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旅路

受け → 請け (2017/11/1)

 俺達はペルルの場所と行き方を教えて貰って、次の日に出発した。護衛依頼等は請けていない。と言うか、Ⅲでは護衛は請けられない。Ⅲはまだ新人扱いで、その気になれば誰でも上がれるのだ。そんな位階だから、当然護衛依頼は任せられないと言う事だ。だから、俺達は気楽な旅だ。

 

 まあ、出発する事を伝えたら凄い引き留められた。このままスルゲ宿で調理人にならないかって。ドーレさんは諦めてなかったみたいで。でも、旅をしたいんだって言ったら、戻って来たらいつでも歓迎するよって言われた。短い間しかいなかったのに、こんなにも慕われるなんて。

 

 「(単に調理人としてじゃない?)」

 

 「(そうだとしてもだよ)」

 

 仮にブランソースの事があったしても、だ。そのブランソースは報酬と一緒に少し分けてもらった。

 

 「なあ、これからの事を考えると、馬車で移動した方が良くないか?」

 

 「馬車? 邪魔にならないか?」

 

 「確かに依頼には邪魔だな。だけど、この先荷物が増えると思うんだ。武器や防具だっていつ壊れるか分からないから予備は持っておきたい。だけど、持てる荷物には限りがあるからな。それに、持てる荷物が増えると暖かい食事が出来るだろ?」

 

 「そうだな、壊れないなんてないだろうし。壊れると考えて予備は持っておきたいな。でも、暖かい食事がしたいってのが目的なんだろ? しかも、俺にさせようって」

 

 「何言ってるんだよ。そんな事ある訳ないだろ? 俺だって食事の準備はするさ」

 

 ふむ、ナックの言う事も納得は出来るな。今までの町から町への移動は苦労はないけど、これからの事を考えると買った方が良いのか? 保存が利く冷めた食事よりは暖かい食事の方が、やる気と言うか活力と言うか違うんだよなあ。

 

 それに馬車があれば、調理器具も食材も買えるか。今までは無理矢理、野宿しないで強行したけど。これからもそれが出来るとは限らないし。寝具なんかも揃えた方が良いか。

 

 「そうだな、馬車は考えておくか。買うんだったら、クリスタの方が良かったかもな」

 

 「あ~、クリスタは大きな町だったからなあ。馬車の事なんて考えてなかったから、見もしなかったな。ペルルが同じ位大きな町だと良いんだけどな」

 

 「ブランソースを作る時にさ、調理器具も買おうかと思ったんだよ。でも、買ったら荷物になるから、いっその事馬車も買った方が良かったのかなって思ってたんだよ。でもさ、馬車がどれだけ掛かるのか分からないけど、相談もしないで買うのは止めたんだよね」

 

 「何だそうだったのか。まあ、あの時に相談されててても、買おうとはならなかっただろうな」

 

 「じゃあ今度の事も考えて、馬車も見ておくか」

 

 それからは他愛もない話ばかりで、問題なく進んでいく。他に行き来する人達はいるけど、一緒になってはいない。周りは見通しが良い草原で、動物たちが襲ってきても対処出来る。まあ、群れで来られたら流石に苦労するとは思うけど。

 

 

 

 「ちょっとここで飯休憩しようぜ」

 

 「そうだな」

 

 俺達はペルルまであと半分位の所で飯休憩する事にした。ここは丁度中間だからなのか、池があり休憩が出来る様に簡単な平屋が建っていた。平屋とは言っても、壁はなく柱と屋根と長椅子があるだけの物だ。もちろん管理してる人はいない。誰でも使える様になっている。ここで泊まっていくも良し、雨を凌ぐでも良しと言った感じだ。俺達が着いた時には、先に休憩してる人も少しいたし、後から来る人も多分いるだろう。

 

 「次で町は三つ目か」

 

 「そうだなあ、森を出てから結構経ってると思ったけど、まだ三つかあ。……いや、最初のピエトだっけ? それも入れると四つだな」

 

 「……あ~、そんな村もあったな。でもさ、あそこには寄っただけで、何もしてないぞ? だから四つってのは実感ないなあ」

 

 「確かにな。一番近い村だから、少し緊張と期待もしてたんだよなあ」

 

 「分かる分かる。それなのに盗賊騒ぎでそれも吹っ飛んだからなあ」

 

 「あの時は驚いたよ。盗賊の言う通りにしちゃうんだもんな」

 

 「それは前にも言っただろ? 身軽になりたかったって」

 

 「まあ、今となっては笑い話だな」

 

 

 

 「魔物の群れが来るぞー!」

 

 飯休憩で、ドーレさんに包んでもらったグルス包みを一つ食べ終えた時に声が上がった。声がした方を見ると、遠くに黒い塊が土煙を上げながらこちらに向かって来ていた。見渡せる草原だけど、ちょっとした丘になっていて正確な数は分からない。分からないけど、百は超えていそうだ。俺は疑問に思った事を近くで震えてる人に聞いてみた。

 

 「あの群れはどこから来てるんですか? 後、こういった事は良くあるんですか? それと、この場合はどう対処してるんですか?」

 

 「……早く逃げなきゃ。早く逃げなきゃ」

 

 「あの!」

 

 「え?」

 

 「だから、あの群れはどこから来たのか。良くある事なのか。どう対処してるのか。どうなんですか?」

 

 「今はそんな事を話してる場合じゃない! お前達も早く逃げる準備をしてろ!」

 

 「逃げる準備より、こっちの方が大事なんです!」

 

 大声で強く言ったから驚いたのか、それまで碌に見向きもしないで荷物を纏めていた手を止めて向き直った。

 

 「あ、ああ。あれは近くの森からだと思う。こんな事は滅多にない事だ。軍はクリスタが多いから、そこが対処する事になる。これで良いか?」

 

 「ありがとうございます。だってよ、どうする?」

 

 「決まりきった事聞くなよ」

 

 「だな」

 

 残りの飯を仕舞い、準備をする。もちろん、逃げじゃなくて狩りだ!

 

 

 

 準備とは言っても特に何をするって事はない。弓も剣も盾も手入れはしてあるから、今更焦って何かをする必要はない。いつでも狩りが出来る様に準備は整っている。急に狩りになっても、心の準備も大丈夫だ。

 

 「お前達、逃げないのか?」

 

 「んー、狩れるところまではやります。駄目そうならクリスタまで逃げますんで」

 

 「若いから自分の力を過信してる様だけど、そんなんじゃ直ぐに死ぬぞ。悪い事は言わんから、逃げよう」

 

 「過信かあ。確かにそれはあるかもしれないですね。でも、試してみたいんですよ。それに、逃げなきゃ駄目って訳でもないんですよね?」

 

 「う、うむ。確かにそうだ。駄目だと分かったら直ぐに逃げるんだぞ。逃げる事は恥でも何でもないんだからな」

 

 「分かりました」

 

 俺達が狩りの準備をしてると、さっきの震えていた人が心配そうに逃げる様に言ってきた。危ないと思ったら逃げる事も考えてはいる。俺達は別に人助けがしたいとかじゃなく、自分の力を試したいだけだから。それで、死ぬなんて事は絶対に選ばない。

 

 『お前達、冒険者か?』

 

 声がしたので振り向くと、槍を持った見知らぬ種族の人が数人いた。口は前に突き出てて、歯は鋭く尖っている。肌は黒くて光ってる様に見える。尻尾もある。尻尾がある種族なんて初めて見るなあ。

 

 「「?」」

 

 「ああ、すまん。ついいつもの癖で故郷の言葉で話し掛けてしまった。お前達、冒険者か?」

 

 「あ、はい」

 

 「そうか。若いお前達が逃げないのに、俺達が逃げるなんて戦士の恥だからな。俺達も参加するぞ」

 

 「ありがとうございます。俺達はヴェールって言う位階はⅢに上がったばかりです」

 

 「Ⅲだと!? まだ新人じゃないか。それならば尚更、逃げる訳にはいかないな。新人が立ち向かうのに、Ⅴの黒鱗こくりんが逃げたら良い笑い者だ」

 

 「Ⅴですか、それは心強いですね。ところで、皆さんの種族は何ですか? 見た事がないもので。俺達はレント森生まれの森人族です」

 

 「ああ、俺達はクローコー族だ。隣の国のヴァーテル生まれだ」

 

 「クローコー? すいません、聞いた事ないですね」

 

 「ははは、気にするな。ここはアッチャ族の国だからな。知らなくても無理はないさ。っと、そろそろ無駄話はここまでの様だな。いきなり連携をしろってのも無理だろうから、それぞれ好きにやろうや」

 

 「そうですね」

 

 俺は見逃さなかったぞ。そろそろだって話をしたら、声には出さなかったけど目と口が笑ったぞ。戦士って言ってたから、こんな群れの狩りは怖いってよりも興奮するのかな。仲間とどうやって狩るのか連携の確認をしてるみたいだ。それにしても、初め何を言われたのか分からなかった。あれはヴァーテルの言葉なのかな。

 

 「ナック、準備は?」

 

 「大丈夫に決まってるだろ」

 

 「こんな群れを狩るなんて、森では経験出来なかったな」

 

 「そうだな。旅に出てこんなにも楽しいと感じた事はこれまでなかったな。存分に暴れるか! ところで、作戦は?」

 

 「作戦? そんなのある訳ないだろ? あの数だぞ? 弓でけん制しつつ、剣で近接戦闘あるのみだろ」

 

 「ははは、言えてる。しかし、見た事もない獲物も混じってるな」

 

 「だな。初めてだから、そこは注意だな。あ、後気を付ける事は剣の方だな」

 

 「剣?」

 

 「ああ、あの数だぞ? 切れ味が悪くなったり、折れたりするかもしれないだろ」

 

 「それは困るな。弓の予備はあるけど、剣はないんだよなあ」

 

 「だから、壊れる覚悟で使えよ。剣の事に気を取られ過ぎて、死ぬ事なんて許さないからな」

 

 「おお、こわ。まあ、剣と命なんて比べるだけ馬鹿ってもんだ」

 

 そんな馬鹿話をしてると、丘の向こうから突進してくる獲物の姿がはっきりと見えてきた。あれだけの数だと地響きもこんなにも凄いんだな。

 

 「(何感心してるのよ)」

 

 「(いやあ、あれだけの獲物が迫ってくるなんて、初めてだから興奮しちゃって)」

 

 「(アロが死んだら、私も消えるんだからね。絶対に死なないでよね!)」

 

 「(分かった分かった。努力するよ)」

 

 「(努力じゃなくて、誓いなさいよ。全く。こんな滅多に起こらない事が起こるなんて、まるでアロのせいみたいね)」

 

 「(さ、流石にそれはないでしょ)」

 

 「(分からないわよお。盗賊の話を笑い話って言ったから、お約束が発動したのかもね)」

 

 「(……そんな俺の一言でこんな事が起こってたまるか!)」

 

 「よし! 狩りの始まりだ!」


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