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湾岸都市クリスタ 弐

 「盾も思わず買っちゃったし、次はどうしようかな~」

 

 休みで何して良いのか分からなかったけど、町を探検するのも悪くないな。こうやって思わぬ出会いもあった訳だし。後でナックも連れて行かないとな。

 

 「(ねえ、流石に金貨五枚は高かったんじゃない?)」

 

 「(そうは言ってもさあ、盾があったらなあ、なんて思いながら死ぬのは嫌だぞ)」

 

 「(そうだけど。ここでも稼げる様になってからでも遅くなかったんじゃないの?)」

 

 「(その稼げる様にって時に死んだら?)」

 

 「(それは……まあね。いつも安全に楽に狩れるとは限らない、か。でもさ、もうちょっと慎重になっても良かったんじゃない? ナックに相談するとかさ。金貨五枚なんて大金よ?)」

 

 「(うっ。そ、そりゃ……まあ。そうなんだけどさ。盾というか防具が欲しかったのは事実なんだよ。俺たちって攻撃は得意なんだけどさ、攻撃された時に避ける事しか出来ないんだよ。もし、避ける事が出来ない状況だったら、と思ってさ。つい、ね)」

 

 「(まあ良いけどさ。今度からは注意する事ね)」

 

 「(……はい)」

 

 この反省を活かして次に繋げれば良いんだよ。さあ、次はどこに行こうかな?

 

 「ぐうううう」

 

 あ、陽が真上に来てる。もうそんな時か。何もしてないと思ったけど、結構経ってたんだな。じゃあ、飯だな。ここに来て食ったのは、魚と魚と魚と魚だな。……見事に魚ばっかりだな。流石、港町って感じだな。

 

 どうしようか。海猫亭は魚が一番のお勧めだって言ってたし、もう行ったからな。それに久しぶりに肉が食べたいな。でも、港町だから肉を扱ってる店って少なそうだな。魚は嫌いじゃないけど、思い出すと魚ばっかりだからな。それに、口の中が肉の味を思い出して涎が溢れてくる。

 

 自分で探すのも面白いと思うけど、ここは組合に聞いた方が早いな。

 

 

 

 「で、どこかありますか?」

 

 「そうですねえ。依頼と武具、防具を扱ってる商会はこちらで紹介出来ます。ですが、それ以外は勝手に調べて下さい」

 

 うわ、さっきは教えてくれたのに笑顔で返された。しかも、笑顔なのに目が笑ってない。変な事言ってるかもしれないけど、実際そうなんだ。仕方がない、自分で探すか。

 

 出口に向かおうと歩き出したら、後ろから声が掛かった。

 

 「ここは港町ですから、魚料理を出す所が多いですよ。それでも肉料理を食べたい人はいますからね、探すなら大通り以外が良いと思いますよ」

 

 振り返ると、顔を横に向けている。教えるのってそんなに駄目なのか? まあ、良いか。

 

 「ありがとうございます」

 

 礼を言って、今度こそ組合を出る。どうしよう、自分で探すのは面白いだなんて思ったけどさ。腹減ってる状態で歩き回って探すのは嫌だぞ。軽く食べてから探し回る方が良いか? うん、そうしよう。

 

 

 

 取り敢えず大通りに来たものの、さてどうしようか。肉を食べたいって思っちゃったから、口が肉を求めている。軽く食べると言っても、慎重に選ばなければいけない。俺の目的はあくまでも肉なんだ、腹を満たす事じゃない。それを考えると、あっさり薄味の物が良いな。よし、行くか。

 

 大通りは組合も大商会もあって、人通りは多い。しかも、今は昼休憩と言う事もあって余計に人の往来が激しい。更にあちこちの食堂から良い匂いが漂ってきて、食欲が一層刺激されて危ない。

 

 このままだと、ふらっと食堂に入ってしまいそうだ。いかん、俺の目的は肉なんだ。肉以外で腹一杯食べる事だけは避けなければ。匂いってこうも刺激されるものなんだな。改めて感じたな。

 

 

 「そこの兄ちゃん、食べて行かないか?」

 

 大通りを歩いていたら禿頭に声を掛けられた。匂いにつられて寄ってみると、魚の切身を焼いている様だった。

 

 「これは?」

 

 「何って、こりゃサルモだよ」

 

 「サルモ?」

 

 「知らねえのかい? ここらじゃ良く揚がる魚でな。今の時期は滅多に揚がらねえんだが、運良く獲れてな。脂はのってねえが、美味いぞ」

 

 「そう言われてしまうと、食べないといけないですね。じゃあ、一つください」

 

 「はいよ」

 

 銅貨八枚と交換して串に刺さったサルモを受け取る。魚としては大きいのか、切身でも腕と同じ位だ。流石に全部は無理なので、半分にしてもらった。もちろん半額にしてもらった。匂いは塩だけじゃない様な。まあ、まずは食べてみるか。

 

 「あふっ」

 

 焼きたてだから熱いのは当然か。でも、何だろうこの味付けは。塩だけじゃないぞ。それに、脂がのってないって言った通りに、脂は少なめだ。だけど、それが逆に良いんじゃないか。噛み応えも硬くもなく、ほろほろと崩れる程で、良い感じだ。

 

 塩だけじゃないとは思うけど、他が分からないなあ。香草を使って香りは良い。これも味付けに関係してるとは思うけど。うーん、森ではこんな味付けはなかったなあ。

 

 「おじさん、この味は何なの?」

 

 「ん? 気に入ったか? そりゃ俺んとこの特製だよ」

 

 特製か。まあ、味の秘訣なんだから簡単には教えないよな。それに、香草とは違う爽やかな香りもするんだよなあ。何だろ。

 

 「このさっぱりとした味は何ですか?」

 

 「それも特製って言いたいけど、それ位は良いか。リモーネって酸っぱい果実を絞って入れたんだ」

 

 「へー、それでこんなにさっぱりとしてるんですね」

 

 「まあ、それだけじゃねえけどな」

 

 なるほど、これ位は教えても真似出来ないと思ってるのか。まあ、真似しようなんて思わないけどね。厳つい風貌だから、ただ焼いただけって訳じゃなかったのか。人は見かけで判断しちゃいけないって事か。じゃあ、食べながら歩いて探すか。

 

 

 

 こんどは入った事のない、大通りから外れた小道に入ってみる。一つ道が違うだけで少し雰囲気が違うな。大通りは華やかだったのに対して、こっちは華やかさには欠けるけど、一癖ありそうな感じがする。

 

 「(そうそう、さっきのリモーネってレモンって言う果実よ)」

 

 「(ふーん。それで、何が出来るの?)」

 

 「(え? さあ)」

 

 何だよ、何か有効な使い方があるのかと思ったじゃないか。それを知った所で、どこで活かせば良いんだよ。

 

 気を取り直して。肉の匂いはしてこないんだよなあ。港町だからって、魚だけ食べてる訳じゃないでしょうに。海に面してはいるけど、近くに山とか森もあるから獲物はいるはずなんだよな。それに、組合の人も探すなら大通り以外って言ってたし。

 

 あれ? 探すならって事は確実にあるって訳じゃないのか? いやいや、それは流石にないだろう。こんなに大きな町なんだから、肉を主に扱ってる食堂の一つや二つあるでしょ。

 

 「(あのさ、今の俺でも出来る料理ってあるの?)」

 

 「(そうねえ、米を見掛けてないから寿司は無理だし、たこ焼きは特別な鉄板がいるから無理だし。うーん。マヨネーズかしら)」

 

 「(まよねーず? どんな料理なの?)」

 

 「(いや、料理じゃなくて塩や胡椒と同じで調味料よ)」

 

 「(調味料かあ。それって美味しいの?)」

 

 「(うーん、中毒みたいな人の事をマヨラーって言ってたみたいだから、美味しいんじゃない? それに、塩とか胡椒だけじゃあ飽きちゃうでしょ?)」

 

 「(なるほどね。材料は分かってるの?)」

 

 「(分かってるわよ。作り方も大丈夫よ)」

 

 「(そっか。じゃあ、暇が出来たら挑戦してみようかな)」

 

 食べ歩きしてながら周りを見ていると、武具を扱ってる商会や日常品を扱ってる商会など所狭しと並んでいる。どこも大通りの商会の建物と比べると小さくて古い、だけど古いからと言って壊れそうとかではない。昔からあるって雰囲気が感じられる。

 

 森を出てからは、宿と組合と食堂だけしか行く事がなかったけど、新しい町に着いたらこういう目的がない探検ってのも面白いかもな。今まで知らなかった事や食べた事のない物に出会えるのは、旅をしないと経験出来ないからな。

 

 大通りから外れた道を歩き回っていると、いつの間にかサルモがなくなっていた。食べる事に夢中になるほどに腹が減ってた訳ではないけど、なくなっていた。周りの雰囲気を楽しんでいたら、知らず知らず口に運んでいた様だ。初めて食べるからもう少し味わいたかったんだけどな。

 

 まだ腹は減ってるから、何か歩きながら食べられる物を探すか。あ、この串ってどこに捨てれば良いんだ? 流石に道端に捨てるのは駄目だろうし。まあ、いっか。別に邪魔になるものでもないし。

 

 

 

 「(何かないかな~?)」

 

 ん? 何だろう、この匂いは。辺りを見渡すと人が集まってる所がある。あそこかな、匂いがするとこは。行って見るか。

 

 「すいません、これは何の匂いですか?」

 

 「お、兄ちゃん知らないのか? こいつは、トルの一種でな、パーネって言うんだ。中に魚を練りこんであってな、こいつが美味いんだ。丁度蒸しあがった所だぜ。運が良いな」

 

 「ありがとうございます」

 

 トルの一種か。トルは食べ慣れてるから、新しい物は楽しみだな。しかも丁度焼き上がりとは。あれ、蒸すだっけ? ってどんな方法なんだ? まあいっか。これは運が良いな。

 

 「は~い、蒸し上がりましたから今から売りますので並んで下さいね~」

 

 そう女の子の声がすると、今まで匂いの周りを囲んでいたのに、素直に一列に並び始めた。え? 何この調教された様な動きは。俺が唖然として取り残されているのを見て、女の子が

 

 「お兄さんは買わないんですか?」

 

 そう言われたから、咄嗟に列に並んでしまった。どういう物か想像も出来てないのに、買う事になりそうだ。なりそうだって、自分の事なのに何て情けない。

 

 

 「はい、一個銅貨三枚ね」

 

 渡されたのは掌に収まる大きさの丸い物だった。蒸したてと言うから火傷するかと思ったけど、少し熱い位だった。持った感じとしては手に吸い付く様な感触だ。魚が練りこまれてるとは言ってたけど、魚の姿が見えないな。余程、細かくしてあるんだろうな。そんな事は良いから、まずは食うか。

 

 「では」

 

 大口で齧り付いたら中から熱い汁が出てきて、口の中を暴れまわる。

 

 「あふ、あふ」

 

 熱いから自然と口が開き、言葉にならない事を言いながら、口に空気を取り入れて冷ましていく。

 

 「あっつかった~」

 

 ようやく一口を飲み込んだ。熱くて味わう暇がなかった。落ち着いたところで、今度は少し齧る。

 

 ふむ、しっかりと魚の匂いが鼻を抜ける。これは、魚だな。味付けは分からないな。単純に塩って訳ではなさそうだ。それに、練りこんであるって言ってたけど、中を見ると、茸とか山菜が白い丸い物の中に入っている。それをパーネが包んでいるって言うのが正しい表現かな。この白い物が魚なんだろう。魚の原型がない位に細かくされているのに、食べても中の具が崩れない。うん、これも特製なんだろうな。

 

 うん、これは美味いな。とても銅貨三枚の味じゃないぞ。美味いから一気に食べてしまった。ふー、こんな美味い物があるなんてな。後でナックにも教えてやらないとな。

 

 「(あ、そうそう。それは海鮮まんって言うのに似てるわね)」

 

 あ、そっちにもあるんだ。


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