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ペルル迎撃戦 後始末

 群れを迎撃してから、今までにない位に深く眠りについた。陽が昇ったと同時位に寝付いたから、起きて外が暗い事に驚いた。寝過ぎたからなのか頭がフラフラしてる。だけど腹が減ってるから下の食堂にでも行くか。ナックは……まだ寝てるかもしれないから無理に起こさない方が良さそうだな。

 

 

 

 「腹が凄く減ってるので、肉でお願いします」

 

 席に着くと即座に注文をする。朝も昼も食べないで寝てたからな、腹が減って減って仕方がない。夜は肉を出す事が多いんだけど、一応肉って言ってみた。何も言わないで魚が来て、がっかりするよりは良い筈だ。

 

 ふう、肉が来る迄に何をしようか。……話し相手もいないし、何も出来ないな。周りを見ると、丁度夜飯の時だったらしくほぼ席は埋まっていて各々食事をしている。何でかな、他人が食べてる物って妙に美味しそうに見えるんだよなあ。肉って言ったけど、何の肉とか味付けとか決めれば良かったな。失敗したな。

 

 「お前さん一人か?」

 

 聞いた事がある声に前を向くと、ヘラクさんが座っていた。

 

 「ヘラクさんじゃないですか。ここに泊まってたんですか?」

 

 「いやいや、飯を喰いに来ただけだ」

 

 「え? 泊まってる所に食堂ってないんですか?」

 

 「もちろんあるさ。ただ、お前さん達に会いたくてな」

 

 「俺達に、ですか?」

 

 「ああ、組合に聞いたらお前さん達まだⅢって言うじゃないか。それなら会っておこうと思ってな」

 

 「何でⅢだって知ってるんですか? 組合では教えない決まりがあるはずですけど。それに、ヘラクさんってここに来たばかりですよね?」

 

 「まあ、そこは位階が高いって事で」

 

 え? 位階が高いと他の冒険者の事教えてもらえるの? いや、それだと悪意がない前提でしか、組合としては成立しないよな? 組合の説明を受けた時に、他の冒険者の事は基本的に教えないって言われたんだけど。ん? 基本的にはって事は、教える事もあるって事か?

 

 「は、はあ」

 

 「そんなに構えなくて良いさ。ただ、一緒に群れと戦ったから会いたくなってさ」

 

 「それだけですか?」

 

 「それだけさ」

 

 「「……」」

 

 お互いに見詰め合って、暫しの沈黙。一緒に戦ったからと言って、会いに来るか? それだと、あの場にいた冒険者や兵士にも会いに行かないといけなくなる。そんな事はないだろう。俺達に会いに来た理由があるはずだ。

 

 「まあ、会いたいってのは確かだ。だが、ただ会いたいって訳じゃなく、興味が沸いたからだ」

 

 「興味ですか?」

 

 「今回は余り目立った活躍はなかった。だが、こことクリスタでの途中でも群れが発生したらしいじゃないか。そこで活躍したそうじゃないか。その話を聞きたくてな」

 

 「は、はあ」

 

 「何だ? 言いたくないのか?」

 

 「いえ、そうじゃなくて」

 

 「そうじゃないなら、何なんだ?」

 

 「ヘラクさんが気に入る様な、戦いはありませんでしたよ」

 

 一瞬ポカーンと呆けた顔になったけど、いきなり大声で笑い出した。え? 何か可笑しな事でも言ったか? そんな俺の心配をよそにヘラクさんは話し始める。

 

 「何言ってるんだ? 俺は見た訳じゃないから詳しくは知らんが、精霊術で大樹を作って群れの突進を止めたそうじゃないか」

 

 「何だ、知ってるんじゃないですか」

 

 「本当だったのか。それをお前さんの口から詳しく聞きたいんだよ」

 

 「詳しくも何も……」

 

 困ったなあ。さっきヘラクさんが言った以上の事なんて……。何を言えば良いんだ? 戦術とか連携はなかったしなあ。詳しく話すって事は、俺達の実力を話す様な物だしな。出来れば隠したいけど……。あ、でもレントの森から出たばかりで大樹を作ったとなると、精霊長と契約してる事は分かっちゃうか? うーん……。

 

 「起きてたなら、起こしてくれよ」

 

 そこへ欠伸をしながら、ナックがやって来て隣に座った。まだ眠そうにぼんやりとしている。

 

 「悪い悪い。疲れてるだろうと思って起こさなかった」

 

 「まあ、良いけどさ」

 

 「腹減ってるだろ? とりあえず肉を頼んだから」

 

 「分かった、それは有り難い。今は腹が減って減ってどうにかなりそうなんだよ」

 

 「俺もさっき来たばかりだから、もう少しだと思うぞ」

 

 「分かった。で、どうしてヘラクさんがここに?」

 

 お、やっと気付いたか。隣に座ったから、気付いてるもんだと。でも、まだはっきりしてないな。また大口開けて欠伸をしてる。その目はヘラクさんを見ている様で見てない様な。

 

 「こことクリスタの間であった、群れの戦いを聞こうと思ってな」

 

 「あー、えー、うん。うん?」

 

 「まだ寝惚けてるのか?」

 

 「あー、はい。上手く頭が働かないので、喰いながらで良いですか?」

 

 

 

 「それで……何を……聞き……たいんですか?」

 

 それから少しして、肉料理が次々に運ばれてきた。後もう少し遅かったら、暴れるんじゃないかって位に危なかった。……俺もだけど。その間、ヘラクさんは辛抱強く待ってくれた。

 

 「こことクリスタの間であった、群れとの戦いを聞きたいんだよ」

 

 「そんな……事……ですか。でも、……アロが……もう……話してると……思いますが。んぐ」

 

 口は一つしかないんだから、喰うか話すかのどちらかにしろよ。まあ、腹が減ってるから喰うのを止めろとは言えないな。それに、ナックが話してるから俺は喰う事に集中出来る訳だし。うん、この骨付き肉にかぶりつくのって、肉を喰ってるって感じが凄いな。味付けも濃くて今の俺には丁度良いな。

 

 「群れの突進を大樹を作って止めたんだろ?」

 

 「何だ……知ってる……じゃないですか」

 

 飲み込んだと思ったら、次の肉に手を出している。そんなに腹が減ってたのか。……はい、俺もです。

 

 「それを詳しく聞きたいんだよ」

 

 「詳しくも何も……んぐ。本当にそれだけですよ」

 

 「戦術とか他の冒険者との連携とかはないのか?」

 

 「あの時は自分達の力を試してみようって事でやったんです。他に冒険者はいましたけど、お互いの戦い方を知らないので好きにやろうって事で戦術とか連携とかは何にもないですよ」

 

 「数はどの位いたんだ?」

 

 「うーん、アロ覚えてるか?」

 

 「ふぇ?」

 

 いきなり俺に聞くなよ。肉にかぶりついてたから変な声が出たじゃないか。

 

 「んぐ。魔物は百を超えてたと思います。ただ、俺達が何体狩ったのか、他の冒険者が狩ったのも数えてないので正確な数は不明です。クリスタの軍か組合に聞けば分かると思いますよ。冒険者は俺達を含めて十人だったかな?」

 

 「最低百を十人で、か。一人で十は狩らないと駄目って事か」

 

 「あ、でも」

 

 「でも?」

 

 「アロが大樹を作った後に、枝で串刺しにしたから数は結構減ってる筈ですよ」

 

 おいいい!? そこまで言わなくても良いんじゃないか? それを言うと俺が精霊長と契約してるって分かっちゃうじゃないか!? ん? そうするとナックも気付いてるのか? 今はナックよりもヘラクさんだ。俺が非難する目で睨むと、視線に気付いて一瞬だけ俺を見て直ぐに逸らした。

 

 「そうだよ、そういうのが聞きたかったんだよ!」

 

 いきなり腰を浮かして顔をこっちに近づけてくる。そんなに興奮する事か? 魔物の種類とかには興味ないのかな。

 

 「でも、それだけですよ? それに、俺達より黒鱗の人達の方が狩ってますよ」

 

 それからの事を期待されても困るので、念の為に言っておく。こうでも言わないと、何かあるんじゃないかってしつこいだろうからなあ。黒鱗さん、すいません。

 

 「そうか、そんな荒技をやってのけたのか。じゃあその大樹は残ってるのか?」

 

 「残ってると思いますよ。群れを狩った後はクリスタに一度戻りましたけど、ここに来る時にはまだありましたから。軍とか国が伐採してないんだったら、ありますよ」

 

 「そうかそうか。それは良い事を聞いたな。俺達は暫くはここに残るけど、次はクリスタに行って見るかな」

 

 「クリスタに行くんだったら、もしかしたら黒鱗の人達がまだそこにいるかもしれませんよ。俺達以外で戦って、覚えてるのは黒鱗だけですからね。違った事が聞けるかもしれませんよ」

 

 「なるほどな、覚えておこう。まあ、これ以上聞いても何も出てこないみたいだから、この話は止めるか」

 

 「そうですね」

 

 ふう、やっと終わったか。と言っても、これ以上何を話せば良いのか分からないしな。あの時はただ狩る事しか頭になかったからな。どんな種類がいたとかは覚えてないし、後で組合から聞いた位だからなあ。

 

 「よし、良い話を聞けた礼だ」

 

 そう言って何かを頼んでた。周りも騒がしかったのと、余り大声で頼んだ訳じゃなかったから聞き取れなかった。まあ、こんな事で礼をされるなんてな。何だか契約精霊の事まで知られた様な気もするけど、いっか。

 

 「おお、来た来た」

 

 俺とナックの前には木樽に入った飲み物が置かれた。色は黒っぽいけど、底が見える程に透明だ。匂いは酒だと思う。思うって言うのは、実は飲んだ事がないんだ。飲む機会がなかった訳じゃなくて、俺達は喰う方ばかりに興味があったから。

 

 「これは?」

 

 「酒だぞ。何だ? 飲んだ事ないのか?」

 

 「ええ、実は」

 

 「そうかそうか。まあ、これも経験だと思って、一息の飲んでみてくれ」

 

 そう言われて、二人して恐る恐る口元まで持っていき、一気に呷った。

 

 「「ぐああああ、辛っ!!」」

 

 ゴンッ!!

 

 「ありゃ、強すぎたか。初めてだからもう少し飲み易いのにしてやれば良かったかな。でも、これも経験、だな」


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