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突然

受け → 請け (2017/11/1)

 今日もいつもの様に、朝一でルークを鍛えて組合で依頼を探していたら受付の人に呼び止められた。

 

 「お二人に指名の依頼が来てますが、どうしますか?」

 

 「指名ですか? それはどんな依頼何ですか?」

 

 「ここから南にソーレ湖と言うのがあります。そこから水を運ぶだけです」

 

 「それだけを聞くと簡単な依頼の様ですね。ただ、どうして指名なのか、そこが分かりません」

 

 「それに、その依頼は位階がⅡの自分達が請けても良いものですか?」

 

 指名かあ、この町では少しは有名になったとは思う。思うけど、指名する程なのか? 位階がⅡなんて、冒険者になりたての新人だぞ? 指名なんてもっと上の位階の人達にするものじゃないのか? 依頼内容な簡単な様だけど、俺たちが請けても良いのか? そこはナックも同じ考えだな。

 

 「まず、この依頼はただの水を運ぶだけなので、冒険者になりたての新人用と言っても良いでしょうね。それと、理由ですが依頼者に直接聞いで下さい」

 

 んー、何だろう。この言い表せない変な気持ちは。指名される程に名が知られる様になったのは嬉しい。だけど、位階が低い俺たちに指名する程なのか? 新人用の依頼だと言った。なら、尚更指名にするのは可笑しいんじゃないか? 新人なんて俺たち以外にいるんだし、そいつ等の仕事を奪う事にならないか? 組合が俺たちにその話をしたって事は、何か怪しい所がないって判断だろうし。でも、理由は直接聞け、と。

 

 「ナックどうする?」

 

 「指名されるのは嬉しいけど、納得出来ないな。新人用なら尚更、指名にする必要はないんだし。指名にするって事は俺たちに用があるんだろ? 何だか碌な事にはならないと思うぞ。それなら、森に入った方が良いだろ」

 

 「そうだよな。と言う事で断ります。いつもの様に薬草採取の依頼を請けます」

 

 「ちょーっと待った!」

 

 断っていつもの薬草採取の依頼を請けようとしていたら、後ろから突然大声が上がった。振り向いてみると、小柄な男の人だった。子供かと思う程に小さいけど、顔は髭を蓄えていて皺もあるので大人だと思う。

 

 「あんた達、『ヴェールの人』だろ?」

 

 「ええ、そうですけど。貴方は?」

 

 「ああ、すまねえ。ワシは商人をやっとるグリ・グッチと言う。その指名をしたのはワシなんじゃよ。どうか請けてくれんかね」

 

 「今話してましたけど、俺たちである必要を感じないんですよ」

 

 「いやいや、この依頼の位階はⅡじゃよ? だったら、あんた達でも良いじゃろ?」

 

 「ほら、自分で言ってるじゃないですか。この依頼の位階はⅡだって。それに、この依頼は指名しなくても請ける人はいると思いますよ」

 

 「そこを何とか曲げて請けてくれんか?」

 

 「そうは言われましても。俺らでなければ駄目な理由がないのでしたら、断りますよ」

 

 「グリさん、無理を言って請けてもらっても、良い結果にはなりませんよ。それに、他にも沢山いますから。何も指名する事ないですよ」

 

 「期待の新人と聞いて、商人として顔つなぎが出来ればと思ったんじゃが」

 

 「(請けてあげれば?)」

 

 「(またそんな事言うのか?)」

 

 「(またって何よ、またって)」

 

 「(ルークの時もそうだったろ? 仲間にしないなら最初から突き放すべきだって)」

 

 「(それは……仲間の事でしょ?)」

 

 「(同じだよ。向こうは俺たちを知っている。だけど、俺たちは知らない。何も知らないのに信用出来るか?)」

 

 「(そうだけどさ。お互いが知ってるってのは一番良いのだと思うわよ。でもさ、この先そんな状況が来るのかしら? 冒険者として名を上げていけば、当然貴方達の事を知っている人は増えるでしょう。じゃあ、貴方達は? 組合からの紹介なんだから、少しは信用しても良いんじゃない? まあ、警戒はするべきだけどね)」

 

 ううむ。初対面で信用出来るってのは条件が厳しすぎるのかな。そうか、冒険者として名を上げれば上げる程、まだ行った事がない町でも知られている可能性もあるのか。ルークもそうだよな。俺たちが少し有名になったから来たんだよな。名を上げなければ、ルークは俺たちの事を知る事もなかっただろう。そう考えると、これからも同じ様な事がおきるって事か? それに、組合からの紹介か。もしかしたら、これから町から町への護衛なんかの依頼を請けるかもしれない。そんな時は依頼主が信用出来るかどうかの判断は、一緒に旅をしないと分からないか。依頼を請けて、対面した時に無理だと感じたら拒否なんて出来るとは思えないし。出来たとしても、報酬はもちろんなしだし、場合によっては払う必要もあるだろう。それに、そんな事が続けば組合にとって印象は良くないだろうな。

 

 ここは、組合からの紹介を受けた方が良いのかな。明らかに無茶な依頼とかだったら組合で審査する様だし。こうやって、紹介するって事はこの人も依頼も問題ないって事だろうし。

 

 「ナック、ちょっとこっちへ」

 

 そう言ってナックを受付の反対側にある、窓際まで連れてきた。

 

 「どうした? やっぱり請けるのか?」

 

 さっき、キューカと話し合った事をそのままナックに伝える。

 

 「じゃあ、あの人で試そうって事だな?」

 

 「うん。この先の事を考えると、そうした方が良いと思う。信用出来ないからって何でも断ってたら、旅がしづらいと思うんだ。それに、商人と知り合いになっておけば、良い物を安く手に入れる事も出来るかもしれないしな」

 

 「そう……そうだな。拒否ばかりしてたら、窮屈になっちまうか。少しは信用しても良いのかもな。それをあの人で試せば良い事か」

 

 「だな。じゃあ請けるって事で」

 

 

 

 「そうか、お前さん達はアッチャ族を見るのは初めてか」

 

 「ええ、そうなんですよ。折角タルパに来たのに、殆どが人族で」

 

 あれから依頼を請ける事を告げると、凄く嬉しそうに喜んでくれた。準備は整っていたみたいで、今はソーレ湖に馬車に乗って向かっている。護衛の役割もあるので、歩くと言ったのだけど、話がしたいと言うので後ろの荷台に座っている。

 

 「まあ、ワシ等は穴掘りが得意だから殆どが王都にいるさ。ワシは変わり者で商人をやってるがね」

 

 「そうなんですね。アッチャ族の国って聞いてたから、全員アッチャ族だと思ってましたよ」

 

 「お前さん達はレントの森から来たって言ってたな。そうだな、外に出ないとそう思うわな。一つの種族で一つの国ってな」

 

 「そう言うって事は違うんですか?」

 

 「ああ、違うぞ。ワシは商人だから色んな国に行くんだが、一つの種族だけしか住んでいない国なんてないぞ」

 

 「そうなんですか?」

 

 「ああ。さっきの町でもそうじゃが、アッチャはいなかっただろ? アッチャもそうじゃが、他の種族は数が少ないんじゃよ。人族は数が多いから色んな国にいるけどな。ああ、森人だけは違うんじゃなかったかな」

 

 「ああ、確かに。レントには森人しかいませんでしたね。でも、契約する為に何人かは来てたみたいですけどね。見た事ないけど」

 

 「まあ、そうじゃな。何も契約出来るのはレントだけじゃないしな。それに、森人ってのは外に出たがらないからな。お前さん達はワシと同じで変わり者って事よ」

 

 「ははは」

 

 変わり者って言われてしまった。え? 変わり者なの? そんな自覚ないんだけど。

 

 「(まあ、変わってるわね。貴方だけじゃなくて、貴方の家族そのものが変わってるから、良いんじゃない?)」

 

 「(変わってるかなあ。それに、家族もなのか?)」

 

 「(そりゃそうでしょ。森には戻ったけども、皆外に出たでしょ?)」

 

 た、確かに。そうか、変わり者って言われるのは、仕方がないのか。親が変わり者だから子供も変わり者になる、と。

 

 「(……)」

 

 「(何だよ、何か言いたそうだな)」

 

 「(別にい。親が変わり者だからって、子供まで変わり者になるとは限らないとは思ってないわよ)」

 

 「(ぐっ……。じゃ、じゃあ、その変わり者と契約したキューカも変わり者って事になるな)」

 

 「(!?)」

 

 「ほれ、着いたぞ」

 

 キューカと少し話してたら、いつの間にか目的地に着いた様だ。何だろう、馬車に初めて乗ったからなのか、尻やあちこちが痛くなっている。

 

 「んんん!! はあ!!」

 

 降りて目一杯伸びをすると気持ちが良い。少ししか乗ってなかったけど、こうやって自由に身体を動かせるのは良いな。

 

 「そうだ、グリさん。依頼を請けたんですけど、ここで何をするんですか?」

 

 「……あ! そういや聞いてなかったな」

 

 やべ、依頼を請ける事しか頭になかったな。俺たちの位階でも請けられるから、危険はないと思うんだけど。

 

 「何じゃ知らんのか。それはここの水を汲む事じゃよ」

 

 「水? 井戸なら町にありましたよね? ここで汲まないと足りないんですか?」

 

 うん、そうだよな。町には井戸が何箇所もあったし、近くに川もあったし、別に水には困らないんじゃ。

 

 「そうか、それも知らんのか。じゃあ水を飲んでみな」

 

 ん? 水を飲むと何か分かるのか? もしかして、凄く美味いとか? 二人して首を傾げながら水を掬って飲んだ。

 

 「「!? かっっっっっら」」

 

 「がははははは。それが理由じゃよ」

 

 「ぺっぺっ。何で塩辛いんですか?」

 

 持参した水を飲みながら疑問に思った事を聞いてみる。

 

 「さあ、それは知らんよ。でも、海と同じ位に塩っぽいから、ここからでも塩が作れるんじゃよ」

 

 「な、なるほど」

 

 「(それって、昔ここは海だったんじゃない?)」

 

 「(そうなのか?)」

 

 「(んー、実際にここにいた事がないから分からないけど。記憶にはそう言うのあったわよ。だから、ここら辺の岩も塩が混じってると思うわよ)」

 

 「と言う訳で、運んできた樽に目一杯汲んでくれや」

 

 「よし、さっさと終わらせるか!」

 

 馬車で運んできた樽にどんどんと汲んでいく。ただ水を汲むだけの単純な事なのに、結構疲れるな。俺たちは契約してるから、強化すれば大変な事じゃない。でも、冒険者に成り立てだったら、この依頼は請けたくないだろうなあ。

 

 

 

 「ふう、積み込み終わりました。こんなに積んで大丈夫なんですか?」

 

 水を入れたからと言って、荷台が狭くなる事はない。樽に水を入れただけなんだから。でも、両手を回しても手が届かない大きさで、高さは俺の腰位まであるんだぞ。重すぎて進まないんじゃないか?

 

 「ん? ああ、大丈夫じゃい。この馬はそんなもんじゃあ潰れたりせんよ。それに、何度もやってきた事じゃしな」

 

 「そうなんですね。それなら安心ですね」

 

 荷台に乗って、町に戻る事にする。町からそんなに離れていなかったからか、魔物は出なかった。動物は何体か見付けたけど、襲ってくる事もなかったので見逃した。本当は狩りたかったんだけど。まあ、見付けたのは小さいのばっかりだったけどな。

 

 

 

 「ここがワシの商会じゃ。樽は裏の倉庫に運んでくれ」

 

 えー、ここがグリさんの商会? 予想してたのは小さな商会だったのに、これは……。隣を見るとナックも複雑そうな顔だった。

 

 「おお、もう運んだのか。じゃあ、一緒に組合に行こうか」

 

 「あの~こんなに大きな商会だったら、位階が低い依頼はしなくても良いんじゃないですか? それと、グリさんが代表ですよね? 代表自ら塩水を調達するってどうなんですか?」

 

 「ん? ああ、そんな事か。ワシは変わり者だと言っただろ? それに、今回はお前さん達と知り合いになるのが目的だからな」

 

 「はあ」

 

 今までは普通のお爺ちゃんだと思ってたのに、こんな大きな商会の代表だったなんて。今まで気安く話しかけてたけど、これからは変えた方が良いのか?

 

 

 

 「いやー、依頼してみるもんじゃな」

 

 「こんなに貰って良いのですか? この位階だと貰いすぎだと思うんですけど」

 

 「良い良い。これは無理を言って請けて貰った訳だしな。まあ、迷惑料だと思って受け取ってくれい」

 

 「そ、そんな迷惑だなんて」

 

 「じゃあ、何か欲しい物があったら、ワシの商会を頼ってくれい。お前さん達が名を上げれば、ワシの商会も名を上げると言う事じゃ」

 

 「分かりました。グリさんの期待に応えられる様に頑張ります」

 

 「おう! じゃあ、またな」

 

 がははと笑いながら、商会の方へ歩いていった。あんな人が依頼するんだったら、これからは断らないでも良いかもな。そんな風に考えていると大声が挙がった。またか、と思い声のした方を見ると、こちらを指差しながら走ってくる。

 

 「お前達か! 息子に変な事を教えたのは!」


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