回想 弐
受け → 請け (2017/11/1)
「冒険者と依頼に位階があるのは分かったんだけど、父さんが言ってた楽団とかの位階ってどうなるの?」
「ああ、それな。冒険者と言っても全員が荒事をする訳ではないし、依頼も荒事だけじゃない。だから、冒険者としての位階が上だからと言って能力が上って訳じゃないぞ」
なるほど。確かに依頼が何でもありだとするならば、全員が戦闘特化というのも可笑しな事か。戦闘が主じゃない人達が位階を上げる理由って何だ?
「そもそも、位階を上げる理由って何かあるの?」
「位階が上がれば、位階が上の依頼を請けられる。上の位階って事は報酬も良いって事だな。後、位階が上がると自然と有名になってな、依頼を指名される事もあるぞ」
依頼を指名? どうして有名になるんだ? 組合の人が情報を誰かに流してるのか?
「冒険者の位階とかの情報って公表されるの?」
「いや、基本公表はされない。誰がどの位階でどの程度稼いでいるかは秘密だな。ただ、位階だけはどうしても知られてしまうんだよ。まあ、依頼達成の後に酒場によると自慢したがるんだよ」
ああ、なんとなく分かる気がするな。苦労して達成したら、口も滑らかになるんだろうな。それで俺の方が上だ、いや俺の方が上だってなるのかな。
「確かにどれだけ稼いでいるか何て知られたら、面倒な事になりそうだね。指名での依頼って請けた事ある?」
「面倒だぞ。まあ、位階が上って事が知られると、稼いでいるんだから酒位驕れってなるな。後、指名は請けた事あるぞ。確か、町への移動の護衛だったかな」
「ああ、あったわねえ。依頼は大した事なかったのよ。でも、その後がねえ」
「その後?」
「自分専用の護衛にならないかって誘われたんだよ。ミラ何かは、結婚してくれって言われてたぞ」
「へー、格好良い人だったの?」
「全っ然! 直ぐに汗を掻く程太っていたわね。顔も好みじゃなかったし。何より嫌だったのは、ジロジロと嫌らしい目で見てくる事だったわね」
うわ、余程嫌だったんだろうなあ。しかめっ面だよ。
「それで、指名の依頼って位階関係なく請けられちゃうの?」
「んー、態々下の位階のヤツを指名する人なんていないからな。でも、冒険者の位階に合わない依頼だったら、組合側で断りを入れるな。後、指名依頼だと、普段よりも報酬は良くなるぞ」
「確かに低い位階の人に依頼をするってのも変だもんね。指名を拒否したらどうなるの?」
「拒否か。俺達は拒否した事ないから実際は分からないけど、嫌がらせはあるみたいだぞ」
「ど、どんな?」
「まあ、聞いた話なんだけどな。依頼を請けられない様に組合に圧力を掛けるとか、町の商品の価格を上げたり、そこで活動出来ない様に悪い噂を流すとかだな」
うわ、何その陰険なやり方。もしかして、自分が指名してるんだから、断るなんて思ってないのかな。自分が指名する事は名誉なんだぞって思ってそうだな。
「それじゃあ移動するしかないね。組合は何もしないの?」
「しないな。と言うよりも、出来ないな。基本、組合は国や町に縛られない独立した組織なんだよ。だけど、そこで働いている人はその土地の生まれの人が多いから、依頼した人に抗議に行くとその人まで嫌がらせの対象になっちゃうんだよ」
「じゃあ、指名の依頼は断らない方が良いって事?」
「だな。何か相手も納得する理由があれば別だがな」
むむ、それは難しいな。依頼を達成していけば位階は上がる。そうすると、自然と有名になっていく。そうなると、指名をされやすくなる。その土地の権力者だと面倒になりそう、と。位階がどうって話さなければ良いのでは? いや、話さなくても何故か広まっちゃうもんだろう。
「なんだか、私の頃よりも面倒になったみたいだね。私の頃なんか、指名とか位階なんてものはなかったからね」
「そうねえ、私達が旅してたのは随分と昔だけど、結構変わってるのね。私達は良い時に旅をしたのかしら?」
「んー、どうだろ。俺達は何でも屋の時を知らないから比べられないから。でも、依頼の内容は何でも屋の時と変わらないと思うよ。それに、町から町への護衛とかで、危険が少なくなって色んな品が流通してるのは良い事かな」
「なるほどねえ。私達の頃は、欲しい品がある時は直接買いに行ったものだよ。特に剣とか宝石類はタルパが一番だったからね。良いのはタルパの中心に行かないと売ってないしね」
「今でも剣はタルパが一番だと思うよ。でも、剣とかは流通する様になったけど、研ぐ人はタルパからは出てないみたいだね。だから、使い慣れた剣を手放して新しい剣を買うってのが普通かな」
「町には剣を研ぐ人はいないの?」
「いる事にはいるんだよ。だけど、タルパの鍛冶の腕は一番で、依頼すると切れ味が悪くなる事の方が多いんだよ。だから、新しく剣を買うか、タルパまで戻るかだな」
うーん、確かにそれだと新しい剣を買った方が良いか。自分の命を預ける物だから、少しでも良い物を要求するのは当たり前か。金をケチって死ぬ位なら、安いものか。
「荷物はどうしてたの?」
「どうしてたって、運ぶしかないじゃないか。違うのかい?」
「記憶にある物語の事何だけどね、荷物は別空間に収納していつでも取り出せる様にしてあったんだ。だから、そんな便利な方法というか物があるのかなと思って」
「んー、そう言うのは聞いた事がないぞ。別空間って言うけど、それってどこだ? アロがこことは違う世界からの、生まれ変わりって事を聞いて初めて違う世界があるんだなって思った位だからなあ」
そりゃそうだよな。そんな方法があったら誰でも使いたいよな。キューカもそんなのどうしたら良いのか分からないって言ってたしな。
「自分で持つしかないから、荷物は必要な物しか持たないし、食料も基本は保存が利く物が多いな。その代わり、剣などは使えなくなった時用に、複数持つ様にしてたな。防具も基本は軽くて丈夫な皮が多いな。国に使えている兵士等の全身金属鎧などは、冒険者にはいなかったな。幾ら強化出来るとは言っても、動き辛いからな。依頼が一日で終わるなら良いけど、数日掛かるものだったら、荷物は多くなるな」
「馬車で荷物を運ぶとかはしないの?」
「冒険者がか? んー、それはいるとは思うけど少ないだろうな。護衛で馬車での移動はあって、その時に一緒に荷物を乗せてもらう事はあったな。だけど、冒険者が馬車を持つなんて、あったかな。ミラは聞いた事あるか?」
「私も聞いた事ないわね。荷物を預ける所もないし。宿に置いても盗まれる可能性もあるから、基本は全部持って行くわね」
ないかあ。それが出来たら旅が楽に出来るのになあ。世界を回るんだから、荷物は少なくしないといけないけど、珍しい物があったら買っちゃいそうだからなあ。買ったら、この森まで運んでくれる何て事は出来ないだろうし。自分を護る武器と防具を優先して、後は袋の大きさと相談か。
「……今、私の精霊達に聞いたんだけど、もしかしたら闇の精霊術だったら出来るかもだって」
「え? 本当に? 精霊長様もどうしたら良いのか分からないって言ってたし」
「確かな事は言えないんだけど、闇属性って、影を操る事が出来るらしいんだ。もしかしたら、影が別空間扱いになるかもだって」
「それは良い事聞いたなあ。それで、どこで契約出来るの?」
「それがねえ、広く知られていないんだよ。嫌われているってのも理由なんだけど、聖ルミターゼ神国がその場所を結界で封印しているんだよ」
「封印? 何か危ない所なの?」
「闇属性の精霊が生まれる場所って、もちろん暗闇なんだよ。人は暗闇を恐れるものなんだけど、そこから魔物や死んだ人が出てくるって事があって、封印したんだよ。だから、旅をしてた時でも場所は分からなかったね」
「それって、精霊がやった事なの?」
「いや、それが分からないんだよ。精霊がやったところなんて誰も見てないし。そもそも意図的に魔物にする事が出来るのかも怪しいし。まあ、闇精霊に関しては分からない事の方が多いからね」
「(確かにそうね。魔物なんて意図的に作れるなんて信じられないわ。私が精霊長だったと言っても、他の精霊の事は知らないし、交流なんてないからね)」
ふむ、そうか。キューカもずっとここにいるみたいだから、他の事なんて知らないか。他の精霊は何となくどんな事が出来るのか、分かるけど闇は何が出来るのか。
「そうだな。俺達が旅してた時も闇精霊の事は聞かなかったな。ただ、組合の条件を満たせば、場所は教えてくれるって聞いた事あるぞ。噂だけどな」
「そうね、確かにそんな噂はあったわね。冒険者って自分の力を周りに示したい人が多いのよ。だから、危険と分かってても自分の力を過信して行きたくなっちゃうのよ。勝手に行って死なれるよりは、条件付きで情報を教える方が組合にも良いのよ」
「ふーん、そうなんだ。兄さん達は興味なかったの?」
「んー、興味があるかないかと言えばあった。だけど、森に戻る事を考えていたし、森での生活に役立つ精霊と契約出来たから良いかなって」
「そうねえ、私達の目的はただ強くなる事じゃなくて、森での生活に役立つ強さを手に入れる為だったからね」
なるほど。うーん、どうしようか。色んな所を行ってみたいけど、態々危険と分かっている所に行く意味ってあるのか? 全精霊と契約するのが目的じゃないしなあ。
「一応聞くけどさ、どんな条件なの?」
「えーっと、何だっけ?」
「私は興味なかったから詳しくは覚えてないけど、聖属性の精霊と契約してる事と冒険者としての位階が最上位じゃなかったかしら?」
ふむ、結界をしているのは聖属性だから聖の精霊と契約するのは分かる。そして、危険な所なんだから能力を示すのは当然か。
「闇精霊と契約した人っていないの?」
「んー、どうだろう。前にも言ったけど、どんな精霊と契約しているのかは秘密なんだよ。まして闇精霊となると、秘密にするし人がいる所では使わないだろうねえ」
それはそうか。闇精霊に良い印象を持ってないんだから、教えるのは悪手か。んー、暗闇が怖いのは分かるけど、相手を知らなければ対処のしようがないと思うんだよなあ。結界だって絶対に安全とは限らないだろうし。
いや、どこにでも闇に魅入られる人はいるから、人知れず闇精霊を崇める集団がいたりして。そして、その結界を解除してしまうとか。




