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天界にて-再会-

 収穫祭は楽しかった。普段、交流があった人だけじゃなくて、たくさんの人が集まった。出店はないけども、夏祭りの様だった。ここには現世の娯楽、パソコン、テレビゲーム、カラオケ、ボーリング等がないから皆で集まってどんちゃん騒ぎ位しか楽しみがないんだろう。でも、逆にそれが良いのかもしれない。会社員になってからの飲み会と言えば、半ば義務で出ていただけだ。あそこでは作り笑顔に上司の顔色を伺っていた。解散の時には”やっと”終わったって思ったのに、ここでは”もう”終わってしまった、になる。でも、次があるって分かってるから明日からも頑張れるんだよな。

 

 収穫祭では集まって騒ぐだけじゃない。新しい人の紹介や去って行った人のお祝いなどもある。そして、収穫祭って名前だから各々が収穫したものを持って行き、交換するのだ。ここには貨幣経済なんてものはないから、現物交換が当たり前なのだ。うちは米だから皆こぞって交換していく。基本的に主食だからね。川魚は数は少ないが獲れる事は獲れるのだ。しかし、時々猟師や漁師がいて、猪や秋刀魚が獲れる事もある。その時は交換合戦が凄いのだ。皆、肉は食べたいのだが、罠の仕掛け方や捌き方が分からないので中々仕事にはできないのだ。そして、海魚ともなれば、造船しなければならず、これも手が出せないのだ。だから、肉、海魚が獲れた時は収穫祭が一層盛り上がるのだ。そんな収穫祭も10回経験した。新しい出会いもあったし、もちろん別れもあった。そこには高木さんもいた。高木さんは6回目の収穫祭の後に別の所に行ってしまった。ここでの生活や知識を教えてもらい感謝している。別れは悲しいが、輪廻に戻る為なので、祝福した。

 

 しかし、11回目の収穫祭の前に事故は起きた。

 

 それはいつもの朝、仕事に出掛けようと思ったら奥山様から呼び出しがかかった。戸を開けると、奥山様と見慣れない女性が立っていた。恐らく新しい入居者で、俺が指導役となるので紹介として連れて来たのだろう。だが、いきなりその女性が素っ頓狂な声を出したのだ。

 

 「大輔!?」

 

 ん? 俺を知ってる? 呼び捨てにする位だから、知ってるって事だよな。でも、今の姿は20歳前半だから、大学生時代の知り合いか? いや、理系でサークル活動してなかったから、女性の知り合いなんていなかったし。じゃあ、もっと前かな? うーん、見覚えがないなあ。そんな事を思っていたら奥山様が、それではと言って去ってしまった。残されたのは放心状態の女性と俺だけ。

 

 「まあ、立ち話も何なんで。中で説明するよ」

 

 

 ここでの生活の説明をするはずだったのに、どうしてこうなった。なんで俺が正座して怒られてるんだよ。

 

 いやあ、紹介された女性が母親だなんて分かるはずないじゃん。昔の写真は見た事はあったかもしれないけども、覚えてるわけないじゃないか!! それに、健康そのものだったから、ぽっくり逝くなんて想像すらできないわ! ……はあ。。。

 

 「で? どして自殺なんかしたの?」

 

 「今更、それ聞く? もう終わった事じゃん」

 

 「はああ? 今更? 終わった? こっちは何も知らないうちにあんたが死んだんだよ! あんたに取っては終わった事かも知れないけど、こっちは気持ちの整理も付いてないんだよ! 理由を聞きたいってのは親なら当たり前だろ! ……はあ、誰に似たんだろうねぇ、全く」

 

 「いや、今では悪いとは思ってるけど、死んだんだからそれで良くない?」

 

 「悪いと思ってるなら理由位言いなさいよ。それに死んで、はい、終わりってわけにはいかないんだよ。死んだ後の事考えた事あるか? 遺品整理もそうだし、葬儀、お友達への連絡などもあって大変だったんだからね」

 

 「死ぬと決意した時には、後の事は何も考えてなかった。死んで楽になりたい一心で」

 

 「はああ、そこまで追い詰められての自殺か。親としてはね、自殺する前に相談位して欲しかったよ。ついこの前にも家族で会ったのに、いきなり警察から死亡したと連絡受けたこっちの身にもなってみて欲しいね」

 

 「すみません。まあ、仕事で失敗したのを切っ掛けに、段々と気が滅入ってきて。自分でもこれじゃあ拙いなと思って心療内科に通ったんだよ。そこで鬱だって診断されて。最初は薬で持ちこたえてたんだけど、もう気持ちとの折り合いが付けられなくて自殺を選んだんだ。こんな姿を家族に見せたくなくて、いつもより明るく接してたんだ。本当に、すみません」

 

 「はあ? 鬱? ……まあ鬱なら仕方ない……って言うと思ったの? それでも、それでも相談してくれれば。例え相談しても、自殺を選んだかも知れない。けどね、子供の危険だって言うサインに気付かないなんて親失格だよ。親より先に死ぬなんて、親不孝の何者でもないよ、全く」

 

 母は少しは納得した様で、矛を収めてくれた。結果は変わらない、けども何とか出来たんじゃないかって思いがあるんだろう。

 

 「今、思うと、さ。死んだからかも知れないけど、冷静になると、相談していればって思うよ、うん。家族、友人、同僚、話す相手なんているのにさ。でも、弱い自分を見せたくなかったんだ。それにね、負の感情に支配されると、行き着く先は死だけなんだよ。そこから好転する事なんて考えられなかったし。何より、死という結論が出ると、案外すとんと納得できるものがあったんだ」

 

 「今更、弱いだのなんだの。散々見てきたよ。……でも、あんたも社会に出て一端の大人になったんだから、そりゃ嫌な事や失敗なんて私の想像外か。それを理解しろって方が無理か」

 

 「うん、すみません」

 

 「はああ、警察からの連絡だって嘘かドッキリ位にしか思えなかったし。あんたの遺体を見た時は、心臓が止まるかと思ったよ。どうして死なんて選んだのか、どうして相談してくれなかったのか、そこまで親として信頼されてなかったのかって、お父さんと自分を責めたよ」

 

 「うう、重ね重ねすいません。ところで、何でここにいるの? 俺の記憶だと、健康診断でも異常ないって聞いてたし」

 

 「ん? うーんと。葬儀関係が終わって暫くは普通に過ごしてたんだよ。七回忌の後に久しぶりに旅行に行こうって事になってね。お父さんと二人で。どこだったかな、高速道路で追突されたんじゃなかったかな? そこ等辺の記憶は曖昧だけど、たぶん交通事故だったと思うよ」

 

 「何だ、交通事故か。いや、健康そのものだったのにぽっくり逝くはずないのに何でだろうって思ったからさ。それに、少なからず俺の事も関係してるのかなって少し思ったから」

 

 「そりゃあ、あんたの事で落ち込んだよ。でもね、ここで自分たちまで死んだら何考えてんだって思われちゃうよ。まあ、気持ちの整理もついたし、七回忌も終わったしって事で気晴らしの旅行だったんだけどねえ。どうしてこうなるんだか」

 

 「宝くじにも当たらないのに、交通事故とはね。人生何があるか分からないね」

 

 「お前が言うな! ……全く。ああ、そうだ。もしかしたらお父さんも来るかもしれないから、会ったら精々怒られるんだね」

 

 「……え? ナニソレキイテナインデスケド」

 

 「あ? さっき言ったじゃないか。一緒に旅行に出かけて、追突されたって。もちろん同じ車に乗ってたんだから可能性としてはあるじゃんよ」

 

 「いやあ、それまで俺ここにいるか分からないし」

 

 「まあ、その辺はさっきの、えっと……奥山さんが気を利かせてくれるんじゃないか?」

 

 「お、おう」

 

 もしかして、家族だったからという理由で、指導役という名の親子の再会を演出したのか? そんな変な空気読まなくて良いのに! 一番会いたくない人だったよ!

 

 ちょっと待てよ。もし親父が死んでいたら、ここに来るって事だよな。そして確実に親子再開を演出するだろう。もし、もしだよ。親父に会わせる為にここにいる期間の延長なんかを画策してたりして。

 

 「はは、そりゃ、ないよな」

 

 もう乾いた声しか出てこない。何が悲しくて怒られなきゃならないんだ。怒られるなら一度にして欲しかったと思うのは我侭だろうな。

 

 「ああ、あんたに一個言い忘れてたよ」

 

 「何? もう何聞いても驚かないからさ」

 

 「孫、見せてくれなかったね」

 

 「……そんなこと?」

 

 「そんな事ってなんだい。こっちは孫の誕生を待ってたのに、結婚もしないで親よりも早く死んでしまうんだから」

 

 うう、墓穴を掘ったか。はあ、この感じだと親父にも怒られるんだろうなあ。憂鬱だ。早く奥山様、迎えに来てくれないかな? 淡い期待だろうけど、さ。


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