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準備

 弓は精霊樹で作るから、これ以上の物は用意出来ないだろう。だけど、矢はどうしようか。矢羽はフォコを使ってるけど、どの羽が良いんだろうか。鏃も今は石だけど、形状も含めて何が良いんだろう。弓が最上の物だけに、他が劣ると威力に影響があるだろうからなあ。

 

 「弓は精霊樹で作るとして、矢羽とか鏃はどんなのが良いのかな?」

 

 「そうだな。精霊樹の弓を使った事がないから分からないけど、多分精霊術を一番伝えやすいと思うんだ。だから、他が多少悪くても、何とかなるとは思うんだ」

 

 「ええ、そうなの?」

 

 「(そりゃそうでしょ。私達精霊が常にいるんだから、精霊術に馴染みは他の樹の比じゃないわよ)」

 

 「これから削る所からやるから、想像なんだけどね」

 

 「今ね、精霊長様が言ってたんだけど、精霊術に馴染みは一番良いらしいよ」

 

 「やっぱりそうか。だったら、他は今まで通りでも問題ないと思うけど?」

 

 「まあ、使い慣れている方が良いとは思うけど。でも、弓が最上の物なんだから他も拘りたいんだよ。それで、生き残るかも知れないし」

 

 そうなんだよ。この前のオールスはオクヤマ様が用意したから、死なない様になってたらしいけど。これからはそうじゃない。見た事もない動物に予想も出来ない動きをされたら、対処出来ないで死にそうだ。装備には妥協は出来ない。過剰位で丁度良いと思う。

 

 「それは……あるね。私も装備に助けられた事は一度や二度じゃないしな。そうだね。何があるか分からないから、今用意出来る最上の物にしよう」

 

 一瞬思案顔だったけど、旅での事を思い出したんだろう。俺の言った事が正しいと分かったんだ。やっぱり、旅に出た事があると違うな。

 

 「弓の手入れとか矢の作り方は教えてもらったけど、どんなのが良いの?」

 

 「そうだなあ。んー、何が良いかな?」

 

 今度は何かを思い出す様に、目を瞑って唸っている。今は精霊長様に許可を貰って、数本枝を頂いて広場の一角にいる。精霊殿には全員で行ったからここにも全員でいる。

 

 「矢羽は鷲が良いんじゃないかしら?」

 

 「それが最上なんだけどさ、予備ってあったっけ? 全部矢羽にしてなかった?」

 

 悩んでいる父さんに母さんが助言をしてくる。鷲って何だ? 初めて聞いたぞ。ここら辺ではいないのかな?

 

 「(私も初めて聞いたわね。この森にはいない鳥みたいね。でも、名前だけなら記憶にあったわよ)」

 

 「(へー、キューカでも知らないんだ。因みにどんな鳥なの?)」

 

 「(そりゃそうよ。私の世界はこの森だけなんだから。見た目はこっちとは比較出来ないから省くけど、鳥の中では王者として君臨していたみたいよ)」

 

 「(王者!? そう聞いただけで強そうだな。でも、こっちとは違うんだろうな)」

 

 そんな事をキューカと話してたら、どうやら羽の予備はまだある事が分かった。次は鏃を何にしようかって事に移っていた。

 

 「鏃はどうしようか」

 

 「それは今まで通りで良いんじゃない? 矢羽は手入れをすれば長く使えるけど、鏃は壊れる事もあるでしょ? 他の物にすると手に入らない可能性もある事だし」

 

 「それもそうか。じゃあ材料は今まで通りの石で、旅先で良いのが見付かったらそれにすると言う事で」

 

 「分かった、そうするよ。形はどんなのが良いの?」

 

 「んー、石で作るのは全部教えたからな。もし他の材料で作る時が来ても、基本は石で作ったのを工夫するだけだからね」

 

 「そっか、じゃあ弓を作ろうかな。手伝ってくれる?」

 

 「当たり前さ。ここで作ると目立ちそうだから、家に戻ろうか」

 

 

 

 それから家に戻り、弓の作成に取り掛かる。今までは父さんが削って形を整えて、ただそれを組み立てただけだ。今回は最初から作るつもりだ。恐らく死ぬまで使う事になるだろうから、父さんだけにやらせる訳にはいかないんだ。

 

 ……ここで弓が出来上がりましたって言えれば良いんだけど、現実は違うよね。

 

 「それで、何からやれば良いの?」

 

 「先ずは縦に同じ太さになる様に、割ってくれ。予備も含めて二、三は作っておきたいね」

 

 「一つじゃないの?」

 

 「そうだよ。こんなに素材が良いから、壊れる事はそうそうないと思う。だけど、旅に出ると思わぬ事で壊れたり盗まれたりするかもしれないからね。獲物を狩ってる時に壊れるかもしれないからね。その度に戻ってくる訳にはいかないでしょ。予備はあるに越した事はないよ」

 

 「それは旅に出て経験した事?」

 

 「そうだよ。常に万全の状態で狩れるとは限らないからね。多いと思う位用意しておいた方が安心出来るね」

 

 なるほど。狩りの途中で弓が壊れても、ここなら直せるし、不意に襲われる事はないだろう。だけど外ならば、何があるか分からないから、常に安心出来るとは限らないか。

 

 「分かった。長さってどの位が良いの? ここで使ってるのと同じ位にする?」

 

 「いや、少し短めにしよう。剣と違って仕舞える訳ではないし、取り回しを大切にしよう。それに、少し短くしたからって威力は落ちないよ。それどころか、精霊樹だから今までよりは上がると思うよ」

 

 

 

 それからが長かった。割った樹を乾燥させたり、張り合わせたりと色々な工程があった。前は組み立てただけとは言ったけど、それは本当に最後の糸を張る事しかしていなかったんだ。だから、こんなにも大変だとは思っていなかった。

 

 でも、今回は初めて最初から作ったから、いつもより愛着が沸くな。前のもそうだけど、荒い使い方なんて出来そうもないな。

 

 「取り敢えず形は出来たけど、まだ完成じゃないから。これから実際に使って調整していく感じだね」

 

 ……まだだった。そりゃそうだよな。形だけ出来ても、使えないんだったら意味ないしな。

 

 「分かった、ちょっと狩りに行って確かめてくるよ」

 

 「こらこら、逸る気持ちも分かるけど、いきなり狩りは駄目だ。先ずは、的に向かって試してからだ。真っ直ぐに飛ばないかもしれないし、引いた時に折れるかもしれないからね」

 

 「分かった、じゃあ広場で試してくるよ」

 

 「私も行くよ。どこを調整しないといけないか見極めないと駄目だからね」

 

 

 

 「どうだい? 調子は」

 

 「そうだねえ。短くなったから今までの感覚とは違うのは当たり前だけど、少しだけ横にズレるね」

 

 「他はどうだい?」

 

 「他は……ないかな。不思議と手に馴染むんだよね。こう、今まで使い慣れた弓って感じがするんだよ」

 

 「ふむ、なるほど。じゃあ、精霊樹との相性は良さそうだね。次は精霊術を使って試してみて」

 

 

 「……あれ? 前のと違って、精霊術がしっかりと弓全体に伝わってる感じがする」

 

 「前はどうだったんだい?」

 

 「精霊術を使っても、弓全体にはいかなかった。何て言うのかな、持ち手の所には伝わってたけど、それ以上は何かが詰まってる様な感じだったね」

 

 「流石は精霊樹ってとこだね。普通はどんどん馴染ませていくものなんだけどね。それが出来ると、弓の手入れも最小限で大丈夫かな。ただ、強化をすると固くなって壊れやすくなるから注意な」

 

 「え? 強化だから、弓が長持ちして威力も上がるだけじゃないの?」

 

 「違うんだよ。強化すると固くなっちゃうんだ。弓にとっては致命的だね。程好く固くて、程好く弾力があるのが良いんだよ。だから、威力が上がるからといって強化だけするのは弓を壊す事になるんだ」

 

 「へー、そうなんだ。知らなかったよ」

 

 「まあ、これは誰でも経験する事なんだ。普通は壊して覚えるんだけど、精霊樹だからそうも言ってられないからね」

 

 「そうなんだ、それじゃあ必要のない時以外は使わない様にするよ」

 

 「そうだね。後は旅で身体で覚える事だね。それじゃあちょっと調整しようか」

 

 なるほど、強化って言うから弓も強くなるだけかと思ったら、壊れやすくもなるのか。知らなかったら壊してただろうな。これから旅をするのに、途中で壊れたら困るってもんじゃないぞ。壊れた理由が分からないから、予備も同じ様に壊しそうだし。

 

 「(キューカは知ってた?)」

 

 「(知らなかったわね。でも、普段の時と強化した時だと、弓の悲鳴と言うのかしら、音が違ってたわね)」

 

 「(悲鳴? そんなの聞こえないけど)」

 

 「(まあ、私も微かに聞こえる程度よ)」

 

 「(じゃあ、父さんに言った様に使わない様に心掛けるよ)」

 

 「(そうしなさい。精霊樹なんだから、普通のよりは壊れ難いとは思うけど、壊れない方が良いんだから)」

 

 その後、軽く調整をして違和感がなくなったから狩りに出掛けた。実際に走り回って使わないと、取り回しとか本当の意味での確認が出来ないからな。

 

 

 

 「ねぇねぇ。アロが新しい弓を作ってたんだけど、どうしてかな?」

 

 「んー、何でだろ。前のだって壊れたって聞いてないし」

 

 「それにあの樹。良い樹でも見付けたのかな?」

 

 「そうだよな。アロの体格が大きくなった訳でもないし。それに、前のより小さくなってないか?」

 

 「そうだよね? 小さくするって事は、小さくても威力が落ちないって事だよね? 後は何だろ」

 

 「あの樹に秘密があるんだろうな。ここで悩んでても仕方ないな。広場に戻って来たらちょっと聞いてくるか」

 

 

 

 「なあ、何で弓を新しくしたんだ? 前のより小さくなってる様だけど、その樹に秘密があるのか?」

 

 「いや、秘密はないよ。樹って言うよりはこれからの事を考えて新しくしたってところだな」

 

 「これからの事?」

 

 「うん。俺さ、森を出て旅をしようと思ってるんだ」

 

 「「え?」」

 

 アロって森の外には興味なかったよな。前にそんな事を言ってた様な。二人揃って、アロを見詰てしまった。

 

 「どうして急に? 外には興味ないって言ってなかった?」

 

 俺が言いたい事を言ってくれたな。どうしてだ?

 

 「んー、理由かあ。確かに外に興味はなかったよ。だけど、契約した精霊に森の中だけじゃなくて、外を見せたいって思ってな」

 

 何だろう、この何とも言えない感じは。嘘を言っている様には感じないけど、本当の事も言ってない様な。……あ、右上をチラっと見て左下を見たな。これって嘘を言う時にする癖だよな。と言う事は、俺たちには秘密にしたいんだろうから聞かない方が良いか。

 

 「そうだったのか。俺は最初から外に行くって決めてたから、一緒に行こうぜ」

 

 「そうだな。俺もそう思ってたんだ。やっぱり一人だと心配だからな。ナックがいると心強いよ」

 

 「えー、アロも行っちゃうのか。何だか寂しくなるね」

 

 「それだったらキューも一緒に行くか?」

 

 「いい。外には興味ないし。ここで楽しく暮らせれば良いよ」

 

 アロが誘ったけど、一緒には来ないか。そりゃそうだな。前にそんな事言ってたしな。

 

 「俺は弓を新しくして、準備は大丈夫だけど、ナックはどうなんだ?」

 

 「俺も問題ない。いつでも行けるぞ」

 

 「分かった、じゃあ近々行こうとするか」

 

 そう確認すると、アロは家に向かって行った。うん、アイツが一緒だと心強いな。それに、一緒に行かないかなって思ってたし。アイツが行く気になってくれたのは嬉しいな。

 

 

 

 ふう、あぶねー。適当な事言ったけど、誤魔化せたかな。まあ、大丈夫だよな。嘘は言ってないんだし。

 

 「(……)」


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