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何事にも最初はある

 「やはり、陸は良いな! 揺れないのがこんなにも素晴らしいとは!」

 

 「本当ですね!」

 

 船を降りて一日は体調を整える為に休日とした。まあ、整えるのは二人だけなんだけどね。で、二人を宿に残してナックと二人で町を色々と散策していた。武器屋や防具屋や商会、食堂と中々に面白い所があった。

 

 で、次の日に依頼を請けたんだ。もちろん、海じゃなくて陸のね。そしたら見ての通りだよ。デルとルークがはしゃいで? 率先して狩りをしている。そして、揺れない事に感動している。

 

 何だか、似た様な光景を見た気がするけど気のせいだよな。

 

 ……うん。分かってる。分かってるって。あれは俺だって言いたいんだろ? それくらい分かってるよ。

 

 「(誰に向かって説明してるのよ)」

 

 「(誰にって、もちろん自分に言い聞かせてるんだよ)」

 

 でもな、あの浮かれっぷりは直ぐになくなるんだよな。だって、俺がそうだった様に強制的に海の依頼を請けるから。そうしないと試練を乗り越えられないだろうからね。

 

 「お前等、現実逃避してるとこ悪いが、これからは海関連の依頼を増やしていくぞ」

 

 「おまっ、ばっ!」

 

 俺が折角生温かい目で見てたのに、ずばっと言いやがったよ。

 

 ほらあ。二人とも渋い顔で振り返ったじゃないか。見るからにさっきまでの明るい顔がどこかにいっちゃったよ。

 

 「だって、どうしたって海の依頼が増えるだろ。それを誤魔化しても仕方ないだろ?」

 

 「そりゃそうだけどさ。言う場所っていうか時ってのがあるだろ。ついこの前まで、船の上でげえげえ吐いてたんだぞ」

 

 「いや、こういうのは早めに言った方が良いだろ」

 

 「だからって、早くないか?」

 

 「そうか?」

 

 これだよ。ナックって思った事をずばっと直ぐに言っちゃうからな。しかも思ってもみない事を。それも自分の事なら良いけど、他の人の事を勝手に。それを良かれと思ってるんだろうけど。実際に、俺がキューカと契約してる事をあっさりと言っちゃうし。それも俺に相談も何もな、だ。

 

 まあ、良い事もあるのは認めるけどさ。何も言えない様になったら、解散になるだろうな。

 

 と、今はそんな事は良いな。それよりもデルとルークだ。顔を見れば分かる。船には暫く乗りたくない。だけど、慣れないと駄目だって事も分かってる。慣れる為には乗らないと駄目な訳で……。その間で悩んでいるんだろう。

 

 「そんな事は分かってる。分かってるが、今くらいは忘れても良いではないか?」

 

 「そうですね。折角、考えない様にしてたのに一気に戻されましたね」

 

 さっきまでの明るい声がどこへやら。一気に暗い声になったし。雰囲気もつられて暗いし。

 

 「そうは言うが、さっきも言った通りに海関連は増やしていくぞ。じゃないと試練を達成できないからな」

 

 「そうなんだがな。その、小物狙いでいけないものかな?」

 

 「大物狙いたいけど、小物しか無理だって話になっただろ」

 

 「いや、そうなんだが。そうじゃないんだよ」

 

 「ナック、デルは船に乗らないで小物を狙えないかと言ってるんだ」

 

 「そう! それだよ!」

 

 「船に乗らないんだったら、港で釣りじゃないか?」

 

 「何だ、あるじゃないか」

 

 「あるにはあるけど、どれだけ釣れるか分からないぞ。ま、それは船に乗っても変わらないと思うけど」

 

 そうなんだよなあ。船に乗ったからといって、魚がたくさん釣れる保証はどこにもない。どこにもないけど、海は広いから釣れなかったら移動すれば良いだけの事だ。だけど、港の場合は移動してもそんなに変わらないだろう。

 とは言ってもどっちにも一長一短があるだろうけどね。

 

 「うーーむ」

 

 「悩みますね」

 

 悩んでる悩んでる。どっちが正しいかはやってみないと分からないだろう。だけど、俺としては今後の事も考えて船に乗れた方が良いと思ってる。それに、船の方が早く百匹を釣れると思う。

 

 「今後の事も考えて少しは慣れておくのも良いと思うぞ。それでどうしても駄目なら、別の方法を考えれば良いんだしな」

 

 「やはり、船に乗るのは避けられないか」

 

 「俺だって二人と同じ事を経験してるんだぞ。だから、二人の気持ちは分かる。今、俺が平気なのはナックに無理やり海の依頼を増やされて無理やり乗せられたからだ」

 

 「二度も言わなくても良いだろ。それに、あのお陰で今があるんだ」

 

 二度言ったのは、強調したいからに決まってるだろうが。それ位、分かってくれよ。

 

 「分かってるって。だから、絶対に慣れろとは言えない。言えないけど、慣れた方が今後の為にもなるかなと。今後、船に乗らないでも旅を続けられるなら良いんだ。でも、それは俺には分からないからな」

 

 「アロもだったか。国の詳細な地図は出回ってはいないが、大体の国は海に面していた筈だ。だから、慣れた方が良いのは分からないでもない」

 

 「だろ? それに船に苦手意識があるのはいきなり五日間の依頼を請けるからだぞ。最初なんだから、簡単な依頼からにすれば良かったんだよ」

 

 「乗った事はないが、大丈夫だと思ったんだよ」

 

 「その根拠がどこからなのか分からないけど、経験した事のない物だったら慣れる為にも小さい事から段階的に進めていくべきじゃないのか?」

 

 「う、うむ」

 

 「それに、だ。デルがあの依頼を請けたから、ルークも一緒に五日間も苦しむ事になったんだぞ」

 

 「そ、それは……。すまない事をした。許してくれ、ルーク」

 

 デルがルークに向かって、深く頭を下げた。謝っているんだろうけど、やられたルークの方が慌てている。

 

 「ちょ、ちょっと頭を上げて下さい! 何も言えなかった俺も悪いですから」

 

 「そうだよな。あの時、遠慮して何も言えなかったもんな。ルークも悪いよな」

 

 「うっ。は、はい」

 

 二人ともが項垂れてしまった。デルは根拠がない自信で依頼では使い物にならなくなり、ルークはデルに遠慮して何も言えなくなり同じく依頼で使い物にならなかった。どちらも反省すべき点はある。

 

 それは俺達もだな。依頼を請ける際にどんな依頼なのか確認をしなかった。請けた後でも変えさせる事が出来たんだ。だけど、大丈夫だろうって事でそれをしなかった。言葉が分かるデルに任せっきりにしてた事がここにきて悪影響が出たな。

 

 「まあ、纏めるとだな。船に慣れる為にも小さな依頼から小さな船からで、試練は船と港の両方で釣りをする。こんなところか?」

 

 「うを。ナックが纏めた」

 

 「茶化すな。それで良いか?」

 

 「俺はそれで良いぞ」

 

 「う、うむ。私もそれで良い」

 

 「はい。俺もそれで良いです」

 

 「よし。じゃあ、今日の依頼はこの辺にして町に帰るか。明日からは海と陸の依頼を交互にするか」

 

 「どうしたんだよ、ナック。お前がこんなに思いやりがあるなんて」

 

 「あのなあ。お前は俺を何だと思ってるんだよ。仲間なんだから当然だろ」

 

 「悪い悪い。で、本当は?」

 

 「今の話を聞いて悪いかなと思っただけだ。わ、悪いと思ったけど、少しだぞ、少し」

 

 「ほほう。俺には無理やり船に乗せておいて、今更か?」

 

 「だ、だからアロの時の反省を活かしてるんだよ」

 

 「俺の時にもそれがあれば」

 

 「だから、あの時の事があったからだ」

 

 「帰るか」

 

 「をい!」

 

 ナックは無視して町へ帰る事に。まあ、あの時はナックを恨んだりもした。したけど、あれがなかったらこの前の船みたいに、平気で依頼をこなす事はなかったろう。

 

 だけど、恨まずにはいられないよな。

 

 

 そうだ、これも聞いておかないとな。一応。

 

 「あ、ところで泳げるよな?」

 

 「「……」」

 

 ふいっと目を逸らす二人。ここで三人だったら良かったんだけど、ナックが泳げるのは知ってるからな。

 

 「船から投げ出されて溺れても困るから、まずは泳ぎを含めた依頼からだな」

 

 「「は、はい」」

 

 そんな訳で今後の事はある程度決まった。海ばかりだと飽きるし体力が保てないから、陸海両方を均等に依頼を請ける事になった。これは俺にも有難い事だ。海だとどうしても狩りをしてるって感じにならない。何より、自分でってよりは手伝いの意味合いが大きいからだと思う。

 

 

 

 「じゃあ、どんな依頼が良いかな」

 

 「俺達は読めないからデルに任せる事になるんだけど。条件としては小船で遠くへは行かずに尚且つ泳ぎも出来るのが最適だな」

 

 「そんな都合の良いのがあるかよ。優先順位は泳ぎの練習は俺等でも出来るから、小船の依頼だな」

 

 「了解だ」

 

 翌日、朝早くに組合に来て依頼を探している。さっき言ったのは一度に出来たら最高だけど、ナックが言った様にそんな都合の良い依頼なんてある筈もない。まずは、船に慣れる事からだな。

 

 「んー、じゃあこの浅瀬で漁ってのはどうだ?」

 

 「浅瀬、ね。それなら遠くに行く事もないし良いんじゃないか?」

 

 「ですね。それって何日間なんですか?」

 

 「一日で終わるみたいだな」

 

 「じゃあ、それで決定だな」

 

 という事で、依頼書を持って受付に行かせる。なんだ、こういう依頼もあるんじゃないか。てっきり、五日間とか遠出する依頼ばかりだと思ってたよ。

 

 「よし、依頼人の所へ行こうか」

 

 

 

 「依頼を請けてくれたのは良いが、おめえさん達か? 出来るだか?」

 

 「浅瀬の漁と聞いてますが」

 

 「そうだ。だが、おめえさん達が簡単に考えてる様なもんじゃねえぞ」

 

 「漁、ですよね?」

 

 「そうだ。わし等がやってるのは伝統の素もぐり漁だ。出来るだか?」

 

 「……素もぐり漁と言うのは?」

 

 「はああ、そんなことも分からねえで請けたのか。もぐって魚を捕まえるんだよ」

 

 「もぐって……ですか」

 

 「おい、何て言ってるんだ?」

 

 「漁は漁でももぐって魚を捕まえるんだと」

 

 「「「もぐって?」」」

 

 依頼人がいる港まで行くと十人くらいの小さな集団があった。種族は分からないけど、魚人族が多く他も海に関係してると思う。で、声からして代表らしき人は女性らしい。しかも掠れているから年寄りだと思う。

 

 そんな人に言われたのが、もぐり漁だ。てっきり網で漁をするのかと思っていた。こんな漁があるとは、想像もしてなかった。そうか、もぐって捕まえるのか。

 

 泳げるけどもぐって、しかも捕まえるのか。出来るのか? うーん。

 

 あ、そう言えば泳げないと言ってた二人は……。

 

 駄目だ。顔がもう諦めと言うか渋いと言うのか。いや、絶望の顔だな。ここは諦めてやるしかないよな。


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