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降臨 弐

誤字、数字修正 (2018/3/26)

 「ア、アロはオクヤマ様に遊び道具として選ばれたって事ですか!?」

 

 「スイ、落ち着きなさい」

 

 「だって、プーマは気にならないの? 実験って言ったのよ?」

 

 「そ、それは……」

 

 気にならないと言えば嘘になる。正直、真意を聞きたい。俺が言葉に詰まったところでオクヤマ様からの再度の説明が始まった。

 

 「実験と聞いてその反応は覚悟していました。実験とは言っても、記憶の引継ぎを行うだけです。言いましたよね? 選んだからと言って使命を与えると言う事がない事を」

 

 「で、では、実験と言う言葉を使った真意をお聞かせ願いませんか?」

 

 「そうですね、私も言葉が足りなかったですね。生命は循環しています。生まれ変わっても魂は同じなのです。同じ魂ならば前と同じ様な事をするかと言えば違います。それは、環境など色々な条件が違うから当然の結果です。ですが、前世での記憶を引継いでいれば、その記憶を活用して同じ様な事が出来るのではないのか? と考えたのです。だから、実験と言ったのです」

 

 な、なるほど。つまりは前世と同じ事をするのかどうか確認したいって事か。あれ? でも確かアロの前世は。

 

 「あの、オクヤマ様の先程の説明ですと、アロの前世は特筆する事なく終わったと言いました。それだと、同じ事をするとしても変化はないのでは?」

 

 「だから、です。魂は同じでも前世では特筆する事なく終わりました。では、その記憶を引継いだらどうなるのか? と言う事です」

 

 「で、では、アロが起きないのは関係があるのですか?」

 

 実験と言う言葉には一旦納得はした。だが、それと今のアロの状態がどう繋がるのか分からない。

 

 「それも今から説明します。記憶を引継ぐと聞いてどう思いましたか?」

 

 「そ、それは……」

 

 分からない。引継ぎの事だって今聞いたのだから。

 

 「まず、同じ事を経験したとしても感じ方はそれぞれ違います。ある者は楽しい事でも別の者には別の感情が生まれる事なんて当たり前です。それは魂が同じでもです。アローニが経験してきた十五年と、前世での経験は当然ながら違います。言葉、種族、精霊術の有無、何もかも違うのです。そんな状況が違う記憶だけがアローニに加わるのです。今のアローニは前の人生の記憶との折り合いをつけているところです」

 

 「そ、それはつまりアローニにとってどう影響があるのですか?」

 

 説明されたけど、さっぱり頭に入ってこない。今までそんな人に会った事がないから、理解なんて出来るはずがない。だから、アロに影響があるのかないのか、そこが重要なのだ。

 

 「混乱するでしょう。前世の、それも住む世界が違う時の記憶ですからね。混乱する期間は分かりませんが、一時ではないと思います。そして、混乱している間に記憶に引きづられると」

 

 「ど、どうなるんですか?」

 

 聞きたいけど聞きたくない。だけど、親として知らなければいけない。それが、例え悪い事だとしても。

 

 「今のアローニは消滅します」

 

 ああ、何てことだ。消えてしまうなんて。どうすれば良いんだ。スイも泣き崩れているじゃないか。

 

 「その記憶の引継ぎをなしには出来ないのですか?」

 

 そ、そうだ。そもそも前世の記憶があるからそんな事が起きるんだ。だったら、引継ぎなんてしなければ良いじゃないか。神様なんだからそれ位できるはずだ。

 

 「できませんね。私が引継ぎの説明をすると言っても、決定は私ではないのです」

 

 「その決定は覆せないのですか?」

 

 「無理ですね」

 

 くっ、それじゃあ何もできないじゃないか。ただ黙ってアロが消えるのを見る事しかできないのか。

 

 「先ほど言った消滅とは、最悪の場合です。それを回避する事も可能です」

 

 アロが消えなくても済むかも知れないと聞いて、スイも泣きながらでも聞く体勢に戻った。

 

 「それは、どうすれば良いんですか?」

 

 「今まで通り、何も変わらずに接して下さい」

 

 「そ、それだけで良いんですか?」

 

 「ええ。貴方方は記憶の引継ぎをしている事を知りました。しかし、それでアローニとの関係を希薄にしますと、前世での人格が前面に出てくる可能性があります。従って、何も知らないと思い込んで下さい。アローニから言い出さない限りは話題にも出さない方が良いでしょう」

 

 と言う事は、消える可能性を限りなく減らす事が出来るって事だな。ふう、最初に最悪の事を言われて絶望してからの希望を言われると、何だか消える未来が見えないな。オクヤマ様も悪いなあ。最初に最悪の事を教えて人を絶望に落とすなんて。

 

 「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。これからも変わらずに接する事とします」

 

 皆も力強く頷いてくれた。これからも家族として接すれば問題ないんだからな。

 

 「あの、アローニが消えない可能性が示された事は喜ばしい事だと思います。ですが、私には疑問があります。それは何故、アローニが起きないのかと言う事です」

 

 今まで黙って聞いていた精霊長様がこんな事を言った。それは記憶の引継ぎの為なんじゃないのか?

 

 「先ほども言った通り、記憶の引継ぎの為です」

 

 そう、そうだよな。さっきと同じだよな。しかし、精霊長様は何が疑問なんだ?

 

 「それは分かっております。起きないのは記憶の引継ぎの為だと。では、起きない原因となったのは何故ですか?」

 

 原因?それは引継ぎの……あれ? アロが倒れたのはオールスのせいだ。だけど、都合良くアロが気絶するとは限らないから。もしかして……。

 

 「……そうです。魔物化したルスを用意したのは私です。ごめんなさい」

 

 え? 聞き間違いじゃないよね? オールスを用意? 皆が口を開けて呆然としている。じゃあ、今までの心配って……。

 

 「私の聞き間違いでなければ、オールスを用意したって言いました?」

 

 聞き間違いの可能性もあるからな。まあ、全員が呆然としてるから間違いないと思うけど、一応ね。

 

 「はい、私が仕組みました」

 

 「わ、私の私たちの心配を返してください!」

 

 「ごめんなさい」

 

 綺麗な顔で謝られると、こちらが悪い事をしているみたいだ。いや、まあ例え仕組まれた事でも心配したのは損でもない、か。でも、何か意趣返しできないかな。

 

 「で、では。私に名前をつけて下さいませんか?」

 

 「そうですねえ。それは私ではなくもっと相応しい者がいると思います」

 

 「オクヤマ様以上の相応しい者ですか?」

 

 オクヤマ様以上ってなると……。想像できない。誰? と言うか神様が複数いるなんて初めて知ったし。

 

 「アローニがもう直ぐに契約するのでしょ?その当事者であるアローニにつけてもらいなさい」

 

 おお、精霊長様が契約となると祝わないといけないな。しかし、それを前もって知っているのは中々に大変だ。何しろ、精霊長様が契約するのはいつ以来だ。黙っていられるかな?

 

 ふう、オールスが現れたって事から始まって神様が降臨する。そして、その場にいるって不思議な体験は忘れそうにない。と言うか、早くアロに話したい! ああ、早く起きないかなあ。そして、早く打ち明けてくれ! それまでニヤニヤして勘付かれそうだよ。

 

 こうして一連の事件の説明は終わり、スイも安心して休む事に……ならなかった。

 

 今度は興奮して休んでくれない。はあ、折角、安心できると思ったのに。これでは何も変わらないじゃないか。


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