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困惑 参

 あの後、逃げられる事なく弓で狩れた。とは言っても俺ではなく父さんが、だ。

 

 「久しぶりの獲物だからな、緊張でもしたんだろ」

 

 「う、うん。そうだね。弓は久しぶりに触ったからね」

 

 父さんにそう言われたけど、多分違うんじゃないかな。昼前に練習した時は疲れはしたけど、感覚は覚えていたし大きく外れる事はなかった。けど今回は、獲物を狩るって意識したら何か分からないけど震えてしまった。もしかしてダイスケの……。いや、目覚めてから初めての獲物だから、緊張しただけかもしれない。きっとそうだ。何だか初めて弓を持った時にでも戻った様だ。

 

 「これ血抜きしたら、もう帰ろうか」

 

 「そうね、帰りにも獲物はいるだろうし。じゃあ、あなたとトプロで血抜きお願いね。私たちは野草でも摘んでるわ。じゃあ行きましょ」

 

 仕留めたルスは親らしく、結構大物だった。そう言えば俺たちが仕留めたやつは……同じ位か? 良く仕留められたな。まあ、結局弓じゃなかったし、止めはナックだったな。

 

 「ねぇ、鳥は狩らないの?」

 

 そう今まで狩って来たのは地上の動物なのなのだ。鳥も当然いるはずなのに、余り狙った事がない。

 

 「本当は狩れるのよ。精霊術でもそうなんだけど、一回で仕留められれば良いけど、外れたら飛んで逃げるからね」

 

 あ、なるほど。そう言われればそうか。鳥は見掛けるけど、見逃してきたな。

 

 「でも、父さんと母さんなら一撃で仕留められるでしょ。だって、風の精霊とも契約してるんだから」

 

 「まあ、そうなんだけどね。でもね、狙わない理由は他にもあるのよ。それはね、食べる部分が少ないの」

 

 「「え?」」

 

 そんな理由!? でも、そう言えば鳥が料理されたのって少ないな。

 

 「今、そんな理由で? って思わなかった?」

 

 「うっ。思った」

 

 「一撃で仕留められるなら、鳥よりもルスの方が良いじゃない。でも、時々狩るわよ。だって、矢に羽が必要だからね」

 

 「母さんたちは良いわよ。私たちは同じ弓でも威力が違うから壊れやすいのよ。幾ら手入れしてたとしてもね」

 

 確かにそうだ。俺なんて契約すらしてないから、弓を使うしかないんだよな。あんな大きな獲物と剣で闘うなんて考えられないよ。

 

 「じゃあ、帰りに見付けたら狩りましょう。それで良いでしょ?」

 

 そういう事で話は纏まった。ルスに関しては血抜きだけして帰ってから解体する事になった。運ぶのは父さんと兄さんだ。二人よりも重いけど、精霊術で強化した二人なら軽々と運べるだろう。俺も契約したら荷車使わなくてもルス位は運べるのかな? いや、流石に無理か。やっぱり複数契約しないと駄目かな。

 

 

 

 結局、帰るまでにグリエ二頭、ラン四頭、プレが二羽獲れた。

 

 いやいや、可笑しいでしょ。グリエなんてルス程じゃないけど、大きいぞ。しかも二頭って。ランは良いよ、小さいから。プレは初めて見た。何あの大きいの。俺が両手を広げたよりも大きいなんて。あんなのが空を飛んでるなんて、な。

 

 しかもどうやって運んだのか不思議になる程の成果だからな。まあ、俺以外皆軽々と運んでたけどね。やっぱり精霊術って凄いな。

 

 プレを狩って母さんは嬉しくなさそうだった。大きいけど食べる部分が意外と少ないからだ。でも、姉さんたちは嬉しそうだった。羽がたくさん取れるから。

 

 俺が子供だからなのかな。感覚が違い過ぎる。まあ、俺は両方嬉しいかな。久しぶりの鳥だし、矢を補充できるし。

 

 「じゃあ、急いで解体しようか。早くしないと夕飯が遅くなるし。それともこれだけの量だから手伝ってもらうか?」

 

 「そうだね、手伝ってもらおうよ。じゃあガシさん呼んで来るね」

 

 

 

 「おお、こりゃまたすげえ成果だな。やっぱりお前さんたち家族は大したもんだよ。俺たちのも持ってきた来たから一緒に解体すっか」

 

 皆手馴れているので、解体が速い。まあ、それだけ経験があるって事だよな。俺も小さい頃から厳しく教えられたから出来るけど、やはり速さは負けてしまう。まだ、丁寧さと速さを両立させるには経験が足りないって事か。

 

 そんな風に考えながら解体してふと視線を感じたので顔を上げると、ガシさんが俺の方を見て不思議そうにしている。

 

 「お前さん、何で泣いてんだ?」

 

 そう言われたので頬を触ると、確かに濡れている。泣く様な事なんてなかったのに。それに、いつ泣いたんだ? 

 

 「砂でも入ったんですよ、きっと」

 

 咄嗟にそんな事を言って、直ぐに解体を再開した。誤魔化せただろうか。それにしても何で泣いたんだ? 気付かないうちに泣くなんてあるのか? もしかしてこれもダイスケか? そう言えば、狩りをした事がないって言ってたな。解体もした事はもちろんないだろう。って事は、初めてで怖くて泣いた? 分からない、何が引っ掛かったのか。

 

 

 

 獲物が多かったから結局広場で宴会になった。まあ、あれだけの獲物は家族だけでは食べきれないからね。ルス、グリエ、ランは普段から食べているから特に変わった味付けではなかった。ルスは臭みも筋もなく程好く軟らかいので塩を振って焼いただけ、グリエとランは臭みが結構あって、薬草と一緒に煮込んだだけ。前食べた時のランは臭みがなかったのに、今日は煮込みか。もしかして、狩って直ぐだと臭みが強いのかな。 

 

 ダイスケの記憶を見たからだろうか、前よりも食べる事に興味が沸いた。もちろんルスたちも美味しかった。だけど、プレはもっと美味しかった。初めて食べたってのもあると思うけど、皮はパリパリ中は噛めば解ける。かと言って軟らか過ぎないってのも良い。プレと言うよりも料理方法が良かったと思う。味付けは塩のみで、これが一層プレの良さを引き出している気がする。

 

 あ、思い出した。ルスってくまって動物に似てるんだ。でも、あっちは肉食でこっちは草食。ただ単に姿が似てるだけかな。そう言えばプレも似た動物がいたな。なんだっけかな、白くて頭に赤いのがあったな。でも、あれって手で持てる位の大きさで飛べないって言ってた様な。こっちのとは随分違うな。空も飛べないのに鳥なのか? 

 

 「アロ、ちゃんと食べてる?」

 

 「あ、母さん。もちろん食べてるよ。それよりさ、初めて食べたんだけどプレって美味しいね。こんなに美味しいんだから、もっと狩ろうよ」

 

 「あら、そんなに気に入ったの? まあ、美味しいのは分かるわ。でもね、プレって滅多に現れないのよ」

 

 「そっか、それじゃあ仕方ないね。でも、偶には鳥も食べたいな」

 

 「そう言えば鳥は滅多に狩らないわね。鳥の狩り方教えたかしら?」

 

 「ううん。ルスとかなら教わったけど、鳥はないね。連れてってもらった時には、鳥を狩らなかったしね」

 

 「そうだったかしら。じゃあ明日は鳥中心で行きましょうか。まあ、見付かればの話だけどね」

 

 「そうだね。楽しみにしてるよ」

 

 「ええ、じゃあ行くわね」

 

 そう言い残して他の所に行ってしまった。まあ、宴会だからご近所付き合いもあるんだろう。

 

 「アロ、今日はやけに多い獲物だな」

 

 「ナック、いたのか。キューも」

 

 「ちょっと、何そのついでみたいな言い方」

 

 「悪い悪い。今日は家族全員で狩りに出掛けたんだよ。それにガシたちの獲物もあるから多いのは当たり前だよ」

 

 「いや、それにしても多いよ。普通はルスを狩ったら、他のは見逃すぞ。アロん所だけだよ、ついでに狩るなんてするのは」

 

 「おいおい、それじゃあうちが異常みたいに聞こえるぞ?」

 

 「そう言ってるんだが」

 

 「……」

 

 「異常って言っても、真似の出来ない凄いって事だぞ。念のために言うと」

 

 「まあ、そうだな。一緒に行ったけど俺も信じられないんだからな。それに、狩ったら運ばなきゃいけないけど、精霊術があるから問題ないしな」

 

 「そうだよな。精霊との契約だけど、調子はどうだ?」

 

 「今日から弓の練習したんだけど、鈍ってるな。一射目を任されたんだけど外したしな。まあ、ゆっくり鍛え直すよ。だから先に契約しろよ」

 

 「またそんな事言うの? 良いでしょ、好きで待ってるんだから。それに、契約が早いからって特に良い事ないし」

 

 「そ、そうか」

 

 そんな嬉しいやり取りをしつつ、話しながら宴会を楽しんだ。

 

 

 

 「今日のどう思う?」

 

 「俺が練習を見てた時は鈍ってはいたけど、あんなに震えたり呼吸が荒くなるなんて事はなかったな」

 

 「やっぱりそうか」

 

 宴会も終わり、いつもの様にアロについての情報を共有しているのだ。昼前の練習は見れなかったけど、厳しく教えたからな。あんな状態は初めて狩りに連れて行った時くらいじゃないかな。

 

 「ガシさんから聞いたんだけど、解体してる時に泣いてたんだって。しかも、アロは泣いてる事に気付いてなかったみたいよ」

 

 なるほど。気付いてないのに泣いていた、と。解体の時は怖がっていたけど、泣きはしなかった。と言う事は

 

 「もしかして、前の記憶が関係してるのかな?」

 

 「多分そうだと思うわ」

 

 そうか。トプロたちも頷いているからそうなんだろう。だけど、厄介だな。いつもと同じ様に狩りに連れて行ったらコレだ。どうしたら良いんだ?

 

 「とにかくアロを一人にしないで、新しい反応は楽しみながら見守りましょう。こんなアロになってしまった、じゃなくてこんなアロもいたんだ、って」

 

 「そうだね、スイの言う通りだ。どんなアロになるのかは分からないけど、アロはアロなんだ。それを忘れない様にしよう」

 

 そうだ。アロに前の記憶があったとしても、アロはアロなんだ。それで家族じゃなくなるって事じゃないんだ。今まで通りにしよう。


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