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陸上 弐

 「依頼にあった薬草は集め終わったな」

 

 今何してるかって? 見ての通り、依頼の薬草集めだよ。それ以外に見える? 見えないだろうとも。

 

 「(誰に説明してるのよ)」

 

 何だか言葉に呆れが混じってるけど、気にしない。だって、気にしたら負けたもん。いや、勝ち負けの話しじゃないな。

 

 そうそう、久しぶりに森で狩りをして、意気揚々と帰ったら、門の兵士に止められてしまった。何だか前にもあった様な気がするけど、気がするだけだ。決して、騒ぎが起こったなんてない。

 

 ……ないよ? 

 

 ……いや、ありました。ちょっとした、騒ぎにはなりました。はい。大きな荷物を運んで来るなと思ったら、それがボスコーだと分かって大騒ぎ。運んで来たのが俺たちみたいな子供(実際には大人)だったから、余計に騒ぎに。

 

 このボスコーってのは、個人ではⅦ以上、集団では4人以上でⅤ以上の依頼らしい。組合の人にそう教えられた。教えられたけどさ、薬草や山菜が採れる森で、そんな動物がいるなんて知らないよ。そもそも、そんな危険な森だったら、低い位階の依頼を出さないでよ。と思ったのは内緒だ。

 

 まあ、今回は狩れたから良しと判断して何も言われなかったけど、絶対に警戒してると思う。それと、ボスコーってのは肉よりは毛皮とか牙の方が価値があるそうだ。食べられなくはないけど、家畜の餌や捨てる事が多いそうだ。何より、肉の処理を出来る人が少ないのが原因らしい。

 

 くそっ! 折角肉を食べられると思って、重いのに運んだってのに。それじゃ、グリエを狩っても食べられないのか? いや、待てよ。少ないだけで出来る人はいるんだ。その人に頼めば良いんじゃないか? それに、駄目だったら俺たちがやれば良いんだし。流石にボスコーは初めてだけど、グリエだったら食い慣れてるから処理位は出来るしな。

 

 「それで今日はどうする?」

 

 「うーん、前の町での事もある事だし。連日、狩るのは止めた方が良いんじゃないか?」

 

 「そうだよなあ。狩っても町には持ち込まないって事にしよう。稼ぎにはならないけど、困ってる訳じゃないから良いだろ。それに、俺は肉が食いたいんだ!」

 

 「ああ、結局肉は食えなかったからな。じゃあ、グリエは見掛けたから狩るか」

 

 ロッチ町では狩れるからって理由で色んな獲物を狩って、組合からも注意を受けたからな。別に注目されたいとか名を挙げたいって訳じゃないから、ここでは大人しくするか。稼ぎは時々、狩れば問題ないだろ。時々だったら、そこまで注目される事もないだろうし。

 

 

 

 「なあ、一応グリエを探してはいるんだけど、二人で食うのにグリエは大きすぎないか? とてもじゃないが食べきれる大きさじゃないぞ」

 

 「あ、そうだな。肉を食いたい一心だったから、そこまで考えてなかったな。じゃあランとか小型を探すか」

 

 「そういえば、ボスコーの動きを止める時に樹を成長させたよな? あれが出来るなら、薬草とか果実とかも出来ないのか?」

 

 「え? 出来るのか?」

 

 「いや、俺が聞いてるんだが」

 

 「(出来る事は出来るわよ、一応)」

 

 「(何だそれ、出来るんだろ?)」

 

 「(まあ、やってみると良いわ)」

 

 「精霊が言うには出来るらしいぞ。でも、出来るけど一応だってさ」

 

 「何だそりゃ。まあ、俺の精霊も同じ事言ってたな。やってみれば分かるんじゃないか?」

 

 そう言う訳で、獲物を探しながら薬草や山菜も一緒に探す事にした。薬草や山菜等は、苦労もしないで見付ける事が出来た。

 

 「まずは、この薬草からやってみるか。どっちがやる?」

 

 「じゃあ俺が試してみる。流石に樹は無理だけど、薬草位なら出来るだろ」

 

 薬草を根元近くで切り取って、手を翳す。精霊力を薬草に流し込む事を思い描きながら、徐々に流していく。どれだけ流したのかは分からないけど、徐々に切り取られた所からニョキニョキと新しい薬草が生えてきた。

 

 「ふう、これで大丈夫だろ」

 

 そう言うナックは額に汗を掻いて、辛そうだ。それを見ると、樹をあれだけ成長させたのに平気な俺って異常なのかな。まあ、俺ってよりはキューカの精霊力が異常って事だな。

 

 「(ちょっと、私のせいにしないでくれる? 精霊力だって、精霊長だから多いんだし)」

 

 「(そういう事にしておく)」

 

 「見た感じは、変わらないなよな」

 

 「だな。どこが違うのか見比べても違いが分からないな。とりあえずこれも採っておくか」

 

 「じゃあ、薬草はこれで良いとして。他の物でも試してみるか」

 

 「そうだな。次は果実で試してみないか?」

 

 「分かった。丁度ここにポムの樹があるから、これでやってみるわ」

 

 俺はポムを幾つか採って、目を閉じて幹に手を翳して精霊力を流していく。どれだけ流せば良いのか分からないから、少しずつ流していく。薬草と比べるのは可笑しいけど、ポムの樹が大きいから身体強化で使う量をまずは流してみる。手応えがないからどんどんと流していく。

 

 「ちょ、ちょっと。もう十分だ」

 

 ナックの焦った様な声が聞こえたから、流すのを止めて目を開けるとあり得ない事がそこにはあった。

 

 「お前、どれだけ流したんだよ。ポムが一つ二つって量じゃないぞ。流しすぎて大量に生ってるし。それに、元からあったやつなんかは倍位までになってるぞ」

 

 ナックが呆れるのも分かる。俺だってそうなんだから。こんな事になるなんて思ってもなかったし、そんなに大量に流した覚えもないんだから。

 

 「(だから言ったでしょ。私が精霊長だったから、アロの少しは他の人にとっては多いのよ)」

 

 「(なるほど。って納得出来るか!)」

 

 大体、初めてやるんだから加減なんて分からないよ。だから、少しずつ流したってのに。それが少しじゃないなんてな。しかも、こんだけ変化したのに、俺は辛くもない。

 

 え? 俺って異常なの?

 

 「(違うわよ。アロが異常なんじゃなくて、位階が高い精霊と契約すると、皆こんな感じだと思うわよ)」

 

 「(あ、そうなんだ。それを聞いて安心したよ。俺だけかと思ったよ)」

 

 「(まあ、普通はそう思うわよね。でも、プーマやスイも同じ事は出来ると思うわよ。流石に精霊長と契約はしてないけど、複数の精霊と契約してるから精霊力だって多いはずだしね)」

 

 「(そっか、父さん達も出来るのか。それを聞いてあんし……。ちょっと待って、精霊って契約する度に精霊力が増えるの?)」

 

 「(そうよ。だから、これから色んな精霊と契約すると、更に強くもなるわね。それに、アロの場合は他の精霊長にも注目されてると思うから覚悟しておきなさい)」

 

 「(うわ。そんな事知りたくなかった。キューカ一人でこれなのに、これ以上って……)」

 

 「(まあ、諦める事ね)」

 

 「なあ、ポムも見比べて変な所は見当たらないな。大きくなったのは見なかった事にして。見ても分からないから、食べ比べてみるか」

 

 まずは予め採っておいたポムを一口齧る。うん、甘いな。レントと違って甘みが強いかな。このシャクシャクとした食感、久しぶりだな。

 

 「じゃあ、次はアロが成長させたポムを食ってみるか」

 

 今度も、同時に躊躇いもなく齧る。

 

 「「まずっ!」」

 

 え? これポムだよな? 食感は同じだけど、味が全然違う。甘いなんてとてもじゃないけど言えない。齧ると確かに果汁は出るんだけど、何も味がしない水みたいだ。俺は齧った所をじっと見詰めてしまった。

 

 「(これが一応の意味よ)」

 

 「(どういう事?)」

 

 「(薬草もポムも他の物もそうなんだけどね、長い時を掛けて実が生るのよ。それを精霊力で強引に成長させると、味もなにもない物が出来上がるのよ。根から水分や他の栄養を吸い上げて、陽に照らされて生るのよ。アロ達がやったのは、精霊力だけを注いだから他の栄養が足りないから味も何もしない物になったのよ。形だけは同じだけど、中身は全然違うって事ね。それが出来るならレントでもそうしてたでしょ? でも、それをしなかった。それが分かってるからよ)」

 

 「(確かに父さん達と狩りをしてる時に、こんな収穫はしてなかったな。そうだよな、これが出来れば食べ放題だもんなあ)」

 

 「なあ、次はあの大きくなった物を食べてみないか?」

 

 今不味い物を食べたばかりなのに、どうして挑戦出来るんだよ。不味いって分かったのに、どうしただよ。

 

 「不味いのは分かっただろ? 同じ思いはしなくないぞ」

 

 「確かにあれは不味かった。だけどあれは、大きくなっただけだ。甘い物が大きくなったんだぞ? 確かめないでどうするよ」

 

 ナックってこんなヤツだったっけ。味がしないポムが生ったんだから、幾ら元が甘くても薄れるんじゃないか? 俺がそんな事を思っている間に樹に登って二つ採ってきて俺に一つ渡してくる。食べろって事か。はあ、不味いって分かってるのに食べるのなんて、苦痛でしかないぞ。

 

 「じゃあ、食うぞ。せーの」

 

 俺は恐る恐る一口齧る。ほら、味もしない水じゃないか。はあ、こんな物を食べる位ならさっき採ったポムを食べるよ。ナックを見ると、口一杯に頬張って、うんうんと唸っている。そんな唸った所で美味くなるはずないのに。

 

 「不味くはないな。さっきよりは甘いぞ」

 

 「何言ってるんだよ。味がしない水じゃないか」

 

 「それはアロが少ししか食べてないからだろ。もっと、中心を食べてみろよ」

 

 そう言われたから、一応食べてみる事にする。何で不味いのをもう一度食べないといけないんだよ。中心と言う事だから、割って齧る。

 

 「あれ? 甘い」

 

 「だろ!」

 

 え? 何で甘いの? 俺は不思議に思い、もう一度中心部分を食べる。確かに甘い。じゃあ、外側は……不味い。どういう事?

 

 「(それも同じ理由よ。大きくなったのは、元は甘いポムだったのよ。それを精霊力で大きくしたから、外側だけは味がしないって訳)」

 

 「(なるほどな。でも、分かったところで何の意味もないけどな)」

 

 まあ、精霊力で強引に成長させても美味しくはないって事が分かっただけでも良しとするか。

 

 あ、肉!


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