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暴露

 心地よく睡魔に身を任せて、夢を見た。ダイスケとオクヤマ様と逢ったあの日の事だ。夢でせいしん世界の事を見るなんて、余程衝撃的だったんだな。まあ、ダイスケの記憶を一緒に見たお陰で旅、と言うか食に興味が沸いたんだけどな。今までに嗅いだ事のない匂いや、見た事もない色取り取りの食材たち。これと同じ物を食べられるとは思わないけど、もしかしたらって思いがある。だからってのもあって、ダイスケの希望を叶える事にしたんだ。

 それまでの自分は、死ぬまでの間に何かをやり遂げたいとかの目標がなかった。ただ、起きて森で狩りをして寝て。その繰り返しだと思ってた。それでも特に不便だとか退屈だとは思っていなかった。ナックが外に行きたいって聞いてもそれは変わらなかった。

 

 だけど、ダイスケの記憶を見てからそれは変わった。ダイスケとは違う世界だけど、外にはもしかしたらって。そんなこれからの事を再確認してたら、身体が揺さぶられた。眠気が残る目を薄く開けると、そこには母さんがいた。

 

 「アロ、起きなさい。朝よ」

 

 「おはよう、母さん」

 

 そう言いながら大きく、伸びをする。まだ眠気が残ってるけど、少しはマシになる。

 

 「顔を洗ってらっしゃい、ご飯にするから」

 

 「分かった」

 

 欠伸をしながら、水場に行って顔を洗う。ん? 何で母さんがいるんだ? ここは精霊殿で一人しか入れないはずだよな。昨日だって一人で来たし、一人で寝たはずだ。もしかして記憶の事を話させる為に精霊長様が呼んだ? そんな事をされても話すつもりはないぞ。

 

 決意を新たにして戻ると、卓を囲んで全員が座っていた。だから、何でいるの?

 

 「おはよう、アロ」

 

 「……おはよう、父さんたち」

 

 「さあ、飯だ。早く座れ」

 

 そう言われたので、納得は出来ないけど取り敢えず座った。

 

 「自然の恵みに……」

 

 やっぱり無理!

 

 「ちょっと待って! どうしてみんな揃ってここにいるの? 契約するには一人でいることが決まりじゃなかったの?」

 

 俺が突然そんな事を言ったもんだから、祈りを中断して顔を見合わせている。誰が話すのか迷ってたみたいだけど、父さんが代表で答えるらしい。

 

 「契約に行ったきり、帰って来なかったから心配になって、精霊長様に無理を言って入れてもらったんだよ」

 

 「で、でも契約は直ぐ終わる事もあれば何日も掛かるって言ってたよね? まだ一日だよ? 幾ら何でも心配し過ぎじゃない?」

 

 「まあ、そうなんだけどな。ほら、お前の前にナック君達が契約しただろ? その二人は直ぐに終わったって聞いてさ、何でアロは直ぐじゃないんだろうって思ってな。それで来たんだよ」

 

 「ふーん。でも、昨日は遅くなったから、明日にしようって事になったんだよ」

 

 「ああ、それは精霊長様に聞いたよ。だから、朝食を食べたら帰るさ」

 

 「な、なるほど。分かった」

 

 何だろう、このモヤモヤした感じは。一応納得出来る理由だったけど、誤魔化された様な。一日、帰って来ないだけでこんなに心配するか? それにどこに行ったのか不明な訳でもなく、精霊殿に来ているんだぞ? 心配する必要はないんじゃ? それとも、ここに来る必要があったのか? 分からない、何を考えて来ているのか。純粋に心配してって言うならば、嬉しいけど。やっぱり、誤魔化された感じが消えないんだよなあ。

 

 「ほら、冷めてしまうよ。自然の恵みに感謝して」

 

 そう口々に感謝の言葉を言って、食事を開始する。何だろう、何時になく空気が変だ。いつもはもっと会話が弾むのに、今日は何だか不自然だ。

 

 そんな事を考えていたせいだろう、何を食べたのかさっぱりだ。多分ルスだとは思うけど、味を思い出せない。こんなことって初めての様な気がする。

 

 

 

 ふう、何とか誤魔化せたかな? 昨日、精霊長様から記憶について頑なで、話しそうもないと聞いて全員で集まったのだ。家族が知っている事をアロは知らない。だから、アロから打ち明けてもらうのが一番なんだけど、それが難しい。何しろ、記憶の引継ぎなんて聞いた事もない事だから、信じろと言われても信じれないだろう。実際、俺だってオクヤマ様に逢わなければ信じなかっただろうし。だから、信じてもらえないと思い、話さないアロを責める事なんて出来ない。

 

 だけど、記憶の事を知っているのはここにいるだけだ。精霊長様が契約した後に打ち明けでも問題はないのだが、どうせなら全員がいる場で打ち明けて欲しいのだ。まあ、アロにだって悩む時は必要だし、これが家族の都合だと言うのも分かる。分かるけど、精霊長様が打ち明けられて、家族には秘密って言うのは少し、いや結構寂しいものだ。

 

 だから、どうにかしてアロに打ち明けて欲しいんだ。もし、秘密を話さない事がアロにとって負い目になるのなら、早めに解消しなければならないし。それに、聞いた事もない様な記憶の引継ぎの事を話して、家族が離れてしまうと考えているのだとしたら、それはそれで寂しいと言うか信頼がないのかと言うか。兎に角、そんな事位でアロを拒絶なんかしないってのも知って欲しいんだ。

 

 どういう風にすれば、一番アロにとって良いのか昨日は夜遅くまで家族で話し合った。どんなに話し合っても最善の方法なんて分かるはずもなく、一応の案は出来た。後はこれを実行に移すだけだ。上手くいくと良いんだが。

 

 

 

 「さあ、食べ終わったから契約の続きをしようと思うんだけど、父さんたちは帰るんでしょ?」

 

 一応聞いてみる。契約の場には一人でって言うのが決まりなんでしょ? 今は、無理を言って一緒にいるけど、流石に契約する時までってのは駄目でしょ。

 

 「ああ、帰るさ。でも、その前に見てもらいたい物があるんだ」

 

 そう言って何かの毛皮を取り出してきた。毛皮? これを見て欲しいってどうして? この毛皮にどんな意味があるんだ?

 

 「これ、何だと思う?」

 

 「毛皮でしょ?」

 

 「何の毛皮かって事だよ」

 

 「黒っぽいからルスじゃない?」

 

 「おしい、これはアロにも関係がある物だよ」

 

 「え? もしかして、オールス?」

 

 「正解」

 

 あれ? 確かオールスは茶色だった様な気がするんだけど。良く見ると、茶に黒が混ざっているんだ。全身茶色じゃなかったのか。あの時は必死だったからなあ。

 

 「でも、これを今見せてどうするの?」

 

 別に今じゃなくても良い気がするし。帰ってからでも問題ないと思うんだけどなあ。何考えてるんだ?

 

 「まあまあ、見ててくれよ」

 

 そう言うと畳んであった毛皮を広げ始めた。父さんだけでは広げられずに、兄さんが加わり母さん姉さんと、仕舞いには俺まで手伝った。

 

 「こんなに大きかった?」

 

 ルスに比べると大きくなるのは知ってる。知ってはいるけど、こんなに大きいか? いや、オールスは見たよ? 間近で見たけど、大きいって事しか覚えてない。あんな緊張状態でどれ位の大きさかなんて測れるはずないじゃないか。それにしたって、大きいだろ。今いる精霊殿の端から端まで行ってもまだ、広げられる。

 

 「そうだよ。こうやってじっくり見るのは初めてだよな。こんなに大きかったんだぞ」

 

 うん、あれからオールスがどうなったのかは知らなかった。狩られたと言うのは知ってはいたけど、その後は知らなかった。だから、こんな間近に見るのは初めてだ。確か蹴られたんだよな? 良く生きてたなあ。こんなヤツの一撃だったら、死ぬか全身の骨が折れるか身体の一部が無くなっているだろ。

 

 「ほら、そこに足があるだろ? 爪も残ってるから見てみな?」

 

 「え? 足でこんなに大きいの? 俺の胴と同じ位太いじゃないか」

 

 は? 全然分かんない。そもそも何で、俺が囮になろうと思ったんだ? こんな大きいなら、追いつかれ様が逃げの一手しかないだろ。

 

 「俺、良く生き残ったね」

 

 そう呟くしか出来ない。

 

 「そうだねえ。まあ、オクヤマ様が仕組んだ事だから、死ぬ事は元からなかったみたいだよ」

 

 「そう、オクヤマ様が」

 

 ……ん? ナンテイッタ? 聞き間違いだよな? うん、きっとそうだ。オクヤマ様の事を知るはずがないんだから。

 

 「ごめん。誰が仕組んだって?」

 

 「オクヤマ様が」

 

 聞き間違いを信じてもう一度確認したけど、変わらなかった。今の俺は唖然として、情けない顔をしているのだろう。そんな顔で皆を見ると笑顔で俺を見てた。精霊長様までも。

 

 「ごめん。何がおきてるのか理解出来ないんだけど、説明してくれる?」

 

 そう言うのが精一杯だった。

 

 

 

 「じゃあ、皆知ってたって事?」

 

 信じられなくて、聞いてしまった。それには頷きで答えてくれた。そう、纏めるとそういう事らしい。

 

 「えええええええええ」

 

 この驚きの叫びは許して欲しい。今まで秘密だと思っていたものが、秘密ではなくて皆知っていると言う何とも言えない感じ。精霊長様に言われて、話すかどうか少し悩んだけど、今じゃないと思って黙る事にした。秘密の一つ位あっても良いじゃないかって事で。家族に話すかどうか悩んだのを返して欲しい。昨日だけだけど。

 

 もしかして、精霊長様が記憶の事を言わないのか散々言ってたのは、こういう事だったのか。

 

 「精霊長様が記憶の事を話せと言ったのは、家族は知ってるから秘密ではないですよ? って事だったんですね」

 

 「そうですね。どうやって話させるのか悩みましたよ。薦めたけど頑なだったから、家族にも協力してもらったと言う訳です」

 

 「はああああ」

 

 一気に脱力して座り込んでしまった。やけに記憶の事を拘るなとは思ったよ。だけど、家族が知ってるなんて分かるはずもないじゃないか。それをどうやって伝えるのか苦労したんだろな。家族は知ってる、だけど俺はそれを知らない。

 

 「では、契約の続きをしましょうか」

 

 そう言って、この話は終わりとばかりに契約を促してきた。俺は立ち上がりながら、諦めの感情を込めて確認する。

 

 「あの、記憶の事を知ってるのはもういないですよね? 後、契約に家族が立ち会って良いのですか?」

 

 「ええ、もういませんよ。後、立ち会って構いません。と言うよりも、立ち会って欲しいですね」

 

 もう何を言われても驚かない。……いや、驚くけどさ。流石に続けてはないだろうと思い、正面に椅子を持ってきて座った。

 

 「では、貴方に精霊との契約を行います」

 

 それが合図だったかの様に、精霊長様の周りに今までいなかった精霊が姿を現した。俺はどんな精霊と契約する事になるのか緊張していたら、こんな事を言われた。

 

 「契約する精霊は、私です」

 

 「……は?」

 

 そう言った瞬間に家族は手を叩いて喜んでくれた。驚かないって思ったけど、これは驚くでしょ。精霊長様が契約っアリなのか? いやいやいや、あり得ないでしょ。だって、精霊長様だよ?

 

 俺が混乱してる間に、周りの精霊達が精霊長様に文句を言っている。やれ折角契約出来ると思ったのにとか、やれズルいとか精霊長様がいなくなったらどうなるのか? とか。それに対する答えはこうだった。

 

 「私が契約する以上、次の精霊長を決めなければいけません。と言う事で、あなたです」

 

 そう言って、一人? の男の子なのか女の子なのか分からない子を指差した。当人は混乱している様で、手と首を左右に振って無理だと必死に訴えているが有無を言わさずに決まった様だ。そして、決まったとばかりに俺に向き直って、こう言った。

 

 「さて、次の精霊長も決めた事ですし、契約しましょうか。と、その前にやってもらう事がありました」

 

 「はあ、何でしょうか」

 

 「私は長い事、精霊長としてここにいました。ですが、名前がありません。なので、契約するのですから、名前を付けて下さい」

 

 驚き過ぎて、何が何だか理解が追いつかない。それに、急に名前を付けろと言われて直ぐに出てくるものでもないだろ。精霊長様何だから、変な名前は付けられないよな。はあ、これは今日一杯掛かるかな。


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