幕間 ある日の日常
「今日くらいは、休みでも良いよな」
「そうだな。毎日行くとは行ってないしな」
「そうだな。鍛錬も良いが、偶には休まないと効率も良くないだろうしな」
「そうですねぇ。毎日は辛いですね。で、何をするんですか?」
「んー、考えてないんだけどさ。一緒にいるつもりなのか?」
「休みとは言ったが特に何かをしたい訳じゃないからな。言い出したアロは何かあるのか?」
「いいや。町を散策しようかってくらいだな」
「俺も何もする事ないから付き合うか」
さっきも言った通りに今日は休みにする。鍛錬や狩りが出来るのは有難い事なんだけども、偶には休みたい。デルも言ったけど、適度に休まないと身体と心が壊れちゃう。
そんな訳で四人で町中を散策する事になった。こうやってゆっくりと散策するのは、町に着いて初日以来だな。休みにしたけど、これといって何か目的がある訳じゃない。ただ単に、休みたかっただけだ。
そんなこんなで散策をしている訳だけど、これといって目的がないから飽きる。これだと宿で一日中寝てた方が良かったか?
「こうやってただ歩いていると、初日の事を思い出しますね」
「初日? 何かあったか?」
「ありましたよ。忘れちゃったんですか? 食堂に入ったら肉を焼くか生かって」
「ああ、あったな。そんな事。デルは知らなかったのか?」
「いや、生で食べるのは知っていた。知っていたが、食堂で私達にも出すとは思わなかった」
「なるほどな。肉を生でって言われたのって初めてだよな。魚は両方あるんだけどな。タルパとも近いのに、あっちはなかったよな。どうしてだ?」
「どうしてと言われてもなあ。種族の違いとしか言い様がないな」
「そんなものか?」
「それはそうだろ。幾ら近くても種族が違えば、食べる物から住む場所や考え方も違う。そうすると、そこから生まれる物が全くの別物になるんだ。まあ、種族が全てとは言わないがな」
「まあ、それは確かにな。俺達には連環の儀式があるのに、デル達にはないよな」
「そういう事だ」
そっか、そうだよな。種族が違えば何もかもが違ってくる。だけども種族が同じでも違う事もある。俺とナックが違う様に。もっと言うと、同じ両親から生まれたのに兄さん達とは違う。逆に種族が違うのに、同じ環境で育ったら同じとは言わないけど似るかもしれないな。
「ただ歩いてるだけってのも暇ですし、何か喰って行きませんか?」
「ああ、そうだな。デル」
「はいはい、分かったよ。何でも良いよな」
本当にただ町中を歩いているだけで、何もしていない。こうやって、ただ歩くだけってのも暇だな。かと言って目的がある訳じゃないし。無理やりに目的を作るのもなあ。
「(じゃあ、久しぶりに何か作る?)」
「(何かって?)」
「(そりゃ、何かよ。ここに来てまだ日は浅いから、何か不便な事とかないの?)」
「(不便な事かあ)」
何かを作る。今まで作ったのって料理が幾つかだよな。それと料理大会くらいか?
「(でもさ、俺が何か記憶に頼った物を作るのは反対してなかったっけ?)」
「(し、してないわよ。気付かずに影響を与えてるかもとは言ったけどね)」
「(そうだっけ?)」
「(そうよ)」
まあ、キューカが言うならそうなんだろう。でもな、作るって言っても手先が器用じゃないからな。料理くらいしか作れないぞ。いや、別に料理が簡単だとは言ってないけどさ。
「ほれ、買って来たぞ」
「ありがごうございます。すいません、買わせに行かせちゃって」
「何、気にするな。それだけルークが私を王族として扱わなくなった証拠でもある」
「そうだぞ。同じ仲間なんだから、これくらい気にするな」
「で、これって何なんだ?」
「当ててみな」
手元にある串を見る。見た目は何かを丸めた物が三つ刺さっていて、一つの大きさが指で輪を作ったくらいだ。結構大きい。塩の匂いに混じって、肉が感じられる。だけど、何の肉かは分からない。
「肉、なんだろうけど、何の肉かまでは分からないな」
「安心しろ。私も分からない」
「「おい」」
「冗談だ。食べてみれば分かるんじゃないか?」
そう言われて揃って頬張ってみる。食感はコリコリとした部分が所々あるけど、全体的には軟らかい。上手く処理されているのか、獣臭さはない。それでいて味は濃いわけではなく、この国では珍しい程に薄味だ。しかし、それが肉の味を引き立てている様だ。
これは止まらないな。味付けは塩だけなのかな。多分、そうだろう。
三人を見ると、揃って黙って食べている。歩きながら食べる為に買ったのに、道の真ん中で立ち止まっている。
結構大きかったのに、夢中で食べている。もう、何の肉なのかを当てるのを忘れている程だ。いや、それで良いんだろう。美味いんだから、それ以上はいらない。
「ふう。喰った喰った」
「美味かったですね」
「一本なのに、大きかったから食べ応えがあったな。で、結局何の肉なんだ?」
「プレだ」
「プレか。食べ慣れてると思ってたけど、こんな食べ方があるとはな」
「中に入ってた少し硬いのは何なんだ?」
「ああ、あれは骨だ」
「骨!? 大丈夫なのか? って、喰っちまってるから今更なんだが」
「もちろん大丈夫だ。それに骨とは言ったが、軟らかい骨だ。それを細かく砕いた物を入れてあるんだ」
「骨ですか。こんな食べ方もあるんですね」
あのコリコリしてたのは骨だったのか。何かなとは思ったけど、まさか骨だとはね。肉でコリコリの食感はないから、何かなとは思ったけどね。
「(あれは、つくねって言って焼き鳥の一種ね)」
「(つくね?)」
「(前にコライステーキを作ったわよね。あれの素材を鳥に変えた物ね。で、食感を変える為に軟骨を入れてあるのよ)」
「(へー、そんなのあったんだ。でも、そうか。似た様な食べ物でも素材を変えれば別の物になるのか)」
「(まあ、そうなるわね。後は味付けを変えるのも一つの手段ね。実際、焼き鳥には大きく別けて二種類の味付けがあるわよ)」
「(二種類か。それって今食べた塩と何?)」
「(大雑把にタレって言われてるわね。ソースって言い換えても良いわね)」
「(それって作れるの?)」
「(うーん、難しいわね。前にも言ったけど、材料に醤油を使ってるのよ。それの作り方が分からないのよ。それに、その材料の大豆も見付かってないわよ)」
「(そうか。今までにも豆を食べてきたけど、種類が違うの?)」
「(んー、どうかしら。名前が違うだけで同じって事もあり得るから、何とも言えないわね)」
なるほど。作るとしたら、ダイスケの記憶の物になると思ったけど、これは難しそうだな。材料が分かっても作り方が分からないんじゃあ意味ないしな。
「一本じゃ足りないな」
「そ、そうですね。食べたら何だか空腹になってきましたね」
ナックが足りないと呟くとルークもそれに同意する。しかも、買って欲しそうにデルをチラチラと見ている。
「はああ。食べたいならそう言えばいい物を。どうして三人も揃って顔で訴えてくるんだ?」
おっと、俺もだったか。
「仕方ないだろ。喰いたいけど買いに行けるのはデルだけなんだから」
「そんなんでは何時まで経っても言葉を覚える事は出来ないぞ。食べたいなら自分で買いに行け」
「「「えー」」」
「『えー』じゃない。揃いも揃って。間違っても良い様に私もついて行くから。こういうのは練習あるのみだ。ほら行くぞ」
食べたいけど言葉をまだ覚えてないから、それとなくデルに押し付けようと思ったのに。まあ、デルが言う様に、これじゃあ何時まで経っても任せっきりにまっちゃうよな。
練習あるのみか。今はまだデルが一緒だから、失敗しても大きな問題になる事はないだろう。それに、覚えないと一人で出歩く事も出来ない。これは不便だ。
「(あ、これは不便だな。楽に言葉を覚えるのって何かない?)」
「(ないわよ)」
「(……)」
はっきりと言われてしまっては、諦めるしかないだろ。何事も練習しないと上手くならないからな。
……でも、嫌だな。知らない相手に知らない言葉で話し掛けるのって。狩りのやり方と違って、覚えなくても生きていけるからな。デルがいれば問題ないわけだし。
「(何、言ってるの。デルがいなくなったらどうするの?)」
「(だってぇ)」
「(だってじゃないでしょ。諦めなさい)」
なんでもない日常を書いてみました。
どうでしょうか。
感想やご意見を頂けると嬉しいです。




