闘技場 その後
括弧書きを修正 (2018/8/6)
「あの~、それで大丈夫ですか?」
「問題ないですよ」
「ああ、良かった。でも良いんですか? この二人はともかく、私とこの者は一回戦で負けて活躍もしてなければ、楽しませる事もなかったと思います。それに、グループでは一回戦で負けてますし」
「ああ、その事ですか。初め説明した際に、決めるのは代官様と軍の指揮官と言ったのを覚えていますか?」
「えーっと、はい」
「ですので、一回戦で負けようが観客が楽しめてなくとも良いんです」
「良いんですか? それで」
「構いません。戦いで決めるとは説明しましたが、実際はこの町でどう過ごしていたのかが重要ですので。それに、戦った兵士はどの様な相手だったのかを代官様に報告もしてますから」
「なるほど。つまり戦いよりも普段の生活が重要だったと?」
「そういう事ですね。貴方方はこの国へは初めてでしたので、闘技場での戦いで決まると説明したまでです」
闘技場での戦いも終わり、次の町へ行けるのか確認の為に庁舎へ来ている。もちろんグループ戦最終試合の翌日だ。まあ、毎度の事ながらデルに任せてるけどな。
……だって仕方ないだろ! そんな直ぐに言葉を覚えられる筈がないだろう。これはデルにしか出来ない事なんだよ。指示を出すのは俺に決まりかけてるけど、それとこれとは話が別だ。何もかもを俺が決める訳じゃない。出来る人が出来る事をやれば良いんだよ。出来ないのに無理にやらせると、どんな事が起こるのか想像も出来ないよ。と言うか、俺の意見で決まるのはある意味で怖い。反対意見もあった方が考え事も纏まる様な気がするんだよね。
うん。うん。
「(なにが『うん。うん』よ。しっかりしてよ? これからはアロが指示をする側なんだから。とは言っても今までだってアロが決めてたんだから、何も変わらないわよ)」
「(ぐぬぬ。……あ、気付いたんだけどさ)」
「(ん? なに?)」
「(契約した精霊に言葉を担当してもらうのって出来ないの?)」
「(……んー、駄目ね)」
「(どうしてさ。キューカはテラとも話せるじゃん。ここの言葉も分かるんじゃないの?)」
「(テラとも話せるのはアロと契約したからよ。契約すると知識や技術なども共有になるのよ。テラと話せるのは言葉を話してるのではなくて、思った事が伝わるって感じよ。アロもそうでしょ?)」
「(……言われて見れば、確かに)」
うん。キューカとテラに話し掛ける時にタルパ語とかレント語? とかって意識してなかったな。考えてる最中に、何語で考えてるとか意識しないよな。
「(後、私達が担当出来るのは聞く事だけよ? 私達が聞いて、それをアロに伝えるのって面倒でしょ? それに、話すのは私達では無理なんだから、アロが覚えないと意味ないわよ。……まあ、それをしようにも私達だとこの国の言葉を知らないから、そもそも無理な話ね)」
「(うぐっ。じゃあ、この国の言葉を覚えるのは自分で何とかするしかないと)」
「(そうね)」
「(ついでに言うと、聞くだけなら先に契約すれば良いと)」
「(そういう事ね)」
はあ。何だよ。一瞬良い事思い付いたと思ったのに。そんな事ってありかよ! え、じゃあ何? この先、言葉が違う度に苦労するのか。最後の方になると、元の言葉を忘れてるかもな。
「で、何だって?」
「次の町へ行く事は許可された」
「え、良いんですか? 俺、負けちゃいましたけど」
横を見るとルークが不安そうな顔になっている。そりゃそうだろ。戦いで決めるとか言われたのに、結果を出せなかったんだから。俺も個人では大丈夫だとは思うけど、グループの事を考えると、なあ。
「負けた私が言うんだから、大丈夫だ。戦いで決めるとは言ったが、あの戦いで全てを決める訳ではなかったみたいだ。この町でのの生活態度が重要だったらしいぞ」
「じゃあ、負けても良かったって事ですか? 最初の説明だと楽しませろって言ってませんでしたか?」
「あの説明は私達がこの国へ初めて来たからだそうだ。後、戦いでは決めないとは言ったが決して負けて良いって事でもないぞ。戦った兵士が私達の事を報告するからな。そこで、手加減してたとか卑怯な手段を使ったとか報告されたら、許可はしないそうだ」
「なるほど、そうだったんですね」
不安な顔から一転、安心した顔に変わる。活躍してないのに許可が出た。不安になるのも分かる。俺だってそうだ。何か裏があるんじゃないかって、少し思った。
……いや、結構。
でも、そっか。要は闘技場で戦うのは一種の娯楽であって、許可はその間での生活が重要だったと。まあ、戦いも判断の一つだとは思うけど。
「それで、許可が出たのは分かったが、いつでも出発出来るのか?」
横で顎に手をやって聞いていたナックだ。そこは俺も知りたい。
「ああ、ちょっと待て」
そう言って、また受付の人に詳しく聞き始めた。
「なあ、王都へ行くには全部の町に行く必要ああるんだよな?」
「確か、そうだったな」
「じゃあさ、その全てで今回と同じ事をするって事か?」
「……まあ、そう、なる、のか?」
「俺が聞いてるんだよ」
「分かるわけないだろが。それも含めてデルが聞いてるだろうさ」
「ああ、すまん」
ちょっと待てよ。もし、今回と同じ事をるとしたら、王都へは一体いつ行けるんだ? 町に着いてから闘技場での戦いまでは大体六十日程か? 王都以外の町の数は十だったよな。
……これは、覚悟しないといけないな。そうなると、言葉は嫌でも覚えちゃうか。
「明日、もう一度ここに来て欲しいとの事だ。アロとナックは勝ち残ったから褒賞金が出るらしいぞ」
「へー、そんな事があったのか。知らなかったな」
「先に説明すると、金の為に卑怯な手段を使うかもしれないからしなかったみたいだ。過去にあったみたいだしな。とは言うものの初めて来た者且つ何も知らない事が前提だがな」
「なるほど。じゃあ出発は明日、褒賞金を貰った後ならいつでも良いんだな?」
「そうらしい」
「ふむ。後、許可が出るのは今回みたいに戦わないと駄目なのか?」
「いや、そうとも限らない。詳しくは言えないらしいが、町ごとに内容は異なるみたいだ」
褒賞金ね。貰える物は貰うけど、少ないんだろうな。町ごとに違うのか。ふむ。それは、良いのか? 今回のが一番長いとするとさっき計算したよりは早く王都に行けるかな。
「分かった。じゃあ、今日はもう何もする事がないんだな?」
「そうだな。褒賞金と一緒に許可状としてカードを渡すそうだ。そのカードがないと他の町へは行けないらしい。後、行けるのは隣り合う二つの内どちらかだ」
「分かった。じゃあ、念のために俺達が聞く事やする事がないか確認してくれ」
カード、か。冒険者カードみたいなものなのかな。それに許可しましたよって書いていくのか。もし、なくしたらどうなるんだ。いやいや、なくさない様にするんだよ。なくしたらその時に考えれば良い事だ。
でも、持ち物が増えていくなあ。
「今日、出発出来ると思ったんだけどな。どうする? これから」
庁舎を出て、これからの事を相談する。これからと言っても今日の事だけどな。
「今日出発するつもりだったからな。どうしようか」
「何もする事がないですね」
三人共に何も浮かんでこない。出発する気だったから仕方ないだろ。それに、一日休みだと言われた様なものだ。何をして良いのやら。
「それでは、この町で世話になった人達に会いに行くのはどうだ?」
「……他にする事もないから、そうするか」
デルの提案通りにする事にした。とは言ってもこの町で俺達が世話になったのは、エバさんとボウさん達と軍の人たちくらいかな?
……この町に長い事いたと思ってたけど、世話になったと感じるのはこの人達だけか。少ないのか多いのか分からないな。
そんな訳で世話になった人達に会いに行く事にした。エバさんには興奮した口調で話し掛けられた。まさか、俺達がここまで出来るとは思ってなかったそうで、年甲斐もなくはしゃいで応援してたそうだ。有難い事だ。で、明日出発する事を伝えたら、興奮から一転して寂しくなるとしみじみ言われてしまった。王都へ着いたら、子供に会う事があったら宜しくと言われた。
何を宜しくなのかは不明だ。
ボウさん達とは会えなかったけど、冒険者だから何か依頼を請けているんだろうと思って探していない。同じ冒険者だから、いつか会う事もあるだろうから。
軍の施設に行ったら、興奮でもって迎えられた。こっちが驚く……いや、怖いくらいに興奮してて、何から何まで話せとしつこかった。まあ、それも良い思い出かな?
そんなこんなで挨拶回りも終わり、今日はいよいよ出発する。
因みに、褒賞金は俺が大銀貨七枚でナックが三枚だ。多いのか少ないのか分からない。けど、依頼より稼げる事は確かだ。
「よし! じゃあ出発するか!」
「「おう!」」
「それは良いが、どっちに行くんだ?」
「どっちが良いんだ?」
「「「……」」」
「……おい。決めてなかったのか? まあ、私達も何も言わなかったから責められないがな」
「まあ、良いじゃないか。出発してから決めようぜ。どうせ、全部に行く事になるんだからさ」
不安だ。主に俺が。こんなんで大丈夫なのか? と、思ってても変わらないと思うけどな。




