表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/165

闘技場 はじまらない

脱字修正(2018/7/10)

 「やっとこの日が来たな」

 

 「そうだな。やっとだな。短い様で長かった」

 

 ナックの言う通りだ。長かった様で短い。そして、中身の濃い日々だった。そんな思いがあるからこそ、こんな事を思うのだろうな。

 

 見上げる闘技場は威容で装飾も重厚だ。俺達はやっとだ、と思う一方で周りの雰囲気はは違って、賑やかで溢れている。その人達の大半は町の人だだ。この闘技場での戦いは町の人達にとっては娯楽の一つみたいだ。

 

 兵士達とズワルトさんとの戦いが終わった後は、狩りに出掛けた。出掛けたけど、驚いた。兵士の強さってよりは連携の上手さや精霊術の使い方だ。驚いてて最初は動けなかった。動けないってのは獲物が怖いからじゃなくて、連携や精霊術の使い方を観察してだ。

 

 最初は驚いたけど、それに触発されて俺達も頑張った。対人戦の時よりは連携は出来てたと思うし、何より久しぶりの狩りで嬉しくていつも以上に張り切った。それを見た兵士達が更に勢いづいて狩って、俺達もそれに乗せられて、と。

 

 まあ、一番凄かったのはズワルトさんだな。あの人に連携って言葉はないんだと思う。一人で暴れまわってたから。しかも、兵士達より狩る速度が上だったのが恐ろしい。

 

 そんな訳で、初めて狩りに出掛けた日から、ほぼ毎日ボウさん達と兵士達と鍛錬をした。もちろん、ズワルトさんも一緒だ。そんな忙しい? 日々を過ごしていたら、遂に闘技場で戦う日になった。

 

 「ここにいても仕方ない。早く中に入って受付しようぜ」

 

 

 「何だか呆気なかったな」

 

 「受付だからな」

 

 いざ! と思って闘技場に入って受付に行ったら、何とも呆気なく終わった。もう幾度も繰り返してきたからなのか、あっさりとしたものだった。出場戦士として登録しただけだ。受付は闘技場に入って直ぐ右側に戦士登録、左側に観客募集があった。戦士側は早くに行ったのもあるんだろうけど少なく、しかし観客側は多かった。

 

 

 呆気なく終わった受付を後にして、自然と組合へと足が向く。

 

 「戦う相手って誰なんですかね」

 

 「一回戦は兵士と決まっている。そう聞かなかったのか?」

 

 「あー、そうでしたか。緊張しちゃって忘れちゃいました」

 

 戦士に登録する人は大体が冒険者で、しかもこの国生まれじゃない人もいる。だから、タロス語でも対応してた。何だけど、ヴァーテル語と同じで、勉強中だ。しかし、ここはタルパに一番近い町なので、タルパ語で対応してくれた。

 

 ありがたいことだ。

 

 「まあ、分からないでもないがな」

 

 「それで、参加人数って何人なんだ?」

 

 「さあ? まだ募集期間だからな。それが終わったら、もう一度来て、参加人数が分かるらしい」

 

 「何だか面倒だな」

 

 「でも、これをしないと次の町に行けないんだ。面倒でもやるしかないだろ」

 

 「まあ、そうなんだけどな」

 

 「それに、募集期間も今日と明日だけなんだ。そんなに面倒でもないだろ」

 

 そう。出場するという意思を伝えただけで、誰と戦うのかとか詳しい事は決まってない。決まってないけど、決まったからといって何をするでもないんだけどね。

 

 「いつ戦うって言ってた?」

 

 「覚えてないのか? 最初の戦いは三日後だ」

 

 「三日後か」

 

 さっき説明された事を忘れたのは流すとして。三日か。それまで何しようか……。特に何かを準備する事もないか。

 

 「ん? 最初?」

 

 「おい、それも忘れたとか言わないよな?」

 

 「「「……」」」

 

 「……はあ。さっきの説明はタルパ語だったんだぞ。こんなに早く忘れるなんてないだろうから、最初から聞いてなかったんだろ」

 

 「……ばれた?」

 

 「ばれた? じゃないだろ! 私が聞いていたから良い様なものの、私も聞いてなかったらどうするつもりだったんだ!?」

 

 「それは……もう一度聞きに行く?」

 

 「何で疑問なんだよ。もう一度説明するから、しっかりと覚えろよ」

 

 それからは組合へ着くまではデルからの説明は続いた。

 

 何人参加するか分からないから、自分が戦う日は決まってないそうだ。とは言っても大体、十日で終わるそうだ。参加人数と試合時間にも関係するけど、一日十試合を予定しているらしい。そこから、勝ち上がった同士で戦い、最後の一人になるまで続けるらしい。

 

 これは個人の場合でグループの場合はまた別の決まりがあるらしい。個人とグループの両方の登録はしたけど、ここでは個人の説明だけで良いだろう。

 

 

 

 っと、もう組合か。

 

 『まったく、忘れてなんかないのに。デルを余り苛めないでよね』

 

 『苛めてなんかないよ』

 

 『では、本当に忘れたと言うの?』

 

 『……』

 

 『”本当に”忘れたのね?』

 

 『……少しふざけたつもりでした』

 

 『はぁ。まあ、今回は仲間内の悪ふざけですから、これ以上は言いませんけどね』

 

 ほっ。危ねえ。テラにこんなに言われるなんて。やっぱり、王族ってのが関係してるのか? それとも、テラを奉る国の生まれだからか?

 まあ、何にしても余りって事は少しは苛めても良いって事だよな。そんなつもりは……。

 

 『さっきは”余り”と言いましたが、積極的に苛めても良いとは言ってませんからね』

 

 っぐ。念を押されたか。まあ、積極的にいつも苛めてる訳じゃないから、少し位は、ねえ。

 

 

 

 「ほえー。お前さん達、闘技場に出るのか」

 

 「ええ。先ほど、登録をしてきました」

 

 「そうか。もうそんな日が近付いてたのか」

 

 組合に行ったは良いけど狩りの依頼はなくて、こうしてエバさんの畑の手入れをしている。ボウさん達やズワルトさん達と出会ってからは、毎日対人戦や狩りをしてたから、久しぶりにこういう依頼も良いもんだ。休むって意味でもね。

 

 「ならば久しぶりに観に行こうかの」

 

 「観た事があるのですか?」

 

 「そりゃそうじゃ。これでも若い頃は出た時もあったのじゃぞ」

 

 「そうなんですか!?」

 

 「この国に生まれたなら、一度は出てみたいと思うものよ。それに、そこで妻とも出会えたしな」

 

 「へー、そうだったんですか」

 

 「だから、お前さん達も活躍すれば、名と顔が知られて女が大挙してくるぞ」

 

 「い、いや。活躍なんて……」

 

 「今からそんな事を言っておると、駄目じゃぞ。何しろこの闘技場での戦いの時は、兵士連中の気合が違うからな。気になる女がいるヤツは良い所を見せようとするじゃろうしな。それで夫婦になる者が多いんじゃ」

 

 「なるほど」

 

 「それだけじゃないぞ……」

 

 畑の手入れが終わったら、前と同じ様に茶を飲みながら話し込んでいた。主にデルだけど。何だか、エバさんの話し方に熱がこもってる。

 

 早く、言葉を覚えないとな。

 

 

 「で、さっき何て言ってたんだ?」

 

 「ん? エバさんも出た事があって、その時に奥さんと出会ったらしい」

 

 「へー、エバさんがねえ」

 

 「私もそこは驚いた。後は、活躍すれば女性が大挙するだろうし、兵士として仕官出来るかもだと」

 

 「そんな事があるのか。ただ単に、次の町へ行く許可を得る為だけじゃないんだな」

 

 「そうだな。但し、活躍したらだぞ? 活躍しなかったら、ないんだからな? 分かってるよな?」

 

 「分かってるって。絶対に勝ち上がるなんて言えないけど、自信がない訳じゃない」

 

 「それなら良いがな」

 

 今までだったら、絶対に勝つって言えただろう。でも、ボウさん達と出会ってから、それが揺らぎ始めた。完全に崩壊とまでは言わないけど、ね。

 

 「でも、そうか。勝ち上がると仲間同士で戦う事もあるのか」

 

 「あ」

 

 ナックがぽつりと零した言葉にルークが反応する。そうか一回戦って終わりってわけじゃないんだった。

 

 「なに間抜けな声出してるんだよ」

 

 「いえ、勝ち進んだら戦うのかと思っちゃって」

 

 「ほー、自信満々だな」

 

 「そうじゃないですよ。ただ、その可能性があるんだなって」

 

 「まあ、その時はその時だ。もちろん、手加減するなよ? 俺も容赦しないからな」

 

 「わ、分かってますって」

 

 ナックが念押しで言うとルークが威勢よく返事をする。手加減をされたと分かったら、俺だったら許せないな。仲間として認めないだろう。もちろん、グループから外すけどな。

 

 「その可能性もいいが、最初に戦う兵士の事を忘れるなよ。私達と戦う事ばかり気にして、一回戦で負けたら情けないを通り越して……凄い情けないぞ」

 

 「「「……え?」」」

 

 「……」

 

 「そこで黙るでない! 私だってもっと格好いい言葉を言おうとしたが、思い付かなかったんだ!」

 

 「「「ぷっ」」」

 

 「笑うなー! お前達、笑った事を覚えてろよ? 戦う事になったら手加減などしないし、容赦なく叩きのめすからな!」

 

 「ほほう、それは望むところだ」

 

 

 

 「次のかたー」

 

 闘技場の受付で次々に名前を呼ばれていく。今日は募集期間が終わって、兵士を除く登録者が集まっている。何人いるか分からないけど、ボウさん達を見つけた。あっちも気付いた様で、気軽に手を挙げてくる。俺も手を挙げて応える。出来れば最初の方で当たりたくないよな。

 そこで、呼ばれた順に受付に行き、大きな箱に手を入れてなにやら木札を取っている。あれに、数字が書かれていて、対戦順が決まるそうだ。

 受付の横に大きく、対戦表が掲げられている。そこに数字が書かれていて、木札の数字同士で戦うようだ。

 

 『あれはトーナメント表ね』

 

 『とーな……なにそれ?』

 

 『所謂、勝者を一人に決める為の物かな』

 

 『ふーん』

 

 

 「で、どうだった?」

 

 一斉に取り出した数字を言っていく。

 俺が二、ナックが三十四、ルークが四十六、デルが四十八だ。

 

 これは面白くなりそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ