表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/165

考察

 あの狩りの日からは元の状態に戻す為に、森の中を走り回ったり弓の練習などをして過ごしている。体力も筋力も大体戻った気がする。だけど、弓だけは違和感が消えない。樹に向かってならば、以前と変わらない位まで戻って来た。ただ、獲物にだけはまだ震える。

 

 何度も狩りをするうちに震えは治まってきたが、まだ震えるし鼓動が早くなる。一撃で仕留めた時は、久しぶりで興奮もあったと思うけど、何だか分からないけど怖くなった。初めて狩った時は興奮はしたけど、怖くはならなかった。

 

 やっぱりこれはダイスケの影響だと思う。狩りをするのは生きる為に必要な事だと分かっているし、怖いと思うよりも恵みに感謝する方が大きい。だけど、ダイスケの国では狩りをしている人が圧倒的に少ないって言ってた。

 

 命を奪う事に慣れていなく、でも食事として食べる事には抵抗がなかった。そして、奪った命は血肉として感謝をしながら食べる。食べる事には抵抗がない、だけど奪う事いは抵抗がある。たぶん、この部分が記憶になかったから拒否反応が出たんだと思う。

 

 だけど、それはダイスケの記憶が影響してるんだ。それに、旅に出ると言う目標もあるから何とか克服しないとな。その為には、たくさん狩らないと。慣れれば記憶が出てきても平気になるだろう。それに、旅に出るんだからそれ以外の体力とかも鍛えよう。精霊術に頼るんじゃなくて、頼らなくても大丈夫な様に。幾ら能力が強化されると言っても、元の能力が低かったら意味ないだろうしな。

 

 

 

 そう言う訳で森を走り回っているのだ。ただ走り回ってるだけじゃなく、時々全力で走ったりしている。こうすると、持久力だけじゃなく全力で走れる時を長くする効果も期待できる。前のルスの時を思い出して、全力で走っても疲れなくて、尚且つ引き離せる位になれれば良いのだ。

 

 後は、集中力を切らさない様にもしないとな。突然の獲物に驚いて、精霊術を使えなかったり直ぐに行動に移せないと駄目だからな。それについては、弓をたくさん射る事である程度解決出来ると思う。狙いを定めてから手を離すまでの動作を、身体のどこを使ってるのか意識しながら射る。的中も多くなってきたし、何より獲物を前にして手が震えると言う事もなくなると思うのだ。

 

 だから、走り回って疲れて広場まで戻ってきたら直ぐに弓の練習をする。こうすると、疲れている時でも正確に的中させる事を期待している。森の外にはどんな獲物がいるのか分からないし、万全の状態で戦えるとは限らないしな。

 

 

 

 「なあ、最近のアロって必死過ぎないか? 俺たちとも一緒にいる事少ないし」

 

 「ナックもそう思う? 起きてからのアロって鈍ったから鍛え直すってよりも、何か変わった様な気がするんだよね。前から凄かったんだけど、何だか必死さが違うんだよね」

 

 キューもそう思うのか。アロは同じ年の中では一つか二つ上にいた。だから俺はアロに勝てる力を鍛えたんだ。森人族は大体、細身で弓での攻撃が主だから、筋肉はそんなにいらないんだ。それよりも、走る速さやどれだけ走っていられるかを重要としている。狩りの腕はたくさん狩れば上達する。

 

 「俺も鍛え直さないとな。このままだとアロに置いてかれちまう」

 

 「そうだね。アロが起きない間、わたし達だって遊んでたわけじゃないからね。それじゃあさあ、一緒に鍛えない?」

 

 ふむ、それが良いか。アロがどんな鍛え方をしてるのか興味あるし、一緒にやる方がお互いを意識して良いかもな。

 

 「だな。今は走り回ってるから、戻って来たら言ってみるか」

 

 

 

 何だこれは? 元の状態に戻すとかじゃないだろ!? 明らかに更に上を目指して鍛えている。

 

 「はあはあ、おい、お前はいつも、はあはあ、こんな鍛え方してるのか?」

 

 可笑しい。つい最近まで寝てたヤツとは思えない。寝込む前は確かにアロの方が上だった。だが、寝てる間は鍛えていたしヤツは寝ていて鈍っているはずなんだ。なのに……。

 

 「ん? んーそうだなあ。寝込んでたから鈍ってるだろ? だから、取り戻す為に厳しくしてる」

 

 「いや、厳しくって言うが厳し過ぎないか? 見ろ、キューなんて動けないで寝転がってるぞ」

 

 「いや、厳し過ぎる位が良いんだよ。そうしないと、前の状態に戻るのにどれだけ時が掛かるか」

 

 いや、まあ言ってる事は分かる。分かるけど、起きたばかりのアロに負けるってどうなんだ? 俺だって鍛えていた。遊んでいたわけじゃない。なのに、これか。

 

 「それと聞きたい事があるんだ。どうして、全力で走ったり遅く走ったりを繰り返すんだ?」

 

 「ああ、それか。んー、何て言ったら良いのかな。俺たちにとって走る事は大切だろ? でも、ただ走るだけじゃ駄目なんだよ。三人でルスを狩ったのを覚えてるだろ? あの時、追いつかれそうだったんだよ。それは追われているって言う緊張と全力で走っている疲れもあったと思うんだ。だから、全力で走れる時を伸ばすのと、疲れない身体を手に入れる為だな」

 

 「な、なるほど」

 

 こんなに考えていたのか。それに比べ俺は何も考えないで鍛えていたな。これじゃあ、置いていかれるわけだ。でも、これに付いて行かないと更に置いていかれてしまうな。

 

 「二人は初めてなんだから、まだ休んでろよ」

 

 「まだやるのか!?」

 

 「ああ、これから弓の練習だな」

 

 だからどう考えても可笑しいだろ。どうして、そこまで努力するんだよ。お前が目標だけど、これじゃあ追いつけないじゃないか。……でも、ここで挫けたらそれまでか。

 

 「待て、俺も付き合うよ」

 

 こんな所で負けて堪るか! 俺だってやってやるさ。

 

 

 

 今日もいつもの様に身体作りをしようとしたら、家族で狩りに行こうって事になった。鍛え直してから、前の状態より良くなっている。だから、後は狩る時の震えがなくなれば取り敢えずの問題はなくなる。

 

 「久しぶりの家族での狩りね。最近のアロは状態が良さそうだし、期待出来そうね」

 

 確かに調子と言うか、状態は良い。いや、良過ぎる位だ。早く戻す為に厳しく鍛えてたら、前よりも良くなってる気がする。それに、ナックが付き合ってくれてるのが大きいと思う。一人だと怠けそうだし、抜かれない様に更に努力し様と思えるし。

 

 まあ、キューは付いて行けないって言ってたからな。自分でも厳しいとは思う。思うけど、オールスの時みたいにはなりたくないしな。

 

 「うん、期待してて。鍛え直したから前よりも良くなってるよ」

 

 「そうだよな。アロの様子を見てると前よりも良くなってる。ナックが可哀相だよ。寝てる間に遊んでたわけじゃないのに、今じゃあ付いていくのがやっとだ」

 

 「それを言うならキューちゃんだよ。私に付いていけません、どうしたら良いでしょうか? って相談に来たよ」

 

 「確かにあれは辛いと思うぞ。俺たちの子供の頃だって厳しく育てられたけど、あれ程じゃなかったと思うし。付いていけてるだけナックは凄いと思うぞ。まあ、その前にいるアロは当然だがな」

 

 まあ、自分で考えたとは言え、あれは辛い。ナックがいなかったら、絶対にもう少し緩くてもとか思ってそうだし。

 

 「いや、兄さん。ナックがいるから僕も頑張れるんだよ。一人だったら絶対に怠けそうだし」

 

 「そうだな。やっぱり同じ年の子には負けたくないよな。それも友達なら尚更だな。それでこそ私たちの子だ。負けるなよ?」

 

 「そりゃやるからには負けたくないよ。それに目標は父さんたちだからね」

 

 「へー、そうなのか。初めて聞いたな」

 

 「そりゃそうだよ。初めて言ったんだから」

 

 「ほら、照れてないで。前に獲物がいるわよ。アロお願いね」

 

 「分かったよ」

 

 ふう、何度も練習しただろ。自分を信じるんだ。前は出来たんだ、今出来ないなんて事はないんだ。

 

 獲物はグリエか。ちょうど頭がこっちに向いているな。息を深く吸い込んで弓を構える。狙いを定めて、息を止めて放す。

 

 『GYAAAZAAAO』

 

 一撃ではやっぱり駄目か。まあ、当たり前か。それが狙いだしな。アイツ怒って突進してくるからな。その突進に合わせて的中させれば、死ぬだろう。あ、グリエっていのししってやつに似てるんだ。まあ、そんな事は今は良いとして。止めの一撃を。

 

 「ふう、何とか狩れたかな」

 

 「凄いじゃないか。二射で決めるなんて。前だったら、剣の間合いまで近づかれてたのに。成長したなあ」

 

 「父さんにそう言われると嬉しいよ」

 

 うん、今回は大丈夫だった。緊張はしたけど、それは震えるかもしれないって事だったし。震えもないし、止めを刺した事での拒否反応もない。うん、大丈夫。

 

 それからは狩りもしつつ果実なども採取した。グリエだけじゃなく、プレも狩れた。こいつは美味いから狩れて良かった。だけど最後に……。

 

 「あ、罠にフアが掛かってるよ。じゃあ、アロお願いね」

 

 姉さんにそう言われてフアの首筋に剣を突き立てた。ぶすり、と一息に止めを刺した。だけど、何だろう。弓とは違う違和感と言うか嫌な感情が出てきた。手に残る止めを刺した感触、耳に残る断末魔。剣で仕留めるのはこれが初めてじゃないのにだ。

 

 あ、これもダイスケの記憶か。何て厄介な。

 この日はフアを最後に狩りは終わった。はあ、いつになったら悩まされないで済むんだろう。

 

 

 

 「今日のアロはいつものアロだったわね」

 

 「そうだね」

 

 目覚めてから最初の狩りで、弓を外した時は記憶が影響してると思って、心配したんだけど大丈夫そうだな。

 

 「それはどうかな。あたしは近くで見てたんだけどね。最後のフアに止めを刺した時に、変な顔になったのよ」

 

 「変な顔?」

 

 「うん、何て言うか。獲物を狩って興奮した顔じゃなくて、何だか戸惑った感じだったよ」

 

 「戸惑った? それはもしかして」

 

 「うん、多分記憶が関係してると思う。だって、剣で止めを刺した時に今まで興奮はしても、戸惑いはしなかったんじゃないの?」

 

 「た、確かに」

 

 「もしそうだとしても、今まで通りにしましょ。私達に出来る事と言ったら、今まで通りに接してあげる事よ」

 

 「そ、そうだな。これ位で悩んでも仕方ないな」

 

 どうやらまた記憶が影響している様だ。だけど、アロはアロ何だから何も変える事はないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ