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述懐

 俺の名はワイバー、冒険者だ。生まれはヴァーテルで、国で冒険者をしていたんだが、見識を広める為にタルパに来ている。ヴァーテルはタルパの南で……。いや、今は故郷の事は良いか。

 

 ヴァーテルからはオパル、ヤーデ、王都タルパ、ペルルと来ていた。そして、次の町としてクリスタに向かう途中で魔物の群れに出会ったんだ。ざっと見た感じで、百は超えていたから逃げる事を考えていた。俺達は八人共Ⅴだが、限度と言う物がある。だが逃げようと準備していると、戦う準備してるヤツを見掛けた。

 

 『お前達、冒険者か?』

 

 「「?」」

 

 「ああ、すまん。ついいつもの癖で故郷の言葉で話し掛けてしまった。お前達、冒険者か?」

 

 いかんな、ついつい国の言葉で話し掛けてしまう。もうこの国にも結構いるはずなのにな。

 

 「あ、はい」

 

 ふむ、子供の様に見えたが大人だったか。この姿は人族か? いかんな、見分けがつかない。アッチャ族は分かるんだがな。片方は細身で筋肉はあり、もう片方は一回り大きくした感じだな。

 

 「そうか。若いお前達が逃げないのに、俺達が逃げるなんて戦士の恥だからな。俺達も参加するぞ」

 

 ヴァーテルの民は戦いを好み、戦士として生きる者が多い。そんな国に生まれたからか、一緒に逃げるなら兎も角、囮の様にして逃げると言うのは戦士としての矜持に関わる。

 

 「ありがとうございます。俺達はヴェールって言う位階はⅢに上がったばかりです」

 

 「Ⅲだと!? まだ新人じゃないか。それならば尚更、逃げる訳にはいかないな。新人が立ち向かうのに、Ⅴの黒鱗こくりんが逃げたら良い笑い者だ」

 

 何と言う事だ! 若いと思ったらまだⅢじゃないか。こんな事を言われたら、尚更逃げるなんて言い出せないではないか。

 

 「Ⅴですか、それは心強いですね。ところで、皆さんの種族は何ですか? 見た事がないもので。俺達はレント森生まれの森人族です」

 

 「ああ、俺達はクローコー族だ。隣の国のヴァーテル生まれだ」

 

 ああ、森人族か。そう言えば、初めて見たな。まあ、森人族が生まれの森から余り出ないって聞いたしな。

 

 「クローコー? すいません、聞いた事ないですね」

 

 「ははは、気にするな。ここはアッチャ族の国だからな。知らなくても無理はないさ。っと、そろそろ無駄話はここまでの様だな。いきなり連携をしろってのも無理だろうから、それぞれ好きにやろうや」

 

 「そうですね」

 

 折角国から出たんだから、戦士として名を上げないとな。これは良い機会だ。俺達八人は生まれた時からの仲だ。戦士として冒険者として、今まで培ってきた連携がある。クリスタに軍を呼びに行ってるから、それまでに何とか耐えればこちらの勝ちだ!

 

 

 

 「ナック、まずは足止めするから下がってくれ!」

 

 声のした方を見ると、さっきの森人族が何かをやろうとしている。足止めとは言ったが、何をするつもりだ? そんな風に思っていると、近くの木に向かって精霊力を注ぎ始めた。おいおい、幾ら森人族でも精霊力を注いでも何も起こらないだろ。

 

 「あ、やべ。やりすぎた」

 

 はあああ!? 何が起こった? え? 何が起こったんだ? 駄目だ、混乱している。落ち着け、落ち着け! ……ふう。確かに木に精霊力を注いだ。うむ、そこは確かだ。だが、何も起こらないどころか、精々が少し見上げる位だった木が、今や空が見えない程の大樹・・になっている。

 

 え? 森人族ってこんな事が出来るのか? 目の前に迫っている群れよりも、こっちに驚いてしまって、ただただ口を開けて見上げている。だが、大樹が一本出来たところで、足止めってどういう事だ?

 

 「ワイバー! 呆けてないで、来るぞ!」

 

 「……あ、よし、俺達も負けてられないぞ! 近くに池がある、そこに引きずり込んで戦うぞ!」

 

 森人族が木に愛されているならば、俺達クローコー族は水に愛されている。このままだと良いところなしに終わってしまう。負けてられないな、こっちも水の精霊力を見せるか!

 

 「おい、ただ大きくしただけで足止めにはならないだろ。どうするんだよ」

 

 「わ、分かってるよ。今のは失敗だ。今度こそが本当だ」

 

 まだ何かやろうって言うのか? あれだけの大樹が出来るんだ、一体どれだけの精霊力を注いだのやら。それなのに、平然としている。この上、まだ何かやろうってのか。次は何をやるんだ? 俺は自然と魔物よりもこっちに気が向いている。

 

 「「!!」」

 

 今度こそ、いや今度も驚いてしまった。それは俺だけじゃなく、仲間も驚いて動きが止まってしまった。何せ、大樹から枝が至る所から伸びて、魔物を次々に串刺しにしているからだ。

 

 これのどこが足止め何だよ! これだけで終わりそうじゃないか! 

 

 「アロ! やりすぎだ! 俺の狩る分がなくなっちまう!」

 

 「ああ、分かったよ! ったく、折角数を減らしたってのに文句を言われるなんてな」

 

 そう言うと、二人は群れの方向へと走って行った。俺達はそれを見送る事しか出来なかった。

 

 「……っは! 何をしている! あの二人だけに任せて良いのか! 俺達は戦士だろ! 行くぞ!」

 

 池に引きずり込むって作戦は無理だけど、ここまで減らしてもらって戦士である俺達が奮い立たない訳がない。それからは夢中で狩った。見た事もない魔物だろうと、大きくて硬い魔物だろうと、何も考えずに狩る事に集中した。軍が来るまでに耐えれば何て考えは、直ぐに消えた。

 

 気が付けば、群れの最後まで狩っていた。それに気付いたのは、目の前の魔物が倒れ草原が見えたからだ。振り向くと魔物の死骸と流れた血によって出来た、小さな川が池に流れ込んでいる。俺もこんな数の魔物を一度に狩ったのは初めてで、仲間も疲れた様に大きく息を吸ったり吐いたりしている。でも、その表情はやり遂げた良い顔になっている。

 

 ふと、あの二人が気になって周りを見ると、返り血を浴びてるものの平気な顔で肩を叩き合っている。何てヤツ等だ。あれだけの数を狩ったと言うのに、どちらが多く狩ったとかで言い合っている。しかし、その顔には笑顔がある。

 

 

 

 「……と、こんな感じだ」

 

 今はクリスタの軍施設にて、先程の事を話している。クリスタに戻る道中に大体の事は話していた。だから、今はより詳しく話していると言う訳だ。信じられないって顔をしてるが、あの場にはなかったはずの大樹と魔物の死骸を見たら信じるしかないだろう。

 

 まあ、あの場にいた俺ですら信じがたいんだけどな。

 

 「ふむ、なるほど。どうやら嘘の類いではない様だな」

 

 「当たり前だ。嘘など言う必要がない」

 

 「それもそうだな。それにしても信じられんな」

 

 「安心しろ。あの場にいても未だに信じられん」

 

 俺がそう言うと仲間が揃って頷いた。確かに、俺達だって必死に戦った。戦ったが、あの大樹の足止めと言って良いのか、分からない攻撃があってこそだと思う。あれがなかったら、群れの流れに飲まれて戦うどころじゃなかったはずだ。俺含め仲間が何人、生き残れたか。そう思うと、感謝と憧れと恐れが心を占める。

 

 「君達にそこまで言わせるか」

 

 「間違っても、信じられんから戦って強さを示せとかは止めておけよ」

 

 「いや、実際の強さを見ない事には判断出来ない。それに、軍としては冒険者の強さを把握しなくてはならんのだ」

 

 「言ってる事は分かる。だが、今のままだと大丈夫だと思うぞ。悪さをする様な目をしていなかった」

 

 「それは今のままならって事だろ? これからは分からないじゃないか」

 

 「そうだ、これからは分からない。だが……」

 

 「だが?」

 

 「あの大樹を見ただろ? あれは名のある精霊と契約してるぞ。下手に印象を悪くしたら……」

 

 「!!」

 

 「分かった様だな。あれだけの強さだと、この国では国王しか対処出来ないと思うぞ」

 

 「それは樹の精霊長様と契約してるって言いたいのか?」

 

 「精霊長様かどうかは分からん。だが、あれだけの事をやって、尚且つ魔物の群れに飛び込んで平気な顔してるんだぞ。力のない精霊との契約じゃないのは明らかだな」

 

 「ううむ。それなら尚更強さをこの目で確認したいな。そんなに強いなら兵士の鍛錬にもなるだろうし」

 

 「強さを見るとは言うが、その強さを判断出来るのか? 全力を出せば嫌でも分かるだろうがな。それに、手加減しなかったら、死ななくても良い時に兵士を殺す事になるぞ」

 

 「ううむ」

 

 「あそこでの話しは以上だ。帰らせてもらう。忠告はしたからな」

 

 そう言い残して俺達は席を立った。まあ、強さを見たいのも鍛錬したいのも分かる。分かるが、それで死にはしないでも、恐怖で戦えなくなったら鍛錬どころの話じゃなくなる。俺だって戦ってみたいさ。だけど、あれを見たらまだまだだなって思うしな。

 

 

 

 「それにしても凄かったよなあ」

 

 「うん。樹の精霊術にあんな使い方があるんだね」

 

 「森人族に初めて会ったけど、皆あれだけ強いのかな?」

 

 「うーん、どうだろ。森人族って外には余り出ないって聞くし。冒険者になってる彼等が珍しいんじゃないか?」

 

 「そうか、でも樹の精霊術を見れたのは良かったな」

 

 軍の施設を出た後に、酒場にてさっきの戦いの事を話し合っている。あの時の事を思い出して少し興奮してる様に見える。まあ、あんなのを見せられたら、戦士として滾らない方が可笑しいだろ。

 

 「国で強いと思ってたら、とんでもないのに出会ったな」

 

 「あー、それは言えてるわ」

 

 皆、苦笑いだ。ここにいる全員、国では強い方から数えたら早いヤツ等だ。そんなヤツ等が自分の方がって言わないって事は、認めてるって事だな。この調子だと、まだまだ強いヤツ等がいそうだな。心躍ると言うか、呆れると言うか。でも、嫌な感じはしない。


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