通過点 参
疑問符の後にスペースを入れ忘れました(2017/8/6)
受け → 請け (2017/11/1)
切り → 斬り (2017/12/10)
「そんな状態で大丈夫か?」
約束の日に組合に行くと、蒼穹の人達が待っていて、お互いの紹介を済ませる前に言われた一言だ。
この十日を俺がどれだけ待ち遠しかったか! ナックは容赦なく相談もしないで、海関連の依頼を請けてしまう。俺が薬草採取とか森での依頼を請けても、一緒に海のも請けてしまう。いつもなら薬草採取した後は獲物を狩るんだけど、この十日は狩らないで直ぐに組合に報告して、その日の内に船に乗せられる。
逃げれば良いじゃないかって思うかもしれないけど、グループで依頼を請けるから信用問題にもなるから逃げられないんだ。だから付き合うしかないんだ。
何て友人想いのヤツなんだ! 俺にこんな苦痛を与え続けて! それが俺の事を考えての事だなんて! これ程に友人を想って行動出来るヤツがいるだろうか、いやいない!
「(ねえ、もうその辺にしたら?)」
「(何言ってるんだ、俺はナックがした事を怒ってるんじゃないぞ? 友人想いなんだなあって、ただ……)」
「(怒ってるじゃない。それに、最後は何とか大丈夫だったじゃない)」
「(それは……まあ、そう何だけどさ)」
「(なら良いじゃない。苦手を克服出来たんだから)」
「(……うん。まあ、感謝はしてるよ? でもさ、愚痴の一つや二つや三つ思ってても良いだろ?)」
「(それ位ならね。折角位階が上がるんだから、失敗しないでよ?)」
「(分かってるって。その事とこれは別だよ、もちろん。狩るのだってランとグリエだぞ。どんだけ狩ったと思ってるんだよ。油断しててもそれ位は狩れるさ)」
「(だと良いけど)」
まあ、俺の愚痴はこの辺で良いとして(良くはないけど)、俺たちはⅢに上がる為の依頼をしている最中だ。薬草採取などで|良く入る森だ。そこでランとグリエを狩る事が出来れば、Ⅲに上がれる。試験の依頼は一つしか請けられないんだけど、個人とグループの両方を上げるとなると二人で六回も試験を受けないと駄目なんだ。
それだと、めんど……いや、効率が悪いって事で俺たちは一度で済ませ様と相談したんだ。一応、蒼穹の人にも聞いたんだけど、何度も試験を受けるのは面倒だって。でも、面倒だからって一度で済ませ様として、失敗する事がない様にと注意された。その蒼穹の人たちは俺たちがⅢに上がるのに相応しいのか、判断する為に俺たちの後ろを付いて来ている。
話しながらとかだと、馴れ合う可能性もあるって事で、出来るだけ接触はしない事になっている。試験官が危険だと判断したら、代わりに狩る事や撤退の決定もあり得る。まあ、そんな危険な動物はいないはずだから、大丈夫だとは思うけどね。
「ナック、見付かったか?」
「いや、見当たらないな。探してる時は見付からないのに、どうでも良い時に見掛けるんだよなあ。何でだろ不思議だよな」
「ああ、確かにそんな感じはするな」
「(それはね、物欲センサーって言うのよ)」
「(物欲……何? それ)」
「(欲しい欲しいと思ってると、何故だか見付からない様になってるのよ)」
「(何それ。狩りをしてるんだから、欲しいと思うのは普通だろ?)」
「(単なる言い訳よ。そんなの何にも根拠なんて無いんだから。狩りたいと思ってる時に限って、獲物に出会えないのは思い込みよ。まあ、これも一種のお約束ね)」
「(ふーん。何だかそのお約束って沢山ありそうだな)」
「(まあね。その時になったら、教えてあげるわ)」
お約束って言われてもなあ。何度も言うけど、誰とも約束なんてしてないんだよな。ダイスケの世界にはお約束が溢れてたのか? 約束って言いながら、ダイスケの世界でも誰とも約束なんてしてないのかな。単なる言い訳にお約束って言ってるのかな。
「まあ、その内に見付かるだろ。狩り尽くされたって話しも聞かない事だしな」
「そうだな。気長に探すか。精霊に聞けば直ぐなんだけど、そうすると狩りの腕が落ちるからなあ」
「そうなんだよなあ。森はどこだって俺達の遊び場みないなもんだけど、聞いちゃったら狩りをしてるって事にならないよな。精霊に頼り切っちゃうと、父さん達みたいにはなれないしな」
「そうだな、難しいよな。っと、そんな話しをしてたら見付けたぜ。どっちがやる?」
「お、本当だ。ナックが見付けたんだからお前やれよ。どうせ直ぐに見付かるだろうしな」
「じゃあ、遠慮なく」
俺からの返事が分かっていたんだろう。俺が答える前に弓を構えていた。どっちがやる? じゃないだろ。譲る気なんて最初からなかったじゃないか。そんな事を考えていると、もう矢を放っていて目標のランを狩ってしまった。まあ、ランだったらこんなもんだろ。油断はしないけど、してても大丈夫だろ。
それからはランもグリエも難なく見付けて狩れた。ランは両の掌位の大きさだから、腰紐に吊るして、グリエは太い枝に吊るして二人で担いでいる。グリエは重さとしては俺達二人分位あるけど、身体強化してるから問題ない。
問題ないけど、この状態で目的の獲物を探さないといけないのは、辛いな。肩に担いでいるから動き辛いし、咄嗟に弓を構えられないのが危ないな。
「なあ、こんな状態で魔物が突然出て来たら、面倒だな」
「そうだなよな。流石に警戒してるから奇襲はないと思うけど、咄嗟に動けないのは痛いな」
いや、魔物が出たとしても難なく狩れるとは思う。だけど、群れとか奇襲で来られると、対処しきれないと思う。咄嗟の判断が遅れると思うんだよなあ。
「(そんな事言ってると、出るわよ。魔物が)」
「おい、あれオールスじゃないか?」
前を歩いているナックが足を止めて、俺に聞いてきた。聞いてきたと言うよりは、俺にも確認求めてる様だ。
「俺はキューみたいに遠くが見える訳じゃないけど、あの遠さであの大きさだとオールスで間違いないと思うぞ」
「(ほら、出た。これもお約束の一つでフラグって言うらしいわよ)」
「(ふらぐ? 何それ)」
「(例えば、この戦いが終わったらあの子と夫婦になるんだ、とか。さっきの魔物が出たら面倒だな、とか。そう言う事を言うと、夫婦になる前に戦いで死ぬとか、魔物が出るとかの事らしいわよ)」
「(え? それって、俺が言ったからって事?)」
「(そうみたいよ。まあ、これも単なる思い込みだと思うけどね)」
何それ、怖っ! 自分が願っている事と反対の事が起こるなんて、うっかり話す事も出来ないぞ。まあ、今回はオールスだから面倒でもないけどね。遠いって言っても、アイツが全力で突進して来たら、あっという間に来れるだろ。今回は俺達の方が先に見付けただろうから、大丈夫だろう。
準備をする為に、肩に担いでいるグリエと腰に吊るしてるランを下ろした所で、蒼穹の人達が寄って来た。
「おいお前達、もしかしてアレが見えてないのか?」
「あれ?」
「こっちに突進して来てるオールスだよ!」
「ああ、もちろん見えてますよ」
「だったら! 軽くなった事だから逃げるぞ!」
「え? これから狩るから下ろしただけですよ」
「何言ってるんだ! オールスだぞ!? お前達でどうにかなるヤツじゃない! 悪い事は言わん、逃げるぞ!」
「んー、今までも何度か狩った事ありますから大丈夫ですよ。後ろで見てて下さい」
「は!?」
何か変な物でも見たかの様に、目と口を目一杯広げて固まってしまった。そんなに驚く事か? オールスだぞ? 位階Ⅴなら難なく狩れるんじゃないのか?
「おい、話は終わったか? そろそろ狩ろうぜ」
おっと、話してたら気付いて突進して来やがった。ってナックは準備出来て弓まで構えてやがる。俺が話してる内に、なんて事だ。お前だけで狩るなんて許さないからな!
「止めは譲れよ?」
「どうしようかな」
コイツ! ……まあ、良いか。どっちが狩っても問題ない事だし。とりあえず、弓位は同時に射るか。
「じゃあ、せーのっ」
それからは簡単だった。突進して来る頭に目掛けて、同時に射掛ける。頭に刺さったけど、それだけで動きが鈍るはずもなく、俺達の間近まで来る。ただ、俺達は慌てる事なく横に飛び去ってかわし、尻にも射掛ける。蒼穹の人達は慌てて離れていったけど、もしかしたらってのもあって尻に追撃したんだ。そしたら、アイツの狙いはこっちに決まった様で、振り向いてまた突進して来る。
振り向いた瞬間に両目目掛けて射る。ナックも同じ狙いだったらしく、両目に矢が刺さる。両目を潰されたのに、矢は脳までは届いていない様で、叫び声を上げながら突進して来る。見えないのに真っ直ぐに来るって事は匂いで判断してるのかな。
そんなどうでも良い事を考えている間に、ヤツが近づいて来る。こうなってしまえば、後は簡単だ。すれ違い様に剣で何度も斬り付け、弱った所で首を落とす。前とは違う狩り方だったけど、この方法もアリだな。
ただ、問題は当然あった。首を落として運ぶ準備をしてたら、蒼穹の人達が凄い勢いで走って来て、俺を強く揺さ振りながら大声で怒鳴ってきた。
「お前達! 自分がどれだけ危ない事をしたのか分かってるのか!? オールスだぞ! Ⅱのヤツだったら、逃げるのが普通だぞ!」
「あ、あの、そんなに、揺らされる、と、話が、できない、です」
「ああ!? 話なんて出来なくて良いんだよ! 俺が一方的に言ってるだけなんだからな!」
そんな何で俺だけこんなに言われなきゃいけないんだよ!? ナックは? と思って揺れるのに任せて横目で見ると、笑っていた。
はああ!? 何で笑ってるの? 俺がこんな事になってるのに、どうしてお前には誰も何も言わないの!? 可笑しくない? お前だって狩るのを止めなかったのに! それと、止めろよ! 友人がこんな事になってるんだぞ! 笑ってないでなんとかしろーーー!
「ねえ、あの子達、異常じゃない?」




