告白
きっかけ→切っ掛け(2017/5/19)
話は簡単だった。混乱してる俺にも理解出来る様に、ゆっくりと時を掛けて説明してくれた。
「つまり、オクヤマ様から聞いたと?」
何だか長い事、説明されてたけど、結局はこの一言に尽きる。
「そうです」
そんな事、オクヤマ様は何も言ってなかったぞ? もしかして、それも含めての仕組みなのか?
「そうでしたか。それで、試したと言うのは、記憶について話すかどうかですよね? 結局は認めた訳ですけど、自分から話さなかったので、駄目ですかね?」
記憶の事なんて、俺以外に知ってる人なんているとは思わないじゃないか。精霊長様が知っている事は俺は知らないんだぞ。それなのに話せと言うのは、何と言うか卑怯じゃないか? まあ、それが試すって事なんだろうけどさ。
「いいえ、その様な事はありません。貴方が話すかどうかを知りたかっただけです。それで、契約する精霊の位階が低くなると言う事はありません」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
良かったあ。話さなくても影響なかったのか。じゃあ、話さなくても良かったのか? いや、精霊長様は知っていたんだから、認めるしかなかったな。
「それで、契約してから旅をしたいって言うのは、記憶が関係しているのですか?」
「そうですね。私は眠っている間にオクヤマ様と前の自分に逢いました。その時に旅をして欲しいと言われたのです。ですから、その希望を叶えようかと思いまして」
認めてしまったからか、さっきまでとは違い口が滑らかに動く。
「そうだったのですか。では、貴方は外には出たくないのかしら?」
「んー、そうですねえ。小さい頃からそうですが、森で生活出来るので外に出る必要を感じなかったです。ですが、記憶を引継ぐ時に前の世界の事を教えてもらったのです。その時に特に食べ物に興味を惹かれまして、もしかしたら外には前の世界の食べ物と似た物があるのではないかと思いました。確かに旅をして欲しいと言われましたが、わたしも興味が沸いたのも事実なんですよ」
「そうですか。では、契約後に直ぐに旅に出るのですか?」
「いいえ。旅に出るにしてもまだ鍛え足りないですからね。それに、精霊術で何が出来るのかも知る必要がありますから」
直ぐに行きたい気持ちはあるけど、焦っても良い事ないしな。外になにがあるのか分からない以上、油断は出来ない。オールスは仕組まれた事だったから、死ななかった。だけど、外には見た事もない獲物がいるだろうし、どんな行動をするのかも分からないから自分の力は把握しておかないと命に係わるからな。
「それならば外の世界の事を知ってる、プーマ達に聞くのが一番でしょうね。精霊術の使い方だって、プーマが一番でしょうね」
「そうですね。父さん以上に契約してる人はいないですからね。外にも詳しいでしょうし」
「でもその前に、する事があるのではないかしら?」
「する事、ですか?」
ん? 旅に出る前にする事。なんだ? 鍛える事と外の事を聞く事。これ以外にあるのか?
「旅に出ると言ったら、家族はどう思うでしょう。小さい頃は外には興味がなかったのに、旅に出たいと言う。急に感じるのではないかしら? その時にどんな説明をするつもりなのかしら?」
「っう」
言われてみれば確かにその通りだ。旅に出る事には何も言わないで、送り出してくれるものだと勝手に思い込んでたな。じゃあ何て説明するんだ? 急に旅に興味が沸いたって言うか? いや、駄目だ。何か切っ掛けがないと思い付かないよな。
「記憶の事を話してみたらどうかしら?」
「そ、それは……出来ません」
「何故? 私に話せたんだから話せるのではないかしか?
「精霊長様の場合は知っていると言われたので、私は認めるだけでした。しかし、家族に話すのは状況が違います」
そう、精霊長様には俺から話した訳じゃないから、厳密には秘密を打ち明けたとはならない。だけど、家族に対しては違う。秘密を明かさなければ、それは秘密のままなのだ。だけど、打ち明けてしまったら後戻りは出来ない。どんな反応をされるのか分からない。許してくれるとか、受け入れてくれるだとかの、都合の良い反応を期待するのは馬鹿だろう。
「それはそうですが、ずっと秘密のままにするのですか?」
「それは……分かりません。引継いでからまだ日が経ってませんし、どんな影響があるのか分かりません。それに、話す事によってどんな反応をされるのか」
「話さないと、どんな反応されるのか分からないと思いますけど?」
「それでは駄目なんです。話すとして、拒絶されたりしたらどうするのですか? 話してしまったら後戻りは出来ないんですよ?」
「貴方は家族を信頼していないのですか?」
「それとこれとは話が違います。これは信頼しているしていないんの話ではないんです。私が秘密を抱えているとしても、全部を打ち明ける事が信頼とは違うと思うのです。それに、秘密は秘密のままの方が良いんです。家族が何か違和感を持ったとしても、記憶に行き着く事はないと思います。それを裏付ける言動をしている訳ではないですからね」
「……そうですか。受け入れてもらえるとは考えないのですか?」
「そんな楽観視して、実際にには真逆の反応だと、立ち直れそうにないですから」
そうだったら良いなって思い話すと、実際には予想とは違う反応だと落差が一層際立つので立ち直れないよ。そうなると森を出て、外で生活する様になるだろう。家族とは関係を絶つだろうな。
「決意は固い様ですね。でも、一生秘密のまま生きると言うのは、辛くはないですか? 家族に秘密があると知られていなくても、貴方は家族に秘密がある。段々と家族と一緒にいるのが苦痛になりませんか?」
「そ、それは……」
分からないよ、そんな先の事まで。精霊長様は良いよ、他人事だと思って好き勝手言えるんだから。当事者は俺だよ? 秘密を打ち明けないで死ぬまで話さないのは、そんなに悪い事なのかな。誰だって人には言えない秘密の一つや二つあるだろう。それに言うとしても今じゃないだろ。決意なんてあるわけないじゃないか。今、記憶の事を指摘されたばかりだぞ。
それにしても、何で記憶の事にこんなに拘るんだ?
どうしたものかしら。私に話せたのだから家族にも話せると思ったのは甘かったかしら。でも、私に話した勢いで話すのが良いと思うのだけどね。
どうしましょう。家族が知っている事をこの子は知らないから、ここまで頑なになっているのだろうし。それに、所詮は他人事なのよね。私が薦めたからと言って従う必要はないのだし。話して拒絶されても私にはどうすることも出来ないのよね。仲介は出来るけど本当の意味での和解ではないのよね。
いっそ、話さないと契約出来ない事にしましょうか? いや、それは駄目ね。今のこの子だと、契約出来なくても良いと言いそうなのよね。それとも、家族も知っている事をそれとなく話す? うーん、どう話せば良いかしら。今、話さないと時期がないのよね。
記憶の事を知ってるのは私を含めて、この子の家族だけだから。何とか私が契約する前に打ち明ける場を設けたいのだけどね。どうしましょうかしら。家族をこっそりとここに呼ぼうかしら。
はあ、全く。オクヤマ様も眠っている間にこの子に逢っているなら、家族も知っている事を教えてれば、こんなにも悩まなくて済むのに。
でも、これだけ記憶の事を話せだなんて言っていたら、気付いちゃいそうね。それはそれで困るわね。この子は悪くはないけども、決意して話して知ってますよと言って、驚く顔が見たいだなんて。性格悪いかしらね。でも、これ位は許して欲しいわね。どうしようかしら、契約しないで帰す訳にはいかないし。
「あの、本当に契約とは関係ないんですよね?」
さっきも言われたけど、確認だ。もし秘密を話さないと契約出来ないなんて、あの二人は秘密はないのか? あっという間に終わったし、一言二言だったみたいだし。こんなに話し込む事ってあるのか? 確かに、契約後の事を話すとは聞いてたけど、旅に出ると言ったよな? 記憶の事を家族に打ち明ける事に繋がるのか? 隠してても旅には出れるよな?
「ええ、関係ないですよ。ですが、今日はもう夜になってしまいましたので、契約は明日にしましょう」
そう言われて窓からの景色を見ると、確かに暗かった。朝飯を食べてからだから、結構な時をここにいて、そんなに話し込んでいたのか。
「分かりました。では一度帰ってからまた来ますね」
そう言って立ち上がったら、精霊長様がそれは出来ないと言われた。
「契約に訪れたならば、契約出来る出来ないの判断を下す前に出る事は出来ません。まあ、貴方の場合は違うのですけどね」
「分かりました、では休ませて頂きますね」
「ああ、扉近くに毛皮があるのでそれを使って下さい。排泄は卓の奥に一部屋ありますので、そこを使って下さい。食べ物は卓の上にある果実で我慢して下さい」
そう説明されて、毛皮を被り眠りにつく。何だか大変な事になったなあ。二人が直ぐに終わったから俺もと思ったのに。記憶の事を話さないと、契約も出来ずにここにずっといる事になるのかな。いや、関係ないって言ったからそれはないか。まあ、何にしても明日には終わるんだから良いか。




