世界は広いです
あとがきを追加しました。 (2018/6/13)
「お前さん達、中々やるな」
「いえ、これでもボウさん達からはまだまだって言われてるんです」
「ああー、アイツ等は厳しいからな。どうせ、最初は精霊術を使わないで、やりたい放題やられたんだろ?」
「まあ、そんなところです」
「ったく、アイツ等。訓練と言う名の新人潰しをやるからな」
「新人潰し、ですか?」
「新人潰しは言いすぎだが、訓練についてこれなかったら潰れるよな」
「なるほど。でも、ボウさん達を誘ったのは私達なんですけどね」
「へー、物好きなんだな」
俺達の実力を知るための戦いは一応、終わった。勝負はまあ、勝ったり負けたりで半々かな。戦った人数は一人につき十人くらいかな。一々数えてないけど、多分そのくらいなはず。俺達は一人ずつ戦った訳じゃなくて、時間がもったいないとかで同時に戦った。
今はその戦いも終わって、デルと兵士が話している。話している感じだと、多分合格なんじゃないかな。内容は分からないけど。
『お前たち! こいつ等と戦ってみてどうだ?』
『合格っす!』
『じゃあ、満足したんだな!』
『うす!』
『よーし!』
『うす!』
戦う前と同じ様に偉い人が兵士たちに向かって叫んでいる。それに応える兵士たち。何か指示を出すのに、一々叫ばないと駄目なのか?
「なあ、何て言ってたんだ?」
「私達はどうやら認められたみたいだ」
「それは良かった。良かったけど、何してるんだ?」
「さあ?」
これから狩りに行くんだよな? 何をしてるんだ? こんな所でダラダラしてる暇なんてないだろうに。
「なあ?」
「ん? 何か分かったのか? ナック」
「これってさ、戦いの準備をしてるんじゃないか?」
「えー? そんな事ないだろ。さっきまで戦ってたじゃないか。それに、合格だって言ってたんだぞ? これ以上戦う必要はあるのか?」
「いや、そーなんだけどさ。何か準備してるだろ?」
「うん」
「あれって俺等と戦った時と同じ事してないか?」
「それは兵士達の訓練って事じゃないか?」
「そうなのか?」
まだ納得がいってない様だな。確かに俺達は狩りについていく。実力が分からない俺達を信用出来ないから、確認の為に戦った。うん、それは合ってるな。で、彼達が満足して合格だって言ったから、もう何もする事がないと思うんだけど。
『あの、これから狩りに行くんですよね?』
『ああ、そうだ』
『では、何をしているんですか? 訓練でもするのですか?』
『何を言っている。お前さん達との戦いの準備に決まってるだろうが』
『先ほど、兵士達と戦って合格だと言われた気がしたんですが』
『ああ、そう言ってたな』
『では、何故ですか?』
『そんな事は簡単だ。まだ俺が戦ってないだろうが。せいぜい、俺を満足させろよな!』
『え゛……』
偉いさんに何をするのか聞きに行ってたデルが帰ってきたけど、その顔は暗い。デルをあんな顔にさせる程の事を言われたのか。一体何を言われたんだ。
「何だって?」
「私達が戦うんだって」
「またか? さっき合格って言ってたよな?」
「ああ、言った。だが、それは兵士だけであって、あの人はまだらしい」
「「「……」」」
「アロ達が言いたい事は分かる。分かるが私に言わせてくれ。さっきまでの戦いは何だったんだ、と」
「……あー、うん。それであの人と戦うのは決定として、合格が取り消される事ってあるのか?」
「あー、どうなんだろ。余りの衝撃で聞き忘れてしまった」
あの人と戦うってだけで、そんなに衝撃か? 今回はあの人だけだから、一回で良いんだろ? 考え様によっては、一回で済むから時間も掛からなくて良いんじゃ? でも、もしあの人と戦って合格を取り消されたら。
「あー、もう一つ言い忘れていた事があってな。『せいぜい、俺を満足させろよな!』だと」
もう何を聞いても驚かない。……つもりでいたけど、俺達の実力は分かっただろうに戦うとは。あ、だから満足させろって事か。
って、納得してる場合じゃないだろ!
「なあ、誰から戦う?」
「アロからだろ」
「アローニさんから」
「アロだな」
「をい! 三人揃って言うなよ! ……まあ、結局戦うんだから良いけどさ。で、どうやって戦えば良いと思う?」
「んー、種族はデューイさんと同じだろう。で、武器も同じ長物。形状は違うけど、同じ様に使うんだろう」
「で、どうやって戦う?」
「俺だったら、槍の間合いにならない様にするな」
「だから?」
「近付くしかないだろ」
「何だよ、俺と同じか」
「いや、近付いただけで勝つとは思ってないぞ。あの武器の間合いを殺すには近付く事だけど、そんな事は対策済みだろ。そこからどうするかが課題なんだよな」
「まあ、な。近付いても俺には決定力がないからな。どうしたもんか」
あの武器の間合いを殺すには近付くしかないだろ。でも、ナックが言った様に対策済みだろ。それに、近付いた所で剣は得意じゃないからなあ。じゃあ、距離をとって弓で一方的に射るか? うーん、どうしようか。
「(あれってさ、鎌槍とか戟に似てるんじゃないかな?)」
「(何それ)」
「(詳しい説明はしないけど、槍の一種よ)」
「(ふーん、そうなんだ)」
「(そうなんだってねえ。折角、教えたのに)」
「(いや、それを知った所で何もならないでしょ。対策とか使い方とかは?)」
「(……さあ)」
「(……)」
「(し、仕方ないじゃないの。似たような物があったから、教えただけよ。対策と言われても記憶にはなかったわよ)」
まあ、それもそうか。記憶にあるからって、必ずしもその事について知っている訳ではないだろう。それに、ダイスケの記憶だと戦いとは無縁だったみたいだしな。
『準備、整いました!』
『よーし! 良くやった!』
その掛け声と共に、俺達に来いと顎をしゃくる。一体、何の準備をしてたんだか。俺達と戦った時と少しも変わってないじゃないか。唯一変わってる所と言えば、兵士達が遠巻きに四角く囲んでるくらいかな。
あの中で戦うって事か。仕方ない。せめて、痛くならない様に立ち回るか。
「では!」
『どうして、一人なんだ?』
「?」
折角、戦う準備が出来て構えているのに、ただ突っ立ってるだけで戦う雰囲気が感じられない。こっちの油断を誘う作戦なのか?
『おい! 何をしている全員で来い!』
「?」
俺が最初だと駄目なのかな? ナック達に向かって何かを叫んでいる。俺を見る兵士達の顔もどこか変だ。
「どうしたんだ? 全員で来て。俺が最初だと駄目だったのか?」
「いや、違うんだ」
「何が違うんだよ」
「アロだけじゃなくって、全員だと」
「……は?」
何を言ってるんだ? それだとこっちは四人になって、数で有利になるぞ。
「言いたい事は分かる。分かるが、やるしかあるまい」
「四人での連携なんて、碌にやってないぞ。しかも対人なんて。かえって四人の方が苦戦するんじゃないのか?」
「それは言っても仕方あるまい。そんな事は知らないんだ。今は連携が出来てない状態で戦うと、どうなるのか知る為でもあると言い聞かせよう。でないと、やってられない」
「だな。腹くくってやるしかないだろ。四人纏めて相手出来るって思われたんだ。どうせなら、それをひっくり返そうぜ」
「分かった。その油断を思い知らせてやろうぜ」
「はい、やってやりましょう!」
『どうした? 準備はもう良いのか?』
『はい!』
『では、掛かって来い!』
一言で言うと反則でした。体格はユンさんに近くて、背は少し高いくらいで尻尾を含めるとデルの倍はあるんじゃないかな。で、体重はユンさんやクスさんの比じゃなかった。二人足してもまだ、足りないんじゃないかな。
だから、一撃一撃が重いのなんのって。で、動きが遅いのかと思うとそうでもない。槍の間合いを掻い潜って近付いたと思ったら、拳や足や尻尾の攻撃が来る。体当たりまであるから、迂闊に近付けない。攻撃が当たったとしても、全身鱗で覆われていて硬い。手応えが感じられない。
それでも何とか連携らしい物をした。したと思う。出来たとは思えないけど、した。まあ、通用しなかったんだけど。まあ、急に連携と言っても無理があったんだ。攻撃が噛み合わない事も何度もあった。
近付けば大丈夫だろうと思ってた、自分を殴りたい気持ちだよ。一番重いナックでさえ、尻尾の攻撃で吹き飛ばされるんだから。それを見てからって訳じゃないけど、もう無茶苦茶だったよね。何が何でも倒したいって。最後に槍やその他の攻撃を掻い潜って、精霊術で強化した拳で殴ってやったさ。
倒すまではいかなかったけど、吹き飛ばす事は出来た。
まあ、その後直ぐに突進してきて全員弾き飛ばされたんだけどね。
『お前さん達、中々やるな。ボウ達が紹介する訳だ。納得した。俺も文句はない。合格だ!』
『それは、どうも』
「なあ、何だって?」
「納得した。合格だとさ」
「……そうか。強くなりてぇなあ」
「ああ」
「ですね」
「もちろんだとも」
納得、か。満足はしてないんだな。明らかに負けだけど、全員倒れている訳じゃない。負けだけど、そこは根性で立っているだけだ。
『おい、何してるんだ?』
『え?』
『これから、狩りに行くんだろうが。今からそんなんじゃあ、足手まといになるぞ』
『!? え゛?』
『よし! お前たち、狩りに行くぞ!』
『うす!』
「え、何?」
「これから狩りだと」
「「「……」」」
そうだったあ。鍛錬の為に来たんじゃなかった。狩りについていく前に俺達の実力を知る為の戦いだった。忘れてた。
がんばろう。。。
主人公たちの強さを修正しました。
力や精霊との契約はあるが、技術が優れている訳ではない、に一先ず修正します。
精霊との契約もまだ完全に制御出来るとは言えない状態です。




