表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/165

出戻り

 「戻って来ちゃいました」

 

 そう言うとピークさんは驚いた様な喜んだ様な顔で迎えてくれた。

 

 「冒険者だとね、帰ってくるとは限らないからね」

 

 その言葉は凄い頭に残った。今回は生きて帰ってこれたけど、冒険者って死ぬ可能性もあるんだよな。今まで、あり得ないと思って考えない様にしてたのか、自分なら大丈夫だと過信してたのか。大丈夫だって言う確かな証はないんだ。自分がそう思い込んでいるだけなんだ。

 

 そうだな、最悪の状況を考えて行動した方が、生き残れるだろうな。うん、今度からは無茶はしないで命を大事に心掛けるか。

 

 「(そう言って無茶するんでしょ? 分かってるわよぉ)」

 

 「(だ、大丈夫だよ)」

 

 「(そうしなさいよ。今回が無事だからと言って、次も無事とは限らないんだからね。じゃないと、ダイスケとの約束を果たせないじゃないの)」

 

 そうだった。旅に出て楽しさの余り忘れてた。そうだよ、まだ森を出て一つ目の国じゃないか。それに、まだ他の精霊と契約もしてないじゃないか。楽し過ぎて忘れていたとは言え、これは危なかったな。

 

 「アロ、いるか?」

 

 「ああ、今開ける。どした?」

 

 「ん? そろそろ飯だと思ったから来たんだが」

 

 「え!? もうそんなに経ってたか?」

 

 「ああ、だから食堂に行こうぜ」

 

 部屋で少し休んでたと思ったら、もう飯時か。疲れてないと思ってたけど、案外疲れてたのかもな。

 

 

 

 「はい、おまたせ。ヴァンと豚肉の盛り合わせとトルだね」

 

 「ありがとうございます」

 

 「また会えて嬉しいよ。そんな事よりも聞いたよ、魔物の群れを狩ったんだって?」

 

 「あー、まあ」

 

 「詳しく聞かせてくれないかな?」

 

 「す、すいません。明日、軍の所で説明するまでは話せないんですよ」

 

 「そ、そっかあ。残念だな。まあ、その後でも良いから聞かせてくれよ」

 

 それだけ言い残して、厨房へと戻って行った。まさか、これだけを言いに来たのか? あり得るな、あの興奮した感じだと。

 

 「じゃあ、喰うか」

 

 いつもの自然への感謝もそこそこに、一心不乱に喰い始めた。昼は喰ったけども、グルス包み一つじゃあ足りない。なんせ、数えるのも面倒になる位の数を狩ったんだから。戻りの馬車の中で残りを喰ったとは言え、全然足りない。だから肉を、それも塊りの肉を喰いたいって事で、盛り合わせにした。

 

 ヴァンと豚ってのは初めて頼むんだけど、早く喰いたかったからこれにした。だけど、良く喰うグルスよりも臭みがなくて喰いやすい。それに、歯応えも柔らかくて幾らでも喰えそうな感じだ。脂の量も程よく、しつこくなくてこっちの方が好きだな。

 

 ヴァンは中まで肉汁でしっとりしてるけど、豚は肉汁は余りないな。だけど、乾いてるとかって感じはないな。歯応えはこっちの方があって、肉を喰ってるって感じがするな。味付けはどちらも同じなんだけど、こうも違うものなんだな。

 

 「ふう、喰った喰った」

 

 「だな。生き返ったって感じがするよ」

 

 「何だよそれ。それじゃあ今まで死んでたみたいじゃないか」

 

 「ん? ああ、違う違う。何と言うか、こうやって温かい飯を喰って活力が沸いて来るって言いたいんだよ」

 

 「なるほどな、それは分かるな」

 

 何だよ、驚かせるなよ。ナックも前の記憶を引き継いでるのかと思ったじゃないか。まあ、そうだとしても打ち明ける事はないけどな。

 

 「ところで、明日だろ? 軍に行くの」

 

 「ああ、そうだな」

 

 「何されるんだろうな」

 

 「何って。今日の魔物の群れの事だろ?」

 

 「そうだけどさ。それだけで終わらない様な気がするんだよなあ」

 

 「どう言う事だ?」

 

 「ほら、俺達ってⅢだろ? Ⅲなのに魔物の群れを狩ったのか。本当は隠れてただけじゃないのか、ってな」

 

 「それはないんじゃないか? 俺達が嘘を言ってたとしても、あそこにいたのは俺達だけじゃないんだぞ?」

 

 「だとしてもだ。この目で見るまでは信じられん! とか言って、戦いを見せろとか言われないか?」

 

 「そうなると面倒だな。実力は余り見せたくないんだよなあ」

 

 「まあ、これは想像だから当たるとは限らないからな」

 

 こんな予言めいた事を言って、この日は直ぐに休んだ。もし、ナックの言う通りに実力を見せろと言われても大丈夫な様に。まあ、あれだけの数の魔物を狩ったから、単に疲れたってのもあるけどな。

 

 

 

 「ふむ、報告の通りだな。じゃあ魔物を買い取った報酬を組合で受け取ってくれ」

 

 「それだけですか?」

 

 「他に何があるんだ?」

 

 「……いえ、何も」

 

 朝一で軍の施設に来てみると、何とも予想とは違う対応をされてしまった。昨日の事を始めから終わりまでを説明したら、こう返ってきた。この人は第三部隊長のワイトと言って、口ひげが特徴のアッチャ族の男だ。前に見たアッチャ族はグリさんだけだから、分からないけどこんなにも大きいのか? 俺がそんな風にじっと見ていると、ワイトさんが笑いながら話し出した。

 

 「位階はⅢだから、報告は絶対に嘘だ! 戦ってみせろ! とか言うと思ったのか?」

 

 「「!!」」

 

 「安心しなさい。君たちからしか、報告を受けていない訳ではないんだぞ。同じ冒険者の黒鱗も商人も同じ事を言うんだから、嘘な訳ないだろう。それに、冒険者にとって力を見せるのは命に関わるからね」

 

 「は、はあ。それを聞いて安心しました」

 

 「そんな訳だから、もう良いぞ。悪かったな、これも役目なんでな」

 

 

 

 「何だかあっさりしてたな」

 

 「そ、そうだな。もっと疑われるかと思ったぞ」

 

 「お前が昨日あんな事を言ったからじゃないのか?」

 

 「いや、だってさあ」

 

 「「……」」

 

 お互いに顔を見合って、何とも言えない雰囲気になってしまった。

 

 「ま、まあ何もなかったんだから良いじゃないか、それで」

 

 「そ、そうだよな。早いとこ、報酬を貰って次の町に行こうぜ」

 

 それからはお互いに何故か無言で、組合に向かった。軍は町の入口に小さな詰め所があるんだけど、今回は今まで行った事がない通りの端にあった。軍の施設を見れたのは良かったけど、何ともあっさりしすぎてる気がする。

 

 

 

 「はい、こちら報酬の大金貨二枚と金貨五枚です」

 

 「「こんなに!?」」

 

 「ええ、お二人が狩った魔物の数がはっきりしないので、少ないと思いますけど申し訳ありません」

 

 「いえいえ、多い位ですよ」

 

 「そうですか?」

 

 「はい」

 

 確かに魔物をどれだけ狩ったのかは、俺だって分からない。分からないのに、これだけ貰っても良いのだろうか。俺達の他に黒鱗だっていたんだし、確か他にもいた様な気がする。黒鱗ほ方が人数も多いし位階も上なんだから、あっちの方が貰って良いと思うんだけどな。

 

 「俺達よりも狩ってた冒険者がいた様な気がするんですけど」

 

 「ああ、黒鱗ですね。報酬の額は言えませんが、彼らの方が多いですよ」

 

 「ああ、良かった。俺達は位階Ⅲなのに、こんなに貰って良いのかって思っちゃいまして」

 

 「なるほど。でも、普通のⅢならば、戦う事なく逃げるはずですよ。それを残っただけじゃなく、一緒に狩ってしまうんですから。それだけの報酬も納得ですよ」

 

 「は、はあ。そう言うもんですか」

 

 「はい、そう言うものです」

 

 まあ、黒鱗の人にもⅢって言ったら驚かれたしな。それを考えると逃げるのが正しかったのか。そう言えば、逃げる事は考えてなかったな。何でだろ。

 

 「ですから、それ程多くはないですよ」

 

 「分かりました、では受け取りますね」

 

 

 

 軍も組合もそうだけど、何だろうさっぱりしないと言うか、納得出来ないと言うか。別に俺達にとって悪い事が起きた訳じゃない。じゃないけど、こうも予想とは違う対応をされると、な。隣を歩いてるナックも同じ様に感じてるんだろう。さっきから首を捻って、唸ってる。

 

 「どうする? 馬車買うか?」

 

 「どうしようか。何だかあっさりしちゃって、逆に裏があるんじゃないかって思ってるんだ。だから、馬車は……」

 

 「分かる分かる。同じ事考えてた。だけど、それと馬車の事は関係なくないか?」

 

 「まあ、そうなんだけどな」

 

 何かあった時に備えておきたいんだけど、な。でも、必ずしも金で解決出来るとは限らない訳だし。うーん……。

 

 「よし! 持ってても仕方ないから、馬車を買うか!」

 

 別に怪しい方法で報酬を得た訳ではない。だから、堂々としてれば良いんだ。それに、貯めてても装備品以外は買わないんだ。だったら、使うに限るだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ