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説得

奥山のセリフの中でアローニがアロになっていたので、一箇所訂正(2017/7/21)

 なんと言えば良いのだろうか。あれからダイスケが自分を殺した理由を聞いた。生まれた世界が違うから絶対なんて言えない。きっと自分を殺すに事まで追い詰められたんだろう。だけど、悔しいし悲しい。俺の人生ではなくダイスケの人生なのに、だ。

 

 「そんな顔すんなよ。最後はアレだけど、それまでの人生はそれなりに充実してたんだ。それに、こうやって生まれ変わりを間近に見れたんだ。しかも、想像の種族だと思っていたエルフ……森人族なんだぞ? これからが楽しみだよ。だから、記憶は残して俺は消えるよ」

 

 明るい声で言われるけど、もう一人の俺が消えるなんて……。

 

 「それにな。俺は消えるけど記憶は引継ぐって大変だと思うぞ」

 

 え? もう一人の自分が消える事よりも大変な事って?俺が分からないって顔をしていたら説明してくれた。

 

 「引継ぐ記憶ってのは俺の生まれてから死ぬまでの人生だ。だから、ふとした瞬間に俺の記憶が出てくる事もあるだろう。誰かと会った時にどこかで会った様な感覚になる事もあるだろう。それに、そっちの世界にはない知識や考え方が俺の記憶にあったとしても、それを上手く活用出来るのは俺だけだ」

 

 「そうですね。今、村下さんが話した様に、記憶を引継ぐ事によって良い点、悪い点があるのは分かったと思います。ですので、アローニとは違う考え方が混ざるので、暫らくは混乱するでしょう。恐らく、村下さんが死んだ35歳位には落ち着くと思います」

 

 そうか、もう一人の自分であるダイスケの記憶が新たに加わる事って良い事だけじゃないんだ。でも、それを上手く使えるまではダイスケにいて欲しいと思うのは駄目なんだろうか。

 

 「あの、ダイスケが消えて記憶だけ引継ぐ事は納得しました。でも、その記憶を使えるまでダイスケを消さない様には出来ませんか?」

 

 「そうですねえ。確かに村下さんの記憶を上手く使える様になれれば、生きていく上で有効だと思います」

 

 「じゃ、じゃあ!」

 

 「先程も言ってましたが、ダイスケが消えるまでの間我慢出来るかと言う事です。それに、村下さんがいれば記憶を上手く使えるでしょう。しかし、村下さんがいる事によって、感情や考え方がアローニの物ではなく、村下さんに染まっていきますよ」

 

 「そ、それは……」

 

 じゃ、じゃあ記憶を引継ぐ事の意味って何だ? ダイスケの記憶を使えないと生まれ変わったって証にならないのでは?

 

 「記憶を引継ぐ事に良い点と悪い点があると言いました。それは、良い点の中にも悪い事があるし、悪い点の中にも良い事もあるんですよ」

 

 「それでは、ダイスケが生まれ変わる意味って何なんですか? 僕はどうしたら良いんですか?」

 

 「そんな深く考えなくて良いんだぞ。アロはアロのまま生きてくれれば良いんだ。さっきも言ったが、俺は生まれ変わるよりも消える事を望んだんだ。俺の記憶だって使えれば良いし、使えなくても何も問題はないんだ」

 

 そんな事言われても……。どうしたらダイスケの意味を残せるんだ。

 

 「……俺が消えるのが納得できないか? ふう、アロの人生なんだから悩む必要はないんだけどな。とは言っても、俺の記憶を引継ぐから悩まないほうが無理か。じゃあ俺の願いを叶えてくれ」

 

 「な、何でも言ってくれ」

 

 「そんなに気負わなくて良いよ。旅をしてくれないか?」

 

 「旅? そんな事で良いの?」

 

 「ああ。俺の世界には200位の国があるんだが、一度も外の国には行った事がないんだ。と言っても、自分の国を全部行った事もないんだけどな。だから、俺が出来なかった、いやしなかった事を変わりにして欲しいんだよ」

 

 「旅……それだけで良いのか?」

 

 「ああ、それで満足だ。逆に聞くが、俺にどうして欲しいんだ?」

 

 「一緒に生きて欲しい」

 

 「ふう。俺という人間は死んだ。だけど、魂が同じお前が生きている。それだけじゃ駄目か?」

 

 「駄目だ」

 

 「まったく。初めて会ったのにどうしてそこまで悩むんだよ」

 

 「だって、お前は俺なんだろ!? 悩んで当然じゃないか!」

 

 「俺はお前に厄介事を押し付けるんだぞ? それに俺は死んだ。死んだ人間は生き返らないし、生まれ変わっちゃいけないんだ。お前の世界だって死んだ人間が生き返る事なんてないんだろ? まあ、あったとしても、俺の世界じゃ生き返る方法はなかったんだ。だから、生き返るつもりはない」

 

 なんて強い意志なんだ。旅に行っても、それを共有出来ないと意味がないじゃないか。

 

 「アローニ、私も村下さんの意見に賛成です。貴方は既に一人の人として成長しました。記憶だけでもどうなるか分からないのに、人格までとなると……」

 

 オクヤマ様までダイスケが消える事に賛成か。その方が良いのか? 

 

 「想像してみろ。お前の家族や友達を俺が奪っちまうだぞ? もしかしたら、殺すかもしれないんだぞ?」

 

 そ、それは嫌だ。一緒に生きるって言ったけど、それだけは許せない。

 

 「い、嫌だ!」

 

 「だろ? それが答えだよ。お前は俺に消えて欲しくないと言う、だけど奪われるのも嫌ときた。だとしたら、選ぶのは簡単だ。今までの生活を選べ。何度も言わせるなよ」

 

 「……わかっ……た」

 

 「声が小さいぞ。そんなんじゃ旅する前に直ぐに死んじまうぞ?」

 

 「分かった! ダイスケに自慢出来る位に旅を楽しんでやる!」

 

 俺は泣いているんだろう。ダイスケが霞んで見える。

 

 「話はついた様ですね。では、記憶だけ引継ぎ、村下さんは消えると言う事で」

 

 それまで話の行く末を見守っていたオクヤマ様が話しに入ってくる。俺は涙を腕で拭って向き直る。

 

 「はい」

 

 「分かりました。では、記憶の追加の際に混乱しますので、村下さんの世界及び記憶がどういった物かを予め知ってもらいましょう」

 

 「ちょ、ちょっと! それって俺の見られたくない歴史とかもですか?」

 

 「当たり前じゃないですか、何を言ってるんですか? それに、引継ぎが終わったら問答無用で知られる事になるんですよ?」

 

 「ああああ、そうだったーー!! やっぱり引継ぎなんてなしに出来ませんか?」

 

 「無理です、規則ですから。では、見ましょうか」

 

 「そんなご無体な! せめて、せめて俺のいないところでお願いします!」

 

 

 

 ダイスケの記憶や住んでいた世界の光景を見た。何と言ったら良いのか分からない。森から出た事がないから外の世界がダイスケの世界と同じかもしれないと思うと興奮してくる。分からない所は二人に説明して貰ったけど、理解出来なかった。特に食べ物に関しては見た事もない獲物なのもあって、想像もできない。そして、匂いだけは嗅げたので余計に興味が沸いて来た。ダイスケが旅をしてくれって言ったけど、これを食べられるかもと思うと行かないって選択はないな。

 

 「はああああああ。どうして自分の記憶を一緒に見ながら、しかも解説までしてるんですかねえ」

 

 ダイスケは余程嫌なのか、目を逸らしては俯いて耳を塞いでいた。でも、分からない所がある時はダイスケに聞くのだ。その時は一緒に見るのだけど、恥ずかしいのか早口になって聞き取れないので、何度も説明をする事になっていた。でも、オクヤマ様が変わりに説明すれば良いのにと思っていると、説明をするダイスケを見ては笑いを堪えていた。この一柱も結構良い性格してるなって思ってしまったのは内緒だ。

 

 「ダイスケ、そんなに嫌だったの? 俺には嫌な感情なんて沸かなかったけど」

 

 「そりゃそうだろう。アレは俺の記憶なんだからな。成功も失敗も隠しておきたい事や忘れていた物まで晒されたんだからな」

 

 そんな事を言うとまた蹲って頭を抱えてしまった。言う程、酷い物だったのかな。俺にはあの世界の価値観も考え方も分からないから、いまいち共感できない。

 

 「もう、いいでしょ。終わった事なんですから。それに貴方は消えるんですから、その羞恥心も今だけですよ」

 

 「そ、そうは言いますけど! 最期の最期にこの仕打ちはないでしょ!? 何が悲しくて振られた事まで説明せにゃならんのです!?」

 

 「……ダイスケ、口調変わってるよ」

 

 「お前は良いよな、人事で。想像してみろよ、好きな女に結婚を申し込んだら駄目って言われるのを」

 

 「俺まだ考えた事ないし、分からないよ」

 

 「……そうか、まだなのか。でも、お前なら断られる事はなさそうだな」

 

 俺の見ながらそんな事を言う。どこからそんな事を考えられるのか。俺だって断られるかもしれないんだぞ。まあ、森人族は大体容姿が整っているって言うけど。

 

 「まあ良いではないですか。貴方の記憶を引継いだら、もしかしたら羞恥心が沸くかもしれませんし。それに、結婚を申し込む時に貴方の記憶が蘇ってきて尻込みする可能性もありますよ。何しろ、魂は同じなのですか」

 

 「はあああ。それで一応納得しておきます。もう自分の記憶で悶絶する事もないですからね」

 

 「これで、村下さんの記憶の引継ぎに際しての、予備知識の開示は終わりです。ですが、これよりその記憶を蘇らせます。その際に、今までのアローニとしての記憶と、村下さんの別世界での記憶が一緒になります。その時に経験した事のない記憶によって悩まされるでしょう。それは目覚めてからもです。村下さんの記憶に関しては隠しても良いですし、話しても良いです。では村下さん。最期に何かありますか?」

 

 今まで項垂れていたけど、最期と言われて俺に向き直って真面目な表情になった。

 

 「はあ、まあアレだ。俺の恥ずかしい記憶を一緒に見たのは忘れるとして。俺は消えるが、生まれ変わりを見れてこんな幸せな事はない。俺が言える事は只一つだ。何もしないで後悔する位なら、行動して後悔しろ! それだけだ」

 

 「……分かった。ダイスケの分まで旅を楽しむさ!」

 

 俺たちは固い握手を交わした。魂が同じだから、こうやって話しているのも不思議なんだけど。

 

 

 「……あ、そうそう。生まれ変わりの際の能力の成長限界などは記憶から消させてもらいますので」

 

 そう言うと俺に向かって手を翳した。すると何だか立っていられなくなって、眠たくなってきた。ダイスケが何か言っている様な気がするが聞き取れない。

 

 

 

 「まったく、奥山様も悪いですねえ。最後に成長の事を告げるなんて」

 

 「言うだけ良かったでしょう。別に言わなくても良かったのですからね。教えて鍛錬を怠るよりは良いでしょ。それよりも、貴方も逝きますよ」

 

 「はい、お願いします」


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