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洋上にて 弐

 「そうかそうか! お前さん達は冒険者か!」

 

 「ええ、一応。これでも」

 

 「その調子だと、船に乗るのは初めての様だな! がはははははは」

 

 あー、起きてきたけどまだ調子悪そうだな。顔色はもちろん悪いし、声が大きすぎるからそれも響いてそうだな。

 

 デルと話してるのは大声で近付いてきた船の船長だ。デルが起きてきて助かった。俺とナックだと言葉が伝わらないから、困った事になってただろう。ナックよりも少し背が高くて、横幅もある。とは言っても、太ってるって意味じゃなくて鍛えられている身体だ。時折覗く牙は鋭く、爪も鋭く長い。あんなのに噛まれたら一撃だな。

 

 どこかで見た事があると思ったら、狩った事がある動物に似ている。何時かは忘れたけどね。確か、ボスコーだったと思う。でも似てはいるけど大きさは全然違うな。あっちの方が倍以上はあったはずだ。あっちの方が大きいのに、怖いと感じるのは目の前の人だな。

 

 「なあ、前に狩ったボスコーに似てると思わないか?」

 

 デル達と距離を少しとって話してるのを眺めてると、隣で黙ってたナックが話し掛けてきた。俺の両隣にナックとルークがいる。ナックは良いとして、ルークもまだ調子が悪そうだ。今は波もおさまってきて、ちょうど止まってるから立てている。まあ、船の縁には掴まってるけど。

 

 「ナックもそう思うか? ちょうど俺も思い出してたとこだ」

 

 「似てるってよりは同じって感じもするけどな。何だか、複雑な気分だな」

 

 「それって、狩った事があるのと似てるからって事か?」

 

 「ああ。違う事は分かってはいるんだけど、何だか、な」

 

 「分かる気がする。あそこまで似てるとな。もしボスコーを狩る事になってもあの人はこんな気持ちにはならないんだろうな」

 

 「どうだろうな。でもスポルさんは確か気にしないって言ってた様な気がする」

 

 「ああ、確かに」

 

 自分と似てる、若しくは元を辿れば祖かもしれないんんだ。そんな物が目の前にいれば、狩る事はもちろん食べる事なんて出来ないと思ってた。だけど、スポルさんは気にしないって言ってた。海の中にいるのは似てるけど別の生き物って認識だったはずだ。だから、気にしないって。むしろ、美味いから良く食べるって言ってたな。

 

 「あの、お二人は知ってるんですか?」

 

 「知らないな。ただ、あの顔の動物を狩った事があるってだけだ。もちろん、あの人みたいに話す事はないからな。ちゃんとした討伐依頼が出てる動物だよ」

 

 「そうなんですね。でも、どう思ってるんでしょうね。似た顔の動物がいるって」

 

 「さあ。それは本人にしか分からない事だな。ただ、前に漁をしてる魚人族の人に聞いたんだけど、気にしてないってさ。別の生き物って認識らしい。それに、美味いから結構食べるって言ってたぞ」

 

 「はあ。そんなものなんですか。幸いと言うのか、俺達に似た動物って見た事がないですからね。もしいたら、何も感じないんでしょうね」

 

 「それはどうだろ」

 

 「どういう事ですか?」

 

 「想像してみろ。俺等に似てる所って多分顔だろ。そんなヤツが二足歩行か四足歩行か分からないけど、いたとする。顔以外の部分は、そうだな何でもいいから他の動物にしよう。そんなのを見付けたら、何も考えずに狩るか? 俺だったら、迷って見なかった事にするだろうぜ」

 

 「うわあ、それは考えたくもないですね」

 

 「だろ? しかも喰えるか? 俺は無理だぞ。前に会った漁師もそんな事を考えてたんじゃないかな。まあ、それはずっと昔の親以上の事だと思うけどな。それが段々と薄れていって、似てるけど別の生き物だって考える様になったんじゃないかな」

 

 「なるほど。って、食べるところを想像しちゃったじゃないですか。折角、少しは落ち着いてきたのに、また気持ち悪くなってきましたよ」

 

 「悪い悪い」

 

 うん。ナックの言う通りで、それはあり得るな。最初は戸惑うどころか、気持ち悪かったんじゃないかな。見付けても狩りたくないし、もし狩っても喰う事は躊躇うだろ。でもその内に代を重ねる毎に、別の生き物と考え初める。喰ってみたら美味かったから、尚更別の生き物と考える様になった、と。

 

 じゃあ、俺達の場合はどうか。そこまで考えられるだろうか。喰うには狩るしかないわけで、狩るには似てる顔を見ないといけないわけで。……うん。無理だな。俺だったらまずは話し掛けちゃうな。

 

 「なんの話をしているんだ?」

 

 と、そこへ船長と話してたデルが俺達の所へ戻ってきた。その顔はまだ辛そうだ。

 

 「ああ、もう良いのか?」

 

 「私と何時までも話している訳にもいかないからな」

 

 「それで、あの船長は何しに来たんだ?」

 

 「餌を買いに来たんだ」

 

 「餌? 買いに? ここ海の上だぞ」

 

 「言いたい事は分かる。分かるが事実だ。この船は魚を獲って生きたままにしてあるだろ。あれは港に運ぶ為じゃなくて、こうやって他の船に活きの良い餌を売る為に獲っているんだ」

 

 「ああ。なるほどね。さっき聞こうとした少ないって意味はこういう事なのか」

 

 「そういう事だ。バウさんは遠くに大物を狙いに行くから、こうやって港に帰る事なく餌を補充できるのは有難いって言ってたぞ」

 

 「バウさん?」

 

 「ガッジョ・バウ。私がさっきまで話してた船長の事だ」

 

 なるほどね。もっと遠くへ行くのか。餌を取りに港まで戻るのもな。ん? 大物ってもっと遠くへ行かないと駄目なのか? それと餌ならそこ等辺にいるんじゃないのか?

 

 「なあ、あのさ……」

 

 

 「ふむ。ちょっと待て、聞いてくる」

 

 誰に聞いて来るんだか。まあ、誰に聞いても良いのか。ああ、バウさんに聞きに行ったのか。この間にもどんどんとバウさんの船に餌が移されていく。俺達は休憩してて良いって言われたから、ただ眺めてるだけだ。まあ、慣れてる人がやった方が早いってのもあるんだろうけどさ。

 

 横付けされたバウさんの船はジンさんの船よりも大きい。ただ単に大きいってだけじゃなくて、頑丈そうだ。ジンさんの船には帆は三本に対して、バウさんの船は五本ある。しかも、一本一本が大きいし高い。

 

 大きい船だから当然、乗組員も多い。大体百人くらいいるらしい。これも当然と言えば当然なのか、全員が引き締まった身体だ。太ってる人はいない。種族も色々いる。だけど、女性はいないみたいだ。とは言っても、男か女かの区別が出来てる訳じゃないから正確じゃないだろうけどね。

 

 「でも、実際に大物を釣るにはもっと遠くに行かないと駄目なら大物は無理そうだな」

 

 「そうだよな。どうせなら、大物を狙いたいしな」

 

 「そうですね。でも、近場で釣れるとしてもどこで釣れるのとか、何時ごろ釣れるのとか、どんな餌が良いのかとか分からない事だらけですよね」

 

 「ああ、そういう問題もあったな。んー、そうなるとさ、結構難しいんじゃないか?」

 

 「ですね。小物でも同じ事が言えますからね」

 

 「しかも助けてもらったら駄目なんだろ? 俺等が初めてな訳ないんだから、どうやってるんだ?」

 

 「分からないな。ここに着いたばかりなのもそうだけど、冒険者の知り合いがいないからな」

 

 三人揃って、試練の内容が難しい事を思い知ってしまった。腕組みをしたり瞑目したりするけど、何も良い考えは浮かばないだろ。俺にも何の考えも浮かんでこない。時間を掛ければ小物百匹は楽だろう。時間を掛ければな。

 

 まあ、早く次の町に行きたい理由もないからゆっくりでも良いんだけどね。

 

 

 「聞いてきたぞ」

 

 「それで何だって?」

 

 「大物はこの辺りでも獲れるらしい。狙ってるのはこの辺りでは見掛けないらしいから、もっと遠くへ行く必要があるんだ。後、餌は積んできたがなくなったらしい。海の上だから餌はその辺りにいると思うだろ? だが、釣るよりもここで買う方が多いし、時間が掛からないそうだ」

 

 「ふーん、そっか。ここでも大物は釣れるのか」

 

 「ここへはどうやって来るつもりですか?」

 

 「どうって……船だろ」

 

 「その船はどこですか?」

 

 「んー」

 

 「何の話だ?」

 

 「それはですね……」

 

 さっき話した事をルークが説明している。試練の内容を聞いた時には簡単だと思ったんだけどな。誰の助けも借りずにってのが、ここまでとはな。

 

 「ふむ。なるほどな。しかし、急いでいる訳でもないのだから、時間が掛かっても小物狙いで良いだろ」

 

 「やっぱり、その結論になるよな」

 

 「実際、それしかないよな」

 

 「誰の助けも借りずに、ですからね。大物を狙って船を借りたとしても、釣れるかは別問題ですし。それに、乗った事が初めてなのに操るなんて無理ですよ」

 

 「そうだな」

 

 「二人が言うと説得力があるな」

 

 「それを言うな。まだ辛いんだから」

 

 情けない顔のデルが可笑しくて、ナックと二人して笑ってしまう。いきなり笑い声が聞こえたから、他の乗組員がこっちを振り返って見てるのが分かる。

 

 ふう。最初は簡単だと思った試練だけどもこうやって船に乗る事で難しい事が分かった。それが分かっただけでも、良かったとするか。デルとルークが船に弱いってのも分かったしな。


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