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教練

受け → 請け (2017/11/1)

算用数字を漢数字に再変換 (2017/11/1)

脱字修正 (2017/12/18)

◆教練

 「ほら、もう少し強く打ち込め!」

 

 「はい!」

 

 ルークはやっぱり諦められないと言って、次の日に来た。それで俺たちは、今の強さを求めるよりも強くする方向で一致した。ルークを鍛えると決めたから、もう暫らくはここを拠点とする。今は森でやってた鍛錬をルークにやらせている。小さい頃から鍛えていた俺たちと違って、家の手伝いしかしてなかったから結構辛いと思う。何しろ、剣や弓じゃなく農具しか触ってなかったからだ。

 

 弓は俺の方が上だけど、近接武器はナックの方が上だから今はナックが教えている。

 

 「こんどはこっちだ! ほら、防御が甘いぞ!」

 

 「くっ、はい!」

 

 「ほらほら、そんな調子じゃあ狩る側から狩られる側になっちますぞ! もっと足を動かせ!」

 

 「は、はい!」

 

 おいおい、仲間にするかどうかはまだ決めてないけどさ。教えるのが楽しくなってないか? ナックのヤツ、ノリノリじゃないか。

まあ、教えるのって何だか楽しいんだよな。自分が成長しているというか、小さい頃の自分を見ている様で。

 

 「(ほら、言ったじゃない。良い影響があるって)」

 

 何か言っているが無視だ。ここで認めてしまうのは何か負けた様で嫌だ。まあ、認めるし、勝負をしてた訳じゃないんだけどな。

 

 「(はあ、認めるよ。実際教えてると、自分でも気付かなかった事に気付かされるし)」

 

 「(そうでしょう。ふふん、言う通りにして良かったわね)」

 

 「(ああ、そうだな。だけど、まだ仲間にするとは決めてないぞ? それに、どこまで鍛えるのかも決めてないし)」

 

 「(んー、仲間にするしかないんじゃない? だって、中途半端に鍛えて仲間にしなかったら、一人で旅に出て死ぬわよ、きっと)」

 

 「(そこまで責任持てないよ。鍛えるけど、どう使うかはアイツ次第なんだし。それで死のうがアイツが決めた事なんだから)」

 

 「(でも折角教えたのに、死なれると目覚めが悪いわよ。それに、親から恨まれるわよ)」

 

 「(なんだよ、それじゃあ仲間にするしかないじゃないか)」

 

 「(そうよ。仲間にするつもりがないなら、最初から突き放すべきだったのよ)」

 

 「(はあ、分かったよ。簡単に死なれちゃ困るから厳しく鍛えるよ)」

 

 そうか、仲間にするつもりがないなら、話をしないで最初から突き放すのが正解か。まあ、唯一の救いはルークが良いヤツそうだって事かな。後は、俺たちに拘る理由さえ納得出来れば。

 

 

 

 「今日のところはこの位で良いだろ。急に鍛えても身に付かないからな」

 

 「は、はい」

 

 ナックが終わりを告げた所で、ルークは両手を広げて空を見上げる形で崩れ落ちてしまった。剣も握れない程に疲れているのか、荒い息と共に胸が上下している。

 

 「ほれ、お疲れさん。どうだ、調子は?」

 

 「ああ、ありがとう。鍛え始めてまだ十日だぞ。直ぐに成果なんて期待するなよ」

 

 俺はナックに飲み物を渡しながら、ルークの状況を聞くが納得した。そりゃそうか、十日で成果が出てたら俺たちって何なのってなるしな。

 

 「そうだな。じっくりと鍛えるとするか」

 

 「それが良いと思う。焦って成果を求めるよりは、じっくりの方が結局は良いと思う。焦ったら負けだよ。俺たちだって小さい頃から少しずつ鍛えて今があるんだ。それと同じ位時を掛けないと駄目になっちまう」

 

 「そうだよな。いつまでに強くならないと駄目だなんて、決まってない事だしな。一緒に旅をしていれば、その内に強くなるだろ」

 

 「ん? その様子だと仲間に加えるのか?」

 

 「精霊にも言われたんだけどさ。ここまで鍛えて仲間にしませんってなって、一人で旅をして死んだら、目覚めが悪いし親にも恨まれるぞってな。それが嫌なら最初から突き放すのが正解だってさ」

 

 「ああ、なるほどね。それじゃあ、手抜きしないで厳しく教えないとな」

 

 おお、何だかやる気になってる。そう言えば、誰かに教えるのって初めてだな。森では教わる側だったからな。

 

 「起きれるか?」

 

 「……あ、はい」

 

 疲れてるのと身体中の筋肉が悲鳴を上げてるので、ゆったりとした動きで起き上がった。

 

 「ほら、やってみてどうだ?」

 

 飲み物を渡しながらナックに聞いたのと同じ事を聞いてみる。教える側と教わる側では感じ方が違うからな。

 

 「あ、ありがとうございます。剣なんて握った事がなかったから、何から何まで難しいですね。でも、出来ない事が出来る様になるのは楽しいですね」

 

 「そうか。まあ、今までやった事をない事をやってるんだ。難しいのは当然だな。それに、直ぐに俺たち位まで強くなられると、俺たちの立場がなくなっちまう」

 

 「そうですよね。それにしても、お二人は凄いですね。僕と一つしか年が違わないのに、こんなに強いだなんて」

 

 「それは住んでた森とか家族の教育があってこそだよ。森では狩りをしないと生きていけないから、子供には教える事になってるんだよ。まあ、基本は弓だぞ。ナックみたいに筋肉の塊で、弓より剣が得意のヤツなんて珍しいんだからな」

 

 「そうですよね。聞いてた感じだと、細くて容姿が整っていて、弓が得意な種族でしたね」

 

 「そうだろ? アイツは俺たち中でも異質なんだよ。でも、もし剣と弓以外を使いたいなら先に言えよ? 俺たちじゃ教えられないから」

 

 「分かりました。まずは剣と弓を鍛えていきます。他の武器は必要になったら考えますよ。それに、武器の使い方なんて教えてくれる人いませんから」

 

 「そうなのか?」

 

 「代々軍人の家ならば、子供に教えるでしょけど。教える事を仕事にしてる人なんていませんね。教えるよりも自分で狩りをした方が稼げますからね」

 

 「ああ、それはあるな。確か組合でもそんな事はしてなかったな」

 

 「武器の扱いを学ぶには軍に入るのが良いんですけど、それだと旅が出来ませんから」

 

 組合としては、教える人を雇った方が良いと思うんだけど。薬草採取で登録したてのヤツとかが、狩られる可能性もあるだろう。そうすると組合に入る金が少なくなるから、損しかないと思うんだけどな。

 

 「そう言えば、この国の組合の登録って十五からだよな?」

 

 「ええ、そうです」

 

 「まだ十四だよな? もう暫らくはここにいると思うけど、旅の途中で登録だな」

 

 「じゃあ仲間に入れてもらえるんですか?」

 

 「まあ、中途半端に鍛えて仲間に入れなかったら一人で旅に出そうだしな。それで、死なれたら目覚めが悪いし、親にも恨まれそうだからな」

 

 「……そうですね」

 

 ん? 一瞬気まずそうに目を逸らさなかったか? 気のせいか?

 

 「じゃあ朝の鍛錬はここまでだな。俺たちは組合に行くから、ルークは家に戻れよ」

 

 「はい」

 

 「ナック、そろそろ行くぞ」

 

 「あ、あの!」

 

 「ん? どうした?」

 

 「……いえ、何でもないです」

 

 「……そうか」

 

 何か言いたそうにしてるけど、こっちから聞き返した方が良いのか? 仲間になりたい理由は、俺たちには納得出来ないものだった。もしかしたら、それを言おうとしてるのか? んー、無理に聞き出しても、それが本当の理由なのか怪しいしな。仲間にするって言ったから、その内に話してくれるだろう。まあ、秘密は誰にでもある。俺にだってあるんだ。だけど、信頼出来ないのを連れて行くのは危険なんだよなあ。この町にいる内に話してくれればいいけど、どうかな。

 

 

 

 「どの依頼にする?」

 

 「どれでも良いだろ。魔物を狩るのが目的で薬草の依頼はオマケだ」

 

 「んん!!」

 

 壁に貼られている依頼を見ながら相談していると、突然咳払いがしたのでそちらを向くと、受付の人だった。手招きしているのでそちらに行くと、

 

 「どうしたんですか?」

 

 「どうしたじゃありませんよ。貴方方はまだ位階はⅡです。その位階は本来ならば、森では採取、町では雑用と決まっているんですよ。もし、動物や魔物と遭遇しても戦わずに戻って報告するのが決まりです」

 

 「ですが、それだと稼ぎが少ないんですよ。それに、狩りならば小さい頃からやって慣れているので」

 

 「普通はそれで生活しているんです。低い内は数多く依頼を請ける事で生活しているんですよ。それに、Ⅲまでは自然と上がれる仕組みになってるんですから。まあ、魔物の素材は幾らあっても困らないので買取ますけど、あくまでも偶然・・を装って下さいね。これは組合としては黙認しているんです。貴方方の真似をして死なれると組合としても困るので」

 

 いけね。思わず本音がポロっと出ちまったか。

 

 「すいませんでした。これからは気をつけます。それで、この依頼を請けたいのですが」

 

 「はあ、分かりました。では、依頼の受領を確認しました。それでは、くれぐれも偶然でお願いしますよ」

 

 「は、はい。お願いされました」

 

 思わず頷いてしまった。だけど、仕方がないじゃないか。女の人に強い口調で言われてしまえば。それに、位階には関係ないとは言っても、黙ってもらってるって負い目があるからな。

 

 「じゃあ、今日も行くか」

 

 

 

 「だから、偶然でお願いしますって言いましたよね!」

 

 「……はい」

 

 どんな状況かと言うと、また町の門で止められたんだ。それで、買取に関しては組合が扱ってるから受付の人が来て、怒られているって訳だ。俺たちとしては偶然を装って狩っただけなんだけど。狩った獲物が問題だった。まあ、獲物と言うか数かな?

 

 「前回は一頭、今回は二頭・・ですよ? 偶然で二頭狩ったなんて言わないで下さいよ?」

 

 「……はい。一頭狩ったので帰ろうとしたら、見付けたので狩っちゃいました」

 

 「狩っちゃいましたって、簡単に言いますけどね、そんな気軽に狩れるものでもないんですよ? はあ、これは組合としても考えなければいけませんね」

 

 「どういう事ですか?」

 

 「私では決められませんから、組合長に判断を任せますけど。貴方方の場合に限り、偶然で狩る事を禁止し、もし狩ってしまった場合は罰則も設ける事を提案しておきます」

 

 「「そ、それは待って下さい」」

 

 「私がするのは提案のみです。組合としても、今まで黙っていたのを禁止にするのはどうかと思います。けど、先ほど注意したのにも係わらずこれですからね。貴方方だけを特別扱いするのは良くない事ですし」

 

 「わ、わかりました」

 

 はあ、森では狩りをして怒られる事はなかったのに、ここでは違うのか。偶然で狩るってどの程度までなら良いんだ? ああ、もし禁止されたらどうしよ。今までの稼ぎがあるから直ぐにどうこうなる訳じゃないけど。

 

 「(これもお約束ってやつね)」


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