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回想 参

目線 → 視線 (2018/1/19)

読点重複を削除 (2018/2/24)

 「旅の注意は教えられるけど、自分で経験しないと身に付かないからね。後、各地の名所や食べ物等も自分の目で見て肌で感じて欲しいから、敢えて言わないでおくよ」

 

 「そうだね。注意されても覚えているかと言われると自信ないし。死なない程度に痛い目に合わないと駄目だよね。旅での思い出は帰って来たら一杯話すよ」

 

 「旅の事はこんな感じだけど、他に何か聞きたい事ってある?」

 

 「んー、もうないかな。あ、そう言えば、父さんが旅をする切っ掛けを教えて欲しいな」

 

 「言わなかったか? 前の族長に森の外の事を聞いて旅に出る事にしたんだ」

 

 「それは聞いた事あるよ。その族長はどんな人だったの?」

 

 「ああ、あの人は族長だったんだけど、纏め役は今の族長がやってたね。何かこう、人を惹きつける人だったね」

 

 「ふーん、その人は森にずっといなかったの?」

 

 「そうだね。ずっと旅したがってた変わった人だったね。私が生まれる前にも旅してたんだけどね、次にいつ旅するか狙ってたね」

 

 「狙ってたって?」

 

 「族長とは言われてたけど、皆を纏めるとかは苦手だったみたいで、早く族長の座を譲りたがってたよ」

 

 確かに変わってるなあ。森人って森から出たがらないのに、何か外に魅力を感じたって事か。

 

 「その人は今どこにいるの?」

 

 「また旅に出たんだけど、どこに行ってるのかは分からないね。私が旅してた時に組合に情報がないか聞いてみたけど、なかったね」

 

 「死んでるとかはないの?」

 

 「それはないね。アロもそうなんだけど、生まれたら樹との連環の儀式を行うんだ。そうすると、離れていても生死は分かるんだよ。もし、死んだら対になってる樹は枯れるんだ。でも、枯れていないって事は死んでないって訳だよ」

 

 ええ!? 何その不思議な現象。そんな儀式やったかな? それも精霊術なのかな?

 

 「(生まれて直ぐに儀式をやるから、見た事がなくても不思議ではないわね。精霊と契約すると大人と認められるから、それに合わせて対の樹に引き合わせるのが慣習らしいわよ)」

 

 「そんな儀式があるなんて初めて知ったんだけど」

 

 「ああ、教えてなかったか。でも、精霊と契約してから合わせるのが慣習だから、旅に出る前に合わせるよ」

 

 「分かった、楽しみにしてるよ」

 

 「そんな訳だから、アロに何かあったら樹の成長に影響があるんだよ。だから、離れていてもアロの無事は確認出来ると言う訳だね」

 

 ふむ、そんな不思議現象があるなら手紙なんて送らなくても大丈夫か。余裕があったらその人の事も探してみるかな。

 

 「ねえ、その前の族長ってどんな特徴があるの?」

 

 「んー、最後に見たのが子供の頃だから変わってると思うけど。金の長髪で瞳は金、背はトプロ位で細いけど痩せている訳ではないね。でも、筋肉はしっかりと付いてたね。精霊はあの時で樹と地と水と風とは契約してたかな」

 

 うわ、四属性と契約してるんだったら、簡単には死なないだろうな。

 

 「名前は何て言うの?」

 

 「アーク・レントだよ」

 

 「分かったよ、一応覚えておくね。因みにその人が旅に出たのってどれ位前なの?」

 

 「んー、二百十年位前かな」

 

 「そんなに前なの?」

 

 「そうだよ、子供の頃に旅に出て行ったからね」

 

 今まで聞いた事なかったけど、父さんってそんな年だったんだ。と言うか、皆の年知らないな。森人の寿命って幾つなんだ?

 

 「ねえ、今さら何だけどさ。森人って寿命どれ位なの?」

 

 「そうだなあ。はっきりと言えないけど、数千年じゃないかな」

 

 「数千!?」

 

 え? 何それ。俺も森人なんだけど、異常でしょ。ダイスケの世界では精々百年だったはず。それを考えると数千年って。あっちとこっちで違う所が殆どだけど、絶対に違うと言い切れるのは精霊だ。もしかして、精霊が寿命と関係してるとか?

 

 「そんなに驚いているって事は、これも言ってなかったかな」

 

 「うん」

 

 もう、頷くしか出来ない俺を責める事は誰にも出来ないと思う。自分の事なのに、こんなにも知らない事だらけとは。もしかして、自然と分かってくるものだったのかな。

 

 「まあ、そんな訳だから、あの人が寿命で死んでいる事もないんだよ」

 

 そりゃそうか。数千年だったなら、高々数百年なんてあっという間って言う感覚なんだろうな。

 

 「まあ、一応組合にも聞いてみるけど、約二百年前の事なんて誰も知らないでしょ。資料として残してるとも思えないし」

 

 「生きてるって分かってるから、無理に探さなくて良いよ。あの人の事だから、忘れた頃にひょっこりと帰ってくるだろうしね」

 

 「ふーん、そんな人なんだ。まあ、一応聞いてみるだけ聞いてみるよ。旅に関しては聞きたい事は聞けたかな」

 

 「そうだね、後は自分で確かめると良いよ」

 

 

 

 「これがさっき言ったアロと対の樹だよ」

 

 旅の事を聞き終えたので、広場にある俺の対になる樹の前まで来た。

 

 「何と言うか、小さい樹だね」

 

 目の前にある樹はちょうど視線の高さの小さな樹だった。高さもなく幹も細い。だけど何だか親しみを感じる。森に生まれて森で生活しているから、樹は身近に感じているんだ。だけど、この樹は他の樹よりも近い不思議な感じがする。

 

 「それはそうだろう。アロは生まれたと同時に植樹したんだからね。だからこの樹はアロと同じ年なんだよ」

 

 そうか、それだったら小さくても納得だな。俺って生まれてまだ十五だからな。もうすぐ十六だと思うけど、それでもまだ小さいな。

 

 「ねえ、僕っていつ生まれたの?」

 

 「いつ? んー、ここにははっきりとした暦がないから、いついつとは言えないんだよな。でも、新しい樹が芽吹いた頃だったな」

 

 「そう言えば、記憶にあったんだけど、生まれた時を祝う様な事があったんだけど。ここにはないよね?」

 

 「そうだね。いつ生まれたのか明確には分からないから、大体で年を取ったんだなって思う位だね。森人って寿命が長いから、そこ等辺は大雑把なんだよ」

 

 確かにそうだ。俺だっていつ生まれたのか気にしてなかったしな。祝われた記憶がないのもあるかもしれないな。

 

 「でも、生まれて無事に五年経ったら、祝うよ?」

 

 「え? そんな事したっけ?」

 

 「したよ。まあ、小さかったから覚えていないだろうけどね。いつもより食事が豪華な日がなかったかな? その日はトプロ達もいたんだけど」

 

 「……ああ、思い出した! 何故か兄さん達がいるなあとは思ってたけど、そうだったんだ」

 

 旅に出ると、いつ生まれたのか分からないな。新しい樹が芽吹いた頃って、曖昧だよなあ。まあ、年を重ねる事を祝うなんて事はしないから別に良いか。

 

 「そうだ、旅に出るんだから、少しでも良い弓を持った方が良いな」

 

 「そりゃそうかもしれないけど、どうするの?」

 

 「私の樹を使おう。流石に精霊樹よりは劣るけど、私の樹だって大したものだと思うよ?」

 

 精霊樹に比べたら、どの樹だった劣るよ。精霊樹と言っても、他の樹と変わりはない。精霊殿があるから精霊樹と呼ばれているだけだ。でも、父さんの樹だって二百年以上経ってるから立派だよな。まあ、下手な弓を持って死ぬよりは、最初から良い弓を持つ方が良いか。

 

 「(それなら、精霊樹にすれば良いんじゃないの?)」

 

 「(え? 良いの? と言うか、それって俺を特別扱いしてる事にならない? 俺に弓を作ったら、集落全員に作らないといけなくならない? それに、今の精霊長様に何も言わないで決めても良いの?)」

 

 「(そ、それは……確かにそうね。貴方だけに作るのは良くないわね)」

 

 「(でしょ? 折角父さんの樹で作ってくれるって言ってるんだから、そうするよ。精霊樹で作ったなんて知られたら、大変な事になりそうだし)」

 

 「(あ、でも。前の精霊長様の時も弓を作ったから良いんじゃない?)」

 

 「(それなら良いのか? 因みに前の精霊長様が契約した人って誰なの?)」

 

 「(イーブよ。確か今の族長のはず)」

 

 「(ええ!? そうだったの? 知らなかったな。じゃあ、一応族長に聞いてから、今の精霊長様の所に行こうか)」

 

 「父さん、弓の事なんだけどさ。精霊長様が精霊樹を使ったらどうかって言ってるんだけど、どうかな?」

 

 「ええ? 良いのかい? それが出来たら最高なんだけど」

 

 「前の精霊長様と契約した族長も精霊樹を使って弓を作ったんだって」

 

 「ええ!? そうなのかい? 弓を見せてもらった時に凄い年数が経った樹だとは思ったけど、まさか精霊樹とは。それだったら納得も出来るな。じゃあ早速族長の所に行こうか」

 

 

 

 「と言う訳で、精霊樹で弓を作りたいと思います」

 

 父さんと二人で来て、旅に出る事や俺が精霊長と契約した事を話して、精霊樹で弓を作りたいと願い出たところだ。

 

 「ふむ、アローニが精霊長様と契約したとはな。お前達が契約した後に精霊殿に行った時、精霊長様が交代してたから、誰かが契約したとは思っておったが」

 

 「じゃあ、私が契約したって皆には知られていますかね?」

 

 「ん? まあ、特定される事はないだろ。精霊殿は定期的に手入れがあるから、気付くヤツは気付くさ。だが、誰かまでは気付けまい。今でこそ知ってるヤツは知ってるおるが、当時はワシが契約したなんて知らなかっただろうさ」

 

 「じゃあ、安心ですね。精霊長様と契約して、尚且つ精霊樹で弓を作るとなると余計な注目がされますからね」

 

 「まあ、注目はされるが誰も文句は言わんよ。アローニが決めて精霊長様と契約した訳ではなし、精霊樹で弓を作るのだって精霊長様がお決めになった事だ

 

 「はあ、そう言うものですか」

 

 「うむ。だから、ワシに許可なんていらんよ。精霊長様が良いと言ったならば良いのだ。」

 

 「分かりました、では早速精霊殿に向かいますね」

 

 「ちょっと待つのじゃ。お前さん、旅に出るんじゃろ? だったら、アーク様を見付けたら帰って来る様に言ってくれんか」

 

 「父さんにも聞きましたけど、戻った方が良いんですか?」

 

 「そりゃそうだ。あの人はワシに族長の座を譲って、一人で旅に出てしまわれた。ワシも連れて……いや、本来はワシなんかが族長になるべきではないのだ。だから、頼む。見付けたら必ず帰って来る様に言ってくれんか」

 

 族長の座を譲られた事よりも、楽しそうな旅に行けなかった事の方が重要なのかな。

 

 「分かりました、一応見付けたら言ってみます。でも、約二百年前に出て行ったんですよ? 見付からないと思いますけど?」

 

 「まあ、そうなんじゃがな。それでも、一応は言っておこうと思ってな」

 

 「期待しないで下さいね」

 

 

 

 こんな感じで精霊樹で弓を作る事を族長に話した後に、今の精霊長様にお願いに行ったら、簡単に許してくれた。と言うよりも、樹は集落の全員に弓を作っても枯れるなんて事はないから、作って構わないとの事だった。精霊樹で弓を作るのは、別に精霊長様と契約しなくても良いらしい。そんな決まりはなく、集落の人達の間で決めた事らしい。だから、気に入った人がいたら、許可すると言っていた。精霊長様が交代すると、考え方も変わってくるのかな。


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