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降臨

誤字修正 (2018/3/10)

 「スイ、アロの調子はどうだい?」

 

 言葉にはせずに、顔を横に振るだけだ。あの後、集落に着いても目を覚まさなかった。だが、その内に目覚めるだろうと言う事で宴会をした。しかし、その宴会の騒ぎでも目覚めなかった。鼓動は聞こえているから死んではいない。だが、起きない。そこで、精霊長様に聞けば分かるかもと思い、行って見たが結果は変わらなかった。もしかしたら、精霊力が関係しているかもしれないとの事だったので、精霊力が濃密な祈りの場に移している。しかし、移して何日経っただろうか。あの日から数えて十日だろうか。

 

 冒険をしていた頃、同じ様な状態の人の事を聞いた事があった。原因は様々で、数日で目覚めた人もいたし、何年も目覚めない人もいた。目覚めない人は世話をするのが重荷になるから、死んだものとして扱っていた。それは、殺すと言う事だ。心の臓に剣を突き立てたり、火をくべたりと様々だった。

 

 その頃、一緒に冒険をしていたからスイももちろん知っているはずだ。だが、知っているからと言って、同じ事が出来るかと言えば出来ない。それは、俺も同じだ。だから、その事には触れない様にしている。

 

 「スイ。ここに来てからずっと寝てないんだろ? 寝ないと身体に悪いぞ?」

 

 「いい。寝たくないの」

 

 「そんな事言わないで、お願いだから寝ておくれ。スイまで倒れたら私はどうしたら良いんだい?」

 

 「私が寝てる間にアロが目覚めるかも知れないでしょ? だから、起きてる」

 

 「スイが寝ている間は私が起きてるから。一度、寝ておきなさい。アロが起きてスイの顔を見たら驚くぞ」

 

 「「いい。私が起きていたいの。それに、もっと早く着いて治癒していればって思うと寝れないのよ」

 

 「自分を責めちゃ駄目だよ。私だって、もっと早く着いていればって思うさ。だけどね、ここで私たちが自分を責めて倒れてごらん。アロが起きてその事を知ったら、自分を責めてしまうよ」

 

 スイは私の方には向かないで、ずっとアロの顔を見て話している。今も、これ以上の話は嫌なのか、顔を横に振るだけだ。このままじゃあスイの身体が衰弱していくばかりだ。何とかしないと。

 

 

 「父さん、アロは……」

 

 「二人とも、良く来たな。アロは……相変わらずだ」

 

 「そう。何か栄養のある物をと思って果実を持ってきたんだ」

 

 「ありがとう。そこに置いといてくれ。それより、二人からも言ってやってくれ。スイはずっとこんな調子なんだ。起きないアロよりもスイの方が酷いんだ」

 

 「母さん、私たちが来たから少し休んで? ね? アロが起きたら起こすから」

 

 「ミラ、ありがとう。でも、私がこうしていたいのよ。それに眠くないの」

 

 「そうだよ、母さん。休んでしっかりと食べないと、アロが起きた時に心配するぞ?」

 

 それにもスイは顔を横に振るだけだ。どうすれば良いのだろうか。このままではスイまで倒れて……。いや、よそう。強制的にでも休ませないとスイが壊れてしまう。しかし、何も口にしないから眠り薬を飲ます事も出来ない。どうすれば……。

 

 「スイ。私からもお願いします。どうか休んで下さい。貴女が倒れたと知ったらアロはどんなに悲しむか。それに今、貴女にできる事は何もないのよ?」

 

 「精霊長様……。申し訳ございません。何も出来ないからこそ、こうしていたいのです」

 

 精霊長様のお説得でも無理か。どうしたら。何かアロの回復の兆しでもあれば良いのだろうが。

 

 そんな時、いきなり精霊長様が直立で固まったかと思うと、私たちに背を向けて片膝を着いて頭を垂れたのだ。

 

 「精霊長様、どうされ……」

 

 その次が声に出てこない。何か得体の知れないナニカが、声を発するのを許さない様に凄い威圧を放ってきた。そしてそのナニカがこの祈りの場に来るのだと言う事だけは分かった。私は精霊長様がした様に、自然と同じ姿勢をした。次にスイが最後に子供たちが気付いて皆同じ姿勢をした。

 

 どれだけこの姿勢でいるのかと思う程、長く感じた。実際はそんなに時は経ってないのかもしれないが、凄く長く感じた。そして、この場にいる誰でもない声が届く。

 

 「皆さん、初めまして。私は神の一柱ひとりの奥山と言います。本日はそこで寝ているアローニについて話があり降臨しました。さあ、皆さん、顔を上げてください」

 

 その声はまだ声変わりをしていない、男の子の様だ。だからと言って、幼いと言う訳ではない。男と女の声の間と言えば良いのだろうか。だが、不快と言う訳ではなく、耳心地が良い。しかし、声やそこにいるであろう周辺からの威圧で、顔を上げるどころか息の仕方され忘れてしまった様だ。他の皆も似たようなものだろう。誰一人として、動く事が出来ないでいる。

 

 「「「「「……」」」」」

 

 「……ん? どうしたんですか? 罰しようと来た訳ではありません。だから、安心して顔を上げて下さい」

 

 「「「「「……」」」」」

 

 それでも誰も動けない。動かないではなく、動けないのだ。

 

 「……。ああ、これは失礼しました。あなた方には少々毒でしたね。えっと、どうすれば良いのか。そうか、これをこうすれば良いのか。……どうです?」

 

 その途端に威圧が消えて、皆で一斉に息を吐いて整える。

 

 「「「「「ぷっはあはあはあ」」」」」

 

 熱くもないのに汗の量が尋常ではない。あのままだったら気絶どころか死んでいた。息を整えて落ち着いたところで顔を上げて見ると、そこには何と表現したら良いのか。私たち森人族は全体的に顔の作りは良いのだが、足元にも及ばないだろう。何より神々しさがある。服装は見た事のないもので、ゆったりとしていて、赤を基調にしているものだった。

 

 「お初にお目に掛かります。私がここでの精霊長を務めております」

 

 「ええ、知っていますよ。あなたに名前がない事も。それから、プーマ、スイ、トプロ、ミラそれからアローニですね」

 

 皆、名前で呼ばれて驚いている。俺もだ。精霊は身近に感じる事はあるが、その上位の神ともなれば存在を疑う位なのだ。何しろ、前回の降臨が俺が生まれる前だと言うのだから相当だ。そして、その上位存在である神様に名前を覚えられているという、何と表現したら良いか分からない程の幸福だ。

 

 「それでは、アローニについて話したいと思います。ですが、このままの姿勢では話しづらいので、座って話しましょうか」

 

 そう言うなり手を翳すと、卓と椅子が生えてきた。ついでに、温かい飲み物もだ。俺たちは神様が席に着いてから、恐る恐ると言った感じで座った。

 

 何だか、神様と同じ部屋にいるってのも不思議なんだが、同じ卓にいるってのがまた更に混乱させてくる。飲み物で口を滑らかにして椀を置いた事が合図の様に話が始まっていく。

 

 「改めて、奥山と言います。神の一柱ひとりですが、この世界を管理しているわけではありません。死後の世界を担当しています。生物は循環していますので、次の生へと向けての手助けをしています。そこで、アローニの元となる人物の手助けをしたのです。ここまでで何かありますか?」

 

 改めての挨拶から入り、自分の事を話して下さった。死後の世界を担当で、そこでアローニと、いやアローニの前の人物と会った。で、次の生つまりはアローニになる為の手助けをした、と。だけど、今のアローニの状況はどういう事なんだ?

 

 「オクヤマ様、オクヤマ様がどの様な事をなされているのかは、大体でしか分かりません。ですが、その事と今のアローニの事とどう繋がるのでしょうか?」

 

 スイも同じ事を感じでいたか。

 

 「関係はあります。私が次の生への手助けと言いましたよね。それは、詳しく言いますと、どの星、国家、性別、種族、身分等を予め決めます。その中に記憶の引継ぎと言うものがあります」

 

 「記憶の引継ぎ、ですか?」

 

 皆、不思議に思っている様で、首を傾げている。俺もそうだ。だけど、一番アロの事を心配しているスイがまたも質問する。ここはスイに任せた方が良いか。今まで出逢った人たちの中に、前世の記憶を持っているなんて聞いた事がなかったからだ。

 

 「そうです。通常は前世の記憶は次の生で害に成りかねないので、消去します。ですが、アローニは特別です」

 

 「アローニはオクヤマ様に選ばれた特別って事ですか?」

 

 「特別と言えば特別です。しかし、何か使命があって選んだとかではないので。アローニの元になっている魂が関係しているのです。その魂は、前々世でその世界にとって有益な事をしました。そして、有益な事を齎したのは記憶の引継ぎがあってこそだったのです。前世では引継ぎはなく特筆する事なく終わりました。ですので、今世では引継ぎをしてどうなるのか、といった”実験”の意味があります」

 

 実験。その言葉を聞いてアロは神に選ばれた人物ではなく、神の遊具として選ばれたのだと思ってしまった。

 

 「ア、アロはオクヤマ様に遊び道具として選ばれたって事ですか!?」


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