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未知

 「ところでさ、お前の目的って精霊と契約する事だろ? 俺は色んな所を見て周る予定だから、結構寄り道するぞ。どうする?」

 

 森から少し出た所で、歩きながら聞いてみた。こいつは強くなる為に出たんだから、契約する事を優先させたいはずだ。俺は契約が第一じゃなくて、旅をする事が目的だからな。

 

 「そういえば、そうだな。でも、お前は色んな所を行く予定なんだろ? だったら、その内に精霊殿にだって行くだろ。だから、寄り道位気にしないぞ」

 

 おお、何て良いヤツなんだ。分かってたけど。そうか、最短で精霊殿巡りをしても、寄り道して精霊殿に行っても、寿命が長い俺たちには余り関係ないのか。

 

 「そうか、それは良かった。やっぱり一人だと不安だからな。それと、何か交換出来る物ってあるか?」

 

 「一応、毛皮を幾つかと少しの銀貨だな」

 

 「俺と同じか。まあそれは村に着いてから考えれば良いか。なくても食べ物は狩りで何とかなるからな。この先の村とか国はどの位知ってる?」

 

 「そんな知らないぞ。村があって言葉が通じて、種族は森人以外が住んでるって位だな」

 

 「それも同じか。まあ、行けば分かるか」

 

 実際、行かないと分からないからな。幾ら父さん達から聞いてたとしても、受ける印象って人それぞれだからな。信用はしてるけど、完全に信じきるのは何か違う気がするんだよな。

 

 森から初めて出たんだけど、劇的に何かが変わったとは感じない。でも、肌で感じる空気が穏やかで安心感のある感じではなく、何かこう刺激的に感じるのは間違ってないと思う。森から出ただけで、何か新しい事が待ち受けていると、期待がそう感じさせているんだと思う。

 

 

 

 そう漠然とした期待に胸を躍らせていました。なのにこの状況は何だ?

 

 「あの~、この状況はどういう事か説明してくれますか?」

 

 「ああ? 言わなきゃ分からないのか? これが見えるだろ? 死にたくなかったら荷物を置いていきな」

 

 はあ、何だこれは。俺たちを囲む様に五人の男が剣を向けてニヤニヤと笑っている。ガシさんみたいに一応がっしりとした体格なんだけど、何でか怖くない。比較するのが可笑しいけど、オールスの方が怖かった。と言うか、あれはオクヤマ様が仕組んだから死ななかっただけで、普通なら確実に死んでたよな。

 

 「(こういうのってお決まりの展開らしいわよ?)」

 

 「(お決まり? それも記憶からか?)」

 

 「(そうよ。何でも意気込んで物事を始めると、必ず躓くそうよ。だから、お決まりなのよ)」

 

 「(何それ。何か悪い事してその結果、躓くなら分かるけど。お決まりって言われても納得出来ないよ)」

 

 「(そうは言っても仕方がないじゃない? 記憶にはそうあるんだから)」

 

 「(まあ、良いけどさ。それよりも、随分と記憶を楽しんでいる様だね)」

 

 「(まあねえ。森の中しか知らなかった私が、森の外どころか違う世界の事も知れるのよ? 楽しまないと損じゃない?)」

 

 うん、そう言われるとそうか。キューカはあの森の事を全部知っているけど、あの樹から出た事がなかったみたいだしな。

 

 「おい! 何黙ってるんだよ! さっさと荷物渡せよ! 殺すぞ!」

 

 おっと、キューカと話し込んでいる場合じゃなかったか。とは言う物の別に油断している訳じゃないし。初めて森人以外に会ったんだ。どれだけの強さなのか不明なんだから警戒はしているさ。

 

 「分かった。今、荷物を渡すから」

 

 そう言って背負っている袋を下ろし、一番前のヤツに渡す。隣のナックも同じ様に大人しく渡している。

 

 「まだだ。背中にある弓と腰の剣もだ」

 

 はあ、抵抗もしないで素直に渡すもんだから、欲を出したな。まあ、渡しても良いか。と言うよりも、荷物が邪魔だったからな。動きやすくしてくれるのは、俺としても有難い。

 

 「ほら」

 

 「へへ、随分と素直じゃねえか」

 

 「まあね。死にたくないからね(そんな事少しも思ってないけどな)」

 

 俺が抵抗もしないで渡すので、ナックは少し驚いた様でこちらを見る。横目でそれを確認して頷いてみせる。ナックも渡したところで状況は変わった。

 

 「よし、素直に渡した礼に殺さないでおいてやるよ。代わりに奴隷商に売っぱらっちまうがな。お前ら、森人族だろ? 高値で買ってくれるはずだ」

 

 「(これもお約束の一つの流れね。こんな流れでやって来るなんて、格好だけで大して強くないんだから)」

 

 「(お約束ねえ。誰ともこんな約束なんてした事ないんだけどな。まあ、良いか)」

 

 「奴隷商に売る? 死なないよりは良いけど、もっと良い方法があるぞ?」

 

 「もっと良い方法なんてあるもんか。でも、そうだな。あるなら聞いてだけはやる」

 

 「そうか、ありがとう。それは、な!」

 

 それを合図に先頭のヤツに殴りかかる。いきなりだったから対応出来ないで、顔を殴られて盛大に吹っ飛んでいる。横を見ると、ナックは何も言わないでも近くのヤツを殴っていた。それからは何も考えずに殴った。手加減と言うか、どれ位の強化をすれば殺せるのか分からなかったから良い練習にはなったと思う。

 

 不意を付いたとは言え、簡単過ぎないか? 父さん達から武器を使わない戦い方も叩き込まれたから、難なく出来たけど。それにしても、だ。年は俺たちの方が明らかに若く、武器もない二人だぞ? こうやって他人を襲うんだから、それなりに強くないと出来ないはずだ。もしかして、こいつ等の強さが普通だとか? いやいやいや、それは幾ら何でもないだろ。まあ、それは後で考えれば良いとして。

 

 「どうしようか、こいつ等」

 

 「んー、襲われたんだから反撃するのは良いだろう。でも、この国ではどう対処するのか分からないな。取り敢えず、一箇所に纏めて、動けない様に縛っておこうぜ」

 

 そう言って、あちこちに吹き飛んでいるやつ等を集める。ふむ、死んでないか少し不安だったけど、一応息はあるみたいだな。獲物を狩った時に、樹に吊るす為に持っていた紐で腰辺りを縛って他のやつ等と連結させる。

 

 「こいつ等はこれで良いとして。それにしても、武器まで渡すとは思わなかったぞ?」

 

 「ん? ああ、すまんすまん。相談なんか出来る状況じゃなかったしな。五人とも剣を持っていたけど怖くなかったんだよ。でも人数では不利だから動きやすくと思って、身軽になったって訳だ。でも、俺が殴ったらお前だって直ぐに反撃してたじゃないか」

 

 「いや、まあそうなんだけどな。怖いとは思わなかったのは俺もだ。だけどな、どんな種族でどんな精霊と契約しているのかも分からないのに、安心は出来なかったぞ? 直ぐに反応出来たのは、俺とお前の仲だろ? それ位分かるさ」

 

 「いやー、種族とか精霊とかは分からないよ? でも、オールスの怖さに比べるとこいつ等って」

 

 「あー、確かに。直接戦ってない俺だってオールスは怖かったからな。それに比べると確かに」

 

 「だろ? その内にオールスよりも怖いものと出会うかも知れないけど、こいつ等じゃなかったって事だ。まあ、森人以外で戦った初めてのやつ等だから、少しは緊張はしたがな。運ぶにしたって、こいつ等が起きない事には始まらないから。座って待とうぜ」

 

 

 

 「うっ」

 

 「お、やっと起きたか」

 

 朝一で出発したのに、もう少しで陽が真上に来る。どれだけ寝てたんだよ。

 

 「ここは?」

 

 「俺たちを襲ったところだよ。理解したらさっさと仲間を起こせよ」

 

 「ちっ、ガキにやられるなんてな」

 

 俺が最初に殴ったヤツが起きて、次々と頭を叩いて起こしていく。鼻が折れたり腕が変な方向に折れ曲がっていたりしていたけど、治癒術を掛けておいた。俺たちの精霊力は別けてないけどな。

 

 「それで、俺たちをどうするつもりだ?」

 

 「何もするつもりはないよ。森から出たばっかりだし、どうするのかはこれから行く村に任せるよ」

 

 これは眠っている間に二人で決めた事だ。殺されそうになったけど、殺されなかった訳で。でも、殺そうとしたのは事実。それで、どうするのが良いのかって話になって、この国の決まりを知らないから当然決められない。だったら、村に行くからそこで決めれば良いかって事になった。

 

 「どうせ村に連れて行かれたって、碌な扱いにはなれねえよ」

 

 「俺たちにとった行動を考えれば、当然だとは思うけど?」

 

 「ちっ、しゃーねえな。こっちは負けたから従うしかねえか」

 

 「ほら、もう立てるだろ。行くぞ」

 

 はあ、折角楽しい事への期待で心躍ってたのに。何でこんな事になるんだか。最初からこれだと不安で仕方ないな。

 

 「(だから言ったでしょ? お約束だって)」

 

 何だかキューカが自慢げに胸を張っている姿が思い浮かぶが、気にしたら負けだ。まだ、村にも着いてないってのに。こんなのがお約束だとしたら、続くって事も……。いやいやいや、流石にそれはないだろ。

 

 「(お・や・く・そ・く)」

 

 「(くっ、こんな事が続くのがお約束だって言うのか? もしかして、記憶を引継いだからか? それとも、オクヤマ様に逢ったからか?)」

 

 「(さあ? それは分からないわね。ただ)」

 

 「(ただ?)」

 

 「(前の貴方なら、こんな事に巻き込まれるなんて、なかった事は確実よね)」

 

 「(!!)」

 

 そんな事言われても少しも嬉しくない。寧ろ、これからが一層不安になるのは避けられない様だ。

 

 「ナック、何だかすまんな」

 

 「は? どうしたんだいきなり。何か謝られる事したか?」

 

 「いや、何でもない」

 

 いきなりこんな事言われても、さっぱり分からないだろう。ナックも首を傾げてるし。

 

 はああ、不安だ。


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