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ペルル迎撃戦 弐

目線 → 視線 (2018/1/19)

 「おお、来てくれたか」

 

 町の西門に着くと、軍の指揮官らしき人が椅子に座って待っていた。周りには兵士達が肩で息をしながら地面に座っている。この様子からすると終わった様な気もするんだけど。でも、何でか嫌な予感がするんだよなあ。

 

 「呼ばれて来ましたけど、終わってませんか?」

 

 冒険者の中では一番上の位階なんだろう、ヘラクさんが代表して聞いてくれる。まあ、あの体格に圧倒されてるのもあるとは思うけど。

 

 「西門に来てたヤツ等は防げたんだ。だが、南からも来てるって報せがあってな。そっちを手伝って欲しいんだ」

 

 ほら、来た。何でだよ! これは怒っても良いだろ! まあ、誰に怒るのかは知らないけどさ。このぶつけ様のない怒りをどうしてくれようか。

 

 「それで、数と種類はどんな感じ何ですか?」

 

 「夜だからはっきりとは分からんが、西門より多いと思われる。もう直ぐ陽が昇るから分かるだろう。後、こっちには鳥類がいる事は分かっている。軍はもちろん防衛するが、西門で大半のヤツが動けなくなっている。申し訳ないが、力を貸してくれ」

 

 そう言うと、立ち上がってこちらをじっと見つめた後に頭を下げた。軍の偉い人だろうに、冒険者に頭を下げるなんて。本当は軍だけで守りたいだろうに。

 

 相当に悔しいんだろう。見て分かる程に、強く握り締めている。

 

 「何言ってんだ。町を守るのは軍の仕事かもしれないけど、こっちだって町がなくなると仕事がなくなるんだ。だから、頭を下げないでくれ。あんた、軍のお偉いさん何だろ? 冒険者に軽々しく頭を下げちゃあ駄目だな」

 

 その言葉に集まった冒険者達が揃って頷いてる。俺もつられて頷いてみる。そうか、町がなくなる程の被害だと組合も機能しないのか。

 

 ……いやいやいや、そんな訳ないだろ! こんな大きな町がなくなる訳ないだろうが。それに、一回魔物の群れに襲われたからって、軍が役に立たないってあるか? それってどんだけ弱い軍なんだ? もしくはどんだけの群れなんだよ。

 

 「あの~、ちょっと良いですか?」

 

 「ん? 今は急いでいるんだ、質問は後にしてくれないか?」

 

 「軍の事は良く知らないんですけど、一回の群れで軍が駄目になるもの何ですか? それとも、群れが多すぎたとか?」

 

 「……詳しい数は言えないが、兵士の半分を群れに対応させたんだ。全兵士を群れだけに集中させる事は出来ないからな。だから、兵士の消耗が酷いんだ。それに、魔物の数が多かったのもあるな」

 

 「は、はあ」

 

 ん? それは納得出来るか? 町を襲うのは何も魔物だけじゃないから、全兵士で事に当たるのは危険か。今回みたいに群れが一回とは限らないし、もしかしたら盗賊が来るかも知れないから備える、と。でも、出し惜しみをして兵士が死ぬよりは良いんじゃないか? まあ、軍の事なんて分からないから何とも言えないんだけどね。

 

 「まあ、何だ。魔物が迫ってきてるから頼む」

 

 「分かってますって。それじゃあ、行きますわ!」

 

 ヘラクさんがそう言って一緒に南門の方へと歩き出す。もちろん、この軍の偉い人も一緒だ。町は円形で高い壁で覆われてるから、壊される事はないと思う。まあ、鳥類だったら簡単に町の中に入れるけどね。

 

 

 

 「うわ、何だよこの多さは」

 

 壁に上った後で誰が呟いたのか分からないけど、ここにいる全員が思ってる事だと思う。幾ら夜明け前で少し暗いとは言っても、見渡す限り黒一色ってのはあり得ない。ここに来る途中での群れはここまでではなかった。それに、今回は鳥類もいる。あの時とは違う。南側は平原だから、余計に多く見えるのかも。

 

 「これを俺達がやるのか?」

 

 これも誰が言ったか分からない。全員周りを見る余裕がない様だ。それに、これだけの数だと流石に余裕はないみたいだ。あの時みたいに試そうなんて思う数じゃない。生き残れるとは思うけど、進んでやろうとは思えないなあ。夜ってのもあるけど。あの時みたいに大きな樹を作るのもアリだとは思うけど。うーん……。

 

 「何を言ってるんだ! あんな数に怯んでどうするんだ! 今こそ俺達冒険者の力を見せる時だろうが!」

 

 えー、ヘラクさん何言ってるんですか? さっきまでの優しそうな顔だったのに、目が血走ってて獲物を狙う様で怖いよ。こんな数を見て興奮するとか、戦闘狂か?

 

 「そうは言うが、あの数だぞ? あんた達は大丈夫だろうけど、俺達は、なあ?」

 

 一人の男が不安げにヘラクさんに言う。それに同調する様に、周りの人達も不安顔だ。あれー、さっきは勇ましく任せろって顔してませんでしたか? ……まあ、あの数を見て怯まない方が珍しいか。

 

 「戦わなくても良いが、あの数だ。援軍を呼んだって間に合うかどうか分からんぞ。それに、金がこっちに向かって来てるんだぞ? 稼ぎ時じゃないか!」

 

 「流石にこの壁は破られないだろ? あの数相手じゃ不安だ。こっちも数がいる訳じゃないし」

 

 視線を逸らしながら戦わない方向に持っていこうとしてる様だ。そりゃそうだ、全員がヘラクさんみたいに好戦的とは限らないし。こっちは全員で五百人はいるらしい。

 

 「まあ、命を懸けてまで町を守る義理はないな。戦えないヤツはもし町に入ってきたら、戦ってくれ。流石に町に入られたのに、戦わないってのはないよな?」

 

 「お、おう」

 

 最後の睨みで、思わず頷いてしまった感じだな、あれは。戦わないと決めた人達は壁を降りていく。残ったのは、大体三百人位かな? まあ、残った方かな? でも、俺達も戦わなくても良いんだよな。だって、まだ位階Ⅲだぞ? まだまだ新人だから逃げても誰も非難は出来ないと思う。でも……。

 

 「ナックどうする?」

 

 「ん? やらないのか?」

 

 「一応聞いただけ」

 

 ナックも逃げるつもりはない、と。分かってはいたけど、頼もしいと言うか何と言うか。あの数を見たら逃げようって言っても良いんだけどなあ。

 

 「お前さん達は逃げないのか?」

 

 「ええ。空の獲物を狩ろうと思います。弓は得意なんで」

 

 「そいつは有り難いな。俺等は空の獲物は苦手だからな。じゃあ、弓が得意なヤツは空を頼む! 終わったら下を援護してくれ!」

 

 「「「おう!!」」」

 

 それから直ぐに地上部隊と対空部隊に分かれた。地上は大体軍も合わせて三百位で、対空は二百位だ。手持ちの矢が少ないけど、矢は軍から支給されるので射放題との事。

 

 「よし、俺達は下のヤツ等に攻撃がいかない様に射って射って射まくるぞ! 当たらなくても良い、とにかく射るんだ!」

 

 「「「おう」」」

 

 残っただけはあって、戦意は高いな。だけど、軍の偉い人がいるのにその人の指揮下にならなくて良いのかな? 今だって、対空部隊の即席の隊長みたいな事を冒険者がやっている。この人はヘラクさんみたいに筋肉の塊りって感じじゃないけど、何となく熟練って感じがする。

 

 南門の壁の上に横一列になって、弓を構える。矢はそれぞれ軍から百本渡されてる。なくなったら、直ぐに持ってくるそうなので、本当に好きにやれそうだ。自分の矢は出来れば使いたくないし、有り難いな。でも、誰が狩ったのかは分からなくなるか。でも、矢の回収が面倒だから、軍の矢を使うか。

 

 「(弓で一気に狩れる方法ってない?)」

 

 「(急にそんな事言われても……。ないわね)」

 

 「(ないの? 前に大樹を作った様に矢にも出来ない?)」

 

 「(無理ね。精霊術は触れてないと駄目なのよ。だから、手から離れるとただの矢よ)」

 

 「(じゃあ、この数を地道に狩るしかないのか)」

 

 「(諦めなさい。楽をしようと考えて死ぬなんて許さないからね)」

 

 「(はいはい、分かってますよ。って、あれ!)」

 

 何あれ。矢が飛んでないのに、鳥達が縦に横にと両断されていってる。何をどうやったら、ああなるの?

 

 「(多分、風の精霊術ね)」

 

 「(それって俺じゃあ出来ない?)」

 

 「(無理よ。そもそも樹の精霊術って攻撃向きじゃないのよ)」

 

 はあ、じゃあ地道に狩っていくか。それしか出来ないんだったら、今は狩る事だけを考えよう。狙いをつけなくても射ればどれかに当たるだろう。

 

 「うおおおお! 突っ込むぞ!」

 

 上で対空戦が始まったと時を同じくして、地上部隊も戦いに入った様だ。ようだけど、あれはどうなの? ヘラクさんを先頭に半分位が群れに向かって突進してる。武器を持ってるなら分からなくもないんだけど。大きな盾を前面に構えてるだけ。幾らなんでも無理じゃないか? 筋肉の塊りとは言え、群れの突進には負けちゃうでしょ。ヘラクさんって考えなしに行く人なのか? いやいやいや、さっきの話からの想像だけど、位階Ⅶはあると思うんだけども。ただの威勢の良い人だったとか?

 

 もう直ぐ群れとぶつかる! ああ、駄目だ! ここからじゃあどうし様もない。駄目だった時の事を考えておかないとな。


まだ始まったばかり。

長くてすいません。

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