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未知 弐

二つづつ→二つずつ (2017/7/31)

受け → 請け (2017/11/1)

対した → 大した (2018/8/21)

 「おおぉぉぉああああぃぃぃぃぃいいい」

 

 父さん母さん兄さん姉さん、僕は今旅に出た事を少し後悔しています。森で経験出来ない事を進んでやってきました。見る物食べる物、何もかもが新しくて刺激が沢山で楽しいです。でも、今は後悔しています。初めて見るから、依頼を請けたのですが……。何度でも言います。今は後悔してます。

 

 「何だい、兄ちゃん。こんな事でへばってたら、使いもんにならねえじゃねえか」

 

 「すいまぜん。いつもこんなに揺れるんですか?」

 

 「はあ? 何言ってるんだい。こんなのは揺れてるウチには入らねよ。もっと揺れる日だって俺たちは漁に出るんだからな」

 

 「これで揺れてないのか」

 

 何でそんな絶望する様な情報を教えてくれるんだ。今はそんな情報いらないぞ。今以上に揺れる時でも漁に出る事を知ったところで、今の揺れが対した事ないって思えないよ。

 

 「アロ、大丈夫か?」

 

 「ダイジョウブそうに見えるか? それよりも何でお前は平気なんだ?」

 

 「そんな事言われても、分からねえよ。まあ、慣れるしかないだろ。遠くを見ると良いって言ってたぞ。無理なら俺だけでやるから気にするな」

 

 「あ、ありがとう。何とか回復出来る様に頑張る?」

 

 はい、今は海の上にいます。新しい町が海に面していると言う事で、見に行ったら大きな船が浮かんでたんだ。レントにも海はあったから釣りはした事あったんだ。でも、船には乗った事はなかったから、海関連の依頼を請けて今に至る。

 

 最初は初めての船だから浮かれてたんだ。風が気持ち良いとか海の独特な匂いとかを楽しんでたんだ。でも、段々と町から離れていくと揺れが激しくなって、立っていられない状態になっちまった。ナックはと言うと、さっきも言ってたけど何故か平気な顔して楽しんでる。

 

 「(ちょっと本当に大丈夫なの?)」

 

 「(ダイジョウブそうに思うのか?)」

 

 「(船酔いするのは三半規管が狂うからみたいよ)」

 

 「(さ、さんはん……何だって?)」

 

 「(三半規管。何でも耳にあるもので、平衡感覚を司ってるものらしいわよ?)」

 

 「(そ、そうなんだ。それで、今その情報いる?)」

 

 「(そうかもしれないけどさ、一応ね。さっきも言ってたけど、遠くを見るとか手首の近くを押すと良いらしいわよ)」

 

 「(手首のどこを押せば良いの?)」

 

 「(えーっと、手首から肘側に指三本位の所らしいわよ)」

 

 もう今は何でもやってみるしかないか。効果があるなしはこの際関係ないな。取り敢えずやってみる。駄目だったら次って感じで。

 

 

 

 「おーっし、今日はここら辺でやるか! 網を投げろー!」

 

 漁場に着いたのか船長が船員に指示を出している。すると、一斉に網を投げ始める。俺らを含めて十人が乗っていて、船の左右に綺麗な円を描く様に投げ込まれた。

 

 「それで、この後どうするんですか?」

 

 「ん? 網が底に落ちきった頃合で、引き上げるだけだ。難しい事はねえ。ただ、引き上げるだけだ」

 

 「それだけだったら、何とか出来そうなんで」

 

 「兄ちゃん、大丈夫なのか?」

 

 「大丈夫じゃないですけど、依頼ですからね」

 

 「そうか、じゃあ頼むわ」

 

 あれから少しは良くなった……と思う。遠くを見たりキューカが教えてくれた所を押したりと。気を紛らわして何とかやり過ごせたと思いたい。それに、今は止まってるから動いてる時よりは大分良い。

 

 「よし、そろそろだな。お前等、いつもの様に呼吸を合わせてゆっくり上げるぞー」

 

 「じゃあ、俺たちは左右に別れてやるか」

 

 「アロ、大丈夫なのか?」

 

 「大丈夫じゃないけど、依頼だからな。それに、さっき程じゃないし」

 

 「そうか、分かった」

 

 左右に別れた所で、一斉に声が上がり網を引き上げる。引き上げる速さを合わせる為だと言っていた。俺もそれに合わせて何とか引き上げる。身体強化を最大にすると網が引き千切れそうだったので、加減が難しい。でも強化しているので、他の人よりは楽だったと思う。

 

 

 

 「ああ、地面が揺れないって素晴らしい。でも、まだ揺れてる感じがするぅ」

 

 「兄ちゃん達、初めてにしては上出来だな。次も頼もうかな」

 

 「いやいや、流石に駄目ですよ。船から降りたのにまだ気持ち悪いですからね」

 

 「そんなの関係ねえよ。その状態でも網を引き上げられたんだ。体したもんだよ。っと、ここで話し込んでちゃいけねえな。取り敢えず組合に行くか」

 

 

 

 「真っ直ぐ歩いてるつもりなのに、左右に揺れる~。なあ、俺が真っ直ぐ歩いていて、道が傾いてるって事はないか?」

 

 「そんな訳ないだろ? 最初にこの街に着いた時にそんな事感じたか?」

 

 「いや、つい言っただけ」

 

 「まあ、そんな顔すんな。飯でも食って元気だせや」

 

 そう言って徐に一軒の店の扉を開ける。そう言えば、昨日着いたばかりだから、この町の食堂に入るのは初めてだな。夜と朝は宿の簡単な食事で済ませたしな。

 

 「ようこそ、海猫亭へ~。空いてる席にどうぞ~」

 

 空いているとは言っても繁盛してないって事はない。この食堂は広いんだ。だから、満席になってないんだと思う。虎猫亭だったら、満席で外まで待ってる人が出る位だと思う。

 

 「なんにしますか~?」

 

 「ここに着いたのが昨日なんで、何が美味しいのか分からないんですよ」

 

 「だったら魚料理はどうですか~? ウチは漁師から直接仕入れてるので、お勧めですよ~」

 

 「魚か。さっきまで船に乗ってたのに食ってなかったな」

 

 「あ、でもウチの魚は生が一番のお勧めなんですけど大丈夫ですか?」

 

 「生!? 大丈夫なんですか?」

 

 「やっぱり内地の方だと、生で食べる習慣がないので驚かれますね~。でも、生で食べたからと言って、ウチでは誰も腹下しとかはありませんよ~」

 

 「そ、そうなんですね。じゃあ、生と一応焼いた物のお勧めを二つずつお願いします」

 

 「はい~、ちょっと待ってて下さいね~」

 

 何だか間延びした喋り方の人だな。でも、動きは機敏なんだよなあ。喋りの速さと動きの速さは同じじゃないんだ。

 

 「おい、生なんて大丈夫なのか?」

 

 「まあ、大丈夫じゃないのか? だって、食堂で出してる位だぞ? そんな危ないんだったら出さないだろ? それに旅してるんだから、その町の名物を食べないと損だろ。いつも食べ慣れた物があるとは限らないじゃないか。まあ、一応焼いた物も注文したけどな」

 

 「む、そ、そう……だな。俺たちは旅してるんだ。いつも見慣れた物があるとは限らないし、珍しい物を食べたら森に帰った時に自慢出来るな」

 

 「そうだよ。魚だって森で食べてたじゃないか」

 

 「そうだよな。そんな見た目が悪い魚なんて、今日の漁でも見なかったし。でもさ、何で魚を生で食べるんだ? 俺たちは生で食べた事ないよな? 魚が大丈夫なら肉もいけるんじゃないか?」

 

 「え? そう言われれば確かに。魚だけじゃなくて全部焼くか煮るかしてたよな。生で食べる物って果実位だったよな?」

 

 生で食べた事があるのって果実だけだな。ロッチでも生を食べた事なんてなかったし。肉だって火を通してたし。何で? ここが特殊なの?

 

 「(生で食べるのは珍しいみたいよ。記憶にもあったんだけど、ダイスケの国では魚を生で食べてたみたいね。他の国は焼いたりとか火を通してたから、珍しいみたいよ)」

 

 「(なるほど。生で食べる事自体は変ではないんだ。海に面してると生で食べるものなのか? でも、俺たちの森にも海はあったけど、生では食べなかったぞ)」

 

 「(そこまでは分からないわよ。でも、ダイスケの国は海に囲まれてたからってのも理由かしらね)」

 

 「(ふーん、そんなもんかね)」

 

 「まあ、そこは気にしても仕方ないだろ。もしかしたら、旅の途中で肉も生で食べる所があるかもしれないし」

 

 「そうだな。気にしたら駄目だな。それにしても、同じ国なのに食べる物が違うんだな」

 

 「それはさ、ロッチは海がない、でもここは海がある。この違いじゃないのか?」

 

 「そうか、食べたくても食べられないのか」

 

 

 「は~い、注文の魚です~」

 

 会話がちょうど良い所で注文した物が届いた。二人分なのに、難なく運んできてるな。流石、給仕してるだけあるんだな。

 

 ふむ、当然だけど見た事もない魚だな。生の方は切身で、焼きの方は一匹丸々だな。それとトルもあるのか。今日の漁にいたか? まあ、あの時は魚を見る余裕なんてなかったんだけどな。

 

 「すいません、これは?」

 

 「お客さん、クリスタ初めて何でしょ? 初めてだから珍しい物よりは、食べやすい物が良いと思ってこれにしたの。生のはスロと言ってここでは良く獲れる物なの。塩で食べてね。で、焼いた物はコスタルで、これも良く獲れるの。これは、この果実を搾って汁をかけて食べてね。真ん中の太い骨以外は、食べられる位に細いから食べても平気よ。頭と尾は残しても良いわよ。焼いた物はトルで挟んで食べても良いわよ。では~」

 

 「すげえな。一息に言い切ったぞ」

 

 「感心するのはそこかよ。それよりも食おうぜ、腹減ったよ」

 

 生の魚か、どんな感じかな? まずは一口。ん? 生臭くないし、不味くもないな。寧ろ美味い? いや、初めてだからそう感じるのか? いや、でも食感も良いし肉とは違った味だな。味付けは塩だけど、何だろうな美味いな。何だろう、美味いしか出てこないぞ。焼きの方は、これを搾るんだったな。ふむ、これは森では食べた事はなかったけど、美味いな。この搾った汁が良いんだな。何と言うか爽やかと言うか。

 

 「で、どうなんだ?」

 

 ナックめ、怖いからって俺に先に食べさせたな?

 

 「自分で確かめろよ」

 

 そう言われて、ナックは恐る恐る生の魚を口に運んだ。手が震えてるし目は閉じてるし、どんだけ怖いんだよ。口に入れた後は、飲み込むまで頭を上下に振り、それを何度も何度も繰り返してた。

 

 

 

 「ふう、食った食った。初めて食べるけど、美味かったな」

 

 「良く言うよ、俺が食べるのを待ってた癖に」

 

 「それは仕方がないだろ? 初めてのは怖いんだから」

 

 「それを言うんだったら、俺だって怖かったんだぞ? 今度はナックから食べろよな」

 

 「分かったよ。それよりもさ、ここって大きな町だよな」

 

 「ああ、そうだな。湾岸都市クリスタって言ったよな。ロッチとは大違いだな。ここに来て良かったな」

 

 「そうだな。でも良かったのか?」

 

 「何が?」

 

 「何だかさ、逃げる様にここに来ちまってさ」

 

 「ああ」

 

 それは分かる。ルークの事があって、同じ町にはいられないなって。それで、準備も碌にしないで出発したんだ。別に俺たちが何かをやって町にいられなくなったとかじゃないんだけど、何となく。

 

 「でもさ、ルークと会うかもしれないからって次の町に行こうって話し合ったじゃないか」

 

 「そうなんだけどさ。もう少しあの町にいても良かったのかなって、さ。それに、最初はあそこで冒険者の位階をⅢかⅣまで上げる予定だっただろ?」

 

 「まあ、そうだけどさ。ルークに会うと気まずいだろ? それに、ここに来ても位階は上げられるさ」

 

 「まあ、な。でも、依頼の大半は海関連だぞ?」

 

 「うっ」

 

 仕方ないよな。いつかは旅立たなくちゃいけなかった訳だし。それが遅いか早いかの違いでしかないんだ。出会いと別れなんて、旅をしてれば付き纏うんだ。それが早く経験出来たと思えば良いじゃないか。

 

 まあ、船は余り乗りたくたいけどな。


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