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奮起

脱字修正 (2017/12/19)

目線 → 視線 (2018/1/19)

 「「は?」」

 

 「お前達か! 息子に変な事を教えたのは!」

 

 間近まで来て、もう一度同じ事を叫ぶ。もう唾が飛び、鼻息荒く顔を赤くしている。何で知らない人にこんなに近くで叫ばれないといけないんだ? それに、唾つきで。

 

 「あの、何の事か分からないんですが」

 

 「何! 息子の事を知らないだと!? そんな訳あるか! 息子からお前達の事を聞いたぞ!」

 

 「貴方とは初めて会いますよね? それなのに、息子を知らないのかと言われましても」

 

 「何を! あくまでも知らないって言うんだな?」

 

 全く、何なんだ? あんたの事も知らないのに、どうして子供の事を知っていると思うんだ? あんたが俺たちの事を知っていても、俺たちが知っているとは限らないじゃないか。

 

 「あんた、さっきから大声で叫んでいるが。こっちはあんたの事は知らないって言ってるだろう? それに、息子息子って言うが名前が分からないんじゃあ俺たちだって分からないんだぞ」

 

 おお、俺がどうしようか迷っているとナックが言い返してくれた。グリさんみたいに良い人に巡り合えたと思ったら、そうじゃない人もいると。いやー、良い勉強になるなあ。

 

 「(何をそんなにのん気に考えてるのよ)」

 

 「(だって、実際そうだろ? こっちは分からないんだから、どうする事も出来ないじゃないか。と言うか、さっさと名前を言えば良いのに)」

 

 「(それが分かってるんだったら、言えば良いじゃないの)」

 

 「(いやまあ、そうなんだけどさ。あの人怒ってて冷静じゃないだろ? そんな人に教えても聞くかどうか。それに、一方的に怒鳴られてるのに、教えてるやる義理はない)」

 

 「(まあ、そうね。冷静にならないと話しすら出来ないものね)」

 

 キューカも納得したところで、またまた大声が挙がった。今度は誰だと思い、そちらを見ると見知ったヤツが走ってきた。

 

 「父さん、何してるんだよ!」

 

 「おお、ルーク。ほら、お前が言ってたのってこいつらだろ?」

 

 「そうだけど。何してんだよ?」

 

 「何って、お前に変な事を教えたのはこいつ等だろ?」

 

 「変な事じゃないよ! 俺が教えて欲しいって頼んだんだよ!」

 

 「あの~ここじゃあ目立つので、何処かに移動しませんか?」

 

 こんな組合の目の前で騒いでたら、目立って仕方がない。まあ、今更って感じはあるけどな。

 

 

 

 そんな訳で移動したのが、虎猫亭だ。馴染みの店って言ったら、ここ位しか思い浮かばなかった。それに、今は飯時だから忙しいからミーアちゃんも構ってられないと思う。まあ、視線だけはチラチラと送ってきてるけどな。

 

 「スマン!!」

 

 座って飲み物が来たら、いきなり頭を下げられた。

 

 「あの、最初から説明して下さい」

 

 「ああ、そうだな。まず最初にこいつが剣なんか握った事もないのに、剣を振り出したんだよ。俺んとこは農家だから、剣なんか握る必要がねえんだ。それでも、この年頃だと剣を握りたがるんだよ、俺もそうだった。でも、遊びでやってる感じじゃなくて、必死になってやるもんだから問い質したんだよ。一体誰が息子を唆したのかってな。こいつは農家の息子だ、そんなやつが夢だけ見て死ぬのは耐えられねんだ。才能もないのに余計な自信を付けるなっと思って怒鳴り込んだ訳だ」

 

 な、なるほど。納得は……出来るか? 俺には子供がいないから分からないけど、無意味に死ぬのは嫌だな。唆した、か。まあ、そう捉えられても仕方ないか。でもなあ、本人がやりたいならば良いんじゃないかな。まあ、他人だから言える事かもしれないけど。

 

 「それで、どうしたら良いんですか?」

 

 「こいつに変な夢を見せるのは止めてもらえねえか。こいつはただの農家の息子だ。冒険者になったところで、直ぐに死んじまうのが見えてる」

 

 「待ってくれよ、父さん! 俺はやりたいんだ!」

 

 「そうは言ってもお前は農家の息子だぞ。夢を見るのは良いが、高望みするな」

 

 「でも、俺はやりたいんだよ」

 

 「そうは言ってもなあ。もしかして、農家を継げないからって理由じゃないだろうな?」

 

 「!!」

 

 「やっぱりそうか。お前は家は継げないけど、婿に行けば農業は続けられるんだぞ?」

 

 なんだ、理由を言いたがらなかったのは、家を継げないから、か。まあ、それを言われると逃げてると思うな。そんな考えで冒険者になったら、後悔するし死ぬだろうな。そんな事を思ってる俺だけど、俺だって新人なんだよな。

 

 「ルーク、お前が今まで理由を言わなかったのは、それが理由なのか?」

 

 「……はい」

 

 「農家を継げないから冒険者か。なるほどな。そんな逃げの考えで冒険者は出来ないぞ。俺たちみたいな新人が言う事じゃないけどな。それと、俺たちはお前をどうしても仲間にしたい訳じゃない」

 

 うん、ナックの言う通りだ。どうしても仲間にしたいって理由も能力もない。鍛えたのだって中途半端に鍛えて放っておくと、一人で冒険者になって死にそうだって事だしな。

 

 「ちょっと待って下さい! 確かに理由はそうでした。でも! 今はお二人に憧れて強くなりたいんです!」

 

 「俺たちはな、その理由をこんな形じゃなくて、お前から聞きたかったんだよ。そんなヤツに背中を安心して任せられないからな。俺たちは中途半端に鍛えて仲間にしないと、お前が一人で旅に出て死ぬかもしれない。死なれると親から恨まれるし、俺たちにとっても良い思いはしないからな。それで鍛えただけだ」

 

 「ナックの言う通りだな。仲間になりたいのは俺たちじゃない、ルークだ。俺たちにはどうしてもお前を加える理由がない。それでも、お前を鍛える事で俺たちに良い影響があるかもと思って鍛えたんだ。それで、今日の朝に仲間にすると言った。それでもお前は何も言わなかった。それは俺たちを信用していないのか、分からないがな。でも、それが結果なんだよ」

 

 「そ、そんな」

 

 項垂れてしまった。まあ、そりゃそうか。鍛えて仲間にするって言ったのに、やっぱり駄目だもんな。でも、良いんじゃないか? ルークには悪いが、俺たちにとっては良い経験になったしな。

 

 「お前には畑があるんだ。そんな危険な冒険者になる必要なんてねえんだ。悪かったな、迷惑掛けちまって」

 

 そう言って二人は揃って出て行った。ルークはまだ未練があるのか、足取り遅く俯きながらだった。店を出てからもこちらを窺っている様だった。

 

 「まあ、どうなるかと思ったけど、これが一番だろ」

 

 「そう……だな。まあ、鍛えていて楽しかったんだけどな」

 

 「だな。仲間だって今は必要ないんだし。仲間集めは焦らずに慎重にしないとな」

 

 「そう言えば、飯まだだったな。何か頼むか。おーい、ミーアちゃん」

 

 そうだよ、ルークを鍛えて依頼をして帰って来たらこれだもんな。流石に腹減ったよ。今日はもう依頼はなしだな。

 

 「はいは~い、注文ですね。何にしますか?」

 

 「いつもの……いや、今日は腹減ったから塊の肉が喰いたいな」

 

 「じゃあ、子ルスの丸焼きとか?」

 

 「流石にそんなに喰えないよ。てか、出来るの?」

 

 「出来ますよ? ウチは大人数での宴会も出来ますし、専用の焼き機もありますから。で、どうします?」

 

 「丸焼きは喰えないから、俺でも喰える大きさでお願い。種類は何でも良いから」

 

 「あ、じゃあ俺も同じ物を」

 

 「はい、じゃあ二人とも同じ物で肉の塊ですね」

 

 手をヒラヒラとしながら、厨房の方に注文を伝えに行った。

 

 「どう思う?」

 

 「ありゃ、皿を持ってくるついでに詳しく聞いてくるな」

 

 「だよなあ」

 

 まあ、良いか。別に隠す事でもないし。隠したいならここへは来ないしな。でも、余り大げさに言い触らすのは止めて欲しいな。

 

 

 

 「さっきはああ言ったが、おめえはどうしたいんだ?」

 

 「え?」

 

 帰って来て、向かい合わせで座って確認で聞いてみる。ウチは農家だが、子供には農家を継ぐ必要はないと俺は思ってる。やりたい事が他にあるなら、それをすれば良い。ただ、農家から逃げたいから他を探すのだけは許さない。

 

 「どうなんだ?」

 

 「……農家を継ぐしかないんでしょ?」

 

 「それを聞いているんじゃない。お前がどうしたいのかを聞いてるんだ」

 

 「それは……」

 

 「さっき言った様に農家をやりたくないから、冒険者って言ったのか?」

 

 「……」

 

 「黙ってると分からねえぞ」

 

 こりゃ、ただ単に農業をやりたくないって感じか? 最初は農業から逃げたい一心で、冒険者を目指したんだろう。だけどそれが逃げからじゃなくて、剣を握る内に本当に冒険者になりたいって変わってるとしたら。剣を振ってる感じだと、真面目にやってると思ったから、あいつ等んとこに行ったんだし。こりゃ、俺の勘違いだったかな。

 

 「……たい」

 

 「ん? 聞こえねえぞ。何て言ったんだ?」

 

 「冒険者になりたい!」

 

 「ほう。農業をやりたくないからって訳じゃねえんだな?」

 

 「うん!」

 

 ふむ。目を逸らさずにしっかり俺を見詰めてきやがる。

 

 「本当なんだな?」

 

 「もちろん!」

 

 「良く言った! それでこそ、俺の息子だ!」

 

 「え?」

 

 「何を呆けてやがる。冒険者になりたいんだろ? だったら、なれば良いじゃないか」

 

 「でも、農家は」

 

 「そんなのお前は心配する事じゃねえ。それよりも、あいつ等の仲間になりたいんだろ?」

 

 「う、うん」

 

 「それじゃあ、仲間にしたいって思う程に強くならないとな!」

 

 「で、でもどうしたら」

 

 「言っただろ? 俺だって子供の頃は冒険者に憧れて剣を握ってた事だってあるんだ。しっかりとした剣の型とかは知らねえが、基礎位なら教えられるだろ。もしそれでも不安なら、軍にいるヤツに知り合いがいるから、そいつから教わる事も出来るぞ」

 

 「良いの?」

 

 「良いに決まってるだろ? お前はお前が決めた事をやりゃ良いんだよ。その代わり、死んでも後悔なんかすんじゃねえぞ。自分で決めた事なんだから、受け入れろ」

 

 「分かった!」

 

 「よし! じゃあ、あいつ等はきっと王都には行くだろう。そこで会える様に鍛えるぞ」

 

 全く、親なんだから、やりたい事があるなら反対しねえのに。それに、俺がなれなかった冒険者になれるかもしれねえんだ。俺の分まで活躍してもらわねえとな。遠くに行っても俺んとこまで名が伝わる位にはな。


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