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湾岸都市クリスタ

 「港町って何だか風も違うんだなあ」

 

 今日はナックと話し合って、依頼もしないで休みにしようって決めたんだ。ロッチでは依頼ばかりで休みをとってなかったから、折角大きな町に来たんだからって事で休みにした。ついでに、町を探検しようって。

 

 そんな訳で今日は一人なのだ。ロッチでは宿と食堂と組合だけしか行かなかったから、町の中を探検なんて初めてなんだ。だから少し、いや結構楽しみだったりする。

 

 「森でもそうだったけど、こうやって一日休みなんて久しぶりだなあ」

 

 で、何をすれば良いんだ? 町をふらふらを歩いてはいるけど、目的なんてないし休みと言ってもなあ。

 

 「(だったら、武器とか防具とか見て周るのは?)」

 

 「(それもなあ。折角の休みなんだぞ?)」

 

 「(じゃあ、どうするのさ。他に何かあるの?)」

 

 「(そう言われると、ないけどさ。旅に出たんだから、何か楽しい事を探さないか?)」

 

 「(でもさあ、武器と防具の良いのを揃えた方が旅が楽になるじゃない? それに、目的ないんでしょ?)」

 

 「(それもそうか。探してる間に何か思い付くかもしれないしな)」

 

 あ、武器や防具が売ってる商会ってどこにあるんだ? 宿で聞いてくれば良かったか。

 

 「(それなら組合に聞けば良いんじゃない?)」

 

 

 「で、どこが良いですかね?」

 

 「そうですねぇ。アローニさんの位階はⅡですからねえ。ロー商会かダビン商会でしょうね。それ以外の大きな商会だと売ってくれませんね。小さな個人が経営してる商店だと掘り出し物があるかもしれませんね」

 

 「売ってくれないんですか?」

 

 「そうですねぇ。実力がないのに高価な武具は必要ないだろうって事ですね。欲しかったら、実力を示せってのが主流ですね。それに、武具は命を預ける大事な物ですが、位階Ⅱだとそもそも買えないですからね」

 

 「なるほど。じゃあ、ロー商会とダビン商会の場所を教えて下さい」

 

 

 

 「(実力を示せ、か。契約してる事とか魔物を狩ってきたらどうかな)」

 

 「(それは、止めた方が良いと思うわ。プーマも言ってたと思うけど、契約してるかどうかは基本的に黙ってるのが良いわ。それに、ここで魔物とか狩ってみなさいよ。ルークみたいなのは良いとしても、変なのが沸きそうよ?)」

 

 「(それもそうか。じゃあ、地道に位階を上げるしかないって事か)」

 

 ここか、ロー商会は。大きくは……ないな。位階が低い冒険者でも買えるって事だから、小さい商会なんだろうな。それを考えるとグリさんの商会って大きいんだな。あっちは大通りで三階建て、こっちは脇道で平屋。なるほど、新人向けって感じだな。

 

 「らっしゃい」

 

 うわ、やる気のない声だなあ。腕組みをしながら椅子を横に座ってる。如何にも頑固そうな商会主だな。目が一瞬チラッとこっちを見たけど、それも一瞬だ。商会なんだから、もっと関心を持てば良いのに。

 

 あ、武具を扱ってる商会って初めて来たな。買う必要というか危ないって思った事がないから、危機感がないから行かなかったんだよなあ。手入れだって自分で出来るし。まあ、この際だからどんなのが売ってるのか調査するのも悪くないか。

 

 「(どれどれ、ほお手斧か。使い慣れてはいるけど、武器としてはなあ。それに剣より短いから取り回しがなあ)」

 

 武器を手に取り、感触を確かめては次に移り、といった感じで商会内を歩き回る。材質とかは分からないけど、今持ってる剣の方が良さそうだ。それに、新しい武器に変えても使えないと意味ないしな。

 

 弓に至っては精霊樹を使ってるからな、これ以上馴染むのはここはもちろん、どこにもないだろな。

 

 「兄ちゃん、何か探してるのか?」

 

 「いえ、何か目的の物がある訳じゃなくて。ここに来たのが最近なんで、何があるのかなって見てるんです」

 

 驚いたあ。最初にチラッと見ただけでずっと横を向いてたのに。商売する気になったのか?

 

 「兄ちゃん森人族だろ? だったら、弓なんてどうだい?」

 

 「それなら使い慣れた弓がありますから」

 

 「ほう、ちょっと見せてくれねえか?」

 

 背中の弓を一つ厳つい商会主に渡す。すると、さっきまでこっちに関心がなかったとは思えない程に、じーっと端から端まで見詰めている。途中で、これは、とか、いや、とか小声で何事か呟いている。

 

 「(ねえ、取られたりしないわよね?)」

 

 「(いやー、目の前で盗みはしないでしょ)」

 

 そう思う事にしよう。でもなあ、目が血走ってるんだよなあ。流石に目の前で盗みはしないでしょ。それしたら、ここで俺を捕まえるか殺さないと駄目だよな。もしかして、その方法があるとか?

 

 いや、まさかな。

 

 「兄ちゃん! これ……」

 

 「はい!」

 

 え? 本気なのか? いきなり大声だすから、思わず声が裏返ったじゃないか。

 

 「売ってくれないか?」

 

 「は?」

 

 「だから、売ってくれないか?」

 

 「駄目ですよ。これは冒険者としての大事な武器ですよ。それを売ったらどうやって冒険者をしていけば良いんですか?」

 

 「二つあるじゃないか。金貨五枚でどうだ?」

 

 「五枚!?」

 

 「な? 悪い話しじゃねえだろ? ここに来る位だから、冒険者としてまだ新人なんだろ? だったら、金貨五枚で新しい武器を買うのが良いんじゃねえか?」

 

 金貨五枚に驚いたと思ったんだろう、ここぞとばかりに話し掛けてくる。金貨五枚なんて、新人だったらまず稼げないから直ぐに売ってしまうだろう。だが、俺たちは普通じゃない。そこ等の新人達とは稼ぎが違うんだ。まあ、正式な依頼じゃないけどな。

 

 「それは売れません。それは大切な樹から作った物です。二つあっても売る事は出来ません。それに、これ以上の弓がここにあるんですか?」

 

 「な! 折角金貨五枚で買ってやろうってのに。こんな良い話はないんだぞ?」

 

 「金貨五枚程度の価値ではありません。この弓はそれ以上の稼ぎをしますから、手放す事はありません!」

 

 それだけ言って、両手で大事そうに持っていた弓を奪い返して商会を出た。

 

 

 

 「まったく、何なんだよ。こっちが新人だからって甘く見てたな? そうはいくか、どんなに金貨を積まれても手放すつもりなんてないぞ」

 

 「(うーん、大体あーゆー厳つい感じの商会主だと秘蔵の武器を、って出すもんなんだけどなあ。記憶だと)」

 

 「(何だよそれ、それじゃあ俺のせいって事か?)」

 

 「(そんな事言ってないでしょ? 記憶にはそうあったってだけよ)」

 

 「(これだと、もう一つの商会も期待しない方が良いかな)」

 

 「(それはそうでしょね。新人向けの商会に貴方達が満足する武器なんてないでしょ)」

 

 「(それもそうか。じゃあ、精々冷やかしてみるか)」

 

 

 

 ここもさっきのロー商会と大きさとか立地は変わらないな。では、行きますか。

 

 「いらっしゃ~い」

 

 お、扉を開けた瞬間に声がけか。さっきの商会主とは比べるまでもないな。いやいや、まだ判断するには早い。しっかりと武器を見定めないとな。

 

 「何かお探しですか?」

 

 「特に何かを探している訳ではないんですよ。最近ここに来たばかりなので、どんな物が売ってるのかなって」

 

 「ふむふむ、なるほど。ここに来るって事は新人さんですよね?」

 

 「そうですね。まだ位階Ⅱです」

 

 「じゃあ、暫らくはここを利用してもらえる様に、どんどん見て行って下さいね~」

 

 本当にさっきとは大違いだな。と言うか、商会としてはこっちが正しいんじゃないか? まあ、弓に関しては目利きがあったから、あれも正しいと言えば正しいのか? 目利きがあったとしても二度と行く事はないけど。

 

 さっきは武器しか見てなかったから、防具でも見るかな。

 

 「(盾かあ、身を護るには必要だけど、そうすると弓を射れないからなあ。でも、これからも楽に旅出来る確信はないからな。先に気付いて一方的に狩れるなら良いけど、不意打ちとか長引く時はあった方が良いよな。獲物の攻撃を受け流しながら、俺たちが遠くから弓で攻撃っと。そうすると、盾よりは防御が得意な仲間を増やした方が良いのか?)」

 

 「盾をお探しですか?」

 

 「いえ、そうじゃないんです。身を護るには必要だとは思うんですけど、そうすると弓を射れなくて」

 

 「なるほど、それは確かに困りますね。では、大盾の様な大きな物じゃなくて、弓を射るのに邪魔にならない様に腕に付ける物はどうですか?」

 

 「付ける? 持つじゃなくて?」

 

 「ええ。剣は両手で持ちますし、少しの怪我でも命取りですからね。盾専門の人なんて、普通はいませんから。全身鎧なんてそれこそ貴族とか軍隊の隊長位でしょうからね」

 

 「じゃあ、何か良いのありますかね?」

 

 「そうですねえ。これなんてどうでしょうか?」

 

 そう言って一つの盾を棚から取って渡してくる。形は丸でもなく四角でもなく、亀の甲羅みたいだ。材料は何で出来てるのか分からないな。持った感じは軽いな。これで盾の意味があるのか?

 

 「裏に腕を固定する紐がありますから、そこに固定してみて下さい」

 

 右……いや左腕だな。付け心地は悪くないな。腕を振り回しても取れる事はないな。弓を射る姿勢でも邪魔にはならないな。これなら安心だな。でも、軽いから盾の意味があるのかどうか分からないんだよなあ。

 

 「うん、邪魔にもならないし良いですね。でも、軽いのは良いんですけど、盾としては不安ですね」

 

 「じゃあ、試してみますか?」

 

 それだけ言うと商会の裏口の方へ歩き出した。付いて来いって事かな?

 

 「ここは?」

 

 「ここは作った武器や防具を試す場所ですよ。じゃあ盾を向こうに適当に置いてください」

 

 裏口を出ると、そこはちょっとした部屋だった。壁の上の方に陽を取り入れる小窓があるだけで、少し薄暗い。部屋にはあちこちに丸太が置かれていたり、壁には的があったりと、様々だ。指差された壁に盾を置く。

 

 「それでどうするんですか?」

 

 「決まってるじゃない。あの盾目掛けて射るのよ」

 

 「え? 良いんですか? 壊れちゃうかもしれませんよ?」

 

 「だって、そうしないと不安なんでしょ?」

 

 「そうですけど……」

 

 「あ、分かった。壊れたら盾の代金を払えとか言われるとか気にしてます? それとも当てられないとか?」

 

 「当てられない事はないですけど。まあ」

 

 「それなら大丈夫ですよ。もし壊れても代金は払わなくて良いですし。それに、壊れる事はありませんから」

 

 やけに自信があるな。身体を反らして、大きな胸が更に大きく見える。いかんいかん、こんな挑発的な格好で誤魔化されないぞ。絶対に壊してみせる!

 

 あれ? 壊しちゃ駄目なのか? でも、壊すつもりでやらないと意味ないしな。

 

 「じゃあ」

 

 それからは何射か射ってみても、弾かれる事はないけど、貫通はしない。剣はどうかと思ったけど、これも同じで貫通もしなければ裂けもしなかった。

 

 「ふふん、どうですか?」

 

 また手を腰に添えて胸を反らしてる。そんな胸を強調されたからって、動揺なんかしないんだからな。しないんだからな。しない。

 

 するかも……しれない。しても良いよね。

 

 「これ一体何の素材ですか?」

 

 「それはですねえ、エレルーガって名前の亀の一種ですね。甲羅が凄く硬いって有名なんですよ」

 

 「へー、初めて聞きました」

 

 「それはそうですよ。ここでも滅多に見掛けないですからねえ。それはウチで扱ってる盾で一番良いんですよ」

 

 「え? それじゃあ納得の硬さですね。でも、高いんじゃないですか?」

 

 「そりゃ高いですよ。でもそれだったら、大きな商会で扱ってる盾と比べても、性能は上だと思いますよ? それに、アローニ(・・・・)さんだったら必要だと思いますよ」

 

 「知ってるんですか?」

 

 「そりゃあね。こっちも商売ですから、どんな冒険者がいるのか位は調べますよ。そしたら貴方達が位階が低いのに魔物を狩るって言うじゃないですか。そしたら、ウチで一番良い物を勧めるのは当然じゃないですか?」

 

 知ってて一番高い良い物を勧めて来たのか。商売上手だな。冷やかしに来たつもりが、見事に嵌ってしまったか。

 

 「ところで、これっていくら何ですか?」

 

 「金貨五枚ですね」

 

 「五枚!?」

 

 払え……なくはないな。でも、金貨五枚かあ。こっちで偶然に魔物を狩ってないから、今までと同じ様に狩れるとは限らないんだよなあ。でも、ここで買わなかったら不意打ちで死ぬかもしれないしなあ。

 

 「分かりました、買います」

 

 「まいど~」

 

 

 

 「買ってしまった。こっちを知ってて売りつけるんだから商売上手だな。でも、命には代えられないからな」

 

 ロー商会は二度と行かないけど、ダビン商会はナックを連れて行こう。


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