闘技場 個人戦 結
「これでどうだ!!」
俺がやったのは実に簡単な事だ。前にやった様に樹を成長させただけだ。だけど、前と違うのは今回は種からだ。
元々ある樹を成長させるよりは、精霊力は必要だ。だけど、あの時と大きく違うのはテラとも契約して精霊力が増えた事だ。単純に考えると二倍だ。だから種からでも出来たって訳だ。
……まあ、キューカだけでも出来たとは思うけどね。でも、流石に大きくしすぎたな。
「これは驚きです! 先ほど取り出したのは種だったんですね! 何の樹なのかは分かりませんが、ここまで大きくするのは明らかに並外れています! ここからどういった戦いになるのか、ますます目が離せなくなりました!」
ただ大きくしただけで終わりじゃない。もちろんここから反撃開始だ!
やる事は簡単だ。更に精霊力を流して枝で絡め取って動きを止めるか、突き刺すか。良い点は手数が増える事、悪い点は樹に触れてないと効率が悪い点だな。
「おーっと! ただ樹を生やした訳ではありません! なんと枝を使って攻撃し始めました! 皆さんは良く見えないと思いますので、出来るだけ詳しく説明していきます!」
「おいおい、何て事するんだ。こんな事は初めてだぞ。ったく、滾ってくるじゃないか!」
流石に、これは決定的じゃないか。手数は増えても枝だからなあ。硬いわけじゃないから、簡単に切られてしまう。しかもユンさんの武器は両刃の大きな斧だから、尚更だろうな。一振りするだけで、何本も切られる。
そうならない様に、色んな角度から仕掛けてるんだけど足止めしか出来てないな。まあ、その足止めが出来てるってだけで良いと考えないとな。
「んー、突然樹が生えて枝で攻撃を仕掛けたのは驚きました。ですが、それだけって感じですね。い、いえ! それ自体が凄い事で、私が同じ事をやろうとしても芽が出るくらいでしょうから」
「ふんっ! 最初はビビッたけど、何のことはない。ただ、枝が襲ってくるだけとはな。慣れちまえば、ほれこの通り。おい! これで終わりか?」
この攻撃に不満なのかな、ユンさんが焦れてきてる。まあ、これで決まるとは思ってないから別に良いんだけどね。でも、もう少し付き合ってもらおうかな。
「まだまだですよ!」
「アローニさんの枝攻撃は止まりません! しかしユンさんは難なく捌いています! ここまで何も変化がないという事は、考えがあっての事でしょうか!?」
「もう飽きたな。アロ! これ以上何もないなら、そろそろ終わらせるぞ!」
早いよ、ユンさん。待ってとは言えないし言わないけどさ、もう少し観察しても良いんじゃない?
まあ、これでも見た方か。今回みたいに観客に見られながらの戦いだから、ある程度観察したんだろうな。これが命がけの戦いなら、相手に攻撃させないで倒す事を考えるだろうし。
……いや。ユンさんだったらどんな事をやるのか観察してから、叩きのめすだろうな。ユンさんに限らずあのグループは何だかんだで、戦う事が好きだからな。
「おーっと、とうとうユンさんが痺れを切らしてアローニさんに向かって走り出した!」
「中々面白かったぞ。次はもう少し工夫するんだな。でないと!」
じゃあ、期待に応えますか!
「こうなるぞ!?」
驚いてくれてるな。何をしたのかと言うと、ナックにやったのと同じ事をした。つまりは足場を砂に変えた。まあ、範囲と深さは比べ物にならないけどね。ついでに、背の高さ位までに石舞台を隆起もさせた。
「変化がないと思い走り出したんでしょうが、突如としてユンさんは体勢を崩し尚且つ石舞台が隆起しました! これは先の戦いと同じで、足場を砂に変えたんでしょうね! アローニさんはここから勝ちに繋げましたから、何がくるのか期待です! しかし、何も見えないのが非常に惜しいです!」
これで足と目を封じる事が出来たな。ユンさんの事だから、一時的だとは思うけど。それでも! ここが勝負どころだ!
「アロ、お前すげえんだな。まさか、ここまでとは思わなかったぞ」
まだまだ。精霊力にはまだ余裕はあるから、どんどんやっていこう。それでも、これで決める!
「ぐっ!」
「おーっと! アローニさんの攻勢でユンさんの姿が見えなくなったと思ったら、突然ユンさんが弾き飛んできました!! アローニさんは蹴りの体勢で後に続きましたから、最後は蹴りの一撃だった様です! 繰り返しますが、あの間に何があったのか分からないのが悔やまれます!」
ふう。何とか上手くいったかな。これで倒れてくれれば良いんだけど。一度も試してなかったから、成功して良かった。
足場を崩して事で体勢を崩す、石舞台を隆起させる事で視界を遮る。その後は速さが勝負を別ける。死角から飛び出して殴りと蹴りの連続攻撃だ。足場は隆起させた石舞台を飛び回った。自分が崩した足場に飲まれるなんて間違いは起こさない。
「ごほっ、ごほっ。ぺっ。これは良い攻撃じゃないか。さっきの言葉はどうやら誤りだった様だな。だがな、倒れたからって追撃しないのは減点だな」
「あーっと! 闘技場の端の壁にめり込んでいたユンさんが動き出しました! あんなに勢い良く飛ばされたのに、まだ動けるなんて頑丈ですね! 武器を放していないという事は、これから反撃に移るのでしょうか!? 因みに、中央の石舞台から出ても試合は終わりではありません」
「ったく、あれで倒れてくれよな。精霊力なんて目一杯使って身体強化したのに」
それでも多少は効いているだろう。血も吐いてるし。手応えはあったんだけどな。向かってくるなら、攻撃を続けるまでだ!
「負けの宣言はされていませんから、戦いは続行です! 距離が離れたので、アローニさんは弓による攻撃に切り替えました! さあ、ユンさんはどうするのでしょうか!?」
「ぐおおおおおおおおおおお」
え、何だ? 考えなしで突進してくるとは思えないんだけど。詰められずに射掛け続けるか。
「雄叫びを上げたかと思ったら、物凄い勢いで突進していきました! 弓の攻撃は関係ないとばかりに、弾きながら走っています!」
「ちょ、ちょっと。何であんなに元気なんだよ。少しは痛そうにしても良いんじゃないの? それでもやる事は変わらない」
さっきのは初めてだから通用したんだ。今は距離を詰められない事を考えるんだ。
「アロ! 何で離れていくんだよ! もっと戦おうぜ!!」
うわ、駄目だ。目が血走ってて、とてもじゃないけど正常とは言えないな。それに、あんな人と殴り合いなんてごめんだ。
「っち。矢がなくなった」
「離れながら射掛けていましたが、矢が尽きた様です! さあ、これからどうなるのでしょうか!?」
「おい! もう矢はなくなったんだろ? だったら、近くに来いよ!」
「何でそんなに好戦的なんですか!?」
え、何だ? 水? こんなところに水なんてあったか?
「あーっと、足元の水で滑ってしまい、その一瞬を見逃さずにユンさんが距離を詰めてくる!」
「今度は俺の番だ! さっき水を飛ばしたのを忘れたか?」
忘れたわけじゃないけど、ここに水なんてなかっただろ。っと今はそんな事は後回しだ。目の前にもうユンさんが迫って来てるんだ。
俺の剣じゃ簡単に折れちまうだろ。何とか避けるか受け流すかしないと!
「速い速い! あの一瞬を見逃さずに、ユンさんの距離まで詰めてしまいました! こうなると、アローニさんは苦しいか!?」
「ほらほらほらほら! いつまで耐えられるかな! 根競べといこうじゃないか!」
「くっ! ほっ!」
詰められるとユンさんの圧力に負けそうになるけど、大振りで助かった。あんな大きな物を振り回すんだ。威力もあるのに、取り回しが良いなんて反則だもんな。
「あはははは! 楽しいな! 楽しいぞ! 楽しいよな? 楽しいんだろ!」
「楽しくないですよ! 怖いですよ!」
こんな大きな斧で攻撃されて、楽しいはずがないだろ! 後、それよりも血走ったユンさんが怖いよ!
「なに! 楽しくないだと! じゃあ、これで終わりだ!」
「え? がっ!」
な、なにが起こったんだ!? 急に身体が痺れたぞ。
「急にアローニさんが動きを止めたかと思えば、ユンさんお強烈な蹴りの一撃! 今度はアローニさんが吹き飛びました! しかし、先ほどと違うのはユンさんは追撃をする様に追いかけます!」
「ぐえっ」
「終わり、だな」
「ま、負けました」
何が起こったのか分からないけど、吹き飛ばされて地面に転がって上を向いたらユンさんがいて、腹に足が乗っけられて首には大斧がピタリと添えられていた。
これじゃあ、負けを認めるしかないだろ。
「おーっと、勝負アリました! 序盤はアローニさん優勢で進んでいましたが、最後はユンさんが反撃をしてそのままユンさんの勝利で終わりました! いやー、最終戦に相応しい大変見応えのある試合でしたね! 観客の皆さん、良い試合見れましたね!」
「最後のアレは一体なんですか?」
「そんな事教えるわけないだろうが。だが、あれも精霊術の一つだ。俺が言える事はそれだけだ」
精霊術? 他にどんな精霊がいるんだっけ? ……まあ、今は良いか。
「それでは! 個人戦最終試合の勝者はユンさんでした! これで何度目になるんでしょうか! また、新しいアローニさんと言う期待も出てきましたので、グループ戦も見逃せませんね! それでは、個人戦はこれにて終了です! またグループ戦で会いましょう!」
はあ、悔しいな。もう少しだと思ったんだけどな。あそこで追撃をした方が良かったか。それを言っても仕方ないか。




