし、珍しい獲物に出会ったとかはないから、どんな狩り方とかでどれ位狩ったかは省略する。省略するけど、種類は依頼通りで数は倍位狩っておいた。足りないって事はないだろうけど、一応ね。
「あ、お兄さーん」
「お、テトラちゃん。畑の手伝いかい?」
「はい! お兄さん達は……」
「「ん?」」
俺達を見掛けるなり、近付いて声をかけたけど目が点になって固まっている。その目を追うと俺達が背負ってる獲物に向いている様だ。え? 冒険者ならこの位は当たり前じゃないか? 驚かれる程か?
「あの、お兄さん達は冒険者ですよね?」
「え? 何言ってるの? 会った時に話した通り冒険者だよ」
「ああ、すいません。でも確か位階はⅢだって聞いたんですけど」
「そうだよ」
「えっと、あたしの知ってる位階Ⅲの冒険者はこんなに狩らないんですけど……」
「そうなの?」
「はい。狩れる人でも、もっとたくさんの人で狩りますし。二人で狩れても、持ち運べないですから」
「なるほど。他の冒険者の事は知らないからなあ」
「お兄さん達、本当に位階Ⅲ何ですか?」
「そうだよ。嘘ついてどうするのさ」
「そうなんですけどお。これだけ狩れてⅢってのが……」
「まあ、信じられないかもしれないけど、まだⅢだよ。焦って上げる必要もないかなって」
「は、はあ。変わってますね。冒険者は位階を上げるのが普通だと思ってました」
「か、変わってる、か」
「(言われちゃったわね)」
いつだったか、キューカにも変わってるって言われた様な。でもなあ、位階を上げる意味が分からないんだよなあ。
「ところで、そんなにたくさん狩って何かあるんですか?」
「ん? これは代官からの依頼を請けてね。この後、調理するんだよ」
「本当ですか!?」
「お、おう」
何だ? いきなり前のめりになって。そういや、何で調理するんだ? しかも、俺達冒険者に手伝わせて。代官が食べる分だったら、俺達冒険者に依頼を出す必要もないんじゃないか?
「じゃあ、明日は期待してますね!」
「どうして?」
「それって代官様からの依頼ですよね? だったら、それはここに住む皆に振舞われるんですよ」
「ああ、だから調理まで含まれてるのか」
「はい! あたしは調理には雇われてませんけど、お昼頃になったら行きますね」
「いつもはどこでやってるの?」
「噴水のある中央広場ですよ。そこで、大勢の人が集まるんですよ」
「中央広場ね。大勢ってどれ位?」
「えっと、いっぱいです!」
「お、おう」
数え切れない程って事か? 俺達が狩った分で足りるのか? いやいや、俺達以外にも依頼を請けてる冒険者はいるだろう。それに依頼主は代官だろ? そこ等辺は考えてるだろ。
「じゃあ、明日を楽しみにね」
「はい!」
テトラちゃんとは門の前で別れた。初めて来た時みたいに列が凄い事になってはいない。それに、毎回並ぶ訳じゃなくて、一度町に入る為の証明書を買ってるから並ばずに済んでる。だから、軽い審査だけで通れるんだ。まあ、ここを離れればまた列に並ばないと駄目なんだけどね。
「有り難いですね、依頼以上の獲物を狩ってくれるのは」
「怒らないんですか?」
「この依頼に関しては組合としては、注意はしません。大勢に配るので多い方が良いんですよ。でも、普段ならもちろん注意しますよ」
「ああ、そうですよね。それで、明日はどうすれば良いんですか? ここに来たのが最近なもので」
「組合で解体してから、中央広場に持って行きます。準備は昼少し前からしますので、それまでに行って下さい。そこには代官様が雇った人達がいますので、その人達の手伝いをして下さい。配り終わったら、代官様の代理人の方と来てもらえれば依頼成功です」
「昼前ですね。それで、いつもは何を作ってるんですか?」
「そうですね。ただ焼いた物やスープやトルを作ってますね」
「それの手伝いって事ですね。分かりました。因みに何人位ですか?」
「そうですねえ、一万人はいかないと思いますけど」
「「え?」」
「ですから、一万人はいかないと思います」
「それって今回が特別多いって事ですよね?」
「いいえ。正確に数えてないので分かりませんが、大体この位かと」
「は、はあ」
何でこんなに多いの? テトラちゃんが大勢って言ってたけど、ここまでとは想像してなかった。数百人程度だと思ってたよ。こんな数だったら、昼に少し手伝って終わりって訳にはいかないな。
「貴方達がこの依頼を請けてくれて助かったのよ。手伝い込みで請ける人っていないから」
「え? この依頼って手伝いも含めての依頼じゃないんですか?」
「違うわよ。大体の冒険者は獲物だけにしてるわね。そうしないと、次の日の依頼を請けられないからね」
「な、なるほど」
受付のお姉さんの笑顔とは反対に、隣のナックが睨んできてる。どんな依頼か知っておけって言った俺が、どんな依頼かを知らないって言うね。何を言われたとしても、何も言い返せないな。
「お、俺達が準備しないといけないのはないですか?」
「ないわよ。貴方達は中央広場に行けば良いだけよ」
「分かりました。因みに他の冒険者はいますか?」
「貴方達以外に十人位だったかしらね」
「じゅ、十人ですか。代官が雇った調理人は大体何人位いるんですか?」
「そうねえ、いつもと同じだったら五百人位かしら」
「分かりました、ありがとうございます」
「はい、明日はお願いね」
笑顔で言ってくれるのは有り難いけど、依頼を請ける時に言ってくれても良いのに。そしたら、この依頼を請ける事なんてなかったのに。そして、隣を歩いてるナックに何かを言われる事もないだろうに。ああ、振り向きたくないなあ。
「おい」
ああ、聞こえない聞こえない。何にも聞こえない。ああ、今日は晴れで気持ちが良いな。
「こっち、向け」
「お、おう」
「何か言う事はないか?」
「すまん。今度からはどんな依頼なのか、依頼書だけじゃなくて受付からも詳しく聞く事にする」
「おう、頼むぞ。朝俺に言った事をそのまま返すぞ」
「お、おう。返す言葉もない」
はあ、朝ナックに注意したばっかりなのに、その注意した俺がどんな依頼かを把握してなかったのか。まったく、何やってるんだか。
「(こういうのをブーメランって言うのよ)」
「(ぶ、ぶーめらん?)」
「(武器の一つで、投げたら自分の所に帰ってくるヤツの事よ)」
はあ、キューカからも呆れの声が聞こえてきた。まったく、何て日だよ。これで、明日は大変な事が待ってるのか。今から嫌になるよ。




