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組合

受け → 請け (2017/11/1)

 「フォルク草はこんなもんかな。そっちはどうだ?」

 

 「おう、こんなもんでいいだろ。後は偶然・・魔物を狩るだけだな」

 

 今俺たちが何をしているかって? それは、薬草採取と偶然・・魔物を狩っているところだ。この偶然ってのが重要なんだ。森を出たところで出会ったヤツ等は村に連れて行ったんだけど、村だと処遇を決められないって事で、村長と一緒に次の町に行ったんだ。直ぐに行こうって事で村でゆっくりは出来なかった。

 

 次のロッチ町の冒険者組合で襲って来たヤツ等を引き渡して、今に至るってとこだ。あいつ等は盗賊としては少しは名の知れたやつだったらしく、懸賞金が掛かってた。懸賞金を受け取ったついでに、冒険者組合に登録して活動している訳だ。因みに懸賞金は五人で銀貨五枚だった。

 

 組合については長いし細かいから省くけど、依頼を達成すれば位階が上がるって事で理解している。ロッチ町を拠点として、冒険者としての活動をしている。別に位階を上げる事が目的じゃないんだけど、薬草採取の依頼のついでに、本来は請けられない位階に相当する魔物を狩っているのだ。

 

 組合の人は登録して間もない、若い俺たちが魔物なんかを狩ってくるから驚いたっけ。強さは分かったけど、正式な依頼じゃないから当然位階には反映出来ないって言われたな。まあ、それが目的じゃなくて今は駆け出しだけど、どれだけの強さなのか周りに示す事が出来たと思う。それに、魔物を正当な価格で買い取ってもらえるのは有難い。

 

 組合の人も正式な依頼でもないし、難なく狩ってるから問題にはしないでくれた。魔物の素材はいつでも足りてない状況だったらしいから、早く依頼を請けられる位階まで上がってくれって言われたな。特例で上げる事は出来ないから。そんな事を言われても地道に依頼を達成するしかないんだけどね。

 

 「それにしても、何でここには魔物がこんなにいるんだ? 森にはあの時しか見た事がなかったぞ?」

 

 「うん、それは俺も思ってた。何でだ? もしかして森では魔物が出たら知らないうちに、父さん達が狩ってたのかな?」

 

 「んー、その可能性はあるよな。ここにはそこ等中にいて、森にはいないってのは可笑しいよな。でもさ、毛皮とかの素材も見た事ないぞ?」

 

 「そうなんだよ。見た事があるのがオールスだけだけど、あの大きさのを知られずに解体するってのも無理だよな? じゃあ、あの森が特殊って事か?」

 

 「そう考えるのと納得は出来るな。まあ、そんなに強くもないし、気にしなくても良いんじゃないか? 報酬も良い訳だし」

 

 「そうだな。じゃあ、さっさとこいつを持ち帰るか」

 

 今日仕留めたのはオーグリエ一頭だけだ。だけとは言う物の、二人が両手を広げるよりも大きいのだ。精霊術を使わないと冒険者としての経験が浅いと狩られてしまうだろう。まあ、グリエは狩り慣れているし精霊術も使い慣れているから俺たちは大丈夫なんだけどね。

 

 

 

 「貴方達、わざとやってません?」

 

 「いいえ、そんな事はないですよ。薬草採取をしていたら、偶然・・現れたんですよ」

 

 「偶然、ねえ」

 

 受付のお姉さんからジト目で見られるが、偶然・・を強調しないとな。怪しまれない様に笑顔で答える。

 

 「まあ、いいでしょ。依頼はしっかりと達成していますしね。それと、何度も言う様だけど、強いからって油断しないでね」

 

 「はい、それは分かってますから」

 

 「はい、これは依頼の報酬と、偶然・・狩ったオーグリエの報酬ね。じゃあカードにも書いておくわね」

 

 そう父さん達に聞いてた、組合に登録する際に発行してもらう紙はカードと呼ばれる物に変わっていた。何でも最近変わったらしく、今までは手書きで記入していたのだけど、これは冒険者が偽物や位階を偽る事を防げるらしい。らしいと言うのは、その仕組みを説明されたけど理解出来なかった。

 

 まあ、そんなカードの仕組みを理解するよりも、冒険者にとっては依頼の方が大事だ。何より、獲物を狩る方が楽で良い。採取にしろ狩りにしろ、森でやってた事だから慣れたもんだ。

 

 「今日の依頼はここまでだな。これからどうする?」

 

 「ん? いつも通りに飯屋で良いんじゃないか?」

 

 

 

 「いつもの二つね」

 

 給仕にそれだけを伝えて、席に座る。『いつもの』で通じる程に、ここへは良く来るし、この町もそれなりだ。

 

 「今日の依頼も無事成功出来たし、順調だな」

 

 「そうだな。最初は戸惑ったけど、慣れてしまえば森での生活と同じ事してるしな」

 

 「そうだよなあ。魔物の依頼が多かったのは驚いたけどな」

 

 「そうそう。さっきも話したけど、何でなんだろうな。まあ、分かったところで俺たちにはどうしようもないけどな」

 

 「そうだな。薬草も俺たちだったら簡単だしな。動物も見た事がないヤツにはまだ出会ってないし」

 

 「狩るだけなら一人でも問題ないけど。ここで生活するってなると、一人だと何かと心配だからな」

 

 「それは俺も思ってた。お前の目的が契約だったから、途中までかなって思ってたんだよ」

 

 「まあ、強くなるのが目的ではあるんだけどな。その一番の近道が契約なんだが、使いこなせないと意味ないし、戦闘の経験も積まないと駄目だからな」

 

 「まあ、な。それに俺たちは寿命が長いから、ゆっくり各地を巡っても大して問題じゃない。折角森を出たんだ、外を堪能しないとな」

 

 「はい、いつものお待ちどうさみゃ~」

 

 話し込んでいたら、給仕の子が料理を運んできた。この子は『虎猫亭』の娘さんのミーアちゃん。猫人族って言う種族で、俺たちとの大部分では同じなんだけど、一部が違うんだ。違うと言っても醜いとかではなく、種族としての特徴を色濃く出ているだけだ。

 

 例えば、耳は顔の横じゃなくて上にあるし、お尻には尻尾が生えている。爪も出し入れ出来ると言う何とも狩りに向いている種族だ。そして、語尾がどうしても『にゃ』になると言う可愛らしい点もある。

 

 「聞いたにゃ~。また、魔物を狩ったんだってにゃ~」

 

 料理の皿を置きながら話しかけてくる。無愛想じゃなく、どちらかと言うと積極的に話しかけてくれるから、最初は有難かった。組合でお勧めを聞いてここに来たんだけど、何から何まで分からない事だらけだったから、この子の性格は嬉しかった。

 

 それにしても、情報が伝わるのが早くないか? ついさっき組合に魔物を卸したばかりだぞ。

 

 「ん? そうだけど。どこで知ったんだ? ずっと店にいたんだろ?」

 

 「そんなの他のお客さんに聞いたに決まってるにゃ。それに、隠れて運んだ訳じゃないから、皆知ってると思うにゃ」

 

 「それもそうか」

 

 「それにしても、最初の頃はこんなに活躍するとは思わなかったにゃ。今じゃあ、ちょっとした有名人にゃ。位階が低いのに強いってのも理由の一つにゃ」

 

 「はは、俺たちなんてまだまださ」

 

 「そんな事ないにゃ~。もっと自信持って良いと思うにゃ。まあ、そんな事は良いとして冷めない内にどうぞにゃ」

 

 そう手を振りながら給仕に戻っていく。食堂の子だから、料理が冷めてまで話し込む事じゃないと分かっているんだろう。

 

 「じゃあ、食べるか」

 

 そう言ってトルを手に取る。中の具と味付けはその日の仕入れで変わるそうだ。だから、毎日注文しても飽きないのだ。

 

 「お、今日の具はグリエか。俺たちには丁度良いな」

 

 ふむ、ナックも気付いたか。これはもしかして、俺たちが狩ったのがオーグリエだと知って、具をグリエにしたのか? いや、それだと仕込みに間に合わないから偶然か。

 

 トルもグリエも食べ慣れた物なんだけど、味付けがこうも違うと別の物を食べている感じがする。味付けも臭みを消す為に強くしている訳ではないし、肉も硬すぎず良い歯応えだ。それでいて、筋がある訳でもない。母さんの料理も美味かったけど、料理を仕事にしている人は流石だな。

 

 トルで挟んだ物が三つと飲み物が付いて、大銅貨二枚なんだから、安いと思う。俺たちの稼ぎだともっと高額の物でも平気なんだけど、これが一番合っている。

 

 「ふう、食べた食べた」

 

 そう言って、腹を叩いて満足そうな顔をするナック。そんなナックを見ながら飲み物に口を付ける。

 

 「なあ、これからどうする?」

 

 「どうするって? 今日の依頼は終わりだろ?」

 

 「ああ、そうじゃなくて。今日のこれからじゃなくて、旅の事」

 

 「ああ、なるほどな。でもここに来て、大体30日だろ? まだ移動しなくても良いんじゃないか? 位階だってまだ低いんだし」

 

 「そうなんだけどな。どれ位ここに居て、次に行くのか、どれ位位階を上げたら行くのか。この町にも慣れたから丁度良いと思ってな」

 

 「んー、どうしようか。正直な話、ここでの居心地が良すぎて離れるのを考えてなかった。でもいつかは離れる事になるんだもんな。大きな町に行くと位階が低い依頼が少なそうだよなあ。次に行く予定の町の一番低い依頼まではここで上げていくか?」

 

 「そうだな。まだ次の町の事も知らないから、組合で調べるか。それからでも遅くないか」

 

 「そうだな。そうと決まったら、組合に行くか」

 

 二人して立ち上がって、大銅貨をミーアちゃんに渡して食堂を出る。魔物を狩った事を聞きたそうにしてたけど、他にも客がたくさんいたので諦めた様だ。とは言っても、最初の頃は他に客がいても構う事なく話し込んでたからな。その都度、両親に首根っこを掴まれてたからな。その頃に比べたら今は魔物を狩っても、珍しい事って思わなくなったみたいだしな。

 

 そんな事を考えながら食堂を出た所で、いきなり声を掛けられた。

 

 「アローニさんとナックさんですよね! 僕はルークって言います! お二人の仲間に加えて下さい!」

 

 見た感じは俺たちと年はそう変わらないと思う。いきなり声を掛けたと思ったら、直ぐに頭を下げたから良く見えなかったけど。多分、人族じゃないかと思う。こんな大声で呼ばれたから戸惑ってナックを見ると、こいつもどうしようって顔でこっちを見てる。

 

 はあ、本当どうしようか。


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