幕間 天界での一幕
迦具土様の言葉遣いを修正しました。 (2017/11/8)
「迦具土様、本日の業務は終わりました」
「ご苦労様です。今日はもう帰って良いですよ」
ここは、迦具土様が執務をされる部屋だ。絵画などの飾りはないが、白を基調としていて、清潔感がる。殺風景とも見れるが、執務机には一輪の花が活けてあり良いアクセントになっている。補佐官が全員集まって話せる様に椅子とテープルの応接セットも完備している。補佐官は私を含め8名いる。そんな私が担当した者について疑問があったので、聞いておきたい事があったのだ。
「どうしたのです? もう業務は終わったのでしょう? それなら早く帰って休んだ方が良いですよ」
そう優しく言って下さるのだが、私よりも忙しく業務をしている姿を見て素直に帰れない。それに、疑問は解決しておきたいのだ。
「あの、本日私が転生の業務に関わった者の事で疑問がありまして」
そこで、私は個人名は伏せて聞いてみた。何故ならば、伏せていても分かっているはずだからだ。
「ああ、あの者ですか。そうですね、疑問に思うのは当然ですね。うん。分かりました、そこの椅子に掛けてください」
そう言って、応接の椅子を薦めてくださった。対面に迦具土様が座ると、どこからともなくカップが出てきた。
「紅茶で良いですよね。お茶をしながら話しましょうか」
「では、頂きます」
迦具土様はコーヒーのブラックの様だ。一口飲むと、ほっと一息ついた。余程、疲れていたのだろう。
「それで、何故転生の際に細工をしたか、ですか?」
「はい」
そう、能力値を予め決めるなんて事はしないのだ。まして、記憶の引継ぎなんて事はあり得ないのだ。
「そうですね。まあ私の個人的な興味からですね」
「興味、ですか?」
「はい、興味です」
あの者はこれと言って何か秘めた物があるわけでもないし、開花するとも思えないのだが。
「特にこれと言った特徴がない普通の人間でしたけど、迦具土様はどこに興味を持たれたのですか?」
「そうですね、確かに特徴はない只の人間です」
「でしたら……」
「だからです。何も特徴がないからこそ良いのです。行き過ぎた能力や知識を持っているならば、別世界に与える影響は大き過ぎます」
「しかし、何も特徴のない者でしたら、あの者ではなくても良かったのでは? それに、与えた能力が上位になる様にしたのは何故ですか?」
「そうですね。確かに誰でも良いとも言えますね。でもね、前々世であの者は世界にとって有益な事をしたのですよ。その過去に対する私なりのお礼って事かな」
「前々世、ですか」
私には前世までしか遡る権限はない。でも、過去有益な事をしたからと言って未来で同じ事が出来るとは限らないのだ。何しろ、前々世の記憶は消去されているのだから。
「ですが、幾ら前々世で有益な事をしたからを言って、今世でも有益な事をするとは限らないと思いますけど。それに、その時の記憶は消去されているはずです」
そう、本来というか転生の際には記憶の引継ぎなんて事は絶対にないのだ。前の世界での知識や技術は、その世界あっての物だ。別の世界に土壌がなければ害悪になる事だって考えられる。自然発生するのであれば緩やかに成長するが、そうでないならば。そう言う意味でも記憶を残したまま能力が上位となれば、振れ幅は大きいのだ。
「そうです、だから前世では平凡に終わったのです。ですから、今度も記憶の引継ぎをしてみようと思ったのです。まあ、言ってしまえばこれは実験、ですね」
「実験ですか?」
実験と言う事は、前々世でも記憶の引継ぎがなされたって事。それで、今回も同じ様になるのか視て見たいって事なのか。
「質問に戻りますが、なぜあの者なのですか?」
そう、疑問は尽きないがそこに行き着くのだ。
「最初は気紛れで、誰でも良かったんです。ただ、偶々死んだ者の転生の際に悪戯をしたって事です」
そう言いながら迦具土様は頬を掻いた。気紛れだと言っているが、悪戯ってレベルじゃないと思う。さっきは規則で押し切ったが、これは逸脱行為だ。
しかし、明確に規則違反とも言えない。何しろ、規則はそもそもなく、与えられた権限の中でならなにをやっても良いのだから。
「そうですか、分かりました。では、あの者に対して私は何をすれば良いのですか?」
納得は出来なくてもするしかないのだ。なにやら、私には話せない事情がある様だし。その内に話して下さると信じて待つとしましょうか。
「そうですね、記憶の引継ぎの際の一連の手続きをお願いします。具体的には、成人前に大怪我を負わせて昏倒させて下さい。そして、無意識世界に侵入して記憶の引継ぎの説明をお願いします。それと、家族などの説明の為に降臨する許可を与えます。ついでに、あの世界の宗教家とやらに、手出し無用を伝えて下さい。演出は任せます」
私が納得したとみると、矢継ぎ早に指示を出して来る。前々から考えてた事なのかな。
「分かりました。それでは、その時が来るまでに演出を考えておきます。時間はたっぷりありますから。それでは明日の業務もありますので、このへんで失礼します」
そう言って、私は礼をして席を立った。
「すいませんね。本来の業務もあるのに、余計な仕事を押し付けてしまって」
「いえ、変化のない日常よりは良いです」
そう言って私は礼をして部屋を後にした。
「ふう、毎度この説明をする時は疲れますねえ。特にあの子は鋭いですから、何かに気付いたかもしれませんね。まあ、それは良いでしょう。お小言を言われるのは私ではありませんし」
やれやれと言った感じでコーヒーに口をつけて、思い出した様に呟いた。
「あ、能力値を更に上方修正しなければ」