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鍛錬 弐

 あの契約の日を思い出すと、今でも罠に嵌められた様な気持ちが蘇って来る。まあ、結果的には話せて良かったと思うけどね。それは良いんだけど、名前を考えるのに結構掛かった。折角、精霊長様が契約するんだから変な名前は付けられないと思って凄い悩んだ。だけど、名前を付けたからと言って、誰にも見られないから意味ないと思うんだけどね。

 

 因みに名前はキューカにして、精霊長様と契約した事は家族以外には教えてない。ナックたちには良いと思うんだけど、ナックたちもどんな精霊と契約したのか教えてないから良しとしよう。

 

 「なあ、今日もやるんだろ?」

 

 「そりゃそうだろ」

 

 俺達は契約してからもずっと精霊術を試している。やっと契約したってのがあって、少し浮かれている。いや、結構かな。どの程度能力を強化出来るか把握したら、後は狩りで身体に覚えさせる。狩りで実践すると、今までと違う事もあって思わぬ失敗も経験した。まあ、それは精霊術をしっかりと制御出来なかった結果なんだが。

 

 「それにしても凄いよね。契約前にやってたアロたちの鍛錬に付いて行けるなんて。しかも、苦しいどころか楽なんだからねえ」

 

 今は獲物を探して走り回っているけど、苦もなく会話出来ている。しかも、今までよりも速く走っているのにだ。

 

 「そうだな。あれだけ苦しかったのに、何だったって感じがするな」

 

 「二人とも、幾ら強化出来るとは言っても、元が駄目だと意味がないんだぞ。だから、鍛えるのが意味ないって事はないぞ」

 

 「分かってるけどさあ。これだけ楽になっちゃうと、あんなに厳しくしなくてもって思っちゃうわけよ」

 

 それは確かに分かる。精霊術を使うとこんなにも違うのかと思ってしまう。ただ、能力の強化が出来ても、弓が的中しやすくなると言う訳でもなかった。目や耳なども強化出来るんだけど、的中させる事は出来なかった。それは、地道な練習しかないみたいだ。

 

 「それで今回はどうする?」

 

 「んー、そうだなあ。フアが一番速いから、逃げ切れるかやってみるか。追いつかれない事を確認出来たら、剣で仕留めてみようか」

 

 「分かった。じゃああたしが逃げる役やるね」

 

 「おう、俺達は何時でも援護出来る様に傍にいるからな。それじゃあ、まずは見つけてからだな」

 

 それからフアを目的にして、その他の獲物も探して行く。この森ではフアが一番速いから試すには丁度良いだろう。だけど、集団なのが難点かな。はぐれが見付かれば良いんだけど。

 

 そうそう、キューカが記憶からフアはしかに似てるって教えてくれた。まあ、大きさとか生態は違うみたいだけど。大きさとかは測れないけど、ダイスケは国では平均だと言ってたから同じ位の俺を基準にすると、フアは二周りほど大きいらしい。それで、あちらは草食でこちらは肉食と。雄が角ありってのは一緒らしいんだけど、あっちと比べると短いけど太くて立派らしい。まあ、あれで一突きにされたら当たり所によっては死ぬからな。

 

 

 

 「どうだ? 見付かったか?」

 

 「んー、見当たらないな。他のは見るんだけどフアがいないな。キューはどうだ?」

 

 「……」

 

 「キュー、見付けたのか?」

 

 「……あそこにいるのフアだよね?」

 

 「……んー、はっきりと見えないから確実じゃないけど、集団でいるからそうじゃないか?」

 

 「それにしても、キューは良く見付けるよな。やっぱり元々目が良いからか」

 

 前のルスの時もそうだったな。まあ、あれは見付けたのは俺だけど、親か子かまでは分からなかったからな。

 

 「で、どうするんだ? たくさん狩れる分には良いけど、集団で襲ってきたら対処出来ないぞ」

 

 「どうしよっか。都合良く、一、二頭だけ残ってくれれば良いんだけど。何かあるか?」

 

 「取り敢えず、弓で仕留められればそれで良し。向かって来るなら、最初の通りで良いんじゃないか?」

 

 「そうだね、あれは数が多すぎるからね。弓の練習にもなるから良いんじゃない?」

 

 「じゃあ、それで。最初はキューがやってくれ。俺達は合わせるから」

 

 そうして俺達は作戦とも呼べない打合せをして、弓が当たる距離まで詰めた。

 

 

 

 「逃げ切れたのは良いんだけどさあ。これは流石に狩りすぎじゃない?」

 

 うん、その気持ちは分かる。予想と違ってアイツら集団で襲って来たからな。一頭だけ襲って来てくれれば良かったんだけど、そうもいかなかった。攻撃されたら逃げるどころか、向かってくるんだもんなあ。まあ、真っ直ぐに向かって来たから狙いやすかったけどな。で、一頭だけ残してキューを追わせたんだけど、追いつくどころか離しちゃって。後はキューが首を落として終わった。

 

 「……ま、まあ狩れないよりは良いだろ」

 

 「ま、まあそうだな」

 

 ナックも複雑だよなあ。今までだったら一頭狩る事を目標としてたのに、契約しただけで五頭も狩れるなんてな。しかも疲れていない。それだけ、精霊術は強力って事だな。皆もこんな感じを味わったのだろうか。

 

 「三頭は子供だから運べない訳でもなさそうだしな。取り敢えずは血抜きでもするか」

 

 近くの樹に吊るしながら血抜きをする。その間に、運べる様に太めの枝を探す。

 

 契約しただけで、こんなに簡単になって良いのか?……まあ、悪い事はないと思うけどな。それにしたってなあ。これだけ強力ならもっと早めに契約する様にすれば良いのに。

 

 「(小さい頃に契約をすると、力に振り回される事があるんですよ)」

 

 そうか。契約しても使いこなせるとは限らないか。ま、それは今も同じだけどな。

 

 「(それに契約して強くなったと過信して、怪我や死ぬ事もありますから)」

 

 ああ、それはあるかも。今まで出来なかった事が出来ると強くなったと思うからなあ。それが小さい頃だと余計に、だよなあ。自分だったら魔物だって狩れる! なんて根拠のない自信で痛い目に会うんだよな。

 

 「(キューカは良く知ってるんだな)」

 

 「(ふふ、これでも精霊長だったんですからね)」

 

 それもそうか。森での事なら何でも知ってるからな。

 

 「(さっきの続きですが、強くなったと思い、狩りの仕方や弓や剣の扱い方を軽く見る事もありますね)」

 

 ああ、なるほど。これだけの強化が出来れば、多少下手でも狩れちゃうからな。それでもっと過信して治せない怪我をする事になると。

 

 「(過信はしないで、しっかりと技術も学べって事だね)」

 

 「(そうですね)」

 

 キューカは精霊長だったけど、契約するのだから畏まった言葉使いはしないでって言われた。だから、言葉使いはナックたちにする様な感じにしてる。まあ、心に問いかけるだけだから、誰かに聞かれる事はないんだけどね。

 

 「なあ、これだけ狩れたんだからさ。家族には報せておかないか?」

 

 俺がそう言うと、二人とも頷いてくれた。三人で狩りに行って、五頭も持ち帰るんだから準備もあるだろう。だから俺は、集落にいる母さんに狩りを成果を報告した。

 

 

 

 「お前たち、ちょっと張り切りすぎじゃないのか?」

 

 「うっ。まあ、狩れないよりは良いでしょ?」

 

 「まあ、それもそうか。俺達も契約したての頃は同じ様な感じだったしな」

 

 母さんに報告して、戻ると広場で宴会の準備が始まってた。狩りに出掛けたのは俺達だけじゃなかったからな。それにしても、宴会多くないか? 成果が多い時だけだけど、こんだけ宴会してたら、獲物いなくなるんじゃないか? 

 

 それはそれとして、今は兄さん達と同じ卓にいる。そこで、兄さんに張り切りすぎって言われてしまったのだ。

 

 「兄さん達もそうだったんだ。じゃあ、今日みたいに宴会になったの?」

 

 「そうよお。私の時はグリエが四頭だったかな。帰ってきたら、何だか生暖かい目で迎えられたわ。誰でも通る事みたいよ」

 

 「じゃあ、兄さんの時は?」

 

 「兄さんの時は凄かったわよ。親子連れのルスを四頭と、フォコ二羽とプレが一羽だったわよ」

 

 「ええ!? そんなに狩ったんですか? 俺達の比じゃないですね!」

 

 俺も驚いたけど、ナック達も驚いた様だ。そりゃそうだろ。張り切りすぎって言っておいて、兄さんの方が多いんだから。

 

 「ま、まあな。でも、俺の時は6人だったからな。多いのも仕方ないだろ」

 

 自分の過去を話されて恥ずかしいのか、頬を掻いて苦笑いしてた。

 

 「ところで、フォコって見た事ないんだけど、どんなの?」

 

 「ああ、そうだな。狩れるのも珍しいからな。大きさはプレの倍位だな。プレと同じ肉食で羽は真黒で爪での攻撃が主だな。お前の矢についてる羽はフォコだぞ」

 

 「ええ、そうだったんだ。それで、味はどうなの?」

 

 「んー、プレと比べると少しだけ固いな。でも、噛めない程の固さじゃない。塩も美味いけど、果実ソースの方が合うな」

 

 「へー、それは食べてみたいな。空は見てないからなあ」

 

 「(ところで、プレとフォコってどんな獲物なの?)」

 

 「(んー、記憶に当てはめると、プレは鶏って言うのよ。鳥とは言うけど飛べない鳥みたいね。ダイスケの国では良く食べられてる動物みたいね。フォコは鷹って言うらしいわ。食べたりはしてなかったみたいね。どちらも小さいわね)」

 

 「(そうか、プレは良く食べてたんだ。まあ、あれは美味しかったからなあ。もう一度食べたいな)」

 

 ふむ、何だかどんな獲物なのかって事よりも、どんな味だったのかが気になってしまうな。うーん、これも記憶が関係してるな。だって、一緒に見た記憶には匂い付きだったからな。あの匂いを嗅いだら興味が沸くのは当然だろ。

 

 「まあ、当分はこんな宴会が続くと思うぞ。まだ精霊術を使い始めたばかりだし、色々試したいだろうからな」

 

 「そうだね、まだ使いこなしてないからね。どんな事が出来るのか、試したいからね」

 

 「そうだな。俺達でも教えられるけど、自分で試した方が身に付くし、楽しいからな。それに、完全に使いこなすのは、時が解決してくれるだろ。それは契約精霊と一緒にやっていく事だな」

 

 それで話は終わりとなり、宴会を楽しむ事にした。ふむ、フアは臭みが独特だな。肉食って臭みが強いんだっけかな。でも、嫌な臭いではないんだよな。香草で臭い消しもしてるから、そこまでじゃないな。腹の肉よりも程好く筋肉がある、足が食べやすいな。味付けは塩よりは濃い果実ソースが合うな。


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